[5月9日13:00.アルカディアシティ1番街 魔王城新館→1番街駅 視点:稲生勇太]
ルーシー女王への献血を終えた稲生達は、魔王城新館のラウンジで休憩していた。
マリア:「久しぶりに献血した……」
イリーナ:「王室に恩が売れて良かったわね」
マリア:「王室って、ブラッドプール陛下しかいないじゃないですか」
ルーシー・ブラッドプールはアメリカのニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ち。
純血のヴァンパイアではなく、混血のダンピールである為、昼間でも活動できる。
家族も殆どがアメリカにいる為、魔界に住んでいるのはルーシー1人だけである。
皇太后に当たるルーシーの母親は経営手腕と政治手腕に長けており、娘にその指導をする為、一時期本当に皇太后の地位に就いたことがある。
だが、あまりにも辣腕を振るい過ぎて、首相としての安倍の仕事を全て取ってしまった。
レクシー:「あ、ここにいましたか」
そこへ、宮廷魔導師ポーリンの付き人をしているレクシーがやってきた。
階級はイリーナより低いが、稲生やマリアよりは上である。
つまり、先輩に当たるわけだ。
同じ2期生でも、階級や入門時期によるヒエラルキーはある。
ジーナの前では先輩面できたマリアも、ここでは後輩として小さくなっていなければならない。
梨園や花柳界と同じで、魔道士の世界も上下関係は厳しいのである。
イリーナ:「あら、どうしたの?」
レクシー:「陛下からお手紙を預かって参りました。恐らく、先ほどの献血の御礼状かと」
イリーナ:「ありがとう」
アメリカ人女王なだけに、手紙は英文で書かれていた。
手紙だけでなく、ルーシー女王のサイン入りブロマイドまで入っている。
混血ダンピールとはいえ、やはり吸血鬼。
肌の色は東欧在住の白人よりも更に白く、金髪もマリアのブロンドよりも更にプラチナに近い。
頭には王冠代わりに、黒いコウモリをイメージしたティアラを着けている。
マリア:「……まあ、献血に対する謝辞が書かれている」
稲生:「僕達にしろ、陛下にしろ、キリスト教関係者には見せたくない手紙でしょうねぇ……」
魔女狩りを是とする考えの者から見れば、『吸血鬼の力を借りる為、自らの血を提供したおぞましき魔女達』にでも映るのだろう。
そして、『全員まとめて火刑に処さなければならない』と、思うはずだ。
それとも、『吸血鬼には心臓に木の杭を打ち込む』とでも言うか。
映画の観過ぎである。
マリア:「もちろん、見せるわけないよ」
イリーナ:「まあ、堂々と人間に見せるものではないわね」
レクシー:「それと、1番街駅の冥鉄の窓口が開設したそうです」
イリーナ:「あら、そう。それじゃ、キップを買いに行こうかしら」
稲生:「キップを買うのも鉄ヲタの楽しみですからね」
イリーナ:「それは良かったわ」
3人は魔王城を出ると、1番街駅に向かった。
稲生:「ん?」
1番街駅に行くと、長蛇の列ができていた。
それはアルカディアメトロのキップ売り場ではない。
いつもはシャッターの閉まっている窓口だった。
イリーナ:「あらま、珍しく混んでるわ。どうなってるの?」
マリア:「ミッドガード共和国と戦争になるかもしれないので、今のうちに人間界に避難しようって魂胆なんでしょうね」
もちろん人間界で神隠しに遭い、魔界に飛ばされたり、死亡して堕獄の一環で魔界に来た者は余程のことが無い限り、人間界に戻る列車には乗れない。
警備兵:「乗車証明書の無い者にキップを買う資格は無い!」
男A:「放せ!もう30年も家に帰ってないんだぁーっ!」
警備兵:「往生際が悪いぞ!」
こういう混乱も発生しているが、そういう者がゴネようすると警備兵達が容赦無く連行して行く。
日本でも民度の低いヤツにはこれくらいやればいいのに。
稲生:「今のもしかして、北朝鮮に拉致されたかもしれない人のリストに入っていたかもしれない人だったかも……」
マリア:「まさか魔界に飛ばされて帰れなくなっているとは、家族も思わないだろうねぇ……」
イリーナ:「間違えて魔界行きの冥鉄に乗ってしまったか、或いは魔界の穴に落ちてしまったか……」
もちろん列に並んでいる人々の大半が乗車証明書を持っているのだが、中には……。
係員:「これは偽造です!」
男B:「はぁ!?ちゃんと見ろよ!これは本物だぞ!?」
警備兵:「黙れ!ちょっとこっちに来い!」
男B:「おい、本当だって!偽造じゃねぇよ!おおーい!!」
こうして列は進んで行き……。
イリーナ:「大人3名分、よろしく」
係員:「あ、はい。こちらは本物ですね。身分証の提出を……」
稲生達はパスポートを取り出した。
稲生は日本、マリアはイギリス、イリーナはロシア。
イリーナ:「この証明書でファーストクラスに乗れるって本当かしら?」
係員:「は?……はっ、これは失礼致しました!総理直筆のサイン入りですね!……ただ、あいにくと今度の列車には一等車は連結されていないんです」
イリーナ:「ええっ?」
係員:「グリーン車なら連結されるんですが、グランクラスですとか、スーパーグリーン車とかは連結されていないんですね」
稲生:「つまり、『ロ』は連結されるけど、『イ』は連結されないということですね」
係員:「そういうことです」
稲生:「3等車の『ハ』と2等車、つまりグリーン車の『ロ』ですね?」
係員:「そういうことです」
稲生:「先生、ビジネスクラスならあるらしいですよ」
イリーナ:「じゃあ、それのキップ3枚ちょうだい」
係員:「かしこまりました」
どうやら、グリーン車に乗れる客はいないらしい。
もちろん、これからやってくる可能性はあるが。
稲生:「どんな車両が運転されるんですか?客車列車?それとも電車?気動車?」
係員:「それは入線してからのお楽しみです」
係員に言葉を濁された。
イリーナ:「ねぇ。ビジネスクラス以上の乗客には、専用ラウンジがあるんでしょう?そこで休ませてもらえない?」
係員:「かしこまりました。ご案内よろしく」
警備兵:「はっ。では、どうぞこちらへ」
不正客には厳しい態度を取っていた警備兵が、稲生達には畏まった。
稲生:「VIP待遇ですね」
マリア:「この辺は師匠といれば怖いものナシだ」
警備兵の護衛が付いているのは、当然そのようなVIPが暴漢に襲われないようにする為だ。
冥鉄の乗車券というだけでゴールドチケットなのに、ましてやそれのグリーン券ともなればプラチナチケットもいい所だからである。
人間界で言えば前者が新幹線グランクラスのチケット、後者が四季島のチケットといったところか。
どうだい?前者でもゴールドチケットなのに、後者はそれすら霞むほどのプラチナチケットだろう?
当然ながら、そういった客用の専用ラウンジが1番街駅に用意されているのである。
もっとも、王室専用の貴賓室と同じ部屋なのかどうかは不明だが。
とにかく、稲生達はその権利を遺憾無く発揮するつもりであった。
ルーシー女王への献血を終えた稲生達は、魔王城新館のラウンジで休憩していた。
マリア:「久しぶりに献血した……」
イリーナ:「王室に恩が売れて良かったわね」
マリア:「王室って、ブラッドプール陛下しかいないじゃないですか」
ルーシー・ブラッドプールはアメリカのニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ち。
純血のヴァンパイアではなく、混血のダンピールである為、昼間でも活動できる。
家族も殆どがアメリカにいる為、魔界に住んでいるのはルーシー1人だけである。
皇太后に当たるルーシーの母親は経営手腕と政治手腕に長けており、娘にその指導をする為、一時期本当に皇太后の地位に就いたことがある。
だが、あまりにも辣腕を振るい過ぎて、首相としての安倍の仕事を全て取ってしまった。
レクシー:「あ、ここにいましたか」
そこへ、宮廷魔導師ポーリンの付き人をしているレクシーがやってきた。
階級はイリーナより低いが、稲生やマリアよりは上である。
つまり、先輩に当たるわけだ。
同じ2期生でも、階級や入門時期によるヒエラルキーはある。
ジーナの前では先輩面できたマリアも、ここでは後輩として小さくなっていなければならない。
梨園や花柳界と同じで、魔道士の世界も上下関係は厳しいのである。
イリーナ:「あら、どうしたの?」
レクシー:「陛下からお手紙を預かって参りました。恐らく、先ほどの献血の御礼状かと」
イリーナ:「ありがとう」
アメリカ人女王なだけに、手紙は英文で書かれていた。
手紙だけでなく、ルーシー女王のサイン入りブロマイドまで入っている。
混血ダンピールとはいえ、やはり吸血鬼。
肌の色は東欧在住の白人よりも更に白く、金髪もマリアのブロンドよりも更にプラチナに近い。
頭には王冠代わりに、黒いコウモリをイメージしたティアラを着けている。
マリア:「……まあ、献血に対する謝辞が書かれている」
稲生:「僕達にしろ、陛下にしろ、キリスト教関係者には見せたくない手紙でしょうねぇ……」
魔女狩りを是とする考えの者から見れば、『吸血鬼の力を借りる為、自らの血を提供したおぞましき魔女達』にでも映るのだろう。
そして、『全員まとめて火刑に処さなければならない』と、思うはずだ。
それとも、『吸血鬼には心臓に木の杭を打ち込む』とでも言うか。
映画の観過ぎである。
マリア:「もちろん、見せるわけないよ」
イリーナ:「まあ、堂々と人間に見せるものではないわね」
レクシー:「それと、1番街駅の冥鉄の窓口が開設したそうです」
イリーナ:「あら、そう。それじゃ、キップを買いに行こうかしら」
稲生:「キップを買うのも鉄ヲタの楽しみですからね」
イリーナ:「それは良かったわ」
3人は魔王城を出ると、1番街駅に向かった。
稲生:「ん?」
1番街駅に行くと、長蛇の列ができていた。
それはアルカディアメトロのキップ売り場ではない。
いつもはシャッターの閉まっている窓口だった。
イリーナ:「あらま、珍しく混んでるわ。どうなってるの?」
マリア:「ミッドガード共和国と戦争になるかもしれないので、今のうちに人間界に避難しようって魂胆なんでしょうね」
もちろん人間界で神隠しに遭い、魔界に飛ばされたり、死亡して堕獄の一環で魔界に来た者は余程のことが無い限り、人間界に戻る列車には乗れない。
警備兵:「乗車証明書の無い者にキップを買う資格は無い!」
男A:「放せ!もう30年も家に帰ってないんだぁーっ!」
警備兵:「往生際が悪いぞ!」
こういう混乱も発生しているが、そういう者がゴネようすると警備兵達が容赦無く連行して行く。
稲生:「今のもしかして、北朝鮮に拉致されたかもしれない人のリストに入っていたかもしれない人だったかも……」
マリア:「まさか魔界に飛ばされて帰れなくなっているとは、家族も思わないだろうねぇ……」
イリーナ:「間違えて魔界行きの冥鉄に乗ってしまったか、或いは魔界の穴に落ちてしまったか……」
もちろん列に並んでいる人々の大半が乗車証明書を持っているのだが、中には……。
係員:「これは偽造です!」
男B:「はぁ!?ちゃんと見ろよ!これは本物だぞ!?」
警備兵:「黙れ!ちょっとこっちに来い!」
男B:「おい、本当だって!偽造じゃねぇよ!おおーい!!」
こうして列は進んで行き……。
イリーナ:「大人3名分、よろしく」
係員:「あ、はい。こちらは本物ですね。身分証の提出を……」
稲生達はパスポートを取り出した。
稲生は日本、マリアはイギリス、イリーナはロシア。
イリーナ:「この証明書でファーストクラスに乗れるって本当かしら?」
係員:「は?……はっ、これは失礼致しました!総理直筆のサイン入りですね!……ただ、あいにくと今度の列車には一等車は連結されていないんです」
イリーナ:「ええっ?」
係員:「グリーン車なら連結されるんですが、グランクラスですとか、スーパーグリーン車とかは連結されていないんですね」
稲生:「つまり、『ロ』は連結されるけど、『イ』は連結されないということですね」
係員:「そういうことです」
稲生:「3等車の『ハ』と2等車、つまりグリーン車の『ロ』ですね?」
係員:「そういうことです」
稲生:「先生、ビジネスクラスならあるらしいですよ」
イリーナ:「じゃあ、それのキップ3枚ちょうだい」
係員:「かしこまりました」
どうやら、グリーン車に乗れる客はいないらしい。
もちろん、これからやってくる可能性はあるが。
稲生:「どんな車両が運転されるんですか?客車列車?それとも電車?気動車?」
係員:「それは入線してからのお楽しみです」
係員に言葉を濁された。
イリーナ:「ねぇ。ビジネスクラス以上の乗客には、専用ラウンジがあるんでしょう?そこで休ませてもらえない?」
係員:「かしこまりました。ご案内よろしく」
警備兵:「はっ。では、どうぞこちらへ」
不正客には厳しい態度を取っていた警備兵が、稲生達には畏まった。
稲生:「VIP待遇ですね」
マリア:「この辺は師匠といれば怖いものナシだ」
警備兵の護衛が付いているのは、当然そのようなVIPが暴漢に襲われないようにする為だ。
冥鉄の乗車券というだけでゴールドチケットなのに、ましてやそれのグリーン券ともなればプラチナチケットもいい所だからである。
人間界で言えば前者が新幹線グランクラスのチケット、後者が四季島のチケットといったところか。
どうだい?前者でもゴールドチケットなのに、後者はそれすら霞むほどのプラチナチケットだろう?
当然ながら、そういった客用の専用ラウンジが1番街駅に用意されているのである。
もっとも、王室専用の貴賓室と同じ部屋なのかどうかは不明だが。
とにかく、稲生達はその権利を遺憾無く発揮するつもりであった。