[4月5日時刻不明 アルカディアシティ33番街・アルカディア劇場 稲生ユウタ]
ユタがステージのあるホールに近づくと、ピアノの音色が変わった。
「ん?これは……ショパン辺りの……何だっけか?」
ユタには分からなかったが、ショパン作“幻想即興曲”である。
聴けばユタのように、聞いたことのあるピアノ曲だと分かるだろう。
「ピアノの演奏会会場はここかな?」
ユタはホールへのドアを開けた。
「うん?」
ステージの方を見ると、確かにそこはライトで照らされ、その上にはグランドピアノがあり、白いドレスを着た少女がピアノを弾いていた。
少女といっても、小学生くらいの歳だろう。
しかし客席には人っ子1人いない。
「これは一体……?」
ユタはステージに近づきながら首を傾げた。
(あ、そうか。今、リハ中なんだぁ……にしても、やっぱりおかしいな)
それにしたって、周囲にスタッフなどの関係者はいるだろう。
それすらいないのだ。
「ん?」
素人のユタでも分かるほどに、少女は1音間違えた。
「うっうっ……」
少女は泣きそうな顔になると、もう1度弾き直した。
「うーむ……」
ユタは最前列席に座って、しばらくその様子を見ていた。
そして、あることに気づく。
少女は同じ所ばかりを間違えるのだ。
そして、また最初から弾き直す。
(スランプなのかな?)
ユタは席を立って、また少女が同じ所で間違えた所を狙い、そこで手を叩いた。
「ちょっとキミ!差し出がましいけど、少し休憩した……ら?」
聞こえないのか、ユタの呼び掛けに全く反応することなく、また弾き直す。
ユタはステージの上に上がった。
「ちょっと、キミ!」
ユタが少女の肩を叩こうとすると、その手がスルリと抜けた。
「えっ!?」
少女は幻影だった?!
まるで幽霊を掴もうとするかのように掴めないのだ!
「こ、これは……!?」
すると、通路からのドアが開いた。
「ユウタ!」
「マリアさん!」
「早く、こっちに!」
「は、はい!」
ユタはステージから客席に下りた。
「マリアさん、何かあのコ、変なんです」
「そうでしょうよ。あれは意識体だから」
「意識体?」
「まあ、幽霊みたいなものね」
「幽霊!?」
「元・仏教徒だったユウタには信じられないだろうけど……」
「そりゃもう!でも、何で幽霊が?」
「どうやら、“魔の者”に殺されたかららしいね」
「どうして分かるんです?」
「これ見て。ロビーにあったんだけど……」
それは“アルカディア・タイムス”という地元の新聞だった。
その記事に、
「『クリスマス・イブイブの悲劇。少女、レッスンの帰りに殺される』と、あるでしょう。この殺されたコの写真、見て」
「うわっ、あのコそっくり!……って、あれから3ヶ月以上も経ってるのに!?」
「劇場に誰もいない理由は分からないけど、どうやらあのコを成仏させないと劇場から出られないみたい」
「えっ!?」
「さっき外に出るドア全部調べてみたけど、開かなくなってた」
「はあ!?」
「それだけじゃない。魔の者に殺されたコが幽霊としてここにいるということは、魔の者自体が……」
ドーン!
「!?」
ステージの方から何かの衝撃音が聞こえてきた。
「私のステージの邪魔をするんじゃないよ……小娘が……!」
「きゃあああっ!!」
ピアノの上には、まるで宝塚の役者(ベルバラみたい)のような出で立ちをした者がいた。
どうやら、天井から飛び下りて来たらしい。
手には西洋の剣を持っている。
それで少女の幽霊を突き刺した。
少女は叫び声を上げて消えた。
「な、何だあれは!?」
ユタがびっくりした顔をすると、舞台女優のような者はユタ達を見た。
「若い女……殺してやる……!」
「に、逃げましょう、マリアさん!何かヤバそうだ!」
ユタはマリアの手を引いて、ホールの外に飛び出した。
「逃がさなぁぁい……!」
「追って来たぞ、ユウタ!」
「マジですか!?」
「迎撃する!手を放して!」
「ええっ!?」
マリアは手持ちの人形を床に置いた。
「あいつを倒して!」
ミカエラとクラリスが人間形態になって、女に立ち向かっていく。
だが!
「うるせぇ!」
女が剣を振るうと、ミカエラとクラリスはあっさりやられてしまい、また元の人形に戻ってしまった。
「マジっすか!?」
「……!!」
ユタは驚愕し、マリアも青い顔になる。
「も、もう1度……!」
マリアは人形を再度起動した。
ユタは廊下の突き当りにエレベーターを発見し、そのボタンを押した。
「マリアさん、一旦逃げましょう」
「くっ……!」
エレベーターのドアが開く。
ユタが先に乗り込んだ。
最上階は3階らしく、ユタは3階のボタンを押した。
「マリアさん、早く!」
「はーっ!」
「うわっ!」
女が剣を振るうと、暴風のような風が発生し、ユタはカゴ内の壁に叩き付けられ、マリアはエレベーター横の壁に叩き付けられた。
「マリアさ……!」
ユタが駆け寄ろうとした時、エレベーターのドアが閉まってしまった。
「な、何なんだ、あいつは!?」
3階に着いてエレベーターのドアが開く。
もう1度1階のボタンを押して、また元の場所に戻った。
「マリアさん……?」
エレベーターの横にいたはずのマリアがいなくなっていた。
あの女もいない。
人形だけが転がっていた。
ホールからまたピアノの音が響く。
だが、今度は同じ場所で止まらなかった。
何か……おかしい。
ユタがホールに入ると、
「オラ、いつまでもヘタなピアノ弾いてんじゃねぇよ。どうせオメェなんか罰で優勝できねぇんだ」
「うっうっ……うぇぇん……」
再び現れた少女の幽霊。
その後ろにあの女がいて、ピアノを弾いている少女の髪を掴んで引っ張ったり、後ろから蹴っ飛ばしたりしている。
「お、おい!やめろよ!」
ユタがステージに近づいた。
女がこっちを見るのと、ユタがふと気づくのは同時だった。
(待てよ。僕が触れなかったのに、どうしてあの女はそれができるんだ?)
「オトコは要らないよ。さっさと死ねっ!」
考えているヒマは無い。
女はヒラリと軽い身のこなしで、ステージから飛び下りた。
「くそっ!」
丸腰のユタは、またもや逃げ出す他は無かった。
ホールの外から廊下に出ても、追い掛けて来る。
もう1度あのエレベーターで避難しようと思ったが、間合いが詰められつつある。
ユタ自身、そんなに足が速いわけではないし、劇場のホールと繋がる廊下ということもあって、後ろに行く度上り坂になっているからだ。
「魔の者の為にはならないけど、オメェもうるせぇから死にな!」
「なにっ!?魔の者を知ってるのか!?」
ふと、ユタは廊下の隅に消火器を発見した。
それを取ると、ピンを抜いて……。
「だぁーっ!」
女に向けて噴射した。
「ぶっ!こ、このクソ野郎!……ゲホッ、ゲホッ!」
更に空になった消火器を投げつけた。
「今のうちに……!」
ユタはエレベーターのボタンを押して乗り込んだ。
すぐに3階のボタンを押してドアを閉める。
外から女がドアを叩き、何か喚く声が聞こえたが、エレベーターはお構いなしに3階へ上がっていった。
「何とかしないと……このままではヤバい」
エレベーターが3階へ着く。
100パー安心はできないが、どうやら女をまくことには成功したようなので、このフロアを探索することにした。
女のあの様子ではマリアを殺したとか、そういうわけではなさそうだった。
(だからきっと、マリアさんは無事だ)
ユタはエレベーターを降りて、3階廊下を歩いた。
ユタがステージのあるホールに近づくと、ピアノの音色が変わった。
「ん?これは……ショパン辺りの……何だっけか?」
ユタには分からなかったが、ショパン作“幻想即興曲”である。
聴けばユタのように、聞いたことのあるピアノ曲だと分かるだろう。
「ピアノの演奏会会場はここかな?」
ユタはホールへのドアを開けた。
「うん?」
ステージの方を見ると、確かにそこはライトで照らされ、その上にはグランドピアノがあり、白いドレスを着た少女がピアノを弾いていた。
少女といっても、小学生くらいの歳だろう。
しかし客席には人っ子1人いない。
「これは一体……?」
ユタはステージに近づきながら首を傾げた。
(あ、そうか。今、リハ中なんだぁ……にしても、やっぱりおかしいな)
それにしたって、周囲にスタッフなどの関係者はいるだろう。
それすらいないのだ。
「ん?」
素人のユタでも分かるほどに、少女は1音間違えた。
「うっうっ……」
少女は泣きそうな顔になると、もう1度弾き直した。
「うーむ……」
ユタは最前列席に座って、しばらくその様子を見ていた。
そして、あることに気づく。
少女は同じ所ばかりを間違えるのだ。
そして、また最初から弾き直す。
(スランプなのかな?)
ユタは席を立って、また少女が同じ所で間違えた所を狙い、そこで手を叩いた。
「ちょっとキミ!差し出がましいけど、少し休憩した……ら?」
聞こえないのか、ユタの呼び掛けに全く反応することなく、また弾き直す。
ユタはステージの上に上がった。
「ちょっと、キミ!」
ユタが少女の肩を叩こうとすると、その手がスルリと抜けた。
「えっ!?」
少女は幻影だった?!
まるで幽霊を掴もうとするかのように掴めないのだ!
「こ、これは……!?」
すると、通路からのドアが開いた。
「ユウタ!」
「マリアさん!」
「早く、こっちに!」
「は、はい!」
ユタはステージから客席に下りた。
「マリアさん、何かあのコ、変なんです」
「そうでしょうよ。あれは意識体だから」
「意識体?」
「まあ、幽霊みたいなものね」
「幽霊!?」
「元・仏教徒だったユウタには信じられないだろうけど……」
「そりゃもう!でも、何で幽霊が?」
「どうやら、“魔の者”に殺されたかららしいね」
「どうして分かるんです?」
「これ見て。ロビーにあったんだけど……」
それは“アルカディア・タイムス”という地元の新聞だった。
その記事に、
「『クリスマス・イブイブの悲劇。少女、レッスンの帰りに殺される』と、あるでしょう。この殺されたコの写真、見て」
「うわっ、あのコそっくり!……って、あれから3ヶ月以上も経ってるのに!?」
「劇場に誰もいない理由は分からないけど、どうやらあのコを成仏させないと劇場から出られないみたい」
「えっ!?」
「さっき外に出るドア全部調べてみたけど、開かなくなってた」
「はあ!?」
「それだけじゃない。魔の者に殺されたコが幽霊としてここにいるということは、魔の者自体が……」
ドーン!
「!?」
ステージの方から何かの衝撃音が聞こえてきた。
「私のステージの邪魔をするんじゃないよ……小娘が……!」
「きゃあああっ!!」
ピアノの上には、まるで宝塚の役者(ベルバラみたい)のような出で立ちをした者がいた。
どうやら、天井から飛び下りて来たらしい。
手には西洋の剣を持っている。
それで少女の幽霊を突き刺した。
少女は叫び声を上げて消えた。
「な、何だあれは!?」
ユタがびっくりした顔をすると、舞台女優のような者はユタ達を見た。
「若い女……殺してやる……!」
「に、逃げましょう、マリアさん!何かヤバそうだ!」
ユタはマリアの手を引いて、ホールの外に飛び出した。
「逃がさなぁぁい……!」
「追って来たぞ、ユウタ!」
「マジですか!?」
「迎撃する!手を放して!」
「ええっ!?」
マリアは手持ちの人形を床に置いた。
「あいつを倒して!」
ミカエラとクラリスが人間形態になって、女に立ち向かっていく。
だが!
「うるせぇ!」
女が剣を振るうと、ミカエラとクラリスはあっさりやられてしまい、また元の人形に戻ってしまった。
「マジっすか!?」
「……!!」
ユタは驚愕し、マリアも青い顔になる。
「も、もう1度……!」
マリアは人形を再度起動した。
ユタは廊下の突き当りにエレベーターを発見し、そのボタンを押した。
「マリアさん、一旦逃げましょう」
「くっ……!」
エレベーターのドアが開く。
ユタが先に乗り込んだ。
最上階は3階らしく、ユタは3階のボタンを押した。
「マリアさん、早く!」
「はーっ!」
「うわっ!」
女が剣を振るうと、暴風のような風が発生し、ユタはカゴ内の壁に叩き付けられ、マリアはエレベーター横の壁に叩き付けられた。
「マリアさ……!」
ユタが駆け寄ろうとした時、エレベーターのドアが閉まってしまった。
「な、何なんだ、あいつは!?」
3階に着いてエレベーターのドアが開く。
もう1度1階のボタンを押して、また元の場所に戻った。
「マリアさん……?」
エレベーターの横にいたはずのマリアがいなくなっていた。
あの女もいない。
人形だけが転がっていた。
ホールからまたピアノの音が響く。
だが、今度は同じ場所で止まらなかった。
何か……おかしい。
ユタがホールに入ると、
「オラ、いつまでもヘタなピアノ弾いてんじゃねぇよ。どうせオメェなんか罰で優勝できねぇんだ」
「うっうっ……うぇぇん……」
再び現れた少女の幽霊。
その後ろにあの女がいて、ピアノを弾いている少女の髪を掴んで引っ張ったり、後ろから蹴っ飛ばしたりしている。
「お、おい!やめろよ!」
ユタがステージに近づいた。
女がこっちを見るのと、ユタがふと気づくのは同時だった。
(待てよ。僕が触れなかったのに、どうしてあの女はそれができるんだ?)
「オトコは要らないよ。さっさと死ねっ!」
考えているヒマは無い。
女はヒラリと軽い身のこなしで、ステージから飛び下りた。
「くそっ!」
丸腰のユタは、またもや逃げ出す他は無かった。
ホールの外から廊下に出ても、追い掛けて来る。
もう1度あのエレベーターで避難しようと思ったが、間合いが詰められつつある。
ユタ自身、そんなに足が速いわけではないし、劇場のホールと繋がる廊下ということもあって、後ろに行く度上り坂になっているからだ。
「魔の者の為にはならないけど、オメェもうるせぇから死にな!」
「なにっ!?魔の者を知ってるのか!?」
ふと、ユタは廊下の隅に消火器を発見した。
それを取ると、ピンを抜いて……。
「だぁーっ!」
女に向けて噴射した。
「ぶっ!こ、このクソ野郎!……ゲホッ、ゲホッ!」
更に空になった消火器を投げつけた。
「今のうちに……!」
ユタはエレベーターのボタンを押して乗り込んだ。
すぐに3階のボタンを押してドアを閉める。
外から女がドアを叩き、何か喚く声が聞こえたが、エレベーターはお構いなしに3階へ上がっていった。
「何とかしないと……このままではヤバい」
エレベーターが3階へ着く。
100パー安心はできないが、どうやら女をまくことには成功したようなので、このフロアを探索することにした。
女のあの様子ではマリアを殺したとか、そういうわけではなさそうだった。
(だからきっと、マリアさんは無事だ)
ユタはエレベーターを降りて、3階廊下を歩いた。