報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔界探索」

2015-04-01 19:44:04 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[現地時間4月5日11:00.魔界アルカディア王国首都アルカディアシティ13番街駅付近 稲生ユウタ&マリアンナ・スカーレット]

 イリーナが送ってきた鍵は、魔界におけるイリーナの拠点の物だった。
 ユタとマリアは準備を整えた後、屋敷の地下にある魔界の入口から魔界へ向かった。
「恐怖の17番街駅は復旧してるんでしょうかね?」
「17番街に行くとは限らないわ」
「えっ?」
「この魔界の穴は不安定なものだから、どこに出るかは運次第よ」
「ええっ!マジっすか!?」
 因みに今は真っ暗な中を歩いている。
「魔王城に出ちゃって、いきなり侵入者扱いされたりして?」
「私達はルーシー女王や安倍首相と面識があるんだから大丈夫だろう」
「それもそうですね」

 しばらく歩くと、トンネルの出口のように明るくなってきた。
「さあ、どこへ出るかな?」
 ユタ達は光の中に入って行った。
 その先には鉄製のドアがあり、ぐっと重い内開きのドアを開けると、そこは薄暗かった。
「? トンネルか?」
「トンネル?」
 所々に明かりはあるが、まるでそこは地下鉄のトンネルのような……地下鉄?
 すると、向かって左側から明かりが迫ってきた。

 プァーン!(電車の警笛の音)

「わあっ!?」
 轟音を立てて、黄色一色の電車がユタ達の真横を通過して行った。
「魔界高速電鉄だ!」
「ち、地下鉄のトンネルに出口ができるなんて……危険過ぎますよ!」
 日本の地下鉄なら線路内人立ち入りで緊急停車でもするところだろうが、警笛は鳴らすが減速もしないで通過していく所が外国の地下鉄っぽい。
 電車は大昔の地下鉄銀座線のようであるが。

[同日11:30.アルカディアシティ13番街駅 ユタ&マリア]

「13番街ってのは、治安の悪い街だったんですね」
「そのようだ」
 薄暗いホームで電車を待つ。
 ユタがボヤくように言ったのは、あの後2人は作業員用通路を通って地上に出たのだが、そこがスラム街で、いきなり魔族の愚連隊とエンカウントしてしまったことだ。
 マリアの魔法と人形の使役により、蹴散らすことに成功したが。
 その後、駅に着くまでにも何回かエンカウントした。
「RPGらしく、奴らから金品は頂いた」
 しれっと言うマリア。
「いいんですかね?てか、この小説RPGモノではなかった思いますが……」
「エレーナよりはマシだよ。あいつ、現金どころか、本当に身ぐるみ剥ぐから。で、挙句の果てには、『シケた野郎だ。これっぽっちしか持ってやがらねぇ』なんて言う始末だから」
「さすがは、強欲の悪魔を憑依させることが内定しているだけあります」
(ユウタは……色欲の悪魔か。この草食系に色欲の悪魔が取り憑いたら、面白ろ……怖いことになりそうだ)
 マリアはそう思った。

 駅によって接近放送が鳴ったり鳴らなかったりするらしい。
 13番街駅では何の接近放送も無く、電車が入線してきた。
 しかしこの魔界高速電鉄、高架線もそうだが、地下線も運行車両は節操無い。
 さっきは昔の地下鉄銀座線みたいなものが通過していったが、今度は……どこかの国の古い電車がやってきた。
「旧ソ連系のヤツだと思う」
 ユタがしげしげと電車を見ていたので、マリアはそう言った。
「そうなんですか?」
「そこにロシア語が書いてある」
「あっ……」
 電車に乗り込む。
 空いている黒い座席の上に、隣り合って座った。
 電車はやや乱暴にドアが閉まるタイプで、挟まれたらケガしそうだ。
 乗客は人間よりも魔族が多く、ユタ達は魔族の乗客からの視線を浴びていた。
 駅の外は治安が悪かったが、駅や電車内で襲われることは無いのは、保安員の巡回や警乗があるからだろう。
 マリアは緑のブレザーを着ていたが、胸ポケットのワッペンの所に特徴的な模様が描かれていた。
 口では説明しにくいデザインだが……。
「魔法使いだ」
「魔法使いか……」
 魔族の乗客達がヒソヒソと噂していることから、分かる者には分かるのだろう。
 それとマリアは、魔法使いの杖も持っているので。
 頭の部分に特徴的なデザインがあしらわれていて、それを緑のスカートの上に置いていた(足に挟んでいた)。
 恐らく何かあった時、すぐ使えるようにする為だろう。
 威吹やキノも椅子に座る時、刀を外してそれを足に挟んでいた。
「マリアさん、僕達はどこまで乗って行くんですか?」
「終点だ。2号線の終点は地上に出るから、それで分かる」
「そうですか」

[同日12:00.魔界高速電鉄2号線電車内 ユタ&マリア]

 電車が進む度に乗客は減り、ついに終点の1つ手前の駅で、少なくともユタ達が乗っている先頭の車両においては誰もいなくなった。
 乗降ドアが乱暴に閉まるように見えるのは、日本の電車のそれが閉まる直前に止まるか減速するのに対し、この旧ソ連製と思われるものはそのままのスピードで閉まるからである。
 これは俗に『ギロチンドア』と呼ばれている。
 実は旧・営団地下鉄の車両でも、似たような閉まり方をする電車があった。
 今でも営団時代からの車両は運転されているが、だいぶ改良されたらしく、随分とおとなしい閉まり方をする。
「……何か新木場駅の手前みたい」
 ユタがそう思ったのは地上に出る直前、サイレンみたいなのが聞こえたからである。
 しかしここは新木場駅と違い、倉庫街ではない。
「何か、のどかな所に出ましたねぇ……」
 因みに魔界高速電鉄地下鉄線では車内放送は無いので、車内の路線図や停車駅の看板を見て、今どこを走っているかを自分で確認しなくてはならない。
 だからなのか、地下鉄線の電車は基本的に各駅停車のみの運転である。

 キキィ………キキィ………。
 プシュー、ガラガラ……。

「ここですか」
「ここだね」
 アルカディアシティは“霧の都”であり、1年中霧に包まれている町である。
 郊外まで来てもそれは例外ではないようだが、ユタは霧というより雲の中にいるような感覚を覚えた。
 地下深くから一気に地上に出て来たせいだろうか。
「ここからどうやって行くんですか?」
 1面2線のホームに降り立って、ユタが聞いた。
「タクシーに乗り換える」
「タクシー?でも、魔界には自動車交通は無いんじゃ……?」
 ユタが首を傾げる。
 駅の外に出ると、何台かの馬車が客待ちをしていた。
 ご丁寧にも車の上には『TAXI』の表示がしてある。
「……辻馬車ですか」
「つまり、そういうこと」
 マリアは大きく頷いた。
 しかし、初乗りいくらの表示が無い。
 料金交渉制か。
 しかし、相場が分からない。
 マリアは慣れた様子で、御者と何やら話を始める。
 英語でも日本語でもなかったので、ユタには何を喋っているのか分からなかった。
「10でOKだって」
 マリアが振り向いて右手の人差し指を1本立てた。
「それは円?……なワケないか。ドル?ユーロ?ペソ?バーツ?ルーブル?元?ウォン?」
「ゴッズ」
「……魔界オリジナルの通貨ですか」
「スラム街の愚連隊からせしめてきたカネがある」
「魔法使いは強いなぁ……ある意味」
「いいから、早く行こう」
 ユタ達は馬車に乗り込んだ。

 常春の国アルカディア。
 その首都アルカディアシティのとある郊外。
 ここでユタ達を待ち受けているものとは何なのだろうか。
(10ゴッズって高いんだろうか?安いんだろうか?)
(10でも高いな。師匠の名前出して、8くらいに値引いても良かったな……)
 ……少なくともこの時点で、見習魔道師達に緊迫感は無い。
コメント (11)
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“大魔道師の弟子” 「師匠の災難と弟子」

2015-04-01 16:51:17 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月4日07:00.長野県某所・マリアの屋敷 稲生ユウタ&マリアンナ・スカーレット]

「おはようございます……」
 ユタは欠伸をしながら起床した。
 大きな屋敷にユタとマリアだけだが、当然部屋は別々だ。
 しかも、マリア自身は命令を解除しているとのことだが、使役している人形達の警戒が厳重である。
 ご丁寧に、『ご主人様をヒモ男から防衛隊』のたすきまで着けている。
 朝の身支度の後で、ダイニングに向かう。
「今日は何をしましょう?」
「師匠が帰ってくるまで、英会話のレッスンだな」
 弟弟子の言葉に、ニッと笑って答える姉弟子。
「たはは……。いつになったら、魔法を教えてくれるんでしょう?」
「今日は師匠が帰って来るから、それからだろう。ま、師匠のことだから、しばらく英会話レッスンとでも言うと思うな」
「マジですか……」
 緑色の長い髪をツインテールにしたミカエラが、ピッとテレビを点けた。

〔「えー……繰り返し、お伝え致します。雲羽百三氏、ついに自ら妙観講本部にデモです」「我々はァ!法華講武闘派被害者の会である!本日ゥ、ここにィ、正法折伏とは『法に正らば折って伏す』の言葉通りィ、折って伏された者の恨み節を届けにィ……」〕

「チャンネル変えますね」
「ああ」

〔「ちょっと困ります!勝手に取材は……」「“んっ?”さん!実は法華講員だというのは本当なのでしょうか?」「一言お願いできますか!?もし法華講員なら、大沢克日子さんとの論争は謗法になると思うんですが!?」「失礼します!」〕

「これも面白くない」

〔「沖浦さん、スキーに行くと見せかけてラブホテルに行っていたというのは本当なのでしょうか!?」「あなたね、そんな取材して何が楽しいんですか?怨嫉謗法はやめなさい」「お相手の方について、一言お願いできないでしょうか!?」「ジムの生徒さんだという噂もありますが!?」「長野県にはね、淫行条例なんてものは存在しないんです。御書よりも法律の方、勉強しなさいね。御書でも明らかです。『佐藤殿御返事』にも書いてあります。あなた達、御書読めませんねー!」〕

「……何で僕がいた宗派は、こんなスキャンダラスなんだ?」
「さあ……」
 ユタはもう1度、チャンネルを変えた。

〔「……昨日、ロンドンのヒースロー空港を飛び立った航空機が行方不明になっている件につきまして、航空会社からの記者会見が……」〕

「え?」
「ん!?」
 息を呑む2人。
 ロンドン・ヒースロー空港発、東京・羽田行きの飛行機がヨーロッパ圏内で行方不明になったという。
 実際に墜落したのか、そういうことは今も尚調査中とのこと。
「え……?どういうこと?」
「し、師匠……?」
「イリーナ先生が乗った飛行機ですか?」
 ニュースでは仕切りに航空会社と便名を告げている。
 マリアは部屋から予定表を持ってきた。
 イリーナが今日、日本に戻るという予定になっていたが、イギリスから乗る飛行機については……確かに航空会社と便名が行方不明機と一致していた。
「マジですか!?」
「う……そ……?」
「どどど、どうしよう!?僕まだ魔法教わってないのにーっ!」
 力無く椅子に座り込むマリアと、頭を抱えるユタだった。
「い、いや……。きっと師匠のことだから……もし仮に……飛行機が墜落したとしても、直前で脱出するとかして、きっと無事なはず……」
「そ、そうか!今、交信したら出たりして?」
「なるほど」
 マリアは自分の水晶球を持ってきた。
「師匠!師匠!マリアンナです!応答願います!」
(呼び掛けが、無線機みたい……)
 と、ユタは思った。
「師匠!応答してください!」
 しかし、応答は無かった。
「電源入ってますか?」
「ケータイじゃない!」
「す、すいません……。何か、無線みたいな呼び掛けだったからぁ……」

 その後、航空会社から行方不明者リストが発表されたが、そこにイリーナの名前があったことで、更に自体は悪化した。

[4月5日09:00.同場所 ユタ、マリア、エレーナ・マーロン]

〔「……引き続き、対策本部前から中継でお送りします。……」〕

 同じくテレビのあるリビングルームで夜を明かした2人。
 結局、機体は全く発見できなかったという。
 いきなりレーダーから消えて、それっきりとのこと。
 レーダーから消え去った付近を捜索したが、墜落の跡は全く見られなかったらしい。
 本当に、忽然と消えてしまったのである。
 ロシア上空で、まるで魔法を使ったかのように消えたことから、もしかしてイリーナが何かしたのかと思ったが、マリアにもユタにも全く見当が付かなかった。
 例えば機内でハイジャックが起きたにせよ、それでイリーナが飛行機ごと消す理由にはならないはずだ。
 エンジントラブルで墜落が免れなくなったとしても、イリーナはこういう時、自分1人だけ脱出するタイプなので、飛行機ごと消えることもあり得ない。
 実は昨日からイリーナと旧知の魔道師が何名か状況確認の電話を掛けてきたのだが、当然こちらは何も答えることはできなかった。
「マリアさん、何か食べましょう」
「……食べたくない」
「昨日からも、殆ど寝てないじゃないですか。今頃、大師匠様のお耳にも入っているはず。イリーナ先生と旧知の魔道師先生方も動いて下さるみたいですし、きっと大丈夫ですよ」
「…………」
 と、その時、玄関の呼び鈴が鳴らされた。
「あっ、もしかしたら先生がひょっこり帰ってきたりして」
「……そんな感じはしないが……」

「お届けものでーす!」
 やってきたのはエレーナだった。
 マリアのよりはオレンジに近い金色でウェーブの掛かった髪を背中まで伸ばし、白いブラウスに黒いベストとスカートをはいている。
 とんがり帽子ではないものの、黒い帽子を手にしているところは、ホウキに跨った魔女を思い浮かばせた。
「まだ、“魔女の宅急便”やってるのかい?」
 ユタはびっくりした様子だった。
「これはイリーナ師から預かっただけよ。私もポーリン先生について、イギリスに行ってたからね」
「あっ、そうなんだ」
 エレーナが持ってきたのは、1つの小箱。
 開けると1本の古い鍵と、手紙が出て来た。

 

 手紙によると、
「……あの師匠が切羽詰ってる!?」
「えっ?」
「あの、のほほんとしたイリーナ師が?」
 手紙によると、マリアはもうすぐ25歳の誕生日を迎えるという。
 大いなる敵がマリアを狙っていて、その時まで身を隠せというものだった。
「これは一体……?」
「まあ、確かに……色々因縁はあるけどね」
 エレーナは首を傾げた。
「何が?」
「魔法使いも因果なものでね、そういう数字に取り憑かれることもあるのよ。例えば、“魔女の宅急便”みたいに13歳になったら……とかさ。大抵はどういうわけだか奇数が多い。25歳というのは初めて聞いたね。15歳の間違いじゃないの?」
「いや、25歳って書いてあるし、確かに私の誕生日は近い」
「んん?」
 ユタは首を傾げた。
「エレーナは25歳になった時、何かあった?」
 その調子でユタが聞くと、
「えーとね……って、コラッ!ここじゃ、1番年下だぞっ!!」
「嘘だぁ。僕よりは上でしょ?」
「とにかく、師匠に何かあったのは間違いない。この鍵は魔界の、師匠が拠点にしている所の鍵だ。要はここに行けってことだろう」
「なるほど。行ってみましょう」
「私は25歳が何なのか調べておくよ。いずれ私も通る道かもしれないしね」
「もう通ってるだろ」
 マリアがニヤッと笑った。
「うっさい!オマエの彼氏寝取るぞ!!」
「ははは……(笑)……えっ!?」
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