アメリカのイリノイ州シカゴで、アメリカ人エージェントのレイチェルと日本人エージェントのコードネーム“ショーン”がイスラムの武装テロリスト達と戦っている間、南米ブラジルでは、極左ゲリラがテロ事件を起こしていた。
場所はサンパウロの日系企業が多く集まる地区のとあるビル……。
「いや、だから、テロ事件が発生してるんだって!信じてくれよ!」
イスラムの武装過激派よろしく、南米の極左ゲリラも覆面で顔を顔し、手にはマシンガンを抱えている。
多くの関係者が右往左往する中、ケータイ片手に深刻な会話をしている男がいた。
年齢は30代半ば。
オフィスが複数のテロリスト達に占拠されている中、1人電話でモメている。
{「私の誕生日に会えないですって!?」}
電話の向こうでは若い女性の憤怒の声が聞こえる。
それに対する男の反応が上記だ。
{「シカゴのビルがイスラムの過激派に占拠されたってのは聞いてるわよ!だけど、ブラジルのはニュースになってないわよ!」}
「いや、今発生したばっかりなんだって!」
さすがに敷島の行動に、1人のテロリストが怪しんで近づいてくる。
「おい。そこのお前、何をしている?早く電話を切れ」
英語で男に注意する。
「うるさい!こっちも今深刻な状況なんだ!」
「!」
男はテロリストが突きつける銃にもろともせず、テロリストに怒鳴りつけた。
「……おい、あの男、何者だ?ただの日本人ではないな?」
テロリストは男の剣幕に一旦退くと、仲間に問い質した。
「入館証の番号と入館者リストを照会する」
仲間はすぐにPCのキーボードを叩いた。
「……こいつぁ、スゲェ!」
「VIPか?」
「元JARAの職員ですよ。タカオ・シキシマ。あの世界的マッド・サイエンティスト、ドクター・ウィリアム・フォレストと決戦したことで有名です」
「ほほぉ……。で、何の電話してるんだ?ベルモント、お前、日本語少し分かるだろ?」
と、テロリストはまた別の仲間に振った。
「……どうも、奥さんに浮気を疑われてるみたいですね」
「はあ???」
{「そんなタイムリーにテロリズムに巻き込まれるなんて、タイミングが良過ぎるわ!」}
「あー、分かったよ!だったら、テロリストと替わるから、そいつと直接話せや!」
敷島は近くにいたテロリストに声を掛けた。
「あー、ちょっとそこのキミ!そこのお兄ちゃんだよ!悪いけど、ちょっとうちの奥さんと替わってくれ!今、テロ中だって言ってくれればいい!」
敷島はマシンガンを持ち、マスクをした若い男にケータイを渡した。
テロリストは訝し気にケータイを受け取ると、マスクを取って、
「アロー?」
と、ブラジルの公用語であるポルトガル語で『もしもし』と言った。
だが、その声のオクターブが意外に高い。
「ん?……えっ!?……お、女ぁ!?」
イスラムのテロリストで女性は珍しいが、南米の極左ゲリラでは割と普通にいるという。
それを敷島は知らなかった。
「何カ知ランガ、モウ1度オ前ニ替ワレト言ッテルゾ?」
若い女性テロリストは、片言の日本語で敷島にケータイを返してきた。
「ぅあぁあ……」
敷島は絶望的な笑いを浮かべて、もう1度電話に出た。
{「離婚よ!後で弁護士を寄越すわ!!」ブツッ!}
「待ってくれ、アリス!」
敷島、絶望か!?
だが、ようやく日本にも、ブラジルで日系企業の多く入居するビルが地元の極左ゲリラに占拠され、人質多数とのニュースが入ってきた。
所有権がウィリアム・フォレストこと、ドクター・ウィリーから孫娘のアリスに継承された、マルチタイプのガイノイド(女性型アンドロイド)が、
「アリス博士、あまりお怒りが過ぎると、お腹の子に影響が出ますよ」
と、なだめるように言った。
名前はシンディ。旧ソ連で7機製造されたマルチタイプの3号機である。
「うるさい!」
「情報収集しましたが、ブラジルのサンパウロでテロが発生しているのは事実のようです。プロデューサーはボーカロイドを世界に売る為に、地球の裏側に……」
「ブラジルに行くなんて聞いてないわ!」
(マタニティ・ブルーってヤツかしら?)
女主人の怒りに、シンディはそう思った。
「シンディ、こうなったらとっておきのカスタマイズをしてあげるわ。タカオをここに連れてきなさい」
「は?プロデューサーはブラジルですよ?飛行機で片道20時間……」
「お黙り!天才のアタシの腕をナメんじゃないよ!」
「も、申し訳ありません……」
で、取り上げられた敷島のスマホにメールが着信する。
敷島の浮気相手と間違えられた女テロリスト(メリー・ハラダ 18歳)は、祖母から教わった日本語を元にその内容を読んだ。
「『“しおさい”が翌日に入線する』ドウイウ意味ダ?」
メリーはジャキッと敷島に銃を突きつけた。
(シンディがこっちに向かって来てるってことか……)
シンディは金髪で、青いコスチュームを着ている。
黄色と青のコントラストが、JR255系電車を使用した総武本線特急“しおさい”号などに似ていると敷島が表現したからである。
(シンディのヤツ、アリスの命令で俺を鉢の巣にするんじゃないだろうなぁ……)
アメリカのシカゴで起きたイスラム過激派のテロが失敗したことがブラジル国内でも報道された。
共産主義世界においては、宗教は全て否定すべき存在である。
それを推進する極左ゲリラのテロリスト達は、そのニュースをせせら笑った。
「インチキな神など崇めるからこうなるのだ。我々はそのような不確かな者などの力を借りることなく、己の力で一致団結してこの活動を成功させようではないか!」
気合を入れるテロリスト達。
宗教テロにおいては、その指導者などに仲介を頼む方法があるが、思想テロとなるとそうもいかない。
翌日、事態が一変した。
「やれやれ……。私もオーナーの命令は絶対的と自己設定しちゃったもんだから、テロ・ロボットに逆戻りか……」
両足にジェットエンジンを装着し、ブラジル入りを果たしたシンディ。
当然、勝手な入国に軍隊に追い回される結果となった。
戦闘機が機銃掃射してくるが、シンディには当たらないし、当たっても効かない。
「フンッ!」
そのうちシンディは戦闘機のエンジンを1機だけ破壊して、操縦不能に陥らせたりした。
「直接撃墜してないから大丈夫だよね?」
と、言い訳してみる。
そのうち、現場となっているビルが見えてきて、一気に突っ込んだ。
当然、慌てふためくテロリスト達。
「さあ!ここにいる私のユーザーを渡しなさい!さもないと鉢の巣に……あ、あれ?」
シンディは右手をマシンガンに変形させ、現場となっているはずのオフィスに突入した……はずだった。
しかし、誰もいない。
「シンディ、遅かったじゃないか!」
そこへ奥から敷島がやってきた。
「な、なに!?」
「早いとこ、こいつ連れてズラかるぞ!今、治安部隊が突入してる!」
敷島はグルグル巻きにしたメリーを引きずり出した。
「いいか!?アリスの前で、『私はただのテロリストです。浮気相手ではありません』って言うんだぞ、分かったな!?」
メリーは震えてコクコクと頷いた。
「というわけだ、シンディ!早いとこ日本に戻るぞ!」
「ちょっと!あんたの出国手続き、どうするのよ!?」
「バカ野郎!そんなこと言ってられるか!こちとら離婚の危機が迫っとるんじゃい!!」
「で、でも……!」
「うるさい!早く飛べ!!」
「は、はい!」
シンディは敷島とメリーを抱えて、ジェットエンジンを吹かした。
で……。
「な?俺、浮気してなかっただろ!?な?な?」
「そうね。今回は私の早とちりだったわ。反省する。だからあなたもブタ箱で反省してなさい」
「は!?」
「敷島孝夫!もろもろの法律違反で逮捕する!」
「ちょっと!何で、アタシが押収物件なのよ!?」
証拠物件として押収されるシンディ。
「お家に帰してーっ!!」
既に亡き祖母の祖国に拉致されたメリーは、泣きじゃくっていたという。
だが、メリーの仲間達は治安部隊突入の際、ほとんどが射殺されたということだから、ある意味ラッキーだったかも。
テロリストを泣かす男、敷島孝夫。彼の今後の活躍に乞うご期待!!
場所はサンパウロの日系企業が多く集まる地区のとあるビル……。
「いや、だから、テロ事件が発生してるんだって!信じてくれよ!」
イスラムの武装過激派よろしく、南米の極左ゲリラも覆面で顔を顔し、手にはマシンガンを抱えている。
多くの関係者が右往左往する中、ケータイ片手に深刻な会話をしている男がいた。
年齢は30代半ば。
オフィスが複数のテロリスト達に占拠されている中、1人電話でモメている。
{「私の誕生日に会えないですって!?」}
電話の向こうでは若い女性の憤怒の声が聞こえる。
それに対する男の反応が上記だ。
{「シカゴのビルがイスラムの過激派に占拠されたってのは聞いてるわよ!だけど、ブラジルのはニュースになってないわよ!」}
「いや、今発生したばっかりなんだって!」
さすがに敷島の行動に、1人のテロリストが怪しんで近づいてくる。
「おい。そこのお前、何をしている?早く電話を切れ」
英語で男に注意する。
「うるさい!こっちも今深刻な状況なんだ!」
「!」
男はテロリストが突きつける銃にもろともせず、テロリストに怒鳴りつけた。
「……おい、あの男、何者だ?ただの日本人ではないな?」
テロリストは男の剣幕に一旦退くと、仲間に問い質した。
「入館証の番号と入館者リストを照会する」
仲間はすぐにPCのキーボードを叩いた。
「……こいつぁ、スゲェ!」
「VIPか?」
「元JARAの職員ですよ。タカオ・シキシマ。あの世界的マッド・サイエンティスト、ドクター・ウィリアム・フォレストと決戦したことで有名です」
「ほほぉ……。で、何の電話してるんだ?ベルモント、お前、日本語少し分かるだろ?」
と、テロリストはまた別の仲間に振った。
「……どうも、奥さんに浮気を疑われてるみたいですね」
「はあ???」
{「そんなタイムリーにテロリズムに巻き込まれるなんて、タイミングが良過ぎるわ!」}
「あー、分かったよ!だったら、テロリストと替わるから、そいつと直接話せや!」
敷島は近くにいたテロリストに声を掛けた。
「あー、ちょっとそこのキミ!そこのお兄ちゃんだよ!悪いけど、ちょっとうちの奥さんと替わってくれ!今、テロ中だって言ってくれればいい!」
敷島はマシンガンを持ち、マスクをした若い男にケータイを渡した。
テロリストは訝し気にケータイを受け取ると、マスクを取って、
「アロー?」
と、ブラジルの公用語であるポルトガル語で『もしもし』と言った。
だが、その声のオクターブが意外に高い。
「ん?……えっ!?……お、女ぁ!?」
イスラムのテロリストで女性は珍しいが、南米の極左ゲリラでは割と普通にいるという。
それを敷島は知らなかった。
「何カ知ランガ、モウ1度オ前ニ替ワレト言ッテルゾ?」
若い女性テロリストは、片言の日本語で敷島にケータイを返してきた。
「ぅあぁあ……」
敷島は絶望的な笑いを浮かべて、もう1度電話に出た。
{「離婚よ!後で弁護士を寄越すわ!!」ブツッ!}
「待ってくれ、アリス!」
敷島、絶望か!?
だが、ようやく日本にも、ブラジルで日系企業の多く入居するビルが地元の極左ゲリラに占拠され、人質多数とのニュースが入ってきた。
所有権がウィリアム・フォレストこと、ドクター・ウィリーから孫娘のアリスに継承された、マルチタイプのガイノイド(女性型アンドロイド)が、
「アリス博士、あまりお怒りが過ぎると、お腹の子に影響が出ますよ」
と、なだめるように言った。
名前はシンディ。旧ソ連で7機製造されたマルチタイプの3号機である。
「うるさい!」
「情報収集しましたが、ブラジルのサンパウロでテロが発生しているのは事実のようです。プロデューサーはボーカロイドを世界に売る為に、地球の裏側に……」
「ブラジルに行くなんて聞いてないわ!」
(マタニティ・ブルーってヤツかしら?)
女主人の怒りに、シンディはそう思った。
「シンディ、こうなったらとっておきのカスタマイズをしてあげるわ。タカオをここに連れてきなさい」
「は?プロデューサーはブラジルですよ?飛行機で片道20時間……」
「お黙り!天才のアタシの腕をナメんじゃないよ!」
「も、申し訳ありません……」
で、取り上げられた敷島のスマホにメールが着信する。
敷島の浮気相手と間違えられた女テロリスト(メリー・ハラダ 18歳)は、祖母から教わった日本語を元にその内容を読んだ。
「『“しおさい”が翌日に入線する』ドウイウ意味ダ?」
メリーはジャキッと敷島に銃を突きつけた。
(シンディがこっちに向かって来てるってことか……)
シンディは金髪で、青いコスチュームを着ている。
黄色と青のコントラストが、JR255系電車を使用した総武本線特急“しおさい”号などに似ていると敷島が表現したからである。
(シンディのヤツ、アリスの命令で俺を鉢の巣にするんじゃないだろうなぁ……)
アメリカのシカゴで起きたイスラム過激派のテロが失敗したことがブラジル国内でも報道された。
共産主義世界においては、宗教は全て否定すべき存在である。
それを推進する極左ゲリラのテロリスト達は、そのニュースをせせら笑った。
「インチキな神など崇めるからこうなるのだ。我々はそのような不確かな者などの力を借りることなく、己の力で一致団結してこの活動を成功させようではないか!」
気合を入れるテロリスト達。
宗教テロにおいては、その指導者などに仲介を頼む方法があるが、思想テロとなるとそうもいかない。
翌日、事態が一変した。
「やれやれ……。私もオーナーの命令は絶対的と自己設定しちゃったもんだから、テロ・ロボットに逆戻りか……」
両足にジェットエンジンを装着し、ブラジル入りを果たしたシンディ。
当然、勝手な入国に軍隊に追い回される結果となった。
戦闘機が機銃掃射してくるが、シンディには当たらないし、当たっても効かない。
「フンッ!」
そのうちシンディは戦闘機のエンジンを1機だけ破壊して、操縦不能に陥らせたりした。
「直接撃墜してないから大丈夫だよね?」
と、言い訳してみる。
そのうち、現場となっているビルが見えてきて、一気に突っ込んだ。
当然、慌てふためくテロリスト達。
「さあ!ここにいる私のユーザーを渡しなさい!さもないと鉢の巣に……あ、あれ?」
シンディは右手をマシンガンに変形させ、現場となっているはずのオフィスに突入した……はずだった。
しかし、誰もいない。
「シンディ、遅かったじゃないか!」
そこへ奥から敷島がやってきた。
「な、なに!?」
「早いとこ、こいつ連れてズラかるぞ!今、治安部隊が突入してる!」
敷島はグルグル巻きにしたメリーを引きずり出した。
「いいか!?アリスの前で、『私はただのテロリストです。浮気相手ではありません』って言うんだぞ、分かったな!?」
メリーは震えてコクコクと頷いた。
「というわけだ、シンディ!早いとこ日本に戻るぞ!」
「ちょっと!あんたの出国手続き、どうするのよ!?」
「バカ野郎!そんなこと言ってられるか!こちとら離婚の危機が迫っとるんじゃい!!」
「で、でも……!」
「うるさい!早く飛べ!!」
「は、はい!」
シンディは敷島とメリーを抱えて、ジェットエンジンを吹かした。
で……。
「な?俺、浮気してなかっただろ!?な?な?」
「そうね。今回は私の早とちりだったわ。反省する。だからあなたもブタ箱で反省してなさい」
「は!?」
「敷島孝夫!もろもろの法律違反で逮捕する!」
「ちょっと!何で、アタシが押収物件なのよ!?」
証拠物件として押収されるシンディ。
「お家に帰してーっ!!」
既に亡き祖母の祖国に拉致されたメリーは、泣きじゃくっていたという。
だが、メリーの仲間達は治安部隊突入の際、ほとんどが射殺されたということだから、ある意味ラッキーだったかも。
テロリストを泣かす男、敷島孝夫。彼の今後の活躍に乞うご期待!!