報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「南端村の夜」

2020-06-03 20:44:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月8日19:00.アルカディアシティ南端村 サウスエンド駅前商店街 プレイヤーキャラ視点:稲生勇太]

 先ほどの雨は夕立あるいはゲリラ豪雨だったのだろうか。
 今は雨は止んでいる。
 風は多少強く、魔道士達のローブの裾がゆらゆら揺れている。

 威吹:「今日は本当にありがとう。そして、申し訳ない。監獄で手に入れたお宝も想定以上の額だったし、今夜は御礼とお詫びも兼ねて奢らせてくれ」

 辻馬車を商店街の入口で降りた。

 威吹:「といっても、焼き鳥で申し訳無いけどね」

 商店街の中にある焼き鳥屋。
 佇まいは日本のそれと変わらない。
 赤提灯がとても目に付いた。
 尚、別の店の赤提灯はそれの妖怪がバイトしているらしく、時々こちらを向いては単眼を細めて長い舌をペロッと出していた。
 提灯の妖怪は日本ならではで、如何にここが日本人街であるかが分かるというもの。

 

 店長:「らっしゃい!」
 威吹:「4名で予約していた威吹邪甲だ」
 店長:「お待ちしておりましたァ!こちらへどうぞ!」

 4人用のテーブル席に座る。

 威吹:「遠慮しないで好きな物頼んでくれ。ユタ達のおかげで、当面の生活費の苦労を脱することができた。感謝する」
 稲生:「ありがとう。人間界に戻ったら、お中元送るからね」
 威吹:「気は使わないでくれよ。何でも、悪辣魔女の攻撃のせいで、ユタの家が……僕達の思い出の家が壊されたというじゃないか。再建費用、大変なんだろ?」
 稲生:「再建はするけど、住所は変わるよ。もうあそこには住めないから」
 威吹:「えっ、そうなの!?」
 稲生:「その話はまた今度にして、取りあえず注文させてもらおうかな」

 焼き鳥屋なだけに、ドリンクメニューも日本酒や焼酎が多い。
 マリアの苦手な酒ばかりかと思われたが……。

 マリア:「ワインとウィスキーもあるのか。良かった」
 稲生:「良かったですねぇ……」
 威吹:「オレは清酒で」
 イリーナ:「私もSAKE!」
 稲生:「僕はビールで」
 マリア:「ハイボール」

 まずは一献といったところ。
 日本の習慣で、自動的にお通しが出てくる。
 小鉢に入った冷奴が出て来た。
 で、稲生がマリアにこの日本の習慣をどう説明したかというと……。

 稲生:「テーブルチャージ(席料)として、ランダムに安いメニューを一品出すのが日本の居酒屋です」
 マリア:「なるほど、テーブルチャージかぁ」

 それは正しい情報なのかは【お察しください】。
 因みに鈴木弘明はエレーナに、お通しをどう説明したかというと、『フードロス対策にご協力を!』だそうである。
 いや、そりゃ、店の中には売れ残りの材料で作ったお通しもあるのだが。
 外国人に適当な説明をする日本人が2人。

 稲生:「盛り合わせ頼んでみましょう」

 焼き鳥屋とはいえ、本当に焼き鳥だけを出すわけではない。
 ちゃんと他に一品料理も出てくるのである。

 イリーナ:「野菜も食べなきゃダメよー」
 威吹:「じゃ、ネギマ頼んでおこう」
 イリーナ:「いや、そういうことじゃないって」

 で、酒が進んで来ると……。

 イリーナ:「そっかぁ……。弟子を多く抱えてると大変なのねぇ……」
 威吹:「今や、20人以上の大所帯だ。さすがに多く弟子入りさせ過ぎかな……」
 イリーナ:「あたしンとこは2人だけだからね。これでも結構大変なのよ」

 ジャンルは全く違えど、同じ弟子持ちの師匠同士の愚痴の語り合いが始まったのである。

 イリーナ:「あたしンとこはちょうど男女ペアだからまだいいようなものの、女の子しかいない組はもっと大変だって。女の子同士でケンカされたら、止める方もたまったものじゃないって」
 威吹:「逆にオレんとこは男所帯だからな。軍隊みたいな生活になっちまって、こんなので良いのかと悩むところだ……」
 稲生:「た、大変なん……だね。威吹も」
 イリーナ:「おっちゃん!バーボンハイボールもう一杯!」
 威吹:「オレは焼酎だ!」
 店長:「はいよ!」
 マリア:「師匠、飲み過ぎですよ!」
 イリーナ:「ええーい!私も少し出すわ!これで文句ないでしょ!」
 マリア:「いや、そういう問題じゃありません!」
 稲生:(威吹、しばらく飲めてなかったんだな……)
 威吹:「ユタは?もう一杯頼まないの!?」
 稲生:「いや、僕はもういいよ。ウーロン茶で」
 マリア:「ああ、私もウーロン・ティーで」
 稲生:「あとは締めでお茶漬け」
 マリア:「そんなのあるの?」
 稲生:「ありますよ。御飯にお茶を掛けて食べるんですよ」

 稲生はウーロン茶と茶漬けを2つ頼んだ。
 焼き鳥屋で出す茶漬けなだけに、お茶を掛けるのではなく、鳥スープを掛けたものが出て来た。

 稲生:「これが最後の締め」
 威吹:「ユタはいつもこういう店に行くと、締めに茶漬けを頼むなぁ」

 威吹は笑みを浮かべながら言った。

 稲生:「そういうものだよ」
 威吹:「いつまで魔界にいるんだい?」
 イリーナ:「明日になったら帰るわよ。確か明日、冥界鉄道公社の列車が出るはずだから、それで帰るわ」
 マリア:「魔法陣使わないんですか?」
 イリーナ:「魔法の乱用はダメよ」
 マリア:「冥鉄に乗るってことは、ワンスターホテルには到着しないってことですね」
 イリーナ:「そうね。上手く行けば、屋敷の近くで降りられるかもよ」
 稲生:「といっても白馬駅辺りだと、結局は車で迎えに来てもらわないとって感じですが」
 イリーナ:「それはいつものことじゃない」
 稲生:「それもそうですね。あ、すいません」
 店員:「はい、お伺いします!」
 稲生:「持ち帰りで、焼き鳥盛り合わせを2つ。これだけ会計別にしてください」
 店員:「はい、ありがとうございまーす!」
 威吹:「ユタ?」
 稲生:「僕達だけ飲み食いするのもアレだからね。さくらさん達にも御裾分けのお土産」
 威吹:「どうもありがとう。そんな、気を使わなくていいのに……」
 稲生:「いや、いいんだよ。僕からの気持ちだから」

 こうして夜の宴会は無事に終わった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「クエスト達成か?」

2020-06-03 15:06:30 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月8日12:00.アルカディアシティ南端村 サウスエンド監獄 視点:マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット]

 イリーナ:「Care lu la!」

 イリーナが迎えにやってきて、マリア達は回復魔法を掛けられた。

 マリア:「Ah...Thank you so much.」
 イリーナ:「勇太君はまだ意識が戻っていないようね。そこの少年も」
 マリア:「Chatoryですね」
 イリーナ:「先に戻りましょう。その前にドロップアイテムが無いかどうか確認して」
 マリア:「あ、はい」

 マリアは運動場兼公開処刑場内を探索した。
 アイテムボックス(という名の宝箱)にはハイポーションやらミドルポーション、エリクサーまで隠されていた。

 イリーナ:「魔法に頼り過ぎて、こういうアイテムを使わなかったのも敗因ね」
 マリア:「…………」
 イリーナ:「あなた達はまだ同時に2つの魔法を使えるわけではない。攻撃魔法を使いながら回復魔法も使えるのならそれでもいいけど、できないのなら、アイテムも駆使する必要がある。それを怠ったのも問題ね」
 マリア:「……すいません」

 その時、マリアはエリゴスが消えた辺りで鍵を見つけた。
 それは事務所にあった鍵とはまた別の物だった。

 マリア:「これ……!」

 マリアは事務所内で見つけた職員回覧書類を見た。

『収容者の貴重品保管庫の鍵を紛失した者は、正直に総務担当のケイトまで申し出るように。心当たりがあるのは、公開処刑当番のブライアンです』

 どうやら公開処刑執行係のブライアンという職員が鍵を持ってて、それをこの運動場兼公開処刑場で落としたようである。

 イリーナ:「どれくらい貴重品が保管されているのか分からないけど、ここは軍法会議に掛けられた騎士や上級兵士、そして反乱分子扱いされた中産階級が収容されていたようだから、それなりの物が保管されているんじゃないかしら?」
 マリア:「鍵をイブキに渡して、後は彼らに任せますか」
 イリーナ:「それもいいかもね。それじゃ、まずは帰りましょう。パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。Lu la!」

[同日12:30.アルカディアシティ南端村 魔界稲荷神社 視点:マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット]

 威吹:「何だって!?ユタと茶取が大怪我!?」

 威吹は顔を青ざめた。

 イリーナ:「ああ、落ち着いて。そこは私が回復魔法を掛けておいたから」
 威吹:「何だ、そうか」

 威吹は胸を撫で下ろした。

 イリーナ:「でも意識は無いから、しばらく寝かせてあげてね」
 威吹:「分かった。ユタはオレが客間に運ぶ。茶取は……」
 坂吹:「オレが寮まで運んでおきますよ」
 威吹:「ああ、すまない。頼む」
 坂吹:「はい」

 坂吹は茶取を抱え上げると、道場の方に運んでいった。

 イリーナ:「これがお宝の保管されている鍵。もう例のエリゴス……亡霊というか、正体は悪魔だったわ。それはこっちで退散させてやったから、あとはもう監獄の中にいるのはザコだけよ。ザコだけなら、威吹君達でも余裕でしょう?中にいるのはアンデッド……あなた達の言葉で言うところの屍人がいるだけだから」
 威吹:「屍人か。あれはオレも見た。あんなものは首を跳ね飛ばすか、或いは狐火で焼き払えば良い。オレの敵ではない」
 イリーナ:「それなら安心ね。これが鍵と見取図ね。ここに『倉庫』とか『保管庫』とか書いてあるでしょう?この鍵で開く部屋を探索すれば、囚人達が持っていた貴重品を根こそぎ回収できるってわけ。でもその作業まではする余裕が無かったから、そこは威吹君達でお願い」
 威吹:「分かった。相手は悪魔だったか。たかが亡霊と見くびって、ユタ達を危険な目に遭わせてしまった。申し訳ない」
 イリーナ:「ゴエティアっていう、何十体もの悪魔の集団の上級幹部の1人ね。うちの門内の誰かが契約しようとしたんだけど、危険過ぎて断念するくらいの相手だったんだって」
 威吹:「悪魔と契約してナンボの汝らが危険と判断してそれを断念するような相手を……。後でユタで謝っておく」
 マリア:「それって、アナスタシア先生のことですか?」
 イリーナ:「あら、知ってるのね。ナスっちの慌てふためくところ、是非とも見たかったわよ」
 マリア:(エリゴス側の提示した条件と、アナスタシア先生の提示した条件が合わなかったんだな……)

 マリアはそう思った。
 キリスト教系の悪魔とゴエティアの悪魔とでは、どちらが強いのかは比較できない。
 悪魔のことを研究している魔道士達でさえ、まだまだ分からないことが多いのだ。
 
[期日不明 時刻不明 アルカディアシティ南端村?サウスエンド監獄? 視点:稲生勇太]

 稲生:「あの囚人は自分の罪状を知らされずに処刑されるのですか?」
 トチロ~看守長:「教えてやる必要は無いでしょう。何故なら、これから自分の体に刻み込まれるのですから」
 稲生:「せめてあの囚人の名前は教えてもらえませんか?」
 トチロ~看守長:「それも難しいですね。代わりに執行官の名前だけは教えてあげましょう。それは、おおひがしと言います」
 稲生:「なるほど……。執行されるのは石之坊事件の首謀者ですか」
 おおひがし看守:「看守長、準備ができました!」
 トチロ~看守長:「それでは見学者の稲生さんは、外へ」
 稲生:「は、はい」

 稲生は処刑場の外へ出された。

 トチロ~看守長:「執行!」

 稲生は死刑執行の終わりを待たずに、独居坊の並ぶ区画を歩いた。

 修羅河童:「そこのあなた!早く私をここから出しなさい!名誉棄損で訴えますよ!」
 稲生:「……知らないな」
 んっ?看守:「次の死刑執行は、あの河童です。見学されますか?」
 稲生:「それは……」

[同日17:00.アルカディアシティ南端村 魔界稲荷神社 視点:稲生勇太]

 稲生:「……!」

 そこで目が覚めた。

 稲生:「……変な夢……」

 稲生が上体を起こすと、一瞬ここがどこだか分からなかった。

 坂吹:「ああ、稲生さん。目が覚めましたか。良かった。これで先生も喜ばれるでしょう」

 ちょうどその時、威吹の一番弟子の坂吹が入って来た。

 稲生:「坂吹君」
 坂吹:「イリーナ先生が稲生さんに回復魔法を掛けて、ここまで運ばれたのです」

 坂吹が手短に説明した。

 稲生:「そ、そうだったのか。あの、マリアさんとか茶取君は?」
 坂吹:「スカーレットさんも茶取も無事です。茶取もまだケガが酷かったので、回復魔法を掛けてもらって、今は寮で療養中です」
 稲生:「そ、そうか。……くそっ、油断したぁーっ!あれは亡霊なんかじゃない!悪魔か何かだったんだ!気づくのが遅かった!」
 坂吹:「さすがにその辺は減点対象となるとのこと。それより、起きられますか?イリーナ先生とスカーレットさんに元気になった所を見せたあげた方が……」
 稲生:「そ、そうだな。着替えてから行くよ。どこにいるの?」
 坂吹:「隣の客間です」
 稲生:「分かった。ありがとう」

 外から何か雑音のような物が聞こえてると思っていたのは、どうやら今は雨が降っているからのようだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする