報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「The day of departure」

2020-06-18 19:56:55 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月11日07:00.岩手県盛岡市 ホテルドーミーイン盛岡 アンナの部屋 視点:マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット]

 マリア:「ん……」

 ベッドの脇のアラームが鳴って、マリアはそれで目を覚ました。

 マリア:「もうこんな時間……」

 マリアが手を伸ばしてアラームを止めた。

 アンナ:「nn……」

 どうやら昨夜、映画を観たまま眠ってしまったらしい。
 マリアはベッドの上に寝ていたが、アンナはライティングデスクに突っ伏すような形で寝ていた。

 マリア:「アンナ、もう朝だよ」
 アンナ:「いつの間にか……寝てたの……」
 マリア:「ちょうどアラームが鳴ってくれたから起きれたけどね」
 アンナ:「ああ。この部屋に入った時、仕掛けておいたの。先生が7時に起きれるようにってね」
 マリア:「そうなんだ。……あれ?勇太がいない」
 アンナ:「自分の部屋に戻ったのかな?」
 マリア:「そうかも。私も師匠を起こしてこよう」

 マリアはベッドから立ち上がった。

 アンナ:「私も行く。先生に7時に起こすよう言われてるんだ」

 2人の魔女は部屋を出た。
 そして、同じフロアのイリーナの部屋に向かった。
 そこは本来マリアも一緒に泊まるはずだったが、今はアナスタシアが泊まっている。

 マリア:「師匠、師匠。マリアンナです。起きてください」

 マリアは部屋をノックした。

 マリア:「……やっぱり起きてくれない」
 アンナ:「しょうがない。モーニングコールと行こう」

 もう一度部屋に戻り、部屋の電話から内線でイリーナの部屋に掛けた。
 電話に出たのはアナスタシア。
 向こうも眠いのか、何の飾りっ気も無いロシア語が聞こえてくる。
 マリアはロシア語が分からないので、アンナに代わってもらった。

 アンナ:「アンナです。先生、おはようございます」

 日本語にすると、こんな感じか。
 アンナもロシア語でアナスタシアに挨拶した。

 アンナ:「イリーナ先生、起こしてくれるって」
 マリア:「そう」

 アンナは電話を切った。

 マリア:「あとは勇太だな」

 マリアは水晶玉を取り出した。
 それで勇太の部屋を映し出す。

 マリア:「あー、確かに部屋にいるみたい」

 水晶玉には数珠を手に掛け、南東の方角を向いて勤行をしている稲生の姿が映っていた。

 アンナ:「ミサでもやってるの?」
 マリア:「『神から見放された』私達のセリフじゃないだろ、それ?もっとも、勇太はGodではなくBuddhaの加護は受けてるんだよ」
 アンナ:「O-kyoか」
 マリア:「Gon-Gyoとか言ったかな?」

 水晶玉の映像は、稲生の背後に移る。
 椅子に座って勤行をする稲生の後ろで、座禅するアスモデウスの後ろに邪宗僧侶のコスプレをしたベルフェゴールが警策を持って立っている。
 色々とツッコミ所のあるコミカルな動きをする悪魔達である。

 マリア:「勇太が気づいてないと思って?」
 アンナ:「気づいてるかな?」
 マリア:「気づいてる。だって、ベルフェゴールが棒(警策)でアスモデウスの肩を叩いた時、勇太がビクッてなってるよ」
 アンナ:「お祈りの邪魔をする所は、悪魔らしいんだけどね。多分これ、仏教徒から見たら絶対ツッコミ所満載だよね」
 マリア:「うん。勇太の宗派(日蓮正宗)はこんなこと(座禅、僧侶が警策でパシーン!)はしないって言ってた」

 但し、所化僧(修行僧)の場合は勤行の姿勢にも指導が入る為、警策でパシーンは無いものの、【お察しください】。

[同日08:00.同市内 同ホテル1Fレストラン 視点:稲生勇太]

 稲生:「何か、勤行の最中、後ろからパシーンパシーンうるさくて」

 稲生は不快な顔で、朝食に箸を付けていた。

 マリア:「う、うん。ベルフェゴールとアスモデウスが座禅ごっこやってたw」
 稲生:「知ってたら止めてくれよ……」
 マリア:「Sorry.見てて面白かったから、つい……」

 マリアは笑いを堪えながら言った。

 アンナ:「それより良かったの?」
 稲生:「何が?」
 アンナ:「昨日の夜のお祈りなんか、酒が入ってたでしょ?そんな状態でやっていいの?」
 稲生:「在家信徒は、世間の付き合いでどうしても飲み会の後に勤行をしなきゃいけないこともある。そんな時は、勤行の前に口の中をすすげばいいことになっているんだ」
 アンナ:「クリスマスにミサに参加せず、情事を優先した男の哀れな末路の話を聞かせてあげようか?」
 稲生:「多分それ、ミサに参加しなかったことが理由になっているだろうから、仏教徒の僕には効かないと思うよ」
 マリア:「アンナ、宗教関係は恐らく門内では一番勇太が強い。……もちろん、大師匠様を除いてね。だから、それ関係の話はやめた方がいいよ。アンナも分かってるでしょ?呪術ってのは、相手に掛けるのに失敗したら、自分に跳ね返って来るって」
 アンナ:「分かってるって」

[同日09:30.同市内 同ホテル・エントランス 視点:稲生勇太]

 ホテルをチェックアウトする。
 エントランスの前には、黒塗りのゼロクラウンが停車していた。
 もちろんこれはアナスタシア専用車である。
 運転役の男性弟子が、いつでも助手席後ろのドアを開けられる準備をしていた。

 稲生:「先生、僕達もタクシー呼びましたから」
 イリーナ:「ありがとう。それじゃ、ナスっち。気をつけて行くのよ」
 アナスタシア:「誰に向かって言ってるの?マルファ先輩だけに押し付けるわけにはいかないわ。私だってミッドガードにツテくらいあるからね。そのパイプを使って、何が何でも戦争を止めてみせるわよ」
 イリーナ:「頼もしい」
 アンナ:「また会えるといいね。今度は『年下の男のコに振られたショックで呪術を身に付けた女』の話をしてあげる」
 マリア:「それ、アンタ自身じゃないの?」
 アナスタシア:「アンナ、行くわよ」
 アンナ:「はーい」

 そこへ予約したタクシーがやってくる。
 首都圏では当たり前に見られる黒塗りのクラウンセダンである。
 タクシーの中ではハイグレードな部類に入るだろうに、アナスタシアのゼロクラウンのすぐ後ろだと見劣りしてしまう。
 アナスタシアのはハイヤーで使われるタイプ、稲生達のはタクシーで使われるタイプだからだ。

 稲生:「あ、タクシー来ましたよ」
 イリーナ:「それじゃ、行きましょうか」

 アナスタシア達が先に出発したのを見届けてから、稲生達はタクシーに乗った。

 稲生:「盛岡駅までお願いします」

 助手席に座った稲生は運転手に行き先を告げた。
 タクシーは出発したが、既にアナスタシアの車は雲隠れしたかのように見えなくなっていた。
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“大魔道師の弟子” 「自粛明け」

2020-06-18 14:58:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月10日19:00.岩手県盛岡市中央通 某居酒屋 視点:稲生勇太]

 稲生:「あっ、雨が上がってる」
 イリーナ:「良かったじゃない」

 今日は1日中雨ということだが、稲生達が夕食に出かけようとした時には雨が上がっていた。
 空は雲が多かったが、所々青空が見えている。

 稲生:「それじゃ、行きましょうか」
 マリア:「この近くか?」
 稲生:「そうです」

 今のマリアとアンナは、学校制服のような服ではなく、Tシャツにジーンズというラフな格好をしている。
 もっとも、これから一杯やりに行くのに、未成年に見える恰好をして行ってはダメだろうというアナスタシアからの指摘。
 とはいえ2人とも小柄で童顔なので、それでも怪しまれるかもしれない。
 こう見えてもこの2人、実年齢は【お察しください】。
 これは契約悪魔の影響による。
 せっかくの契約相手たる魔道士を少しでも長く生かす為、寿命の水増しを行っているのである。
 結果、体の成長も老化も極端に遅くなるのだという。
 但し、全ての悪魔がそういうわけではない。
 たまたま稲生達が契約してる悪魔が、そういう思考なだけである。
 中には契約相手をとっかえひっかえ、新規契約料稼ぎを行っている悪魔もいるので。

 アナスタシア:「久しぶりに魚を食べるわ」
 アンナ:「うちの組、肉しか食べませんからねぇ……」

 で、向かった先は居酒屋。
 チェーン店ではない。
 結局チェーン店以外いい所が見つからなかった稲生は、ホテルのフロントに紹介を頼んでみた。
 ホテルはどこでも、旅行客からそのような質問や依頼を受けることが多々ある。
 稲生達のホテルも例外ではなかったようで、フロント係はすぐさま近所の居酒屋を何軒か紹介してきた。
 稲生が頼んだのは居酒屋の紹介であったが、ホテルによっては他にも遊興施設や風俗店などの『夜のお店』まで紹介していることもある。

 店員:「いらっしゃいませー!」
 稲生:「すいませーん。5名で予約した稲生です」
 店員:「稲生様ですね。どうぞ、こちらへ」

 座敷が押さえられていた。

 マリア:「イブキの家みたいだな」
 稲生:「日本料理屋ですから」

 靴を脱いで上がると、店員がおしぼりを持ってくる。

 イリーナ:「はい、遠慮しないで食べていいよ。ナスっちの奢りだから」
 アナスタシア:「アタシにタカるな!」
 イリーナ:「ここ、カード使える?」
 店員:「はい。大丈夫ですよ」
 イリーナ:「……だって。良かったね」
 アナスタシア:「いや、だから……」
 イリーナ:「あなたはブラックカード持ってるじゃないの」
 アナスタシア:「普段は持ち歩かないって。それはアンタもでしょ」
 イリーナ:「飲み放題にしてくれる」
 店員:「飲み放題ですね」
 イリーナ:「日本酒、何かオススメはある?」
 店員:「今ですと、こちらの純米大吟醸酒が……」
 稲生:「僕はビールでいいかな……」
 マリア:「ハイボール」
 アンナ:「レモンチューハイ」

 弟子達は控えめである。

 店員:「お待たせしましたー!」

 注文した酒と一緒に御通しもやはり来た。

 マリア:「テーブルチャージが現物で来るのが日本のバー」
 稲生:「しかも、後でまとめて支払います」
 アンナ:「何その取って付けたような説明?」

 それでまずは乾杯する。

 アナスタシア:「たまにウォッカが飲みたくなるんだけど、この店には無いようね」
 稲生:「あ、すいません。今度探しておきます」
 イリーナ:「いいじゃない。こっちの酒も美味しいわよ」
 アナスタシア:「だから、たまにはよ」
 イリーナ:「今の若いコ、ウォッカあまり飲まないみたいよ」
 アンナ:「そうですねぇ……」
 稲生:「若い日本人が、日本酒や焼酎をあまり飲まなくなったのと同じですかね。ま、カクテルやチューハイとしてなら少しは飲むといったところですか」
 イリーナ:「じゃんじゃん頼んじゃって」
 稲生:「はい、頂きます!」

 とはいえ、イリーナ達も結構食べるのである。

 マリア:「師匠、飲み過ぎないでくださいよ」
 イリーナ:「だーいじょうぶだって!ね?ナスっち!」
 アナスタシア:「いや、だからその呼び方やめなって」

 イリーナとアナスタシアは歳も近く、入門時期もそんなに離れていないので気楽なのだろう。
 もっとも、我こそエリートたらんとするアナスタシアには、そうではないイリーナの絡みは多少ウザいかもしれないが。

 稲生:「飲み過ぎて不幸な目に遭った人の怖い話とかは無いの?」
 アンナ:「お望みなら、話してあげる」
 マリア:「せっかくのディナーが不味くなるからやめろ」

 しかも聞いた側がヘタしたら呪い殺されるというアンナの魔法。

[同日21:00.同市内 ホテルドーミーイン盛岡 視点:稲生勇太]

 稲生:「先生方、御馳走さまでした」
 アナスタシア:「稲生君は心配しなくていいよ。この借りは後でイリーナに返してもらうから」
 イリーナ:「また勇太君に美味しいお店探してもらうわよぉ」
 稲生:「はあ……。それは構いませんが」
 アンナ:「先生。勇太の部屋に行ってもいいですか?」
 マリア:「私も行く!」

 マリアとアンナは師匠2人以上に顔と体を赤くしていた。

 アナスタシア:「そうねぇ……。じゃ、こうしましょう。私がイリーナと同じ部屋で寝るわ。どうせまだ話は終わってないし」
 イリーナ:「えー?アタシ、もう眠いんだけど……」
 アナスタシア:「たまには一徹しなさい。まだ、魔界での話、終わってないんだから」
 アンナ:「だったら、勇太が私の部屋に来ればいいじゃない。ツインなんだから、部屋が広いよ」
 マリア:「私も行く!」
 稲生:「お、お邪魔します……」
 マリア:「映画観るだけだからね!今度はJapanese Horror!」
 稲生:「“私立探偵 愛原学”もホラーアクションだと思うけど……」
 マリア:「あれは日本人がハリウッドの真似をしてるだけでしょ?」
 アンナ:「確かにJapanese Horrorは、私の呪術の参考になるかもね。ちょっと観てみたい気はする」
 稲生:「分かった。分かりましたよ」
 アンナ:「このホテル、ポップコーンとコーラは売ってる?」
 稲生:「ホラー映画って、ポップコーン片手に観るようなヤツかなぁ……?コーラは自販機で売ってるけど、ポップコーンはさすがに無いよ。ピーナッツとかならあるかもしれない」
 マリア:「いくら日本料理がヘルシーだからって、あれだけ食べた後でピーナッツとか食べたら太るよ」
 稲生:「とにかく、自販機まで行ってみましょう」
 イリーナ:「仲良く観るのよ」
 アナスタシア:「ダンテ先生に、後で怒られるようなことはしないように」

 稲生達は師匠2人の言葉を背に、先にエレベーターに乗り込んだ。
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