[現地時間1月3日09:00.魔界帝国アルカディア・王都アルカディアシティ17番街 威吹、カンジ、イリーナ、マリア]
「ここはどこだ?」
マリアの屋敷から直に魔界へ向かう“通路”がある。
そこを通って出た先は、建物の中だった。
「まるで、バーみたいな所ですね」
と、カンジ。
「酒場のことですよ」
カンジは威吹に耳打ちした。
「まあ、そうね。ここは“ジャッカル・バー”っていうバーでね、ここのマスターも魔道師だから、その繋がりで出口を設けさせてもらったんだけど、避難した後みたいだね」
イリーナの言う通り、店内はもぬけの殻どころか、荒らされた後だった。
通りに面した窓ガラスこそは割られていないものの、大きな酒樽をバリケード代わりにしたのだろうか、店内入り口のドアの前に置かれてはいるものの、ドアは破られていた。
「この町に安全な所は無いから、長居は無用よ」
「そのようだな」
とはいうものの、そこは魔道師が経営していた店。
色々と使えるものは転がっていた。
中にはファンタジーには似つかわしくない銃火器まで置いていたりする。
しかもそれを装備をしたのは、マリアの人形達だった。
普段はサーベル、スピア、レイピアという刃物を装備をしているのだが、それに加えてハンドガンやマシンガンを装備した。
但し、装填される弾はただの銃弾ではなく、銀製の弾だという。
これは妖力に守られた妖怪達を攻撃するには最適の物で、ザコなら銃弾一発で倒せるという。
「慌てて逃げた後みたいね。それだけバァルが突然帰ってきたってことでしょうね」
イリーナが拾ったのはハーブだった。
「これも薬草として、傷の回復に使えるわ」
「まあ、使えるものは何でも使うくらいでないと、大魔王には勝てんだろうな」
と、威吹。
「で、どうやって魔王城に侵入する気だ?」
「地下鉄を使うつもりよ」
「地下鉄?こんな非常時に電車が走ってるとでも?」
イリーナの答えに、カンジが目を丸くした。
「電車が走っていないからこその作戦よ。地下鉄の1番街駅と魔王城は、実は地下道で繋がってるの。そして、17番街駅と1番街駅はほんの数駅分。まあ、敵は潜んでるでしょうけど、あなた達の敵ではないでしょう」
「ふーむ……」
「まあいい。行ってみよう」
[同日10:00.魔界高速電鉄1号線 17番街駅 上記メンバーにプラス、キノと江蓮]
魔道師達はローブを羽織り、フードを深く被っている。
本来、見習の身分であるマリアにはローブの着用権利は無いのだが、
「それは義務じゃない」
と、タチアナに反対され、タチアナの店にあったローブを売り付けられた購入し、それを着用している。
「イブキ!」
「キノ!」
その地下鉄駅前でキノ達と合流した威吹達。
「何やってんだ、ここで?」
「オマエこそ、何やってんだ?」
「いや、地下鉄通って魔王城に行こうと……」
「なっにー!?」
イリーナはクスッと笑った。
霧に紛れて閉鎖されている地下鉄の入口へ向かう。
階段を下りると、鉄扉が固く閉ざされていた。
「ちっ、鍵なんぞ掛けやがって!」
「キノ、地下鉄の状況はどうなってる?」
「分からん。オレ達は冥鉄経由で来たんだが、冥鉄も途中の駅で降ろされちまった。向こうの職員達も情報ナシ、手掛かりナシ、皆無ってことで混乱してたぜ」
「じゃ、どうする?」
「アタシが魔法で開けるわよ」
「それを早く言え!」
イリーナが鉄扉の前に立ち、呪文を唱える。
するとそこへ、
「そこにいるのは誰だ!?」
地上から怒声が聞こえた。
「見つかった!」
と、同時に、鉄扉が開いた。
「急げ!」
威吹達は鉄扉の奥へ入った。
「待たんか、こら!!」
霧の中から一瞬見えたのは、魔王軍の鎧を着た兵士の姿だった。
追っ手に追いつかれる前に、鉄扉を閉め、イリーナが魔法で施錠した。
「これでこのドアは、普通の方法では開けられないわ」
「よし!」
威吹達は階段を降りた。
17番街駅は、そんなに大きな駅ではないらしい。
停電しているわけではないが、元々が薄暗い駅だったのだろう。
「なーんか、古い欧米の地下鉄みたい」
とは、イリーナの言。
階段を下りてまず最初に現れるのが、自動販売機や自動改札口。
魔界高速電鉄は運賃均一性で、昔のニューヨークの地下鉄みたいにトークンというコインを買って、それを改札口の入口に入れ、スロットルバーを回して入場するというもの。
トークンではないが、開業したての地下鉄銀座線も似た方式だった(葛西の地下鉄博物館で実物に触ることができる)。
つまり、何の変哲も無いということだ。
無人駅ではないのだが、職員達も乗客達も逃げたのか、その姿は無い。
が、
「ゲヘゲヘ……」
「美味ソウナ、人間ノ匂イ……」
招かざる客はいるようで、下級のモンスター達の姿はあった。
無論、高等妖怪たる威吹達にとってはザコ同然だ。
改札口を越え、更に下に降りる階段を降りると、2面2線のホームがある。
薄暗くて不気味な気配がある以外は、何の変哲も無い地下鉄の駅だ。
この1号線は東京の地下鉄で言えば、丸ノ内線と銀座線を足して2で割ったような形をしている。
池袋から銀座までと、銀座から渋谷までの形をしているということだ。
17番街駅はこのうち、霞ケ関とか新橋辺りに相当するようである。
2番線のデビル・ピーターズバーグ(池袋に相当)行きに乗れば、魔王城と直結している1番街駅に行ける。
が、そこには電車が中途半端な位置に停車していた。
1号線は6両編成なのだが、ホームにいるのはその3両分だけ。
あとの3両は、ホームからはみ出していた。
「ふんっ!」
ホームにもザコモンスターが何匹かいて、それを威吹達が斬り捨てる。
「まあ、異変が起きて急停車したのかもね」
車両は東京地下鉄道(地下鉄銀座線の浅草〜新橋間を開業させた会社)の1000形(葛西の地下鉄博物館にも展示されている)とよく似ている。
1番後ろ(前?)の車両の1枚のドアだけが半開きになっており、そこから車内に入れた。
車内の照明が消えていないところを見ると、停電はしていないようだ。
だがもちろん、そこにも乗員乗客の姿はなく、しかも座席や床に乗客達が慌てて逃げ出したであろう荷物が散乱していた。
「電車が走り出す様子は無ェな。トンネルを歩いて行くしか無ェか?」
「そうねぇ……」
基本的には1両単位で運転できる電車を6台繋いで6両編成にしているだけで、車内から隣の車両には行けない。
しょうがないので一旦電車を降り、ホームから更に線路に下りた。
「気をつけて。レールの脇に電気が流れてるから」
「おっと!」
銀座線や丸ノ内線などと同じ、第3軌条方式である。
大抵は簡単に触れないよう、カバーがしてある。
「それを飛び越え、反対側の線路に行く。そこから、1番街方面に向かって進んでいくと……。
「?」
「何だこれは?」
ホームから飛び出した部分の先頭車を絡めているのは、蜘蛛の巣ようなカイコの繭のようなもの……。
「何かの巣か?」
キノが首を傾げた。
「分からないわ。だけど、こいつのせいで電車が走れないのね」
「師匠、それなら電車の1番前の部分だけ切り離して、それで魔王城に向かうという手がありますよ?」
「なるほど」
「電車の運転なんかできんぞ?ユタじゃあるまいし」
キノが変な顔をした。
「大丈夫。どうせここの地下鉄は自動運転みたいなものだから」
「なに?」
「まずは電車を切り離して、走れる状態にして行きましょう。急がないと」
イリーナはふわっと浮かんで、ホームに上がった。
「おい、待てよ!」
キノや威吹達も後に続いた。
「ここはどこだ?」
マリアの屋敷から直に魔界へ向かう“通路”がある。
そこを通って出た先は、建物の中だった。
「まるで、バーみたいな所ですね」
と、カンジ。
「酒場のことですよ」
カンジは威吹に耳打ちした。
「まあ、そうね。ここは“ジャッカル・バー”っていうバーでね、ここのマスターも魔道師だから、その繋がりで出口を設けさせてもらったんだけど、避難した後みたいだね」
イリーナの言う通り、店内はもぬけの殻どころか、荒らされた後だった。
通りに面した窓ガラスこそは割られていないものの、大きな酒樽をバリケード代わりにしたのだろうか、店内入り口のドアの前に置かれてはいるものの、ドアは破られていた。
「この町に安全な所は無いから、長居は無用よ」
「そのようだな」
とはいうものの、そこは魔道師が経営していた店。
色々と使えるものは転がっていた。
中にはファンタジーには似つかわしくない銃火器まで置いていたりする。
しかもそれを装備をしたのは、マリアの人形達だった。
普段はサーベル、スピア、レイピアという刃物を装備をしているのだが、それに加えてハンドガンやマシンガンを装備した。
但し、装填される弾はただの銃弾ではなく、銀製の弾だという。
これは妖力に守られた妖怪達を攻撃するには最適の物で、ザコなら銃弾一発で倒せるという。
「慌てて逃げた後みたいね。それだけバァルが突然帰ってきたってことでしょうね」
イリーナが拾ったのはハーブだった。
「これも薬草として、傷の回復に使えるわ」
「まあ、使えるものは何でも使うくらいでないと、大魔王には勝てんだろうな」
と、威吹。
「で、どうやって魔王城に侵入する気だ?」
「地下鉄を使うつもりよ」
「地下鉄?こんな非常時に電車が走ってるとでも?」
イリーナの答えに、カンジが目を丸くした。
「電車が走っていないからこその作戦よ。地下鉄の1番街駅と魔王城は、実は地下道で繋がってるの。そして、17番街駅と1番街駅はほんの数駅分。まあ、敵は潜んでるでしょうけど、あなた達の敵ではないでしょう」
「ふーむ……」
「まあいい。行ってみよう」
[同日10:00.魔界高速電鉄1号線 17番街駅 上記メンバーにプラス、キノと江蓮]
魔道師達はローブを羽織り、フードを深く被っている。
本来、見習の身分であるマリアにはローブの着用権利は無いのだが、
「それは義務じゃない」
と、タチアナに反対され、タチアナの店にあったローブを
「イブキ!」
「キノ!」
その地下鉄駅前でキノ達と合流した威吹達。
「何やってんだ、ここで?」
「オマエこそ、何やってんだ?」
「いや、地下鉄通って魔王城に行こうと……」
「なっにー!?」
イリーナはクスッと笑った。
霧に紛れて閉鎖されている地下鉄の入口へ向かう。
階段を下りると、鉄扉が固く閉ざされていた。
「ちっ、鍵なんぞ掛けやがって!」
「キノ、地下鉄の状況はどうなってる?」
「分からん。オレ達は冥鉄経由で来たんだが、冥鉄も途中の駅で降ろされちまった。向こうの職員達も情報ナシ、手掛かりナシ、皆無ってことで混乱してたぜ」
「じゃ、どうする?」
「アタシが魔法で開けるわよ」
「それを早く言え!」
イリーナが鉄扉の前に立ち、呪文を唱える。
するとそこへ、
「そこにいるのは誰だ!?」
地上から怒声が聞こえた。
「見つかった!」
と、同時に、鉄扉が開いた。
「急げ!」
威吹達は鉄扉の奥へ入った。
「待たんか、こら!!」
霧の中から一瞬見えたのは、魔王軍の鎧を着た兵士の姿だった。
追っ手に追いつかれる前に、鉄扉を閉め、イリーナが魔法で施錠した。
「これでこのドアは、普通の方法では開けられないわ」
「よし!」
威吹達は階段を降りた。
17番街駅は、そんなに大きな駅ではないらしい。
停電しているわけではないが、元々が薄暗い駅だったのだろう。
「なーんか、古い欧米の地下鉄みたい」
とは、イリーナの言。
階段を下りてまず最初に現れるのが、自動販売機や自動改札口。
魔界高速電鉄は運賃均一性で、昔のニューヨークの地下鉄みたいにトークンというコインを買って、それを改札口の入口に入れ、スロットルバーを回して入場するというもの。
トークンではないが、開業したての地下鉄銀座線も似た方式だった(葛西の地下鉄博物館で実物に触ることができる)。
つまり、何の変哲も無いということだ。
無人駅ではないのだが、職員達も乗客達も逃げたのか、その姿は無い。
が、
「ゲヘゲヘ……」
「美味ソウナ、人間ノ匂イ……」
招かざる客はいるようで、下級のモンスター達の姿はあった。
無論、高等妖怪たる威吹達にとってはザコ同然だ。
改札口を越え、更に下に降りる階段を降りると、2面2線のホームがある。
薄暗くて不気味な気配がある以外は、何の変哲も無い地下鉄の駅だ。
この1号線は東京の地下鉄で言えば、丸ノ内線と銀座線を足して2で割ったような形をしている。
池袋から銀座までと、銀座から渋谷までの形をしているということだ。
17番街駅はこのうち、霞ケ関とか新橋辺りに相当するようである。
2番線のデビル・ピーターズバーグ(池袋に相当)行きに乗れば、魔王城と直結している1番街駅に行ける。
が、そこには電車が中途半端な位置に停車していた。
1号線は6両編成なのだが、ホームにいるのはその3両分だけ。
あとの3両は、ホームからはみ出していた。
「ふんっ!」
ホームにもザコモンスターが何匹かいて、それを威吹達が斬り捨てる。
「まあ、異変が起きて急停車したのかもね」
車両は東京地下鉄道(地下鉄銀座線の浅草〜新橋間を開業させた会社)の1000形(葛西の地下鉄博物館にも展示されている)とよく似ている。
1番後ろ(前?)の車両の1枚のドアだけが半開きになっており、そこから車内に入れた。
車内の照明が消えていないところを見ると、停電はしていないようだ。
だがもちろん、そこにも乗員乗客の姿はなく、しかも座席や床に乗客達が慌てて逃げ出したであろう荷物が散乱していた。
「電車が走り出す様子は無ェな。トンネルを歩いて行くしか無ェか?」
「そうねぇ……」
基本的には1両単位で運転できる電車を6台繋いで6両編成にしているだけで、車内から隣の車両には行けない。
しょうがないので一旦電車を降り、ホームから更に線路に下りた。
「気をつけて。レールの脇に電気が流れてるから」
「おっと!」
銀座線や丸ノ内線などと同じ、第3軌条方式である。
大抵は簡単に触れないよう、カバーがしてある。
「それを飛び越え、反対側の線路に行く。そこから、1番街方面に向かって進んでいくと……。
「?」
「何だこれは?」
ホームから飛び出した部分の先頭車を絡めているのは、蜘蛛の巣ようなカイコの繭のようなもの……。
「何かの巣か?」
キノが首を傾げた。
「分からないわ。だけど、こいつのせいで電車が走れないのね」
「師匠、それなら電車の1番前の部分だけ切り離して、それで魔王城に向かうという手がありますよ?」
「なるほど」
「電車の運転なんかできんぞ?ユタじゃあるまいし」
キノが変な顔をした。
「大丈夫。どうせここの地下鉄は自動運転みたいなものだから」
「なに?」
「まずは電車を切り離して、走れる状態にして行きましょう。急がないと」
イリーナはふわっと浮かんで、ホームに上がった。
「おい、待てよ!」
キノや威吹達も後に続いた。