報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「序章」 4

2015-01-22 22:16:27 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月21日12:20.イリノイ州内のハイウェイ レイチェル&コードネーム“ショーン”]

 2人を乗せたグレイハウンドバスの臨時続行便は、ある休憩場所に停車した。

〔「40分休憩しまーす!お腹が空いた人、どうぞ食べてきてください。タバコを吸いたい人、吸ってきてください。お酒飲みたい人……は、ここで降りてくださいw マリファナもダメですよwww」〕

 陽気な運転手のアナウンスに、ドッと笑いが起きる。
 グレイハウンドバスに乗っていると、しばしばこのような運転手に当たるそうだ。
 酒を飲みたい人は降りろというのは、グレイハウンドバスでは車内はもちろん、バスターミナル内でも禁酒だからである。
 タバコは確かに服に臭いは染みつくかもだが、取りあえず吸った後でどうにかなるものではない。
 しかし酒は飲んだ後、必ず酔うからダメだ。
 乗車時に飲んでいなくても、酒の臭いを放っていると、容赦無く乗車拒否されるとのこと。
 グレイハウンドバスに、日本の高速バスの感覚で乗るとカルチャーショックを受けるとはこのことだ。
 グレイハウンドバスは低所得者層の利用が多いので、そんな奴らに酒を飲ませるとどうなるか……ということだろう。
「ショーンはそこのマックで食べてきたら?」
 と、レイチェル。
「私はここで待ってるから」
「本当に食べないんだなぁ……」
「そういう体質なのよ」
「…………」
 さすがのショーンも訝しがる。
 が、そこは生身の人間、お昼時に腹が空くのは当然だ。
「レイチェルにも何か買ってこようか?僕だって、食事代くらいある」
「だから、大丈夫だって。アタシのことは何も心配無いから。ほら、早くしないと休憩時間無くなっちゃうよ」
 レイチェルはショーンの背中を押した。
「あっ、そうそう。なるべくバスから離れないようにね」
「うん……」
 ショーンはバスから降りて、日本でも見慣れた黄色いMのマークをしたマクドナルドに入っていった。
 グレイハウンドバスでは、しばしばこういった場所で休憩することがある。
 マックならアルコールを販売していることは無いからだろうか。
 日本のマックは利用したことがあっても、アメリカのマックを利用するのは初のショーンはそんなことを考えながら店内に入った。

 それを車内の窓から見届けるレイチェル。
 彼女は荷物の中から白い電源をコードを取ると服を捲り上げ、自分の脇腹に差し、もう一方を車内の電源コンセントに差した。
{「レイチェル。現況はどうだ?」}
(今のところ順調よ。運転手達のさじ加減で増便が決まるグレイハウンドで良かったみたい。少しターミナルが混乱したおかげで、今頃追っ手がターミナルで調査したところで、アタシ達がどの便に乗ったか分からないわよ)
 レイチェルは本を取り出し、あたかも読書しているフリして、外部と通信リンクを繋いでいた。
{「連中はボストン方面やデトロイト方面を捜索しているようだ。お前達が乗っているのはシカゴ行きで間違いないな?」}
(そうよ。それより、そろそろプラチナカードちょうだい?ここまで順調に行ったご褒美よ)
{「無事にシカゴに着いて、ホテルにチェック・インしたら送る。別に予定通りに行ければ、ゴールドカードのままでも大丈夫なはずだが……」}
(ノー、ノー。シカゴから飛行機に乗る時、ファーストクラスに乗れないでしょ?)
{「ファーストクラスって、お前なぁ……。エコノミーにしろよ」}
「いいじゃない。その後は、電車に乗ってやっと到着でしょう?」
{「その電車も普通車にしておけよ。……まあいい。約束だ。無事にシカゴに着いて、ホテルにチェック・インできたら、プラチナカードに変更してやる」}
(サンキュー!)

[同日13:00.グレイハウンドバス車内 レイチェル&“ショーン”]

 昼食を終えてショーンはバスに戻ろうとして、一瞬ミスった。
 シカゴ行きは2台での運転なので、もう1台の方に乗ろうとしてしまったのだ。
 フロントガラスの上に行き先表示はしてあるが、それだけに気を取られていると失敗するという例だ。
 確実にするなら、行き先よりもバス車体にペイントしてある4桁の車両番号を覚えた方が良い。
 車内にトイレはあるものの、あまり使い勝手は良くないようだ。
 たまに鍵が壊れていたり、紙が無かったり、汚れていたりする。
 また、換気が悪いのか、昔の日本の列車のトイレみたいな臭いが付近の座席まで漂ってくるらしい。
 レイチェルが真ん中辺りの席を確保したのは正解と言えよう。
 座席は夜行便であっても4列シートが基本。
 但し、アメリカ人の体型に合わせた座席であるためか、シートピッチや座席幅は日本のバスより広いことが多い(JR特急の普通席並み?)。
 ニューヨーク行きなどの混雑路線では、定員数を上げる為に、シートピッチを詰めて座席数を増やしていることもあるという。
 いずれにせよ、LCCの座席よりはマシだということだ。
 wi-fiのサービスもあるようだが、時々切れることがあるので、完璧とはなかなか言えない。
 車内は低所得者層が多いから、ついステレオタイプで騒ぐヤツとか強面のヤツが脅して来たりとかあるのかと思うが、意外とそうでもない。
 何故なら、運転手が1番怖いから。
 基本的にワンマン運転のグレイハウンドバスは運転手に強い権限が与えられていて、車内の秩序を乱す乗客は最終的に強制降車させることができる。
 夏は冷房がガンガンに効いて寒過ぎるくらい。
 冬は走行場所にもよるが、中西部辺りのように冬寒い所だとやっぱり暖房がガンガン入る。

[同日17:00.イリノイ州シカゴ レイチェル&“ショーン”]

 出発が遅れたからなのか、それともダイヤの作りがそもそもいい加減なのか分からないが、バスは予定より2時間遅れでシカゴのバスターミナルに到着した。
 グレイハウンドバスに定時運行を求める方が変人らしい。
 そもそも出発からして遅れるのが当たり前らしい。
「シカゴかぁ……。初めて来たなぁ……」
 ショーンはバスを降りて、荷物を受け取ってから呟いた。
「どこに泊まるの?」
「任せて。シカゴに連れて来たのは私だからね」
 レイチェルはそう言って、ガラガラと自分のキャリーバッグを引いた。
 バスターミナル近くの最寄り駅から、シカゴ・Lという高架鉄道に乗り込む。
 シカゴの通勤鉄道は地下鉄ではなく、高架鉄道が主となる。
 走っている電車自体は、そのまま地下を走っても良さそうなものだったが。
(何か、東急東横線みたい)
 ショーンは祖国の私鉄電車を思い出した。
 但し、アメリカの鉄道は右側通行の右ハンドルで、日本とは逆である。

 そこから何駅か乗って電車を降りると、すぐ近くにホテルがあった。
 規模は日本のビジネスホテルくらい。
 オレンジスター・シティのセントラルホテルが東横インだとすれば、こちらはワシントンホテルくらいか。
 少しグレードアップしたかな、と。
 旅行好きのショーンは日本国内もよく旅行していて、そこのホテルにもよく泊まっていた。

 2人はこの町で数日間過ごすことになる。
コメント (2)
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“新アンドロイドマスター” 「序章」 3

2015-01-22 00:19:04 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月21日07:00.オレンジスター・シティ セントラル・ホテル レイチェル&コードネーム“ショーン”]

 枕元のスマートフォンが鳴る。
「ううん……」
 ショーンは訳の分からない夢を見て目が覚めた。
「おはよう。ショーン」
 スマホのアラームを止めたのはレイチェル。
「いい天気よ。起きて」
 レイチェルが優しく起こした。
 確かにカーテン越しに、朝日が差し込んでいる。
 しかし、アメリカ中西部の冬は寒い。
 相変わらずコートがいるだろう。
「よく眠れた?」
「眠れたような、眠れないような……」
「ま、とにかく朝の身だしなみね。朝ご飯は1Fのカフェで取れるみたいよ」
「そ、そう?」
 ショーンはバスルームに行くと、トイレを済ませ、朝の身だしなみを整えた。

[同日07:30.同ホテル1F カフェ コードネーム“ショーン”]

 例によって、レイチェルは一緒に食事をしようとはしない。
 部屋で待機してるから、1人で行くように言われた。
 日本人の中では平均的な体格のショーンは、見た目とは裏腹に結構な大食らいで、カウンター席に座ると、トーストだけでなく、ソーセージやらスクランブルエッグやら、とにかく洋食と言えばこれといったものを次々と注文した。
 その間、天井から吊るされたテレビが、ニュースを放送している。

〔「昨夜に発生しましたバーレイ山中のロボット研究所のテロ事件は、依然犯人グループの足取りが掴めないままです。警察では犯行グループの主犯格である女を指名手配し……」〕

 犯人グループのリーダーだという女の写真が公開された。
 それはレイチェルとは似ても似つかない。
 別人に変装して及んだ犯行で、地元の警察はすっかり騙されているようだ。

〔「犯人が逃走に使ったと思われる車が、研究所の防犯カメラに映し出されていて……」〕

(しまった!少し近づき過ぎたか!?)

〔「……白のシボレー、ワゴンと思われます」〕

[同日08:30.同ホテル6F 603号室 レイチェル&“ショーン”]

 朝食を終えると、ショーンは慌てて部屋に戻った。
「大変だよ、レイチェル!」
「!?」
 ショーンが戻って来た時、レイチェルはどこかに電話していたようだった。
 彼の姿を見つけて、慌てて電話を切った。
「あ、あれ?どうしたの?」
「何でもないわ。ちょっと、バスの運行状況を確認していただけよ。で、どうしたの?」
「どうやら警察に昨日乗った車がバレそうなんだ!どうしよう?」
「だーいじょうぶよ。レンタカーショップは現場とは反対側の離れた場所だし、シボレーの白いワゴンなんて、アメリカじゃ大衆車よ。確かにいずれバレるとは思うけど、それは今じゃないし……。バレる頃にはこの町、消滅しているから」
 ニタリと笑うレイチェル。
「とにかく、ここで慌てたら、却って目立ってしまうわ。バスでこの町を出たら、こっちのものよ。それまで落ち着いて」
「で、でも……。急に落ち着けって言われたって……」
「しょうがないなぁ……。じゃあ、また薬を飲む?少しは落ち着くよ?」
 レイチェルはそう言って、荷物の中から例の錠剤の入った小瓶を取り出した。
 ラムネぐらいの大きさで、飲んだ後も、まるでラムネのような味がする錠剤だ。
 それを2錠服用すると、急に不安が解消されるような気持ちになる。
「どう?落ち着いた?」
「う、うん……。(他に気になる点があったような気がするが、まあいいさ)」

[同日09:50.市内・中央バスターミナル グレイハウンドバス乗り場 レイチェル&“ショーン”]

 ホテルを引き払った後、バスターミナルへ向かう2人。
 バスターミナルは多くの利用者で賑わっていた。
「今度のシカゴ行きは4番ゲートみたいね」
「えっ!?」
 レイチェルの言葉に意外そうな顔をするショーン。
「どうしたの?」
「いや、だいぶ並んでるなぁ……って」
 確かに4番ゲートの前には長蛇の列ができていた。
「乗車券は持ってるから、席にあぶれることはないか……。ん?座席番号が書いてない……」
「ああ、グレイハウンドは基本的に自由席だから。私達は予めチケットを先に買っただけで、優先乗車とかは無いのよ」
 と、レイチェルが答えた。
 それにしても、長い行列だ。1台では乗り切れないのではないか。
(早いとこ、この町から脱出しないといけないのに……)
 薬の効き目が切れ出したか、焦りが発生するショーン。
 すると、ある白人ドライバーがやってきて、
「今度のシカゴ行きは臨時増便が決まりました。この人から後ろの列の人達は、全員3番ゲートに移ってください」
 と、ショーンの肩を叩いて言った。
 あまりアジア系のいない客層なので、目立ったのだろう。
 で、言われた通り、3番ゲートに移る、ショーンやレイチェルを含む乗客達。
 しかし、そこには既に別のバスを待つ乗客達が並んでいた。
 不思議に思い、ショーンがその乗客の1人に聞いてみると、彼らはデトロイト行きを待っているのだと言い、しかも臨時便を待つ為に移って来た人達だった。
 ちょうどそこへ、さっきのとはまた違う別のドライバーがやってきたので、ショーンは目的地が違う乗客が混じっているという旨を伝えた。
 するとそのドライバーは、また別の他のドライバーと相談を始めたのだった。

「ジル、キミはどうなんだ?」(ドライバー・クリス)
「私はさっきデトロイトに行けって言われたのよ?」(ドライバー・ジル)
「いや、デトロイトに行けと言われたのは俺で、こっちはもう出発準備を始めている」(クリス)
「3番ゲートに並んでいるのは、デトロイトだけじゃなく、シカゴ行きの人達もいるみたいだぜ?」(ドライバー・レオン)
 ここで、バスターミナル係員ブラッドの登場。
「デトロイト行きは2台の増便で合ってるよ」(ブラッド)
「じゃ、シカゴ行きのバスは誰が運転するんだい?」(レオン)
「えっ?まだシカゴ行きの乗客がいるの?どこに?」(ブラッド)
「そこの3番ゲートに並んでいる人達だよ」(レオン)
 ブラッド係員、ショーン達の所へやってくる。
「誰がシカゴ行きのバスが増便するって言ってた?」
 そこでショーンが答えた。
「金髪にサングラスを掛けたドライバーにさっき言われたんだけど?」
「ちょっと待ってて。すぐ確認してくるから」
 ざわつく乗客達。
「レイチェル、大丈夫かな?」
「ど、ドンマイ。町を出る公共交通機関はこれしかないんだから」

 再度、ブラッド係員の登場。
 この時点で、既に10時をとっくに過ぎてしまっている。
「何か分かった?」(クリス)
「いま確認してるんだけど、よく分からないんだよ」(ブラッド)
 更にざわつく乗客達。
 ここで最初に増便が決まったから3番ゲートに移ってくれと言って来たドライバー・ウェスカーの登場。
「さぁ、お待たせ~。シカゴ行きのバスが出発するよ」(ウェスカー)
「あー、ウェスカーがいたのか。じゃーいいや。シカゴ行ってきて」(ブラッド)
「大丈夫かよ~」
 と、日本では考えられない出来事に唖然としたショーンだったが、周囲のアメリカ人乗客達も似た反応をしていたので、そうそうお目に掛かることはないのだろう。

 とにかく大きな荷物は預け、ようやく車上の人となったショーン達であった。
コメント (8)
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