報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「未だにTransitとTransferの違いが分からない」

2020-06-21 11:32:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月10日12:58.埼玉県さいたま市大宮区 JR東北新幹線“やまびこ”52号→大宮駅・新幹線乗り場 視点:稲生勇太]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、大宮です。上越新幹線、北陸新幹線、高崎線、埼京線、川越線、京浜東北線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。大宮の次は、上野に止まります〕

 車窓に並走するニューシャトル線が見えて来たら、大宮駅はまもなくである。

 マリア:「あの鉄道博物館、営業してるみたい」
 稲生:「自粛が明けたので、営業再開できたんだね。良かった良かった」
 マリア:「そろそろ、師匠を起こしに行こう」

 稲生とマリアは降りる準備をして、それから隣のグリーン車に向かった。
 普通車はまあまあの乗車率になっていたが、グリーン車は空いていた。

 イリーナ:「あいよ。アタシゃ起きてるよ」

 イリーナは目を細めた状態で弟子達に応えた。
 もう既に席を立っている。

 マリア:「それは良かったです」
 イリーナ:「もっとも、次はどうなるか分かんないけどねー。その時はよろしく頼むよ」
 稲生:「はい。それはもう……。(どうせ乗り換え先の新幹線、長野止まりだし……)

 列車が減速しながら大宮駅のホームに滑り込む。
 上り本線ホームに入ることもあって、特にポイントを渡ることもなく、大きな揺れは無かった。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。車内にお忘れ物なさいませんよう、お降りください。14番線の電車は、“やまびこ”52号、東京行きです。次は、上野に止まります。……」〕

 列車が止まってドアが開き、ホームに降りる。

 稲生:「久しぶりに帰って来た気がするなぁ……」

 稲生がつぶやくと、イリーナは目を細めたまま言った。

 イリーナ:「おやおや?今の勇太君の家は、この町じゃないよ。これからもう一本新幹線に乗って、そこから更にバスに乗り換えた先じゃないか。それとも、マリアとこっちで暮らしたいのかい?」
 稲生:「す、すいません!」
 マリア:(ということは、勇太とこっちで暮らす選択肢もあるってこと……?)

 もし今のイリーナが稲生を咎めるつもりで言ったのなら、普段は細めている目を開くはずである。

 稲生:「つ、次の新幹線は18番線からです。もう向こうのホームに行きますか?」
 イリーナ:「何分発?」
 稲生:「13時30分発、“あさま”613号、長野行きです」
 イリーナ:「30分か。だいたい30分くらいあるね。まあ、下のコンコースに降りてみよう」

 関東に入ると風が強くなった。
 更に出て行く列車が巻き起こした風も相まって、魔道士達のローブが風に靡く。
 エスカレーターを使って、下のコンコースに下りた。
 ここにも待合室やNEWDAYS、駅弁の売店などがある。

 稲生:「お昼はここで駅弁でも買って行きましょう」
 マリア:「ちょうどお腹空いたな」
 イリーナ:「私にも買って来てちょうだい。私はここでコーヒー飲んでるから」

 イリーナは待合室に面したコーヒースタンドに向かった。

 マリア:「あっ、師匠だけずるい」
 イリーナ:「後で買ってあげるわよ」
 マリア:「お願いしますよ」
 稲生:「先生は何にします?」
 イリーナ:「そうねぇ……。今度は肉系統がいいかな。それで適当なのお願い」
 稲生:「分かりました」

 稲生とマリアは駅弁の売店に向かう。

 稲生:「肉系統ね。マリアも?」
 マリア:「そうだね」

 で、色々探した結果……。

 稲生:「僕は幕の内弁当にしよう」
 マリア:「いいの?私は“本格炭火焼肉”がいい。師匠はああ見えて大食だから、ボリュームのあるヤツがいいよ」
 稲生:「じゃあ、このロースカツ弁当にしよう」
 マリア:「飲み物はどうする?私はお茶でいいけど」
 稲生:「ホームの自販機でまとめ買いしますか」

 というわけで駅弁を購入し、イリーナの所に戻る。

 稲生:「買って来ましたー」
 イリーナ:「あいよ、ご苦労さん」
 マリア:「師匠にはカツレツにしましたよ。この方が腹持ち良いかと」
 イリーナ:「マリアは分かってるわね」
 マリア:「そりゃもう、あなたの弟子をやって何年にもなりますから。……見た目はそんなに変わらないけど」
 イリーナ:「マリアは少し背が伸びて、胸も少し大きくなったじゃない。そんなことより、はい」

 イリーナは稲生に5000円札を渡した。

 イリーナ:「さっきのお弁当代と、あとはこれでそこのコーヒーでも買って」
 稲生:「ありがとうございます」

[同日13:30.同市内同駅・新幹線下り本線ホーム 視点:稲生勇太]

〔♪♪♪♪。18番線に、13時30分発、“あさま”613号、長野行きが12両編成で参ります。この電車は熊谷、本庄早稲田、高崎、軽井沢、佐久平、上田、終点長野の順に止まります。グランクラスは12号車、グリーン車は11号車、自由席は1号車から5号車です。……〕

 ホームで列車を待っていると、接近放送が鳴り響いた。

 稲生:「先生。これ、お弁当用に飲んでください」

 稲生はホームの自販機で買ったペットボトルのお茶をイリーナに渡した。

 イリーナ:「ありがとう」

 東北新幹線の時と同じように、イリーナはグリーン車に乗り、稲生達は普通車に乗る。
 ダンテ一門の中では一番緩いとされるイリーナ組ではあるが、一応このような序列は付けられている。
 イリーナとしては特に拘っていないのだが、そうしないと他の1期生達から嫌味を言われる為。

〔「18番線、ご注意ください。13時30分発、北陸新幹線“あさま”613号、長野行きの到着です。黄色い線の内側まで、お下がりください」〕

 大宮駅にはホームドアが無い為、立ち番の駅員(輸送助役)も気を使うことだろう。
 東海道新幹線と違って運用車両が統一されておらず、しかもそれぞれ規格が違うので、ホームドアが設置できない現状がある。

〔「大宮、大宮です。18番線の電車は北陸新幹線“あさま”613号、長野行きです。東北、新潟方面には参りませんので、ご注意ください」〕

 稲生とマリアは10号車に乗り込んだ。
 ここならまた到着の際、イリーナを起こしに行ける。
 東北新幹線の時と同じように、2人席に座った。

 稲生:「今度はアルカディアタイムスが置いてないですね」
 マリア:「そうだね。まだ夕刊には早いか?」
 稲生:「あ、そうか。夕刊もあるんだっけ」
 マリア:「タブロイド判だけどね」

 駅弁に気を取られて、他の売店の品揃えまでは確認していなかった稲生だった。
 なので、もう夕刊が売られていたかどうかまでは知らない。

 マリア:「気になる?魔界の動き」
 稲生:「そりゃもう。威吹は大丈夫かなって」
 マリア:「イブキのことだから、きっと上手く立ち回ると思うけどね。それに、イブキにも避難先はあるんだろう?」
 稲生:「妖狐の里か。多分ね。僕は行ったことないけど」

 大宮駅新幹線ホームの発車ベルは、メロディーではない。
 大宮駅のホームでも唯一の電子電鈴である。
 東北新幹線と同様、北陸新幹線も定刻通りに発車した。
コメント
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