報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「幽霊達の舞踏会」

2015-04-04 19:47:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月5日時刻不明 アルカディアシティ33番街・アルカディア劇場 稲生ユウタ]

 ユタがステージのあるホールに近づくと、ピアノの音色が変わった。
「ん?これは……ショパン辺りの……何だっけか?」
 ユタには分からなかったが、ショパン作“幻想即興曲”である。
 聴けばユタのように、聞いたことのあるピアノ曲だと分かるだろう。
「ピアノの演奏会会場はここかな?」
 ユタはホールへのドアを開けた。
「うん?」
 ステージの方を見ると、確かにそこはライトで照らされ、その上にはグランドピアノがあり、白いドレスを着た少女がピアノを弾いていた。
 少女といっても、小学生くらいの歳だろう。
 しかし客席には人っ子1人いない。
「これは一体……?」
 ユタはステージに近づきながら首を傾げた。
(あ、そうか。今、リハ中なんだぁ……にしても、やっぱりおかしいな)
 それにしたって、周囲にスタッフなどの関係者はいるだろう。
 それすらいないのだ。
「ん?」
 素人のユタでも分かるほどに、少女は1音間違えた。
「うっうっ……」
 少女は泣きそうな顔になると、もう1度弾き直した。
「うーむ……」
 ユタは最前列席に座って、しばらくその様子を見ていた。
 そして、あることに気づく。
 少女は同じ所ばかりを間違えるのだ。
 そして、また最初から弾き直す。
(スランプなのかな?)
 ユタは席を立って、また少女が同じ所で間違えた所を狙い、そこで手を叩いた。
「ちょっとキミ!差し出がましいけど、少し休憩した……ら?」
 聞こえないのか、ユタの呼び掛けに全く反応することなく、また弾き直す。
 ユタはステージの上に上がった。
「ちょっと、キミ!」
 ユタが少女の肩を叩こうとすると、その手がスルリと抜けた。
「えっ!?」
 少女は幻影だった?!
 まるで幽霊を掴もうとするかのように掴めないのだ!
「こ、これは……!?」
 すると、通路からのドアが開いた。
「ユウタ!」
「マリアさん!」
「早く、こっちに!」
「は、はい!」
 ユタはステージから客席に下りた。
「マリアさん、何かあのコ、変なんです」
「そうでしょうよ。あれは意識体だから」
「意識体?」
「まあ、幽霊みたいなものね」
「幽霊!?」
「元・仏教徒だったユウタには信じられないだろうけど……」
「そりゃもう!でも、何で幽霊が?」
「どうやら、“魔の者”に殺されたかららしいね」
「どうして分かるんです?」
「これ見て。ロビーにあったんだけど……」
 それは“アルカディア・タイムス”という地元の新聞だった。
 その記事に、
「『クリスマス・イブイブの悲劇。少女、レッスンの帰りに殺される』と、あるでしょう。この殺されたコの写真、見て」
「うわっ、あのコそっくり!……って、あれから3ヶ月以上も経ってるのに!?」
「劇場に誰もいない理由は分からないけど、どうやらあのコを成仏させないと劇場から出られないみたい」
「えっ!?」
「さっき外に出るドア全部調べてみたけど、開かなくなってた」
「はあ!?」
「それだけじゃない。魔の者に殺されたコが幽霊としてここにいるということは、魔の者自体が……」

 ドーン!

「!?」
 ステージの方から何かの衝撃音が聞こえてきた。
「私のステージの邪魔をするんじゃないよ……小娘が……!」
「きゃあああっ!!」
 ピアノの上には、まるで宝塚の役者(ベルバラみたい)のような出で立ちをした者がいた。
 どうやら、天井から飛び下りて来たらしい。
 手には西洋の剣を持っている。
 それで少女の幽霊を突き刺した。
 少女は叫び声を上げて消えた。
「な、何だあれは!?」
 ユタがびっくりした顔をすると、舞台女優のような者はユタ達を見た。
「若い女……殺してやる……!」
「に、逃げましょう、マリアさん!何かヤバそうだ!」
 ユタはマリアの手を引いて、ホールの外に飛び出した。
「逃がさなぁぁい……!」
「追って来たぞ、ユウタ!」
「マジですか!?」
「迎撃する!手を放して!」
「ええっ!?」
 マリアは手持ちの人形を床に置いた。
「あいつを倒して!」
 ミカエラとクラリスが人間形態になって、女に立ち向かっていく。
 だが!
「うるせぇ!」
 女が剣を振るうと、ミカエラとクラリスはあっさりやられてしまい、また元の人形に戻ってしまった。
「マジっすか!?」
「……!!」
 ユタは驚愕し、マリアも青い顔になる。
「も、もう1度……!」
 マリアは人形を再度起動した。
 ユタは廊下の突き当りにエレベーターを発見し、そのボタンを押した。
「マリアさん、一旦逃げましょう」
「くっ……!」
 エレベーターのドアが開く。
 ユタが先に乗り込んだ。
 最上階は3階らしく、ユタは3階のボタンを押した。
「マリアさん、早く!」
「はーっ!」
「うわっ!」
 女が剣を振るうと、暴風のような風が発生し、ユタはカゴ内の壁に叩き付けられ、マリアはエレベーター横の壁に叩き付けられた。
「マリアさ……!」
 ユタが駆け寄ろうとした時、エレベーターのドアが閉まってしまった。
「な、何なんだ、あいつは!?」

 3階に着いてエレベーターのドアが開く。
 もう1度1階のボタンを押して、また元の場所に戻った。
「マリアさん……?」
 エレベーターの横にいたはずのマリアがいなくなっていた。
 あの女もいない。
 人形だけが転がっていた。
 ホールからまたピアノの音が響く。
 だが、今度は同じ場所で止まらなかった。
 何か……おかしい。
 ユタがホールに入ると、
「オラ、いつまでもヘタなピアノ弾いてんじゃねぇよ。どうせオメェなんか罰で優勝できねぇんだ」
「うっうっ……うぇぇん……」
 再び現れた少女の幽霊。
 その後ろにあの女がいて、ピアノを弾いている少女の髪を掴んで引っ張ったり、後ろから蹴っ飛ばしたりしている。
「お、おい!やめろよ!」
 ユタがステージに近づいた。
 女がこっちを見るのと、ユタがふと気づくのは同時だった。
(待てよ。僕が触れなかったのに、どうしてあの女はそれができるんだ?)
「オトコは要らないよ。さっさと死ねっ!」
 考えているヒマは無い。
 女はヒラリと軽い身のこなしで、ステージから飛び下りた。
「くそっ!」
 丸腰のユタは、またもや逃げ出す他は無かった。
 ホールの外から廊下に出ても、追い掛けて来る。
 もう1度あのエレベーターで避難しようと思ったが、間合いが詰められつつある。
 ユタ自身、そんなに足が速いわけではないし、劇場のホールと繋がる廊下ということもあって、後ろに行く度上り坂になっているからだ。
「魔の者の為にはならないけど、オメェもうるせぇから死にな!」
「なにっ!?魔の者を知ってるのか!?」
 ふと、ユタは廊下の隅に消火器を発見した。
 それを取ると、ピンを抜いて……。
「だぁーっ!」
 女に向けて噴射した。
「ぶっ!こ、このクソ野郎!……ゲホッ、ゲホッ!」
 更に空になった消火器を投げつけた。
「今のうちに……!」
 ユタはエレベーターのボタンを押して乗り込んだ。
 すぐに3階のボタンを押してドアを閉める。
 外から女がドアを叩き、何か喚く声が聞こえたが、エレベーターはお構いなしに3階へ上がっていった。
「何とかしないと……このままではヤバい」

 エレベーターが3階へ着く。
 100パー安心はできないが、どうやら女をまくことには成功したようなので、このフロアを探索することにした。
 女のあの様子ではマリアを殺したとか、そういうわけではなさそうだった。
(だからきっと、マリアさんは無事だ)
 ユタはエレベーターを降りて、3階廊下を歩いた。
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“大魔道師の弟子” 「魔の者とは?」

2015-04-04 13:02:54 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月5日13:00.アルカディアシティ郊外の宿屋2F・129号室 マリアンナ・スカーレット]

 ベッドの上に横たわり、寝落ちしかけたマリア。
 いや、もしかすると、寝落ちしたのか?
 よく分からないが、ある音で一気に眠気が吹き飛んだ。
 空間の中から、ピアノ曲が流れて来たのである。
「なに!?」
 この宿屋に放送設備などあろうはずがない。
 エルフェゴールが話し掛けてきたのと同じように、頭の中に響いて来ているという感じだった。
「遠い異国からー♪わたしを呼ぶ声こだまする♪」
「ミカエラ!?」
 手持ちのミク人形が人形形態ながら、その曲に合わせて歌い出した。
「わたしも応えて行こう♪空へー♪」
「ミカエラ、このピアノはどこから聞こえてくるの?」
 宿屋内にピアノは無かったはずだ。
「! ユウタ!?」
 宿屋内を探索中のユタが何かしたのだろうか。
 マリアはユタに電話を掛けた。
 が、繋がらなかった。
 よく見ると、圏外になっている。
 さっきはバリバリにアンテナが立っていて、すぐ繋がったのに……。
「これは一体……」
 マリアは部屋の外に出た。
 部屋の外に出ても、ピアノ曲は続いている。
 1曲が終わると、すぐ次の曲が流れる。
 ミカエラは歌を知っているようで、そのピアノ曲に合わせた歌を歌っていた。
「月のうさぎが跳ねて♪もちはつかないけれど♪転んで尻もちをつく♪」
 マリアは階段を駆け下りて、ユタを捜し出そうとした。

[同日同時刻? アルカディアシティのどこか? 稲生ユウタ]

「何だここは?」
 ユタは宿屋の外にいた。
 ただ単に外に出たわけではない。
 全く違う場所というべきか。
 マリアから渡された鍵は、地下1階へ下りる階段室のドアの鍵だった。
 それで地下1階に下りてみると、ただの空間があり、その床には魔法陣が描かれていた。
 それだけだったので、取りあえずマリアの所へ戻ろうとした時、階段で滑って転んだ。
 別にケガはしなかったが、持っていた魔法瓶を落としてしまい、中に入っていた水が魔法陣の上にぶちまける形となった。
 すると魔法陣が光り、ユタはその中に取り込まれてしまったのである。
 ……で、気がついたら、全く別の場所にいた。
 街中のようだから、多分アルカディアシティのどこかに瞬間移動でもしてしまったのかもしれない。
 人けは無いが、辺りは夜のようだ。
 全く意味が分からない。
 それに、さっきからピアノの音が聞こえる。
「あれ?あの曲は……何だっけか?どこかで聴いたことあるなぁ……」
 ユタは取りあえず、ピアノの音色がする方に歩いていった。
(どこか、地下鉄の駅とか市電の電停とかは無いかな?もし町のどこかに飛ばされてしまったんだとしたら、それで帰れるかもしれない)
 少し広い通りに出てみる。
 思惑通り、そこには路面電車の軌道があり、電停もあった。
 電停の名前を見ると、『33St.21Ave.』と書かれている。
(つまり、33番街の21丁目ということかな?……かな?)
 もしそうだとしても、やっぱり意味が分からない。
(札幌市の北◯◯条××丁目みたいなものだろうけど、あれもよく分からないからなぁ……)
 そうしているうちに電車がやってきた。
 車両はヨーロッパ風なので、ヨーロッパのどこかの国で走っていたものだろうか。
 フロントガラスの下には、大きく3aと書かれている。
 3系統の派生ということか。
 しかし、行き先は書いていない。
(適当に乗っていいんだろうか)
 運賃は安く、多分日本円にして100円にも満たないだろう。
(地下鉄か高架鉄道のどこかの駅には行くだろうから、これで……)
 因みに魔界高速電鉄では、高架鉄道も地下鉄も市電も全て運賃均一性。
 但し、市電より地下鉄や高架線の方が高い。
 ユタが乗り込むと、電車が走り出した。
 何故か他に乗客はいない。
 途中で別の電車とすれ違う。
 違和感があるのは、軌道線は右側通行だから。
 日本では道路や鉄道と同じ左側通行なので、それに慣れていると戸惑う。
 ユタが乗っているのは1両単行の電車だったが、すれ違った電車は2台連結されていた。
 市電は基本的にワンマン運転だが、2台連結する場合にはもう1台にも乗務員が乗る(恐らく運賃収受のため)と聞いたことがある。
「?」
 ピアノの音が随分と大きく鳴った。
 奏でているピアノに近づいているのだろうか?
 外は雨が降り出したらしく、フロントガラスのワイパーが動いているのが見える。
 魔界で降る雨もまた酸性雨だったりするのだろうか。
 電車が十字路に差し掛かる。
 左右の道路にも軌道が引かれている。
 見たところ、信号機のようなものは見当たらないが、電車はそのまま交差点内に侵入した。
 反対側から、9と書かれた別の電車がやってくる。
 9系統の電車は右折の軌道に入り……。
「ええっ!?」
 3a系統の電車と衝突した。
「うわっ!?」
 あまりの衝撃に、座席から投げ出される。
 どうやら、脱線したようだ。
 脱線した電車はどこかの建物にぶつかって止まった。
「ひぃぃ……!」
 ユタは慌てて半開きになったドアから歩道側に出た。
 不思議なことに、あれだけの大事故にも関わらず、ケガはしていない。
 脱線した電車が道を塞いでしまい、閉じ込められてしまった。
 これだけの騒ぎなのに、どうして誰も集まらないのだろうか。
「しょうがない!」
 ユタは近くの建物に入った。

 どういうわけだか、ピアノの音はそこから聞こえた。

[ユタの行動から30分後 同じ場所 マリアンナ・スカーレット]

「あの魔法陣は師匠が描いたもの。どうやら、私達にここを探索しろというらしい」
 ユタが入った建物とは同じ建物だったが、マリアが入った入口は違った。
 マリアの入った方が正面入口らしい。
 ドアの上には、『アルカディア・シアター』と書かれていた。
 つまり、劇場だ。
 ピアノの音色が、ここから聞こえてくる。
「ピアノのコンサートでもあるのか?」
 マリアは訝し気な顔をしながら、劇場の中に入って行った。

 劇場の外は人の気配が無かったが、中も人の気配は無く、ただピアノが流れているだけだった。
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“大魔道師の弟子” 「逸材の苦労」

2015-04-04 10:10:39 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月5日12:30.アルカディアシティ郊外の宿屋2F マリアンナ・スカーレット]

 ユタとエントランスホールで別れたマリアは、師匠の部屋の鍵を手に2階へ向かった。
 階段の下でユタがこちらに視線を向けているようだったので、一喝して注意したが。
「えーと……ここだ」
 2階にあるにも関わらず、129号室と書かれたドア。
 恐らく、1階の部屋からそのまま通し番号で付けているのだろう。
 古めかしい鍵を差し込んでドアを開けると、当然そこには誰もいなかった。
 しかし、誰かが(といっても師匠イリーナしかいないが)最近まで使用していた跡がある。
 机の上には、紫色の絹が被せられた台の上に水晶球が置いてあった。
 手を翳してみたが、何の反応も無い。
「ここに……手掛かりがあるのだろうか?」
 まあ、あることはあった。
 机の上にはイリーナと同期の姉弟子ポーリンとその直弟子、エレーナとが写った写真が立ててあった。
 当然、イリーナの前には自分が写っている。
 中央に凛として構えるが、しかしフードを目深に被っている為に顔は見えない大師匠の姿もあった。
 これは自分が弟子入りして間もない頃に撮った写真だ。
 イリーナや大師匠の呼び掛けで顔合わせをした際に撮ったもの。
 同じ写真はマリアも持っている。これはいい。
 問題はその隣の写真だった。
「これは……!?」
 それは自分の人間時代だった頃の写真。
 今から10年くらい前の写真で、両親と祖父と一緒に撮った写真だ。
「何で師匠がこれを……?」
 この他、机の上に置いてあった本を開いてみた。
 七つの大罪の悪魔についての本で、これはマリアも聞いているので問題は無い。
 クロック・ワーカーの素質のある魔道師は、七つの大罪の悪魔の1つと契約して力を得る。
 マリアも不祥事を起こして見習に降格させられる前までは、“怠惰の悪魔”ベルフェゴールと契約していた。
 イリーナは“嫉妬の悪魔”と契約しているし、ポーリンは“傲慢の悪魔”、エレーナは今後“強欲の悪魔”との契約が内定しているし、ユタは“色欲の悪魔”という話がある。
 マリアは再び“怠惰の悪魔”になるだろうと……。
 もう1つの本は、それとはまた違った“魔の者”と呼ばれる存在の伝承について。
 確かに先述した七つの大罪の悪魔達も、魔道師と契約する分にはいいのだが、普通の人間と契約すれば、その血や魂を啜る為におぞましい事件を契約先の人間に引き起こせるという。
 これはマリア自身が体験していたから分かる。
 もう一冊の本は七つの大罪の悪魔達も関知しない、また別の“魔の者”と呼ばれる存在についてだ。
 こちらは悪魔の方から契約を甘い言葉で持ち掛けるのではなく、これといった目星のついた人間に憑依して、やはり残虐な事件を引き起こさせるというもの。
 魔道師の一部は、そういった“魔の者”と戦っていたことがあるという。
(私には関係無い話だ……)
 と思ったマリアだったが、
「懐かしいな。あいつら、まだ活動していたんだな」
「誰!?」
 空間のどこから声だけが聞こえた。
「オレだよ、オレ。忘れたのか?……おっと!オレオレ詐欺じゃないぞ」
「……ベルフェゴール」
 かつて契約していた“怠惰の悪魔”ベルフェゴールの声だった。
「何の用?まだ再契約なら決定していないよ?」
「内定しているのならそれでいい。それより、その“魔の者”についてだ」
「何か知ってるの?」
「自分は無関係だと思わない方がいいぜ。そもそも何でオレが、人間だった頃のオマエの所にやってきたと思う?」
「……私が神に願いを掛けたところにアンタが来ただけでしょう?」
「へっ(冷笑)、分かってねーな。あそこでオレが来なけりゃオマエ、“魔の者”に取り憑かれてたぜ」
「どういうこと!?」
「“魔の者”はただ闇雲に人間を殺すだけだが、オレはちゃんとした復讐劇に仕立ててやったぜ。感謝するんだな」
「はぐらかさないで!何で“魔の者”が私を!?」
「20歳過ぎりゃ、それで終わりってわけじゃねーんだよ。逸材さん?」
「は?」
「15歳から25歳の間が勝負だったんだ。今が最終年だってことさ、オマエはな。25歳の誕生日が来るまで、逃げるも戦うもオマエ次第だ。……でもよ、今ここでオレと契約すれば、“魔の者”どもなんぞ、かる〜く、全員地獄に送ってやるぜ?あ?」
「帰れ!!」
 マリアは魔道師の杖を空間に向かって振るった。
「おっと!……じゃあ、そういうことだから、気が変わったら、いつでも呼んでくれ。ははははは……(笑)」
 やっと悪魔の気配が消えた。
「ちくしょうっ!」
 マリアはドンッと机を拳で叩いた。
「私は悪魔の駆け引きの道具じゃない!」
 マリアが強く机を叩いたものだから、その衝撃で横のチェストが開いた。
「……ん?」
 そのチェストの中に、鍵が入っていた。
「何の鍵だ???」
 机の引き出しにも鍵があるが、それにしては鍵が大きいし、そもそも引き出しに鍵が掛かっていない。
 この鍵を使いそうな鍵穴は、少なくともこの部屋のどこかには無かった。
(私は……“魔の者”に狙われていた。ベルフェゴールの話が本当なら、15歳から25歳の間まで狙われる……ということか。18歳でベルフェゴールと契約した私は……その後、師匠から剥奪されるまではベルフェゴールが“魔の者”から守ってくれていたということ?)
 では最初の3年間は……?
 そもそも15歳ピッタリになってから、急に狙われるものなのだろうか。
 七つの大罪の悪魔のような高級な者なら、意外とそれにこだわることがある。
 しかし、ベルフェゴールの話しぶりからして、どうやら“魔の者”とは、そんなに高貴な存在でもないようだ。
 そういう奴らは協定なんかどこ吹く風だ。
 だから契約ではなく、憑依という形を取るのだろう。
「まあいいや。とにかく、鍵を見つけたことだし……」
 マリアはベッドの上に上半身だけ寝かして、自分のケータイを取った。
 どういうわけだか、電波が入る。
「……ユウタ、今どこ?……変な人?……そうか。……分からない」
 どうやらユタも、悪魔か何かの存在と接触したのだろうか。
 今のところ、ユタを狙っているような素振りは無かった。
 それまでは妖狐と盟約していたから、それでまだ様子見しているだけかもしれないが。
「……でも、鍵を見つけたわ。どこかで使えるかも」
 ユタを2階に呼んだマリアは起き上がって、階段の所まで向かった。

[同日13:00.宿屋1F 稲生ユウタ]

(マリアさん、疲れてる感じだったな。まあ、無理もない。昨夜あんまり寝てなかったし……。ここは僕がしっかり手掛かりを探してこないと)
 ユタは鍵を手に、1階を再び探索することにした。

 悪魔との戦いが始まろうしている……。
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