報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「旭川滞在」 7

2015-04-29 22:13:32 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月23日08:00.天候:曇 旭川市内ビジネスホテル 稲生ユウタ]

「おはようございます。具合はどうですか?」
 ユタはイリーナとマリアの部屋を訪れた。
「おはよう。ユウタ」
 マリアが笑みを浮かべてやってきた。
「マリアさん!」
「おかげで、今日は体調もいい」
「おおっ!それじゃ……」
「ああ。朝ご飯でしょ?一緒に行こう」
「は、はい!イリーナ先生は……?」
「夢の中でご馳走をたらふく食べているようだから、別にいいだろう」
 マリアが小さく溜め息をついて、右手の親指で自分の後ろを指さした。
「クカー……もう食べれましぇん……」
「たははは……」
 ユタは苦笑いした。
「先生が契約しているのは、“嫉妬の悪魔”ですよね?“暴食の悪魔”じゃないですよね?」
「そのはずだ……けど」
「まあ、いいや。行きましょう行きましょう」
 ユタがマリアを促すと、
「ちょっと待ってて」
 マリアが部屋着から私服に着替えようとした。
 ショーツが一瞬モロ見えした気がした。
「たっ!?ちょっ……ちょっと待ってください!外に出てますんで!」
「行くのか待つのか、はっきりしてくれよ」
 マリア呆れた。
 ユタが慌てて出た後で、
「あはははははっ!」
 笑いを堪え切れずに笑い出したマリアだった。
 それはいつかの、敵を惨殺した際に見せていた快楽殺人的な笑いとは全く違っていた。
 その後、上機嫌で鼻歌混じりに着替えて部屋を出たマリア。
(あー……やっと、マリアもあんな顔してくれるようになったか……)
 布団を被って寝言を言っていたはずのイリーナは、チラッと部屋のドアを見て、そう思った。
(うーん……あと5分……)
 既にベッド脇のアラームが鳴ってから、1時間が経過していた。
 今は止まっている。
 マリアは自分が起きる為にセットしていただけで、ハナから師匠がそれで起きるとは思っていなかったようである。

[同日09:00.同ホテル1F 朝食会場 ユタ&マリアンナ・スカーレット]

 まもなくモーニングも終了しようという時、ユタは食後のコーヒー、マリアは紅茶を啜っていた。
 今日の予定のようなことを話している。
「……というわけで、そろそろ藤谷班長から航空券が届くはずです」
「なるほど」
「それを受け取ったら、どこか行きましょうか?」
「そうだねぇ……。あ、でも師匠から言い付けられてたことがあったんだ」
「何ですか?」
「こーれ」
 マリアは自分が着ている服をつまんだ。
「ん?」
「まさかの長期滞在になったものだから、着替えが無くなってね。溜まっている服は今日中に洗濯しておけって」
「あー、そういえば僕もだ!今着てるので最後です」
「意外と師匠、大ざっぱなようでそういう所見ているからなぁ……」
「ん?あれ?でもその服……」
 ユタはふと気づいた。
「ああ、気づいた?これはあの戦いの時に着てたもの。ブラウスは破かれるし、ブレザーもスカートも綻んだりで大変だった」
 下着は完全に引ん剝かれたのでダメだったが、その上の服は人形達が直してくれたという。
「へえ、何でもできるんですね。あのコ達……」
「私の魔力に応じて、ね……。昨日とかは師匠が魔力をカンパしてくれたから、尚更細かい作業ができたみたい」
「そうでしたか。じゃあ、洗濯からしないと……ですね」
「洗剤が無いんだ」
「それなら、コインランドリーの所で売ってますよ」
「そうか」

[同日09:30.同ホテル1F コインランドリー ユタ&マリア]

「どうした?まだ余裕あるぞ?一緒に入れなよ」
「あ、はい……」
 マリアとは別の洗濯機を使おうとしたユタに対し、マリアは苦笑いを浮かべて言った。
「別に知らない仲じゃないんだし、それに、家じゃ一緒に洗ってるじゃない。何を今さら……」
「そうなんですか!」
 そういうのも人形達がやっていたので、ユタは全く気が付かなかった。
 ユタに与えられた部屋は風呂とトイレは付いていなかったが、風呂に入っている間に人形達がそれまで来ていた服を持って行ってしまうのである。
 そして洗濯されて、自分の部屋に畳まれて置かれているといった感じだ。
 マリアが魔道師の“人形使い”になった所以は、人を動かして自分は手を汚さない怠惰の悪魔と契約したからであるが、それが離れた今でもその魔法を使用している。
 言われた通り、一緒の洗濯機を使う。
 お金を入れると、終了時間がカウントダウンされる。
「38分後?中途半端だな……」
「まあ、そうですね。終わるまで待ってましょう。それとも……やっぱり買ってこようかなぁ……」
「何が?」
「明日の電車のキップですよ」
「あー。じゃあ、師匠からカード借りよう」
「部屋に戻るんですか?」
「多分、カフェテリアだと思うよ」
 マリアがそう言うと、さっきユタ達が朝食を取っていた会場に向かった。

 案の定そこにイリーナが遅い朝食を取っていて、事情を話すと、クレジットカードを貸してくれた。
 あのプラチナカードだ。
「さすがマリアさん」
「まあ、師匠とは長い付き合いだから……」
「このカード……。イリーナさんは、どうやって……」
「師匠ともなると、表から裏から色々なパイプができる。中には、カード会社の重役と繋がるパイプもあるのだろう。請求先の口座もそうだ。ちょっと師匠が予知したり、占うだけで大金が入金されてくる」
「凄いですねぇ……。それなのに、飛行機は墜落させられたんですね?」
「それだけ“魔の者”は凄かったというべきかな」
「うーん……」
 ホテルを出て旭川駅に向かう時、ユタはさっきから気づいてはいたのだが、やっと口に出せた。
「あ、あの、それより……その……」
「ん?ああ、これ?」
 マリアはユタの視線の先に気づき、自分も視線を上に向けた。
 そこにあるのはカチューシャ。
「早速、使わせてもらってるよ。いい着け心地だ」
「よく似合ってますよ」
「ありがとう。まあ、師匠から、『10代の魔法使いが着けてそうなデザインだねぃ……。まあ、それが似合うんだからいいんじゃない』って言われたんだけど?」
「ええっ!?」
 若く見られるのはいいことだという意味でイリーナは言ったのだと思うが、マリアには、『子供っぽい』と言われたような気がして、一瞬ムカッときたそうである。
「ぼ、僕はいい意味で選んだつもりですけどぉ……!」
「それを信じるよ」
 実際、金髪碧眼で、緑系や青系の服を着ることが多いマリアにとって、コントラスト的にマゼンタのカチューシャは合っていた。
(もう少し、赤っぽい方が良かったかなぁ……)
 と、ユタは思ったのだが……。

 昨日の雨で路面が濡れている中、取りあえず駅に向かって歩く2人だった。
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“大魔道師の弟子” 「旭川滞在」 6

2015-04-29 15:47:23 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月22日10:30.天候:雨 北海道某所・ヤノフ城跡 イリーナ・レヴィア・ブリジッド&大師匠ダンテ・アリギエーリ]

「あー、こりゃまた随分ハデにやったねぇ……」
 黒いローブにフードを深く被ったダンテが苦笑いした。
「ワザとじゃないですよ」
 イリーナは言い訳するように言った。
「それで、どうなの?これは私達の勝利ってことでいいのかしら?」
「そうだねぇ……」
 城の裏手にある断崖絶壁。
 2人の大魔道師は無重力空間のように、下に舞い降りた。
「あー、こりゃ見事に逃げられた感じだ……」
「マジで!?」
 ダンテは川底から魔法の杖で、白骨死体を引き上げた。
「これが、あのヤノフ?」
「……に、取り憑かれたマリアンナ君のお祖父さん、セイカー氏だ。もっとも、取り憑かれて数年で死亡したようなものだから、結局キミ達が会った時点で、完全にヤノフ侯爵に取り込まれていただろうね」
「崖から死体が落ちる瞬間に抜け出して逃げた?」
「はい、正解。そしてまた新たな拠り所を探している」
「ユウタ君……!」
「といっても、相当消耗したと見える。しばらくは襲ってこないと思うね」
「余裕で抜けたのなら、死体すら残さないものね」
「そういうことだ」
「眷属達はどうなったのかしら?」
「この瓦礫の下敷きか、生き霊として引っ張ってこられただけなのなら、消えただけかのどっちかだね」
「なーんか、してやられたって感じだねぇ……」
「まあ、マリアンナ君を諦めさせたんだから、そこは良しとしようじゃないか。……子宮が使えないことがバレたのは、ちょっと痛かったがね」
「生け贄として使えなくなってるだけで、普通に産めるはずだよー」
「だからさ……」
「ユウタ君も狙われないように、早くマリアと一緒になって、貞操を手放してもらって……」
 イリーナが焦るように言ったものだから、ダンテは呆れたような顔になってツッコんだ。
「別に、男の童貞は悪魔も狙って来ないと思うよ?」

[同日同時刻 旭川市内ビジネスホテル 稲生ユウタ]

「色々買って来ちゃったなー……」
 ユタはビニール袋を手にホテルに戻り、マリアの部屋に向かった。
 他の客室は清掃作業が行われていたが、マリア達の部屋は『起こさないでください』表示でやっぱりスルーされている。
 ユタは部屋をノックした。
「せめて、ドアくらい開けてくれないかなー……」
 と思っていたのだが、ドアを開けてくれた。
 ジッとユタを見据えるミク人形(人間形態)。
「あっ、あーっと……。これ、マリアさんに……渡してくれる?」
 すると、ミク人形はドアを大きく開けた。
「だ、大丈夫。僕は入らないから……あっ!?」
 だが、意外にもミカエラに腕を掴まれて引っ張られ、後ろからミカエラに背中を押される形で部屋に強制入室させられた。
「えっえっえっ?いいの?」
 そして両脇を抱えられ(人間形態の人形達は概ねユタより身長が高い)、マリアの前に引き立てられた。
 マリアは上半身を起こした。
「あ、あの……具合、大丈夫ですか?」
「ああ……少し、熱っぽいだけ」
 その割には、随分と顔が赤い。
「これ、冷却シートです。濡らしたタオルより、使い勝手がいいと思います」
 ユタは箱から冷却シートを1枚出すと、
「じゃあ、ちょっと貼りますんで」
 そう言って、マリアのおでこにシートを貼った。
「……うん、冷たい」
「あと、これが薬です。何か、食べられますか?」
「……その果物がいい」
「あ、はい」
 ユタが袋から取り出すと、
「あっ?」
 ヒョイとミカエラがリンゴを取った。
 そして、手持ちの(……!?)果物ナイフで器用に皮を剝いた。
「ユウタ……」
「はい?」
「その……ありがとう」
「えっ?」
「城で捕まった時、助けに来てくれたでしょ?」
「あ、ああ……何か、最初に着いたの、僕でしたねぇ……。でも、殆ど攻撃できた感が無いんですけど……」
「いや、そんなことない。きっと、“魔の者”も思い知ったはずだ」
「そう……ですかね」
「うん。師匠から概要は聞いたけど、ここは旭川市のホテルなんだな?」
「そうです。ヤノフ城が崩れる直前に、藤谷地区長がヘリで迎えに来てくれて、それで脱出しました。ここの市内にヘリポートがあって、そこに着陸した後、藤谷組の事務所で休ませてもらって、このホテルに入ったわけです」
「なるほど……」
「明後日の飛行機で帰りますから、それまでゆっくりできます」
「また羽田経由?」
「いえ。もう松本空港が再開されたんで、そのまま松本空港行きの飛行機です」
「そうなんだ」
 クラリスが切ったリンゴを差し出した。
「これを食べて、その後で薬を飲んでください」
「ああ。聖水を飲んだから、もう少しで魔力が回復すると思う。そしたら、すぐに治るはずだ」
「無理はしないでくださいね」
「ああ」
「あっ、そうだ。ちょっと待っててください」
「?」
 ユタは何か思い出したように、一旦マリアの部屋を出た。
 そして自分の部屋に取って返すと、何かを持ってまたマリアの部屋に戻った。
「なに?」
「もうだいぶ過ぎてしまいましたけど、これ、誕生日プレゼントです」
 マリアは目を見開いた。
「大したものじゃありませんけど……」
「な……」
 マリアが受け取った紙袋を開けると、中に入っていたのはカチューシャだった。
「マリアさん、よく着けてるので、これでいいのかなぁと……」
 マゼンタ色で頭に装着すると、自分から向かって左上辺りに小さなリボンがあしらわれている。
「! そういえば、いつの間にか、いつものカチューシャが無くなりましたね」
「どうやら、あの戦いで無くしてしまったらしい。だから……ちょうど良かった。ありがとう……」
 マリアはユタからもらったカチューシャを抱きしめた。
「早速、明日から着けさせてもらうね」
「明日?」
「見ての通り、ずっと寝てたせいか髪がボサボサで……。シャンプーもしてないし……」
「あー……そうですよね」
「ゴメン」
「いえ、いいんですよ」
「師匠とは会った?」
「何か今日と明日は、お客さんと会うからって……」
「……ああ、そうか」
「じゃあ、僕はこれで……。あ、もちろん、ホテルに基本いますけどね。何かあったら、呼んでください」
 ユタは椅子から立ち上がった。
「あの……ユウタ君」
「はい?」
「おかげで、元気が出てきそう。明日には治すから……」
「ムリはしないでくださいね」
「ありがとう……」

[同日18:00.旭川市内の某レストラン ユタ、イリーナ、ダンテ]

「マリアねぇ、泣いて喜んでたよー。『初めて男の人からプレゼントもらった』って」
「ほぉ……。稲生君も隅に置けないようだねぇ……」
 2人の大魔道師、イリーナはニヤニヤ笑って言い、ダンテはほっこりした顔で反応した。
「い、いえっ、僕はその……!」
「いいんだよ。これからもこの調子で、仲良くやりなさい。『仲良きことは美しき哉』、ダンテ一門の訓辞だよ」
 さすがに食事時はフードを取るダンテ。
 その下の顔は、50代前半くらいの白人男性といった感じだった。
 これとて変身中の顔で、素顔ではないという。
「これで、しばらく“魔の者”が姿を現すことはないだろう。今のうちに長野に戻り、奴らが手出しできないくらいに修行を積みなさい」
「はい」
「頑張りますわ」
「……イリーナは、魔の者に後ろを取られた説教を後でしようか」
「ええっ!?だからぁ、あれは想定外だって……!」
「弟子連れというわけでもあるまいに、のんきに飛行機で帰ろうとするからだよ」
(1人前になっても、師匠からのお説教ってまだあるんだなぁ……)
 ユタは2人の大魔道師のやり取りを見ながら苦笑いをした。
コメント (3)
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