報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「旭川滞在」 2

2015-04-26 19:43:03 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月21日12:30.旭川空港ターミナル 稲生ユウタ&藤谷春人]

 ターミナル内のラーメン店で旭川ラーメンを食べるユタ達。
「先生達の具合はどうなんだ?」
「イリーナ先生は起きて会話できるくらいなんですが、マリアさんが全く起きなくて……」
「大丈夫なのか?病院とか行かなくてもいいのか?」
「……と、イリーナ先生は言ってますけど……」
「ふーむ……。ああ、そうだ」
「?」
「いや、いきなり飯に付き合わせといて何だけど、先に航空チケット買っといた方が良かったよな?」
「あー……」
「でさ、さっき羽田って言ってたけど、勘違いしてたわ」
「えっ?」
「松本行きが満席だったから羽田行きに乗るとかじゃなくて、キャンセル待ちするって話だったよな?」
「そうです」
「で、その話なんだけど、さっき親父に聞いたら、うちの社員が24日に長野に行くみたいなんだ。千歳から」
「えっ?」
「長野に新しいテーマパーク作るってんで、その現地調査に行く為なんだけど、どうも怪しい事業だ。都内の仕事を取ったことだし、あまり地方に出張らず、そこで仕事することにしたよ」
「長野にテーマパーク?何でしょう?」
「バブルランドって言って、バブルを味わえなかった30代以下を対象にしたテーマパークだよ。『あのバブルよ、もう1度』『嗚呼!2度と来ないあのバブル』がコンセプトで、是非ともバブルの疑似体験をしてもらうっていう何とも怪しげなものだ」
「た、確かに……。普通にビックサイト辺りで数日間のイベントで済みそうな内容ですね」
「だろォ?大学出たばかりのコでさえそう思うんだ。さすがに藤谷組も、手を出すのはやめたよ。ちょうど都内の超高層ビル建設の仕事が入ったし、そっちに集中することにするよ」
 藤谷が出したのは東京都心に建てられるというビルのパンフレット。
 もうテナントを募集しているらしい。
「発注元が、あの超大手の地所会社なら安心ですね」
「そういうことだ。うちもようやく怪しい仕事ばっかりしてないで、大手振ってデカい仕事ができるようになったってわけだ。仏法の冥益だぜ」
「素晴らしいですね」
「そこで、稲生君にはもう1つ、俺に功徳の現象を出してもらう」
「勧誡ならしませんよー」
「違う違う。稲生君にとっても、いい話だ。さっきの長野の話を出したのは、現地調査に行くうちの社員4人が24日に千歳から松本へ飛行機で行くってものだったが、中止にしたってことだ。つまり、航空チケットが余ってるんだよ」
「あ……!」
「4人分ものキャンセル料が勿体ないから、稲生君達で欲しかったら譲るよ。もちろん名義変更は、こっちでやっとく」
「いいですねぇ!」
「そうだろそうだろ?俺もこれでキャンセル料は1人分だけで済むってことだ。功徳だぜー」
「よろしくお願いします」
 こういうことだったのかと、ユタは電話の内容を確信した。

[同日12:50.旭川空港→旭川市街地 ユタ&藤谷]

 帰りもまたバスに乗った。
 大柄な体の藤谷の隣に座ると、かなり窮屈だ。
 自分が同年代と比べ、比較的小柄な体型であることを感謝した。
 妖狐の威吹から、もっと肉を食べて体を大きくするよう言われた記憶がある。
「そういえば、威吹君は元気にしてるのか?この前、魔界に行ったそうだが、その時会わなかったのか?」
 通路側に座る藤谷が聞いて来た。
 体が大きいので、右足を通路に投げ出す形だ。
 帰りのバスは元から観光用として設計された車種を使用しているが、座席の間隔は大して変わらない。
 空港から市街地行きはほぼ満席だったので、2人もやむ無く窮屈に座っている次第だ。
「魔界には行ったんですけど、威吹に会うどころではなくて……」
「そうか」
「この前、手紙は来たんですけどね」
「ほお。確か、巫女さんと結婚したんだったな。名前は……何だったっけか?」
「さくらさんです。早く子供が欲しいと書いてました」
「狐の妖怪が人間の女とヤって、デキるのか?」
「確率は低いらしいですが、できるらしいですよ」
「ふーん……」
「あれ?そういえば班長は?雪女の……」
「ああ、いや!あいつはいいんだ!大石寺に連れて行けないから!」
「? 威吹もそうですよ。ギリギリ、バスターミナルまでは入れるくらいで」
「ま、まあな」
「栗原さん達はどうしてるんでしょう?」
「高校を卒業した後、実家とキノん家を往復してるみたいだ。キノが出世したもんだから、逆になかなか会えなくなったって言ってるよ」
「ありゃりゃ……。栗原さんは硬派だし、キノも一途キャラですから、お互い浮気の心配は無いでしょうが……」
「まあな。だが、キノはイケメンの癖に多少ヘンタイだろ?」
「ええ。おおかた、会えない間、寂しくないようにという理由で、栗原さんの使用済み下着でも要求しましたかね?」
「それならまだいい方だ」
 藤谷はしたり顔で頷いた。
「え?」
「ここじゃ言えないくらいのものを要求して、栗原さんに木刀で引っ叩かれたらしい」
(何を要求したんだ???)

[同日13:35.JR旭川駅 ユタ&藤谷]

 旭川駅前に到着するバス。
 やはりここで降りる乗客は多かった。
 藤谷はここで降りて、一旦電車で札幌に向かうという。
 見送りの為(電車を見たいというのもあったが)、ユタもここでバスを降りた。
 どうせホテルへはこの次のバス停が最寄り、つまりバス停1区間分の距離しか無く、歩いて行けるので問題無かった。
 藤谷は指定席特急券を買った。
「ここは役員らしく、グリーン車で行ってやろうかと思ったんだが、普通車しか無いみたいだなー、稲生君?」
 藤谷は笑いながら言った。
 もちろんそれが半分冗談であることを見抜いたユタは苦笑いしながら、
「“スーパーカムイ”にグリーン車は無いですねぇ……」
 と、答えた。
 その指定席料金だって、本州と比べると安い。
「あ……」
「ん?」
「飛行機だけじゃなくて、指定席も買っておこうかなぁ……」
「おー、それはいいかもな」
 藤谷は頷いた。
「交通費はセンセー持ちだろ?」
「多分……」
 藤谷は乗車券と特急券で、ユタは入場券を買って改札内に入った。

 高架化された旭川駅。
 ホームに上がると、既に電車は入線していた。
「785系ですね」
「それはいい電車なのかい?」
「“スーパーカムイ”として走っている電車の中で、古い方です。今のうちに乗り納めしたいですね」
「ふーん……」
 指定席車両は外から見れば、まるでグリーン車のようだ。
 札幌から先は新千歳空港行きの快速“エアポート”号になるようで、その旨も表示してあった。
「それじゃ、航空券はホテルに送っとくわ」
「はい。お金はイリーナ先生から送ってもらいます」
「ああ、頼む」

 藤谷を乗せた特急“スーパーカムイ”24号は、発車ベルや発車メロディの類も無く、放送と笛だけで発車していった。
 電車を見送った後、再び改札口に向かう。
 乗る電車こそ違えど、数日後にはユタ達も同じルートで藤谷の後を追うことになる。
 自動改札口を出て“みどりの窓口”へ向かおうとしたユタだったが、
(まあ……“スーパーカムイ”は全部旭川始発だからいいか)
 時刻表だけ見ると、さっきの藤谷が乗った新千歳空港直通の特急が他に何本も運転されている。
 それに乗れば、ここから新千歳空港まで乗り換え無しで行ける。
 まあ、札幌で進行方向が変わるのがネックであるが。
(取りあえず、ホテルに戻るか。もしかしたら、先生は起きてるかもしれない)
 ユタはそう考え、宿泊先のホテルに向かった。
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“大魔道師の弟子” 「旭川滞在」

2015-04-26 15:21:30 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月21日10:15.北海道旭川市 市街地のビジネスホテル 719号室 稲生ユウタ]

 コンコン。
 ……ガチャガチャ。
「うーん……」
 何だかドアの方から物音がする……。
「……って!?」
「あっ!」
 ユタはガバッと飛び起きた。
 ユタも驚いたが、清掃にやってきた中年の女性清掃員も驚いたことだろう。

 朝食を終えた後、どうせヒマなのと疲労が取れなかったので、一眠りしようと再びベッドの上に横になったのだった。
 チェックアウトの時間である10時過ぎに清掃が来ることは大方予想していて、その時に起きればいいだろうと思っていたのだが、深く眠ってしまうとは思わなかった。
「す、すいません!何も表示されていなかったものですから……!」
「い、いえ!僕も、つい居眠りしちゃって……。じゃあ、ちょっと出ています……」
 ユタは貴重品だけ持って、部屋の外に出た。
「ふぅ〜!びっくりしたなぁ……」
 案の定、『起こさないでください』の札を掲げているイリーナ達の部屋は清掃員もスルーしている。
 ユタはエレベーターで1階に下りた。

 ロビーに降りると、ユタはロビーの公衆電話でイリーナに渡されたメモ書きの番号に掛けてみた。
 何か、見たことも無い番号に自分のケータイの履歴が向こうに残るのが不安だったのである。
 非通知で掛ければいいじゃないかと思うのだが、それだってサーバーを調べてしまえば分かることだ。
 公衆電話なら、少なくともそこでユタの個人情報が漏れることはない……はずだ。
 また、とんでもない電話料金が掛かったりする恐れもあって不安だった。
 取りあえず10円玉が財布の中に3枚入っていたので、それを投入。
 あとは100円玉を待機させた。
{「はい、マジックスタートラベルです」}
 相手が電話に出ると、10円玉が1枚落ちるのが聞こえた。
 女性の声だったが、随分と若い……まるで、子役タレントが喋っているかのような声だ。
「あ、あの……僕、稲生ユウタと申しまして、イリーナ・レヴィア・ブリジッド先生に、この番号に掛けるように言われたんですけど……」
{「少々お待ちください」}
 10秒ほどの間。
{「お待たせ致しました。プラチナ会員様に、イリーナ様のお名前を確認致しました。稲生様は、イリーナ様の関係者の方ですね?」}
「今年度から弟子になりました」
{「かしこまりました。ご希望の旅行券は何になりますか?」}
「旅行券?えーと……航空券が欲しいんですけど……」
{「ご希望の日時と路線はお決まりですか?」}
「あ、はい。今月の24日の札幌・新千歳から長野の松本空港までで、僕を含めて大人3名なんですけど……。でも、前に別の旅行会社に問い合わせたら、満席だと断られちゃって……」
{「かしこまりました。お任せください」}
「えっ?」
{「3名様、一塊のお席がよろしいですよね?」}
「は、はあ……。出来れば……」
{「前方の席か後方の席のご希望は?」}
「い、いえ。空いていれば、どこでもいいです」
{「少々お待ちください」}
 今度は30秒の間があった。
 その間、保留音が鳴るのだが、
(ハイケンスのセレナーデ……)
 という意味不明なことをユタは心の中で言っていた。
{「お待たせ致しました。お取りできそうなので、本日旭川駅前を11時25分に出発する旭川空港行きのバスにお乗りください」}
「あ、はい。乗る場所はどこからでもいいんですか?例えば始発の6の9バス停とか……」
{「はい。構いません。そのバスにお乗り頂ければ……」}
「それに乗って、旭川空港に行くんですね?」
{「さようでございます。空港に着きましたら、出発ロビーにお向かいください。そこで稲生様は、お知り合いの方と会われます。その方と雑談してください」}
「えっ?えっ?ど、どういうことですか?」
{「成功報酬は、イリーナ様のアメリカン・エクスプレス、プラチナカードより引き落としさせて頂きます。本日もマジックスター・トラベルをご利用頂き、ありがとうございます。またのご利用をお待ち申し上げます」}
「えっ?ちょっ……!」
 だが、電話が切れてしまった。
 ユタが電話を切ると、10円玉が2枚出て来た。
「あれっ!?」
 随分と長く話した感じなのに、最初の引き落とされた10円玉1枚だけしか使われていない。
(だ、大丈夫なんだろうか???)
 ユタはその後、エレベーターホールに向かった。
 その前にある内線電話で、イリーナ達の部屋に掛ける。
 何度もコールした後で、ようやくイリーナが出た。
「あ、もしもし。イリーナ先生」
{「ああ……ユウタ君か……。なに……?」}
「先ほど教えてもらった電話番号に掛けてみました。ちょっと、空港まで行って来ますので」
{「ああ……。行ってらっしゃい。市内から出なかったら、いちいちアタシに言うこともないよ」}
「す、すいません。失礼します」
 ユタは電話を切った。
(旭川市内から出なかったらって……。それが僕に許された行動範囲ってことか……)
 ユタは今度はフロントに行って、空港連絡バスが発着するバス停の場所を聞いた。
 するとホテルの場所柄、駅前まで行くより、1つ手前の『1条昭和通』というバス停から乗ると良いと教えられた。
 そこを発車するのは11時20分。
 それまでは、どこかで時間を潰す必要があった。
 前に1度観光に来ただけで、土地勘の無い町であり、あまり市街地からは離れられないので、ファストフード店で時間を潰した。

[同日12:10.旭川空港 ユタ]

 地元のバス会社が運行するバスに揺られ、旭川空港に向かう。
 さほど長距離を走るわけではないだけに車内の設備は(東京のエアポートリムジンと比べると)簡素で、一般路線用の車種を使用したものだった。
 乗降扉は前扉だけで、リクライニングシートにはなっていたのだが、本当にそれだけといった感じ。
 窓側席が全部埋まって、所々通路側にも乗客が座る状態だったが、ユタの隣に座る者はいなかった。
 それで空港まで行き、電話で言われた通り、出発ロビーに向かった。
 といっても実際飛行機に乗るわけではないので、手荷物検査場の手前までだが。
「あっ?」
 そこでユタは電話の通り、意外な知ってる人物と再会することになる。
「おっ、稲生君!」
「藤谷班長!」
 藤谷春人だった。
「どうしたんですか?ここで……」
「いや、それはお互い様だよ。キミこそ、どうしてここに?」
「えーと……それは……。航空チケットを……」
「おっ、そうか。羽田までのか。俺は、親父を見送りに来たんだ。何だか、あのテーマパークの仕事自体が怪しくなってきたもんで、1度本社に帰って対策会議をするらしい。俺は一応、現地の監視ってことでしばらくここに残ることになったよ」
「そうでしたか」
「次の仕事の為に、航空チケット買っておいたのが水の泡だよ。キャンセル料だけ取られてワケわかんねーよ」
「……!」
「ちょうどお昼だ。ここで昼飯でも食ってくか。旭川ラーメンでも食うか?」
「は、はい……」
「よし。じゃ、行こう」
 ユタは藤谷に背中を叩かれて、ターミナルの中を歩いた。
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“大魔道師の弟子” 「一夜明けて……」

2015-04-26 00:30:45 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月20日15:00.北海道旭川市 市街地のビジネスホテル 稲生ユウタ&藤谷春人]

 事件から一夜明け、ユタ達はしばらく藤谷組の出張所がある雑居ビルの一室で休んでいた。
 その間、ユタは旭川空港に行って、コインロッカーに預けておいた荷物を取りに行った。
 そして、片っ端から市内のホテルに電話して、当日から空いている部屋を確保した。
 シングルが1つとツインが1つである。
 一応、一時的に体力を回復させたユタ達は、それで何とかホテルにチェックインした。
 しかし、ユタはともかく、魔力を著しく消耗していた魔道師2人は、部屋に入るやいなや、すぐベッドに倒れ込んでしまったのである。

「うーん……こりゃ、1泊や2泊では済みそうに無さそうです」
 ロビーの椅子に向かい合って座るユタと藤谷。
 ユタは参ったとばかりに頭をかいた。
「金はあるのか?」
「イリーナ先生がチラッと言ってたんですが、『私のカードで何とかするよ』だそうです」
「そんな凄いカード持ってるのか?」
「前にチラッとアメックスのプラチナカードを見ましたが……」
「ぶっ!あのセンセ、どこでそんな高収入を!?」
「まあ……1000年以上も魔道師やってると、世界中の政財界から裏で色々な情報を得たり提供したりして、パトロンが相当いるようで……」
「そんな凄いセンセーなのに、障魔には出し抜かれたか……」
「そのようで……」
「……で、稲生君はこれからどうするんだ?」
「ホテルに聞いたら、24日までなら連泊可能だそうです。25日から先はゴールデンウィークに入る関係で、もう予約で満室だそうで……。さすがに僕達は飛び込み客で、たまたま部屋が空いていたから良かったものの、やっぱり予約のお客さん優先だそうで……」
「だろうな。ま、それまでにはセンセー達には元気になってもらいたいわけだ」
「そうなんです」
「他に何かあるか?俺で良かったら力を貸すぞ?」
「実は……はい。帰りの飛行機なんですが、お金はその……イリーナ先生のカードでいいんですが、肝心の飛行機が……」
「んー?確か、松本空港はもう再開したはずだぞ?」
「ええ。これは逆に25日でないと、空席が無いんです」
「……てことは、24日にここのホテルを引き払った後、どこかにまた1泊しなくちゃいかんということか」
「そうなんです」
「取りあえず24日は札幌辺りに移動して、そこに泊まったらどうだ?」
「ええっ?」
「で、25日の飛行機で長野に帰れんだろ?ホテルなら、今から当たればどこかしらヒットするだろ」
「…………」
「確かに費用は高くつくが、事情が事情だからしょうがないだろう。センセーも事情を話せば、分かってくれるさ」
「事情を話したいんですが、今は……」
「だから、事後報告だって。ゴーデンウィークに入っちまったら、それこそ帰れなくなるぞ?」
「ええ……。取りあえず、キャンセル待ちしてみます」
「相変わらず心配症だな。稲生君はァ……」
 藤谷は呆れた。
「班長は、いつまで旭川に?」
「一応、しばらくはいるハメになりそうだな。まさかあの城、全壊するとは思わなくてさぁ……。参ったよ」
「魔に打ち勝ったんですから、きっといいことありますよ」
「……だといいんだがな」
 藤谷はテーブルに置いたコーヒーを飲み干した。
「取りあえず、俺は出張所に戻る。何かあったら電話してくれ」
「分かりました」

[4月21日07:00.同ホテル ユタ、イリーナ・レヴィア・ブリジッド、マリアンナ・スカーレット]

 ユタとて決して万全な状態ではない。
 さすがに市内を動き回ったこともあって、披露はピークに達していた。
 だから夕食や入浴もそこそこに早めに寝た。
 で、翌朝……。
 体の具合は正直優れなかったが、もっと体調を崩している魔道師達のことを考えると、いつまでも寝込んでいるわけには行かなかった。
 ユタはチェックインする時、事情を話してカードキーを2枚もらっていたので、ノックをした後、それで解錠した。
「おはようございますー。具合、どうですか……?」
 部屋はカーテンが閉められており、薄暗い。
「うーん……。アタシゃ……あと一両日中ってところだねぃ……。マリアは……もっと掛かるかも……」
 イリーナが視線だけをユタに向けて答えた。
「そうですか。あまり、無理はなさらぬように……」
「ユウタ君もね……」
「えっ!?」
「顔色悪いよ。あなたも今日1日、休んでなさい」
「は、はい……。あ、あの……ちょっと相談が……」
「なに……?」
 ユタは今の状況を手短に答えた。
「ふーん……そう。……で、ユウタ君はどうしたいわけ?」
「僕はなるべく早く帰るべきだと思うんです」
「なるほどね……。私のローブを持って来て」
「は、はい」
 ユタは言われた通り、椅子の上に掛けられたイリーナのローブを持ってきた。
 イリーナはローブのポケットに手を入れると、そこからメモ書きを取り出した。
「後でここに電話してみて」
「えっ?」
 確かにそのメモには番号の羅列があった。
 しかし、それは携帯電話の番号とも、どこかの固定電話の番号にも見えなかった。
 国際電話なのだろうか。
「あと……今日はずっと休みたいから、部屋の掃除は断っといてね」
「分かりました。では、失礼します」
 ユタはマリアの方を見たが、マリアはまるで死んでいるかのように眠ったままだった。
 寝息が聞こえるのと、呼吸の度に布団が上下しているのが分かるので、本当に深く眠っているだけのようだが。
 ユタは部屋を退室する際、内側のドアノブに引っ掛かっていた表示板、『起こさないでください』を外側のドアノブに掛けておいた。
(僕は……どうしようかな)
 取りあえず、先に朝食だけでも食べておこうと思った。
 それで少しは体調も良くなるかもしれない。
 ユタがあの戦いで魔法らしい魔法を使ったことと言えば、終盤にハンドガンをグレネードガンに変換させたことだが、それだけでこの憔悴感だ。
 修業を積んだあの魔道師達の消耗ぶりが、いかに凄いかが分かった。
(もう少し、魔道師の何たるかを聞いておけば良かったな……)
 ユタは少しふらつきながらも、エレベーターのボタンを押し、朝食会場へ向かった。
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