[ユタとはぐれてから幾ばくかもしない間 アルカディアシティ劇場のどこか マリアンナ・スカーレット]
「う……」
マリアはふと気がついた。
目が覚めると、長椅子の上に寝かされていた。
「ここは……?」
起き上がろうとした時、顔を覗き込む者がいた。
それは……。
「クラリス?」
手持ちの人形の1人、クラリスだった。
人間形態をしているが、マリアの意識が回復したのを確認すると、また元の人形形態に戻った。
(そうか。私をここまで運んで来てくれたのか……)
それにしても、ここはどこだろう?
薄暗い部屋で、長椅子以外にも色々な備品が置かれている。
備品倉庫か何かだろうか?
入口のドアまで行って、そっと外の様子を伺ってみた。
誰もいない。
しかも、微かに例のピアノの音が聞こえる。
廊下に出てみた。
ホール脇の廊下を歩く。
エレベーターのある所で、ミカエラ(ミク人形)を回収した。
「あとはユウタ君だけど……」
エレベーターを見たが、何故かエレベーターは止まっていた。
故障したのだろうか。
「しょうがない。階段は……」
ホール周囲の廊下をぐるっと回って、エレベーターとは反対側の部分に階段があった。
「???」
だが、上の階への階段は防火シャッターが閉められていた。
地下に行くしかなかった。
「うーん……」
マリアは地下1階への階段を下りて行った。
地下だからといって、真っ暗というわけではない。
ちゃんと明かりは点いていた。
地下1階は閉鎖されているものの、レストランや売店などがあった。
しかし、人の気配は無い。
一体皆、どこへ行ったというのだろうか。
誰もいないレストランや売店を過ぎると、1番奥の部屋に人の気配を感じた。
(誰かいる……?)
ドアには『警備室』と書かれていた。
すると中から、
「鍵は掛かっておらんよ。入ってきなさい」
という声がした。
「!」
マリアは初老の男性の柔らかな口調を聞いて、ドアを開けた。
中にいたのは警備服を着た、白髪が目立つ年配の警備員が1人。
60代であることは間違い無いだろう。
黒いブレザー型の警備服に白い帯革(たいかく)、えんじ色のネクタイが目についた。
「おっと、入ったら戸締りを頼むよ?あいつはドアの開け閉めもできるからな」
「あいつ?」
マリアは言われた通り、内鍵を閉めた。
「お嬢ちゃんも会っただろう?この劇場を我が物顔で徘徊するオバケを……」
(お嬢ちゃん?私、もうすぐ25なんだけどなぁ……)
人形みたいだと言われることはあるが、そうなると、年配者からは実年齢より下に見られるのだろうか。
「あの、剣を持った舞台女優みたいなヤツ?それとも、ピアノ弾きの少女?」
「ふふふ……。前者だよ。あれはこの劇場の専属女優、芸名は『パーラー茜』または『ビューティー・イザベラ』、本名はタマミ・アカネ・ハギワラといったか」
「パーラー?ビューティー?何か、古い美容室の名前みたい」
マリアは苦笑いになった。
警備員も一緒に笑って、
「そういうお嬢ちゃんは、どうしてここへ?」
「あのね、ガードマンさん。私はもうすぐ25なの。私の名前はマリアンナ・スカーレットっていう、こう見えても魔道師なんだから」
「おお、そうだったか。これは失礼。マリアンナさん。私はこの劇場で40年間警備員を勤めるケネス及川だ。もっとも、今月で嘱託期間も切れるところだったんだけどな……」
「それより、この劇場で何が起きてるの?」
「うむ……。全てはあの女優……私はミス・アカネと呼んでいたが、彼女が非業の死を遂げてからだった」
「非業の死?」
「いいか?彼女の剣に触れてはいかん。存在が消えてしまうぞ」
「ってか、あの女、死んでたの!?」
「ああ。今となっては意識体だけが怨念を持って彷徨う、怨霊だよ」
「……!それで、及川さんはどうしてここへ?」
「ここに立て籠もって救助を待っておったんだが、どうやらアカネのヤツ、やりおったみたいだな」
「……確かに、この劇場は結界が貼られてる。私達、魔道師みたいな魔力を持った者しかダメみたいだ」
「どうやらこの劇場で生き残ったのは、私だけみたいだ。何とかこの出来事を外部に知らせたいんだが……」
「あの女を倒さないとダメみたいだな。何とかする。だがその前に、私の連れがこの劇場にいるはずなんだ」
「……それは、20代前半の青年のことかな?」
「そう!まず彼が無事がどうか確認しないと……」
「どうやら無事のようだ」
「どうして分かるの?」
「これを見なさい」
及川が指さした所には、所狭しとモニタが並んでいた。
「これは劇場の内部を映したカメラの映像だ」
「こんなものが……」
「あれを見なさい」
及川が指さした所は3階の映像で、そこを歩くユタの姿があった。
「ユウタ!」
及川が映像のスイッチを操作する。
すると中央の大きなモニタに、その3階の映像が大きく映し出された。
「あっ!?」
ユタはあの女……アカネに追われていた。
だが死角に入り込み、カーテンの裏に隠れる。
アカネは恨めしい顔をしながら辺りを見渡しつつ、やはり恐らくは恨めしそうな言葉を吐いたと思われるが、その状態で画面から消えた。
「どうやらヤツは、完全な幽霊ではないらしい」
「どういうこと?」
「ほら、幽霊とかならよくあるだろう?壁をすり抜けたりとか……。あの女はあまりにも怨念が強過ぎるせいなのか、行動が生前の……人間のままとよく似ているのだよ。だから、ドアも普通に開け閉めして出入りする。幽霊なら、そんなことしなくても良さそうなものだがな。この前もこの地下に下りて来そうだったので、シャッターをここで閉めてやって妨害してやったよ」
「へえ……。色んなことができるんだね」
「警備室だからな」
「! それなら……」
「ん?」
「エレベーターを動かすことはできる?さっきエレベーターで3階へ行こうとしたら、止まってたの」
「おお、そうか。お嬢……いや、マリアンナさんがアカネと鉢合わせそうになったのでな、ここで停止させたよ」
「やっぱり!私も3階へ行く。エレベーターを起動させて」
「分かった。だが、無理はするなよ。……この劇場のことなら、私が1番詳しい。私にできることがあったら、いつでも連絡してくれ。外線は繋がらないが、内線は使える。この劇場、至る所に内線電話があるから、それで連絡してくれ。番号は……」
「分かった。ついでに電子ロックがあったら、それも開けといて」
「そうだな。まずは支配人室に行くといい。実は、支配人だけがヤツにやられた形跡が無いのだ。もしかしたら、支配人室に立て籠もっているかもしれん」
「分かった。ありがとう」
マリアは警備室を後にした。
そして、及川によって再起動されたエレベーターに向かった。
「う……」
マリアはふと気がついた。
目が覚めると、長椅子の上に寝かされていた。
「ここは……?」
起き上がろうとした時、顔を覗き込む者がいた。
それは……。
「クラリス?」
手持ちの人形の1人、クラリスだった。
人間形態をしているが、マリアの意識が回復したのを確認すると、また元の人形形態に戻った。
(そうか。私をここまで運んで来てくれたのか……)
それにしても、ここはどこだろう?
薄暗い部屋で、長椅子以外にも色々な備品が置かれている。
備品倉庫か何かだろうか?
入口のドアまで行って、そっと外の様子を伺ってみた。
誰もいない。
しかも、微かに例のピアノの音が聞こえる。
廊下に出てみた。
ホール脇の廊下を歩く。
エレベーターのある所で、ミカエラ(ミク人形)を回収した。
「あとはユウタ君だけど……」
エレベーターを見たが、何故かエレベーターは止まっていた。
故障したのだろうか。
「しょうがない。階段は……」
ホール周囲の廊下をぐるっと回って、エレベーターとは反対側の部分に階段があった。
「???」
だが、上の階への階段は防火シャッターが閉められていた。
地下に行くしかなかった。
「うーん……」
マリアは地下1階への階段を下りて行った。
地下だからといって、真っ暗というわけではない。
ちゃんと明かりは点いていた。
地下1階は閉鎖されているものの、レストランや売店などがあった。
しかし、人の気配は無い。
一体皆、どこへ行ったというのだろうか。
誰もいないレストランや売店を過ぎると、1番奥の部屋に人の気配を感じた。
(誰かいる……?)
ドアには『警備室』と書かれていた。
すると中から、
「鍵は掛かっておらんよ。入ってきなさい」
という声がした。
「!」
マリアは初老の男性の柔らかな口調を聞いて、ドアを開けた。
中にいたのは警備服を着た、白髪が目立つ年配の警備員が1人。
60代であることは間違い無いだろう。
黒いブレザー型の警備服に白い帯革(たいかく)、えんじ色のネクタイが目についた。
「おっと、入ったら戸締りを頼むよ?あいつはドアの開け閉めもできるからな」
「あいつ?」
マリアは言われた通り、内鍵を閉めた。
「お嬢ちゃんも会っただろう?この劇場を我が物顔で徘徊するオバケを……」
(お嬢ちゃん?私、もうすぐ25なんだけどなぁ……)
人形みたいだと言われることはあるが、そうなると、年配者からは実年齢より下に見られるのだろうか。
「あの、剣を持った舞台女優みたいなヤツ?それとも、ピアノ弾きの少女?」
「ふふふ……。前者だよ。あれはこの劇場の専属女優、芸名は『パーラー茜』または『ビューティー・イザベラ』、本名はタマミ・アカネ・ハギワラといったか」
「パーラー?ビューティー?何か、古い美容室の名前みたい」
マリアは苦笑いになった。
警備員も一緒に笑って、
「そういうお嬢ちゃんは、どうしてここへ?」
「あのね、ガードマンさん。私はもうすぐ25なの。私の名前はマリアンナ・スカーレットっていう、こう見えても魔道師なんだから」
「おお、そうだったか。これは失礼。マリアンナさん。私はこの劇場で40年間警備員を勤めるケネス及川だ。もっとも、今月で嘱託期間も切れるところだったんだけどな……」
「それより、この劇場で何が起きてるの?」
「うむ……。全てはあの女優……私はミス・アカネと呼んでいたが、彼女が非業の死を遂げてからだった」
「非業の死?」
「いいか?彼女の剣に触れてはいかん。存在が消えてしまうぞ」
「ってか、あの女、死んでたの!?」
「ああ。今となっては意識体だけが怨念を持って彷徨う、怨霊だよ」
「……!それで、及川さんはどうしてここへ?」
「ここに立て籠もって救助を待っておったんだが、どうやらアカネのヤツ、やりおったみたいだな」
「……確かに、この劇場は結界が貼られてる。私達、魔道師みたいな魔力を持った者しかダメみたいだ」
「どうやらこの劇場で生き残ったのは、私だけみたいだ。何とかこの出来事を外部に知らせたいんだが……」
「あの女を倒さないとダメみたいだな。何とかする。だがその前に、私の連れがこの劇場にいるはずなんだ」
「……それは、20代前半の青年のことかな?」
「そう!まず彼が無事がどうか確認しないと……」
「どうやら無事のようだ」
「どうして分かるの?」
「これを見なさい」
及川が指さした所には、所狭しとモニタが並んでいた。
「これは劇場の内部を映したカメラの映像だ」
「こんなものが……」
「あれを見なさい」
及川が指さした所は3階の映像で、そこを歩くユタの姿があった。
「ユウタ!」
及川が映像のスイッチを操作する。
すると中央の大きなモニタに、その3階の映像が大きく映し出された。
「あっ!?」
ユタはあの女……アカネに追われていた。
だが死角に入り込み、カーテンの裏に隠れる。
アカネは恨めしい顔をしながら辺りを見渡しつつ、やはり恐らくは恨めしそうな言葉を吐いたと思われるが、その状態で画面から消えた。
「どうやらヤツは、完全な幽霊ではないらしい」
「どういうこと?」
「ほら、幽霊とかならよくあるだろう?壁をすり抜けたりとか……。あの女はあまりにも怨念が強過ぎるせいなのか、行動が生前の……人間のままとよく似ているのだよ。だから、ドアも普通に開け閉めして出入りする。幽霊なら、そんなことしなくても良さそうなものだがな。この前もこの地下に下りて来そうだったので、シャッターをここで閉めてやって妨害してやったよ」
「へえ……。色んなことができるんだね」
「警備室だからな」
「! それなら……」
「ん?」
「エレベーターを動かすことはできる?さっきエレベーターで3階へ行こうとしたら、止まってたの」
「おお、そうか。お嬢……いや、マリアンナさんがアカネと鉢合わせそうになったのでな、ここで停止させたよ」
「やっぱり!私も3階へ行く。エレベーターを起動させて」
「分かった。だが、無理はするなよ。……この劇場のことなら、私が1番詳しい。私にできることがあったら、いつでも連絡してくれ。外線は繋がらないが、内線は使える。この劇場、至る所に内線電話があるから、それで連絡してくれ。番号は……」
「分かった。ついでに電子ロックがあったら、それも開けといて」
「そうだな。まずは支配人室に行くといい。実は、支配人だけがヤツにやられた形跡が無いのだ。もしかしたら、支配人室に立て籠もっているかもしれん」
「分かった。ありがとう」
マリアは警備室を後にした。
そして、及川によって再起動されたエレベーターに向かった。