報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「やまびこ52号」

2020-06-20 15:36:44 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月10日09:45.岩手県盛岡市 JR盛岡駅・東北新幹線乗り場 視点:稲生勇太]

 タクシーが盛岡駅に着くと、稲生達は早速駅構内に入った。

 稲生:「移動が1日がかりになりそうですよ」
 イリーナ:「特に急いでるわけじゃないからね。昼食はどうするの?」
 稲生:「駅弁ですかね。昼過ぎに大宮駅に着くので、そこで北陸新幹線に乗り換えです」
 マリア:「ルーシーが喜びそうなルートだ」
 稲生:「“やまびこ”には車内販売が無いので、飲食物は駅で購入する必要がありそうです」
 ミク人形:「ちっ!」(←シンカンセンスゴイカタイアイスを所望している)
 ハク人形:「ちっ!」(←同上)
 稲生:「ラチ内コンコースにも店はあるので、そこで見繕えますよ」
 イリーナ:「大宮駅と同じね」

 稲生はさり気無く業界用語を使ったが、要は改札内コンコースのことである。
 緑色が目立つ新幹線改札口の自動改札機の前まで来る。

 稲生:「キップは1人ずつ持ちましょう」

 乗車券は長野まで1枚。
 新幹線指定席特急券は東北新幹線が大宮までと、大宮から長野までの北陸新幹線で2枚ずつ。
 そのうち、イリーナはグリーン券込み。
 グランクラスにしないのは、1期生達の間での不文律によるもの。
 だから飛行機もファーストクラスではなく、ビジネスクラスに乗る。

 イリーナ:「ありがとう」
 稲生:「発車まで、まだ少し時間がありますよ。ホームに行きますか?」
 イリーナ:「何か買って行きましょう」
 マリア:(Hum...酒だな)

 改札内コンコースにあるNEWDAYSに行くと、マリアの予想通り、イリーナは酒を物色していた。
 コンビニならではの商品というか、ミニボトル入りのワインを目ざとく見つける。

 稲生:「マリアは飲まないの?」
 マリア:「こんな午前中から飲めないよ。私はジュースでいい」

 コミカルな動きをするマリアの使役人形達もまた、目ざとくアイスを見つけた。
 但し、シンカンセンスゴイカタイアイスではない。
 あれは車内販売の専売特許である。

 稲生:「僕もスナックくらい買って行くか」

 それぞれ欲しい物を購入し、店を出た後で稲生が言った。

 稲生:「実は今度乗る列車は比較的停車駅の多いタイプなので、途中の駅に数分停車することもあるんです」
 マリア:「と言うと?」
 稲生:「飲み物くらいならそのタイミングを狙って、ダッシュでホームの自販機に買いに行けるということです」
 イリーナ:「日本の鉄道は、どの駅にも自動販売機があるから便利よねー」
 マリア:「? ここに来て最初に来た、何とかって駅には無かったですけど?」
 稲生:「赤渕駅には無かったですね。無人駅だからかな」
 イリーナ:「さすがに田舎の駅は無理でしょう。それでも近所にあっただけマシってものよ」
 マリア:「まあ、それは確かに……」

[同日10:07.JR東北新幹線52B列車8号車内 視点:稲生勇太]

 12番線に停車しているE5系車両に乗り込む。
 “はやぶさ”に使用されている車両であるが、今回は“やまびこ”で使用されている。
 その為、最高時速320キロを出すことはない(遅延発生時の回復運転を除く)。
 イリーナはグリーン車の9号車に乗り込み、稲生とマリアは隣の普通車である8号車に乗り込んだ。
 普通車であっても、ピローが標準装備されているのが特徴。
 人形達の入ったバッグは荷棚に置くマリア。
 しかし、人形達は勝手にファスナーを開けて出て来てしまう。

 稲生:「あれ?“アルカディアタイムス”だ」

 稲生とマリアの席に、律儀に日本語版と英語版の“アルカディアタイムス”が置かれていた。
 他の席には無い所を見ると、魔界の誰かが勝手に配達したのだろう。

〔「お待たせ致しました。10時7分発、東北新幹線“やまびこ”52号、東京行き、まもなく発車致します」〕

 稲生:「うーん……思ったより空いてるな。仙台から乗って来るのかな?」

 ホームからオリジナルのものと思われる発車メロディーが僅かに聞こえてくる。
 その後、それよりはよく聞こえる甲高い客扱終了合図のブザーも確認できた。

 稲生:「時間通りです」
 マリア:「こっちは平和だ」

 スーッと列車が走り出してから、稲生は“アルカディアタイムス”を開いた。
 要は魔界新聞のことであり、アルカディア王国全域で出されている新聞である。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は“やまびこ”号、東京行きです。次は、新花巻に止まります。……〕
〔Ladies & Gentlemen.Welcome aboard the Tohoku Shinkansen.This is the Yamabiko superexpress bound for Tokyo...〕

 アルカディアタイムスを読んでいると、あまりアルカディア王国にとって芳しいことが書いていなかった。
 ミッドガード共和国は、どちらかというと魔法よりは科学に重点を置いた国である。
 さすがに核兵器や生物兵器までは持っていないものの、その圧倒的な攻撃力により、アルカディア側が押され気味なのだという。
 そして、更に今度は魔法兵器をも開発したらしいとのこと。

 稲生:「威吹は大丈夫だろうか……」
 マリア:「攻撃対象は今のところ、アルカディアシティの外側だろう。シティ内はテロ攻撃をされたみたいだけど、散発的だったみたいだし。サウスエンドは大丈夫じゃないかな」

 更に新聞には、『冥界鉄道公社、列車の運行を当面の間取り止め』『ミッドガード、「冥鉄も全面攻撃対象とする」との発表を受け』という記事もあった。
 『冥界鉄道公社、ミッドガード政府に厳重抗議』『「避難列車をも無差別に攻撃するミッドガードには反吐が出る」との冥鉄総裁の発表』
 『ミッドガード政府、「アルカディア政府に与する者全て敵と見做す。敵は容赦なく殲滅する。武士の情け、仏心は一切無い」と声明』

 マリア:「これで、魔界から人間界へ避難することはできなくなってしまった」
 稲生:「アルカディア政府に与する者とは、僕達のことも指しますね」
 マリア:「思いっ切り対象内だね。この世界にいる間は大丈夫だと思うけど」

 この世界は第三国のようなもの。

 マリア:「マルファ先生やアナスタシア先生は強い力を持っているから、あとは先生方にお任せするしかない」
 稲生:「う、うん」

 実際に戦争が起きた国から帰って来た稲生にとって、車内の文字放送で流れる新型コロナウィルスのニュースはとても些事のように見えてしまった。

 稲生:(新型コロナウィルスか……)
コメント (2)
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