報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「Stay hotel」

2020-06-12 20:21:27 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月9日22:00.岩手県盛岡市中央通 ホテルドーミーイン盛岡 視点:稲生勇太]

 3人の魔道士を乗せたプリウスのタクシーは、市街地の繁華街を通ってホテルの前に到着した。

 運転手:「はい、着きました」
 稲生:「どうも。ここは僕が払っておきます」

 助手席に座る稲生は、財布を出すと運転手に100ゴッズ札を出した。

 運転手:「あ、あの、すいません。日本円でお願いしますw」
 稲生:「あっと!すいません!」

 日本の紙幣を参考に刷られた紙幣もアルカディア王国にはあるので、たまに間違えることがある。
 稲生は100ゴッズ札をしまうと、改めて1000円札を出した。

 運転手:「ありがとうございます」

 稲生が料金を支払っている間に、マリアとイリーナはタクシーを降りる。

 マリア:「これが温泉のあるホテル……」

 マリアは首を傾げた。
 料金の支払いが終わった稲生が助手席から降りた。

 稲生:「お待たせしました」
 イリーナ:「早いとこ入ろうか」

 3人はエントランスからロビーに入った。

 フロントマン:「いらっしゃいませ。3名様で御予約の稲生様でございますか?」
 稲生:「あ、はい。そうです」
 フロントマン:「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」

 稲生はフロントに向かった。

 フロントマン:「本日は当ホテルをご利用頂き、ありがとうございます」
 稲生:「すいませんね。飛び込みで」
 フロントマン:「いいえ。ちょうど良いお部屋が空いておりましたので、お役に立てて何よりです。それでは、ごちらに御記入願います」

 岩手県は新型コロナウィルスの感染者が全くいないが、それでも先ほど乗ったタクシーの運転手もこのホテルのフロントマンもマスクを着用していた。

 稲生:「このホテル、温泉があるんですよね?」
 フロントマン:「はい。最上階の10階にございます。男女別になってございまして、露天風呂もございます」
 稲生:「本格的ですねー!」

 記入が終わると……。

 フロントマン:「それでは稲生様方、本日より2泊のご利用ですね」
 稲生:「はい」
 フロントマン:「ダブルのお部屋とツインのお部屋を御用意させて頂きました」

 その後でこのホテルのことについて説明を受ける。

 フロントマン:「それでは、ごゆっくりお過ごし下さいませ」
 稲生:「どうも」

 稲生達はエレベーターに乗って、客室フロアに向かった。

 稲生:「着替えてクリーニングサービスに出しましょう」
 マリア:「うん、そうだね」
 イリーナ:「代わりの服はどうするんだい?」
 稲生:「このホテルの館内着、部屋だけでなく、共用部を歩いて行っても良いそうなので。……というか、今思い出したんですけど、秋葉原でこのグループのホテルに泊まったことないですか?」
 マリア:「あ、何かあったな」
 稲生:「そこと同じですよ。基本的には」
 マリア:「そういうことか」

 エレベーターが客室フロアに到着する。

 稲生:「それじゃ、また」
 マリア:「うん」

 稲生はダブルルームに、マリア達はツインルームに向かった。
 シングルは無いので、1人客もダブルルームに入ることになる(のだが、作者は同じグループの別のホテルにおいて、件の料金でツインルームに泊まれた。何か、ホテル側の都合だったのだろう)。
 部屋に入るとダブルベッドが目に飛び込んで来た。
 枕も2つ置いてある。
 まるで2人で泊まるかのようだ。

 稲生:(マリアが泊まりに来てくれたら……)

 などという下心が浮かんだ稲生だったが、イリーナが一緒にいる時点で望み薄だと悟った。

 稲生:「それより……」

 稲生は部屋にあった館内着にパパッと着替えて、ジャケットなどをランドリーバッグに詰めた。
 上着などはクリーニングに出せるが、下着は館内にあるコインランドリーで洗濯することになる。
 どちらもビジネスホテルには大体常備されているサービスだ。
 ワンスターホテルでさえ、ビジネス客目当てにクリーニング取次サービスの他、コインランドリーも置いてあるくらいだ。
 それでもって、再び合流する。

 稲生:「マリアの方が多いね。少し持とうか?」
 マリア:「お願い。師匠の服も入ってるものだから……」

 館内着は作務衣を意識したデザインになっている。
 スーパー銭湯や健康ランドの館内着でもよくあるデザインだ。
 再びエレベーターに乗り込み、フロントへ向かう。

 稲生:「すいません。クリーニングをお願いします」
 フロントマン:「かしこまりました」
 稲生:「明後日のチェックアウトまでにできますか?」
 フロントマン:「そうですね。休日を挟んでおりませんので可能です。お支払いは……」
 マリア:「チェックアウトの時に払います」

 イリーナのカードに頼るマリア。

 フロントマン:「かしこまりました。お預かり致します」

 汚れた服をクリーニングに出した稲生達は、ホテル内のレストランに移動する。

 スタッフ:「どうぞ」
 稲生:「ありがとうございます」

 夜食サービスのラーメンをもらう。

 稲生:「あの列車で、せっかくの駅弁が殆ど食べれなかったじゃないですか。お腹空きましたよね」
 マリア:「そう言われれば……」

 戦いの緊張感で空腹など忘れていたのだが、今になってそれが復活した。
 ラーメンといってもハーフサイズで、具材も海苔とメンマとネギたけのシンプルなものだ。

 稲生:「先生にも教えてあげようかな?」
 マリア:「師匠はさっさと寝るみたいだからいいだろう」
 稲生:「マリアはどうする?」
 マリア:「何かね……。疲れたことは疲れたんだけど、あんまり眠くない」
 稲生:「まだ完全に緊張感が抜けてないのかな?」
 マリア:「そうかも。温泉でゆっくりすれば、緊張もほぐれるかな」
 稲生:「と、思うね。これ食べたら、早速入ってみる?」
 マリア:「うん」
 稲生:「これに先生は?」
 マリア:「部屋にシャワールームがあった。師匠は今夜はシャワーを浴びるだけで、あとは即ベッド・インだと思う」

 客室にはバスタブは無いが、シャワーだけはある。
 もちろんそれとは別に、ウォシュレット付きのトイレもある。
 で、食べている時に稲生はふと思った。
 さっきのランドリーバッグ。
 臭いが気になったというブレザーやブラウスが入っていたのはいいが、スカートも入っていた。
 確かマリア、グレーのプリーツスカートしか持って来ていなかったはずだが、いいのだろうか。
 稲生のズボンはコインランドリーで洗うつもりでいる。
 乾燥機もあるし、あとは部屋で乾かせば明日には乾くだろう。
 しかし、制服スカートは洗濯機では洗えない。

 稲生:(ま、後で聞けばいいか)

 夢中になってラーメンを食べているマリアを見て、稲生はそう思った。
 稲生が知らないだけで、替えのスカートは持っているのかもしれない。
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“大魔道師の弟子” 「JR田沢湖線」

2020-06-12 15:58:38 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月9日21:09.岩手県岩手郡雫石町 JR赤渕駅→田沢湖線848M電車先頭車内 視点:マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット]

 

 千鳥に配置されたセミクロスシート。
 そこのボックスシート部分に固まって座る魔道士達。
 隣の窓側に座るイリーナはローブのフードを深く被り、携帯用の水晶玉を取り出して何やらブツブツ言っている。
 座席が緑色だからか、それをシンボルカラーとする契約悪魔ベルフェゴールが出て来て、別のボックスシートに座っている。
 それに釣られてか、稲生と仮契約を結んでいるアスモデウスやイリーナの契約悪魔レヴィアタンも出て来ていた。
 ベルフェゴールはタキシードに山高帽、片眼鏡にステッキと英国紳士の恰好をしており、アスモデウスは一口に言ってキャバ嬢、レヴィアタンは魔道士のように黒いローブを羽織っている。
 3人の悪魔はまるで金勘定をするかのように、何かカードらしきものを勘定している。
 これ以上、立ち入らない方がいいだろう。

〔ピンポーン♪ この電車は田沢湖線上り、各駅停車の盛岡行き、ワンマンカーです。春木場、雫石、小岩井、大釜の順に止まります。まもなく発車致します〕

 マリアはホームに降りて電話している稲生を見た。
 稲生は今夜、盛岡市内で宿泊できるホテルを片っ端から探しているのだ。
 運転席にいる運転士が立ち上がって、乗務員室ドアの窓を開け、ホームを見渡した。

 マリア:「……!」

 運転士が手持ちの笛をピイッと吹くと、稲生はそれに気づいたか、慌てて電車に戻ってくる。
 運転士はそれを見計らって、ドアを閉めた。

 マリア:「電話に夢中だったの?」
 稲生:「いや、ハハハ……」

 車内にインバータのモーター音が静かに響いてきて、電車は赤渕駅を発車した。
 稲生はばつが悪そうな笑いを浮かべると、マリアの向かいに座った。
 イリーナの向かいはイリーナが長い足を伸ばしている為だ。

〔ピンポーン♪ 今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は田沢湖線上り、各駅停車の盛岡行き、ワンマンカーです。これから先、春木場、雫石、小岩井、大釜の順に各駅に止まります。途中の無人駅では後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、春木場です〕

 マリア:「で、ホテルはどう?」
 稲生:「何とか取れました。新型コロナウィルスの影響がまだ出ていることが幸いです。先生の仰る通り、2泊で予約しましたけど、明日じゃなくていいんですか?」
 イリーナ:「ええ。私も疲れたからね、明日は温泉でゆっくりしたいわ」
 稲生:「ああ、それは良かった。取れたホテル、温泉付きですよ」
 イリーナ:「おお~!さすが勇太君だね」

 マリアは稲生とイリーナの話を聞くと、立ち上がってローブを脱いだ。
 更にモスグリーンのブレザーも脱ぐ。

 稲生:「マリア……さん?」
 マリア:「いや、ちょっと暑いし、それに何だか臭う」
 稲生:「いつの間にか1ヶ月経っちゃって、6月になっちゃいましたからね。いくら北東北でも夏は夏ですから。……臭うというのは?」
 マリア:「あの激しい戦いのせいで変な汗かいたというのもあるし、焦げ臭いのが服についたってのもある」
 稲生:「あっ、じゃあ僕のジャケットとかもそうだ。部屋に消臭スプレーとかあるといいなぁ」
 イリーナ:「クリーニングサービスは無いの?マリアの服とかクリーニングに出して、明後日のチェックアウトまでに引き取れるようにして欲しいわね」
 稲生:「チェックインする時に聞いてみましょう」
 マリア:「ねぇ。この電車って、大糸線で走っているタイプと同じ?」
 稲生:「このように、内部の設計は似たようなものです。ただ、交流か直流か、狭軌か標準軌か、ワンハンドルかツーハンドルかの違いだけです」
 マリア:「じゃあ、トイレはある?」
 稲生:「ありますよ。あの、連結器の横に」
 マリア:「ちょっと行ってくる」

 マリアは席を立ってトイレに向かった。
 座席からは、稲生のリアルツイートが聞こえてくる。

 稲生:「標準軌ってことは、冥鉄が走ることは無いな」

 と。
 トイレに向かうまでの間、悪魔達が座っている座席の横を通る。

 ベルフェゴール:「マスター、ちょっといいかな?」
 マリア:「なに?対エリゴス戦の報酬なら、もう既に払ったはずだけど?」
 ベルフェゴール:「それはいい。問題が1つある。あなたの今の恰好だ。今の恰好は契約内容に反している。今はまだこの色の座席に座っているということで大目に見るが、何とかしてもらえんかね?」
 マリア:「う……」

 マリアは緑色のブレザーを脱いでしまい、その下は白いブラウスである。
 スカートはグレーのプリーツ。
 キリスト教系7つの大罪の悪魔には、それぞれシンボルカラーがある。
 契約者はその証として、その色に関する物を見える位置に着けなくてはならないという変わった契約内容が含まれているのだ。
 マリアが緑色のブレザーを着ていたのは、その一環。
 それを脱いでしまったということは……。

 ベルフェゴール:「電車を降りるまでに、何とかしてくださいよ」
 マリア:「分かったよ……」

[同日21:32.岩手県盛岡市 JR田沢湖線848M電車先頭車内→盛岡駅 視点:稲生勇太]

 マリアは座席に戻ると、ローブの中から差し当たりの代替手段として、着けていた赤い制服リボンを緑のリボンに換えた。
 そしてカチューシャも赤から緑に換える。

 マリア:「どう、これで?」
 ベルフェゴール:「まだ足りないな。緑色のソックスを持っていただろう?それとマニュキュアで爪を緑色に塗って欲しい。今はそれでいいだろう」
 マリア:「マニュキュアは今すぐには無理だから、そこはせめてホテルに着いてからな」

 というやり取りがあった。
 マリアがトイレに行ったのは何も用を足すだけでなく、激しい戦いで黒いストッキングが伝線したのと、そもそも暑いから脱ぐ為である。
 代わりにベルフェゴール指定のソックスを履いた。
 更に緑色の布マスクを着けることで、何とかマニュキュアは条件から外してもらった。

〔ピンポーン♪ まもなく終点、盛岡です。盛岡では、全部の車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。【中略】今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 運転席からATSの警報が聞こえてくる。
 別に信号を冒進したのではなく、唯一の標準軌を使用した在来線である為、事実上の頭端式ホームになっており、速度照査の為である。

 稲生:「悪魔との契約も大変なんですねぇ……」
 マリア:「取りあえず色だけ何とかすれば何とかなるから、こっちの方はまだ楽だと思う。ゴエティア系はどうなんだか……」
 イリーナ:「あれも色々な条件を要求してくるからねぇ……」

 電車は低速度でホームに入線し、停車した。
 因みに途中で新幹線ホームに向かう方の線路と分岐したのだが、会話に夢中でそこまでは気づかなかった稲生。

 稲生:「取りあえず、盛岡駅に着きました」
 イリーナ:「そうね」
 稲生:「新幹線のキップを……」
 イリーナ:「明日にしてくれない?今日は疲れたから、早いとこホテルに行きたいわ」
 稲生:「分かりました」
 マリア:「ホテルはここから近いの?」
 稲生:「少し歩きますね。僕達の足だと10分ちょいってとこですけど、先生も御一緒だと……」
 イリーナ:「お金ならあるから、タクシーで行きましょう」
 稲生:「分かりました」

 電車を降りると、湿った空気が魔道士達を包み込んだ。
 イリーナの言によると、明日は雨だそうである。
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