報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「旭川滞在」 5

2015-04-28 19:33:34 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月22日07:00.天候:雨 旭川市内のビジネスホテル マリアンナ・スカーレット]

 25年間の人生が走馬灯のように駆け巡る夢。
 10代後半は地獄のような内容だったが。
 しかし最後に現れたのは、ユタの笑顔だった。
「……!」
 そこで目が覚めた。
「……?……?」
 マリアは今一瞬、自分がどこにいるかが分からなかった。
 頭と体が重い。
 やっとこさ重い頭を動かして右を見ると、そこには師匠のイリーナが寝ていた。
「……へへ……さすがにそれは食べれないよ……」
 何か、ご馳走をたらふく食べている夢を見ているようだ。
「くっ……は……!」
 マリアは重い体をよじらせて、何とか起き上がった。
 まるで地球の引力がメチャクチャになったかのような感覚が襲う。
 部屋が薄暗いのはカーテンが閉まっているからなのと、外の天気が悪いからだろう。
 時計を見ると、もう朝の7時を過ぎていた。
「師匠……朝ですよ……。起きてください……」
 マリアがボーッとする頭を抱えながら、イリーナを揺り動かした。
「……ご馳走いっぱい……お金もいっぱい……こんなに沢山……困っちゃう……」
 しかし、相変わらずヘラヘラした顔で寝言を言うイリーナにイラッと来たマリア。
「師匠!」
 イリーナの赤いセミロングの髪を引っ張った。
「いい加減起きろ!」 
「いででででっ!?……てことは、夢じゃ……なひ……」
「…………」
 マリアは目を開けているのに、まるで閉じているかのような闇に襲われ、再び自分が寝ていたベッドに倒れ込んだ。

[同日同時刻 ホテル最上階・大浴場 稲生ユウタ]

 最近のビジネスホテルには、温泉を引いて大浴場を設けている所が散見される。
 人工温泉でもってそういった施設を設けているホテルがある昨今、天然温泉を引いて、それを公式サイトなどでPRするホテルも見受けられるようになった。
 ユタは大浴場の湯船に浸かりながら、
(たまにはこういう朝風呂に浸るのもいいだろう。うちの魔道師さん達、意外と温泉好きだから、後で教えてあげよう)
 昨夜、イリーナにも教えてあげたかったのだが、ほろ酔い加減でホテルに戻ったこともあり、そんなヒマは無かった。
 それどころか、
『マリア、いい感じに寝てるよー?今のうちにヤッちゃえ、ヤッちゃえ(≧▽≦)! 夜這いプレイだお♪』
 などと焚き付ける始末。
 何故か一緒に盛り上がっていた“色欲の悪魔”アスモデウスがいたような気がするが、気のせいだったということにしておく。
『あなたは本当に師匠ですか!』
 と、ツッコんでおいたが。
「しっかし……」
 湯舟から窓越しに外が見えるのだが、今日も天気は悪いようだ。
(今日、マリアさんが目を覚ましたら、色々歩きたかったのになぁ……。残念だ)
 ユタは湯舟から出ると、軽くシャワーで流して、それから脱衣所に出た。
 昨日の夜だが藤谷からメールがあって、例の航空チケットをこのホテルに送ってくれたらしい。
 昨夜の今日だから、今日の午後にでも着くか。それとも、明日だろうか。

 朝風呂を楽しんだ後は、そのまま朝食会場に向かう。
 どうせイリーナもマリアも、まだ起きていないだろうからと……。

[同日09:00.ホテル12F ユタ&イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 自分の部屋に戻ろうとすると、そこでイリーナと会った。
「あっ、先生。おはようございます」
「うん、おはよ。……あのね、マリア起きたよ」
「えっ、本当ですか!?」
 ユタはパッと顔を明るくした。
「でもまだ具合が悪いみたい」
「やっぱり、魔力が回復していないと?」
「それもあるんだけど、普通に風邪とかそんな所かもね」
「ええっ?」
「熱もあるから、ちょっと薬を調達して来るわ。あの商店街に行けば、ドラッグストアくらいあるでしょ」
「それこそ、病院の方がいいんじゃないですか?」
「魔力が回復すれば、あのくらいの体調不良すぐに治るんだけどね。今からポーリンに頼んだんじゃ時間掛かるし、ふんだくられる結構高いから、ドラッグストアで売ってるヤツでいいと思うよ」
「魔力が回復する見込みはあるんですか?」
「うん。それこそ、あの聖水よ」
「聖水……?ああ!」
「もう目は覚めてるんだから、飲むこともできるでしょ」
「た、確かに……。だったら、僕が買ってきますよ」
「そう?じゃあ、お願いね」
「食事は……できそうに無いですか?」
「そうねぇ……。ユウタ君だったら、風邪引いて熱が出た時、何が食べたいかを考えて、それを買ってきてくれればいいと思う」
「なるほど!」
 ユタはイリーナからEdyを借りると、それを持ってエレベーターに乗り込んだ。
 しかしアメックスといい、Edyといい、一体イリーナは何枚のカードを持っているのだろうと思う。
 1つ言えることは、それのおかげで現金をあまり持ち歩いていないということだ。
 昨夜のジンギスカン鍋も、イリーナがカードで支払っていた。
「ん?先生?」
 イリーナも一緒にエレベーターに乗り込んだ。
「ああ。今日と明日は多分、私宛てに来訪者が何人か来ると思うの。マリアはあの調子だから部屋には入れないし、ロビーで待つことにするわ」
「そうなんですか」
「マリアは人形達が見てくれてるから大丈夫よ」
 魔力はイリーナがカンパした。
 それで人間形態になったミク人形とハク人形が、付きっ切りで看病することになった。
(……てことは、僕はまた部屋にすら入れてもらえない、か……)
 ユタは苦笑した。

 ロビーに下りてフロントに向かい、そこで近隣のドラッグストアーとスーパーの場所を聞いた。
 コンビニの場所は把握していたが、そこよりもスーパーの方がいいと思ったのだ。
 ついでに傘を借りて、ユタは何度目かの市街地に繰り出した。

 雨がざんざか降っているわけだから、さすがの北海道にも春が訪れたと見るべきだろう。
 気候だけなら、まるでアルカディアシティにいるかのような雰囲気だった。
 そういえばアルカディアシティも札幌や旭川のように、碁盤の目に街が作られている。
 そこを縦横無尽に路面電車が走り、地下鉄も走行している。
 まっすぐ走っていると思ったら、急なカーブを曲がったりしているのは碁盤の目を走る地下鉄ならではだった。
 昔はここも路面電車が走っていただろうに、今はその名前を冠しただけのバスが通りを走っている。

 この町を離れるまで、あと2日。
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“大魔道師の弟子” 「旭川滞在」 4

2015-04-28 15:19:44 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月21日19:00.天候:雨 旭川市内ビジネスホテル 稲生ユウタ]

 部屋のテレビで映画を見ているユタ。
 既にイリーナに頼まれた洗濯は終了していた。

〔「……今日の嵐は止んだ。だけど、明日は分からない」〕

 ヘリコプターで、戦いの終わった戦場から飛び去る主人公達。
 その後、色々とピンチに陥ったメインキャラクター達のその後が描かれた。
 多くは九死に一生を得ている。
 ハリウッド映画では、よくある話。
 その後、壮大な音楽と共にスタッフロールが流れた。
「ん?もう夕食の時間か。今日は何を食べようかなぁ……」
 ユタはテレビを切って、立ち上がった。
 相変わらず外は雨粒が窓を叩き付けている状態だ。
 傘は持っていないが、フロントに言えばビニール傘くらい貸してくれるだろう。
 マリアの屋敷にお世話になっていた頃は、それこそ人形達が食事を用意してくれていたし、実家にいた時は忙しい両親に代わって、カンジが食事を作っていた。
(まさかカンジ君が大師匠ダンテ先生の化身だったとはなぁ……)
 ユタは財布とケータイを持って、部屋の外に出た。
 もちろん、部屋のドアの横に差しているカードキーも忘れない。

「繁華街に行けば、何かしら店はあるだろうけど……」
 北海道でも有数の都市であるので、それは期待していいだろう。
 ユタは預かっていた洗濯物を持って、隣のイリーナ達の部屋に向かった。
「洗濯終わりましたー」
 因みに紙袋の中、1番上には人形達が横着して座っている。
「おー、ありがとう。マリアはまだ目が覚めてないの。夕食は私達だけで行きましょう」
「あ、はい」

[同日19:30.旭川市・市街地 ユタ&イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 案の定、フロントで傘を借りれた2人は市街地へ繰り出した。
 ユタは普通の私服だが、イリーナは魔道師のローブを羽織り、更にフードを被っている。
 弟子用のローブはユタ、マリア共に貸与されているのだが、ユタが着ることはあまり無い。
 入った店は市街地に位置するジンギスカン専門店。
 旭川界隈は味付け肉を使用するとのことだが……。
「今から食べちゃって大丈夫かねぇ……」
「え?」
「マリアが回復したら、マリアにも何か力の付くもの食べさせてあげたいじゃない?」
「ああ、そうか。ジンギスカンはその時の方が良かったですかねぇ……」
 ユタは失敗したという顔をした。
「まあ、いいさ。長野でも食べれるしね」
「そうですね」
 ジンギスカンは北海道のイメージがあったユタだが、長野に来て、特に長野市では盛んに食べられているのを知って意外に思ったものだ。
「じゃあ、まずは乾杯しましょうか。はい、カンパーイ」
「カンパーイ」
 ビールで乾杯する2人。
「せっかくですから、先生には今回の事件の真相について話してくれませんか?」
「いいよ。食べながら話そう。せっかくの食べ放題90分コースだしね」
「先生が“魔の者”について知ったのはいつ頃ですか?」
「それについては、かなり昔からよ。存在だけは魔道師達は全員知ってるから」
「藤谷班長が障魔と言っていましたが……」
「それと同じ類だね。生きている人間に取り憑いたり、生き霊を持ってきたりとやりたい放題だから。『普段おとなしい真面目な子』がいきなり凶悪事件を起こすのがいい例ね。ユウタ君がいた宗派では十界論とかで振り分けていたみたいだけど……」
「ええ。『普段おとなしい真面目な子』であっても、正法に帰依していなければ、悪道に堕ちてその道に走ってしまうということです。地獄界も悪道ですが、そこに行くと被害者になります。それ以外の三悪道に行くと加害者になるんですね」
「“魔の者”はねぇ、それだけでは済まさないわけよ。マリアが狙われたのと同じように、魔道師やその素質のある者の心臓や子宮を狙ってくる」
「今度は僕の番ですか……」
「大丈夫。2度と私もヘマしないよ」
「……ヘマしたんですか」
 ユタの指摘に、イリーナはばつの悪そうに笑った。
「いやー、まさか、飛行機ごと狙ってくるとは思わなくてさぁ……。私の予知能力も、ヤキが回ってきたかねぇ……」
 飛行機が行方不明になっている間、魔法で脱出を試みたイリーナだったが、既に飛行機ごと網に捕らわれている状態では無意味だった。
 セイカー(ヤノフ)に捕まって、石化されてしまった。
「でも、魔界の拠点では色々とヒントになるものがありました。あれも事態を見越してのことでしょ?」
「まあね。ユウタ君達があそこにやってくる夢を見て、ピンと来るものがあったわけよ」
「それで、その……。マリアさんがエルフェゴールと契約する時のことですが……」
「いやー、あれも書こうかどうか迷ったんだけど、毒食らわば皿までってヤツでね。あの手記にも書いたと思うけど、これからユウタ君はマリアと一緒に長い時間を過ごすことになるわけだから、いずれは分かることだと思ったから。どうせ分かることなら、もうこの際……ってね。一応、忌まわしい記憶は消してあるけど……。でも、あのコも予知能力が付いてくる一環で、夢で記憶が戻りそうな気がするんだよねぇ……。発狂まではしないと思うけど……」
「僕にできることなら何でもやりますよ」
「そうかい?悪いねぇ……。まあ、その時になってからだね。今、あれこれ考えてもしょうがないから」
「はあ……」
「私が捕えられてる間、何か変わったことは無かったかい?」
「変わったこと……。あの戦い自体が変わったことですけど……」
「あはははは……。まあ、そうか。マリアに変わったことは無かった?」
「うーん……。ああ、そうだ。あの宿屋にいた時、自分が妊娠したと思いこんでパニクッてましたね。ちょうど良く検査薬があったので、それでシロとはっきりしたからいいようなものの……」
「あー、そこで使ったのかー……」
「何か悪かったですか?」
「いや、これも予知したんだよね。何か、あそこで妊娠検査薬が必要な気がしてさぁ……。アタシゃもうこの体だから必要無いし、まさか、真面目なユウタ君がマリアを押し倒して……なんて予知もしてないし……」
「そんなことしません!」
「“色欲の悪魔”アスモデウスと契約したら、分かんないよー。あ、もちろん、マリアのエルフェゴールとの再契約と同時進行だけどね」
「何か、怖いな……」
「だーいじょうぶだって。魔道師は何かしら、使い魔を持ってるものだから。私達はその中でもエリートクラスを使うだけよ。……そこ!前祝は早いからねっ!」
 イリーナは振り返らずに、背後の席に座る2人の男女にツッコんだ。
 1人は黒ギャルと言っていい女性、もう1人は細面の顔にネクタイをしたサラリーマンといった感じだった。
 お互いに乾杯していたところ、イリーナにツッコまれた。
 で、消えた。
「!?」
「ユウタ君にはどう見えたか分からないけど、噂をすれば何とやらで、早速、アスモデウスとエルフェゴールが来てたみたいね」
「黒ギャルの方がアスモデウスですか?」
「……ユウタ君、意外とエロDVD観てる?」
「い、いえっ!と、とんでもない!ネットの動画しか見てませんよ!」
「……うん、健康でよろしい」

 とにかく、キリスト教界では名を轟かせている7つの大罪の悪魔達。
 これの1つとでも契約していれば、いくら別世界の悪魔たる“魔の者”であっても、そうおいそれと近寄っては来ないだろうとのことだ。
「そういうことなんで、なるべく早い再契約を!今ご契約頂いた方には最大割引、生贄には人間の魂1つのところ、動物の魂でもOKにします!」
「ウチはねぇ、このエルフェみたいに堕胎した赤ちゃんの魂なんかいらないからァ〜、契約者の白い血液?出せる分だけくれたらいいってカンジ?」
「……先に帰っていいよ、アンタ達」
 悪魔達のプレゼンテーションを一蹴するイリーナだった。
「ああっ、こら!何をする!?レヴィアタン!」
「マジ、チョームカつくんですけどォ!?自分はとっくに契約してるからって!」
 イリーナと契約中の“嫉妬の悪魔”レヴィアタンに首根っこ掴まれ、排除させられる契約待ちの悪魔達だった。
「いいんですか、先生?」
「契約したらこっちの物だから、あれくらいやっていいのよ。人間が契約ちゃったら悪魔の思う壺だけど、魔道師が契約したら、とことん使ってやるのが吉だからね。ユウタ君も、よく覚えておきなさい」
「は、はい……」
 最後に、悪魔に関わる個人指導を受けたユタ。

 外はいつの間にか雨が止んでいた。
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“大魔道師の弟子” 「旭川滞在」 3

2015-04-28 02:38:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月21日16:00.旭川市内ビジネスホテル 稲生ユウタ]

 藤谷を見送った後、ホテルに戻ったはいいが、そう都合良く魔道師達に会えることもなく……。
 やることがないので、部屋のテレビで映画を見ていた。

〔「……な、なぁ!ぼ、僕達、以前は仲良く付き合ってた仲だろ!?今でもまだキミの事が好きなんだ!だから……!」 パシン!(平手打ちされる音) 「ふざけ・ないで。あなた・みたいな・男、大嫌い!」 コッ!(元カノの妹から銃を頭に突き付けられる) 「そういうこと。エミリーはねぇ、“執事”のあんたに惚れたんであって、“テロリスト”のあんたには全く興味無いわけ。……覚悟しな、キール・ブルー」「や、やめ……やめろぉぉぉぉぉッ!」 スダーン!(ショットガン発砲!)〕

「うあ……。ところで、“新アンドロイドマスター(休止中)”ってどういう意味だ???」
 ギクッ!え、えっとぉ……。
「ちょっと、下でジュースでも買って来るか」
 ユタはテレビを切ると、財布とケータイを持って、部屋の外に出た。

 エレベーターを待っていると、同じフロアの部屋のドアが開く音がする。
 見ると、イリーナが紙袋を持って出て来る所だった。
「先生!」
「ん?おー、ユウタ君かー……」
「どうしたんです?てか、もう体の方は……」
「まあ、私は何とか歩けるようになったけどねぇ……。マリアの方は、明日以降って所かねぇ……。ま、私も本調子ってわけじゃないんだけどぉ……」
「ええっ?」

 ピンポーン♪
〔12階です。下に参ります〕

 取りあえず、エレベーターに乗る。
 エレベーターはユタ達だけ乗せて降下した。
「これから何を?」
「いや……。この前の戦いで、だいぶ服とか汚れたからねぇ……。手持ちの着替えも少ないし、ちょっと洗濯してこようかとね……」
「あー、そういえばロビーの奥にコインランドリーがありましたね」
「でしょー?特にマリア、下着も破られたりしたから、尚更だからねぇ……」
「洗濯でしたら、僕がやっておきますよ?」


 ピンポーン♪
〔1階です。上に参ります〕

「いや、いいよ。人形達も動けないし、私がやるよ」
「だったら尚更……!」
「ん?」
「こういう雑務をやるのも、弟子の仕事ですよ」
「……んー、まあ、私は気にならないからいいか。多分、マリアもユウタ君なら大丈夫でしょう」
「え?何がですか?」
「じゃあ、これね。よろしくね」
 ロビーでイリーナはユタに紙袋を渡した。
「えーと……ここの洗濯機は1回いくらかな?」
「いや、それぐらい僕が出しますから……」
「そうかい?悪いねー。じゃあ、頼んだよ?くれぐれも、おいたはダメよ?」
「え???」
 ユタは首を傾げて、イリーナが再びエレベーターに乗り込むのを見送った。

 で、ユタはコインランドリーの所で、イリーナの言ってた意味を知る。
「そ、そういうことか……」
 紙袋の上は普通の服が入っていたので気にならなかったが、その下には下着が入っていた。
「普通に洗濯機で洗っていいのかなぁ……?」
 イリーナの派手な下着については、意外と冷静。
「えー、洗剤はそこか……」
 大抵は洗剤も自販機で売っている。
「コインランドリーだと、“すすぎ一回”とか“お急ぎコース”とか無いからなぁ……」
 意外と袋の中はそんなに服とかは入っていなくて、むしろそれをかさばらせていたのは……。
「ん!?これも、洗濯機で洗っていいのか!?」
 ミク人形とハク人形のフランス人形達だった。
 戦いの時はマリアを守る為に、相当な苦労をしたようだが……。
「まあ、先生がいいってんなら……」
 ユタは人形2体を洗濯機に入れようとした。
「ん!?」
 すると今まで動かなかった2体が人形形態のまま動き出し、洗濯槽の淵にしがみついた。
「いや、ダメだよ。イリーナ先生が洗濯されろって……いてっ!」
 ユタがミク人形を引き剥がそうとすると、噛み付かれた。
 うー!とユタを睨みつける人形達。
「分かった分かった。じゃあ、キミ達は僕の部屋で手洗いにするよ」
 そう言うと、人形達はパッと明るい顔になった。
「えーと……洗濯が終わるのは38分後か……。まあ、そんなもんだろうな。またしばらくしてから来よう」
 ユタはジュースを買って、部屋に戻った。
 人形2体はユタの肩に乗ったり、腕に掴まったり……。

[同日17:00.同ホテル内 稲生ユウタ」

 人形を手洗いしようとしたユタだったが、人形達はそれを拒んだ。
 むしろ、バスタブに浅くお湯を溜めさせ、自分達で入るとジェスチャーで主張した。
「ふーん……。まあ、いいや。終わったら呼んで」
 ユタは映画の続きを見ていたが、だいたい時間を計っていたので、洗濯機が止まった頃を見計らってまた1階に下りた。
 そして今度は乾燥機に洗濯物を掛けて部屋に取って返すと、人形達が待ち構えていた。
「ん?」
 人形達は着せられていたメイド服は着ておらず、ハンドタオルをバスタオルのようにして体に巻き付けている。
 どうやら服も汚れていて、入浴ついでに自分達で洗ったらしい。
「乾くまで、その格好で?」
 と言うと、ミク人形が部屋のある備品を指差した。
 ライティングデスクの前にある鏡。
 その横にはドライヤーが掛けてある。
 クラリスが自分達が着ていた服を持ってきた。
「ああ、なるほど。ドライヤーで乾かせってか」
 ユタはドライヤーを取ると、それで人形達の服を乾かした。
 人形の作りも精巧だが、服も随分と手を込んで作っている。
 本物の衣装をそのまま小さくしたような感じだ。
 そこは“人形使い”であるマリアの拘りを感じざるを得ない部分である。
 メイド服だけでなく、その下の下着まで精巧なのだから。
 そこでふと、ユタは気づいた。
「あー……。イリーナさんだけじゃなく、僕も洗濯した方がいいかなぁ……」
 実はマリアの屋敷に来てからは、身の回りのことはこの人形達がやってくれていたので、あまり気にも留めていなかったのだ。
「もしかしたら明日、マリアさんが起きたら、また洗濯をするかもしれない。その時でいいか」
 頼まれた洗濯で、マリアのものはあまり無く、イリーナの服が殆どだった。

 窓の外を見ると日差しは無く、水滴がガラスに付着している。
 今日は天候も悪いので、ホテルから出ることは無さそうである。
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