報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「序章」 8

2015-01-24 20:06:29 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月25日09:00.イリノイ州シカゴ市内 レイチェル&“ショーン”]

「メディカル・チェックったって、随分と本格的なんだな……」
「そりゃそうでしょ」
 ショーンは1日の検査入院を余儀無くされた。
 その甲斐あってか、特に大きなケガも後遺症も無く、一晩で退院となったわけである。
 クリニックを出て、迎えの車に乗り込む。
「ああ、昨日はご苦労だった。2人とも」
 車の中で、件の黒服サングラスのエージェントと会う。
 昨日のエージェントは助手席に座っており、運転手は同じ恰好をした別の人間だった。
 ……いや、運転手も人間かどうかは分からない。
 しかし、ショーン達が乗り込むとすぐに車を走らせた。
「明日はいよいよ出国の日だ。昨日みたいなこともあったせいか、市内……特に市街地は物々しい雰囲気になっている。ショーン君においては、せっかく日本からのアメリカ旅行ということもあって、シカゴ市内の観光の1つでもしたいところだろうが、あいにくとこの状況だ。申し訳無いが、今日のところはホテルで待機してて欲しい」
「まあ、そうでしょうねぇ……。でも、お土産がまだなんだけどなぁ……」
「グッズくらいなら空港で買えばいい。大概の物は揃っているはずだ。キミ達はよくやってくれた。報酬アップを約束しよう」
「じゃあ、飛行機はファーストクラスね」
「それは却下だ」
「ぶーっ……」
 ふくれっ面するレイチェルに、
「ははは……」
 ショーンは苦笑いした。

 車は小一時間ほどで宿泊しているホテルに到着した。
「じゃあ退屈かもしれないが、趣旨を理解した上で従ってくれ」
「分かりました」
「貸与しているプラチナカードは滞在中、自由に使ってくれて構わない」
「ありがとうございます」
「何かあったら、すぐに連絡を。レイチェル、キミも分かってるな?」
「はいはい。もちろんですよー」
 ショーンとレイチェルは車を降りて、ホテルの中に入った。
「しかし、よく僕達のことが敵の組織にバレないもんだね。昨日のテロは、つい僕達の居場所を嗅ぎ付けた敵の組織かと思ったよ」
「アタシも一瞬、組織のミスを疑ったわ。でも、大丈夫みたいね。組織は敵に対して偽の情報をリークしているから、今頃アタシ達、とっくに別の国に飛んでることになってるかもよ」
「ふーん……」
 宿泊している部屋のフロアで、エレベーターを降りる。
「ま、明日の朝にはチェック・アウトだから、今日1日は部屋の中でおとなしくしてましょう」
「映画でも見てるか。確か、有料で映画が観れたはずだ」
「そうね。じゃあ、ポップコーンとコーラでも買ってくる?」
「えっ?」
「組織は『このホテルから出ないように』というお達しなわけで、『部屋から出るな』とは言ってないわけよ。まあ、それだと確かにショーンが食事に行けないから、そうも言えなかったんだろうけどね」
「なるほど。でも、コーラはともかく、ポップコーン売ってる?」
「自販機コーナーにあったじゃない」
「マジ?」
 日本で言うなら、カップラーメンの自販機代わりだろうか。
「私が行ってくるわ。ショーンは観たい映画探してて」
「うん」

 ポップコーンとコーラは、ショーンの分しか買ってこなかった。
「本当にいいのかい?」
「いいのいいの。見たい映画決まった?」
「ああ。映画だけで1日過ごしちゃうなんてねぇ……」

 観た映画は洋画だけではなく、邦画も入っている。
 その中でレイチェルが反応したのは、ボーカロイド達が出演している映画だった。
『初音ミクの消失』
 それ以外でも感動ものの展開があった映画はあったのに、これだけレイチェルがポロポロと涙を流したのであった。
(へえ……こういう所で泣くんだなぁ、レイチェルは……)
 と、ショーンは意外に思った。
 これとて確かに涙を誘うストーリーではある。
「何か、この主人公の男の子、ショーンに似てるね」
「そ、そうかな?」
 篠里朝乃という名の男子大学生。
 そしてショーンもまた日本では大学生である。
 ただ、さすがにアメリカでテロ事件を掻い潜るような経験はそうそう無いだろう。
「まだ、映画みたいにフィールド・テストやってる方がよっぽど平和的なような気がする」
「そうかもね。私なら、あの悪役の大学教授を鉢の巣にしてやるところだわ」
「ははは……。じゃあ、次はこの映画にしようか」
 ショーンは次のSF映画を選択した。

 その映画もまた人間そっくりなロボットが出て来る内容。
 人間だと思っていた彼女が爆弾テロに巻き込まれ、体の中から機械が出て来たのを見て、いわゆるメカバレするというもの。
 その映画にレイチェルは緊張した顔になった。
 そう、まるで、明日は我が身みたいな顔……。

 映画が好きなショーンのこと、何本も観ていたら、あっという間に時間が過ぎてしまった。
 時計を見たら、もうすぐ18時。
「いててて……。座り過ぎて腰が……」
「じゃあ、ベッドに横になって。アタシがマッサージしてあげる」
「レイチェルは腰が痛くならないのかい?」
「アタシは大丈夫よ。じゃ、うつ伏せになって」
「うん」
 ショーンは言われた通り、ベッドにうつ伏せになった。
「えーと、痛いのはこの辺りかしら?」
「そうそう。……ああうっ!」
「力加減はどう?」
「ちょ、ちょうどいい……です」
「ねえ。『初音ミクの消失』に出て来たヒロインの初音ミクって、いま日本では大ブレイクだそうね?」
「う、うん……」
「日本ではボーカロイドは全部、JARAこと日本アンドロイド研究開発財団っていう組織が所有・管理しているんですって」
「そうなんだ……」
「もっとも、今は最高幹部がテロ事件に関わっていた罪で逮捕されたせいで、ほぼ壊滅したって話だけどね」
「そうなの!?」
「ボーカロイド達が今後どうなるか分からないし、今放映されてる映画もライセンス契約がどうなるか分からないから、今観ておいて正解だったかもね。もしかしたら、もう2度と観れなくなるかもしれない」
「うわ!明日は『悪ノ娘』の映画版があったのに……」
「そうね。ファーストクラスかビジネスクラスだったら、各席に専用モニタが必ずあるから、そこで映画も観放題だったのにね」
「うっ……!」
「プレミアム・エコノミー以下だと、モニタが付いてるシートとそうでないシートが機種によってバラバラだから、運次第ってことになるわね」
「あるといいなぁ……」
(まあ、あったところで、ボーカロイドが出演してる映画をやってるかどうかも怪しいけどね)
 さすがにレイチェルはその言葉を飲み込んだ。

 その後、夕食を取りにレストランに行き、また戻って来たショーンにはご褒美が待っていた。
 既にシャワーを浴びて薄着になっているレイチェルが、性感マッサージをしてくれたのである。
 さすがにヤらせてはくれなかったが、ヌいてはくれたわけだ。
「滞在は今夜が最後だからね。さすがに日本に着くまでが仕事だから、セックスはムリだけど、これで我慢してね」
 レイチェルは耳元でそう囁いた。

 いよいよ、明日は日本に向けて出国である。
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“新アンドロイドマスター” 「序章」 7

2015-01-24 15:34:43 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月24日16:00.イリノイ州シカゴ市街地のとある複合ビル レイチェル&コードネーム“ショーン”]

 エレベーターホールに向かう2人。
 途中にはテロリストに撃たれたと思われる死体が所々に落ちていた。
「ひでぇ……」
「早く何とかしないと、もっと大勢の血が流れることになるわね」
 エレベーターホールに行くと、1人の武装テロリストがライフルを片手に周囲を警戒していた。
 そこへ1機のエレベーターが到着する。
 テロリストは銃を構えるが、降りて来たのが仲間だと認識すると、すぐに銃を下ろした。
「どうだ?」
「上の邪教徒共の殆どは掃討された。ここは異常無いか?」
「異常無しだ」
「了解。俺は地下の様子を見て来る」
「了解だ。俺は指示あるまで待機している」
 エレベーターに乗って来たテロリストは、再びエレベーターに乗り込んで行った。
 と、そこへ、レイチェルが動いた。
「誰だ!?」
 テロリストがライフルを構える。
「バカね!近距離でのライフルは不利よ!」
 レイチェルはテロリストに体当たり。
「ぐわっ!?」
 レイチェルがスタンガンを持ってテロリストを気絶させたのなら分かる。
 だが、確かに電気のビリビリする音やら光はしても、レイチェルが手にそれを持っていたようには見えなかったが……。
「レイチェル、今、どうやった?」
「それより、あなたも武器を持って。コンバットナイフくらいは持てるでしょ?」
「あ、ああ……」
 レイチェルはテロリストからライフルとハンドガンを奪い取った。
「あとはこのエレベーターで……」
 だが、ボタンをカチカチ押しても全く反応しない。
「くっ……まさか電源を落とされた?」
「ええっ!?」
「しょうがない。他のエレベーターを探すか……」
 と、そこへ、レイチェルの目が光った気がしたショーン。
 まるで戦闘マシーンのようにライフルを構えて、
「この辺で声がしたぞ!」
「どこだ!?」
 テロリスト達が顔を出したところで、ライフルを発砲。
「ぐわっ!?」
 2人現れたテロリストの頭をレイチェルは正確に撃ち抜いた。
「れ、レイチェル!?」
「ショーン!こっちよ!」
 レイチェルは射殺した男2人の装備の中から武器・弾薬を奪い取る。
 それでライフルとハンドガンの弾をリロード。
「6階から搬入用エレベーターで屋上に行けるはず!」
「わ、分かった」

[同日17:00.複合ビル6F エレベーター付近ホール レイチェル&“ショーン”]

「神は偉大なり!全ての邪教徒共に死を!特に十字軍には地獄の制裁を!!」
 1人のリーダー格の男が声を上げると、周りのテロリスト達も銃を掲げて同調する。
 その向こう側に、屋上へ行くエレベーターがあった。
「ぅあちゃー……。こんな所で集会やってるなんて……」
 レイチェルは呆れた。
「とうする?他のエレベーター探して上に行く?」
「ちょっと待っててね……」

 だが、敵は待ってくれない。

「皆、我々は十分に戦った!アラーは我々を天国へと必ずや導いてくれることだろう!このビルを爆破する爆弾の準備が先ほど終了した!我が同胞達よ!天国では72人の美しい処女と酒や果物、肉を楽しむことができる!それは永久不変のものである!共に天国へ参ろうではないか!」
「はあ!?」
「全員ここで死ぬ気か……」
 2人は驚いた。そこで、
「じゃあ、のんびりもしていられないわね」
「どうするの?」
「排除するに決まってるじゃない」
「へ?」
 レイチェルはライフルを構えると、
「!!!」
 演説をしているリーダー格の男の頭を撃ち抜いた。
「あそこに邪教の者がいるぞ!」
「撃て!」
 レイチェルはそれまでに拾って来たありったけの手榴弾を一気に武装集団の中に放った。
 更にハンドガンでスプリンクラーのヘッドを撃って、スプリンクラーを作動させる。
(阿鼻叫喚の地獄だ……)
「ショーン!今のうちよ!エレベーターのボタンを押して!」
「わ、分かった!」
 ショーンは死屍累々のテロリスト達の死体を避けながら、エレベーターのボタンを押した。
 レイチェルがエレベーターが来るまでの間、重傷を負いながらも立ち向かってこようとするテロリストに反撃する。

 やっとエレベーターが来た時、既に銃を構えているテロリストは1人もいなかった。

[同日17:30.複合ビル屋上 レイチェル&“ショーン”]

「今思ったんだけど、怒られるのはアタシ1人で良かったのに、ショーンまで連れてきたものだから、あなたまでこんな貧乏クジ引かせちゃって。ごめんなさいね」
「いや、今さらいいよ。これもまた今さらだけど、世界中の人達がイスラムのテロの恐怖を更に知ることになるね」
「ええ。南米の極左ゲリラが、まるでパフォーマンスみたいよ。ある意味、いい宣伝だわ」
 その時、ドンと爆発音がしてエレベーターが大きく揺れる。
「きゃあっ!?」
「うっ?!だ、大丈夫か?」
 しかし幸いにもエレベーターは止まらず、上昇を続けている。
「どうやら、大爆発前の小爆発が始まったみたいね。残された時間は少ないわ」
「そのようだな」
 そして屋上に到着する。
 エレベーターから実際にUAVが保管されている場所まで通路を行かなくてはならなかったが、そこにテロリストがいることはなかった。
 屋上のヘリポートの近くにコンテナが置かれていて、その中にUAVが解体された状態で保管されていた。
「これね。あったわ。助かった」
「組み立てられる?」
「任せて」
 レイチェルがちゃっちゃっとUAVを組み立てる。
 本来これは遠隔操作で飛ばす無人飛行機なのだが、操作パネルを敢えて飛行機本体に搭載しているらしい。
 複座になっているので、2人乗りというわけだ。
「シートベルト、しっかり締めてね」
「うん」
「カタパルト式だから、一気に飛ぶわよ」
 ついに屋上のエレベーターへ通じる通路も爆発した。
「うわっ!」
 レイチェルの言う通り、一気に加速して離陸する小型ジェット機、
 直後、複合ビルが大爆発を起こして崩壊していった。
「間一髪だったわね!」
「で、でも、どこまで行くの!?」
「取りあえず、町の外れまでは飛ぶわ。そして、緊急脱出するから」
「は!?」
「普通に着陸なんかしたら目立つに決まってるでしょ!この飛行機が墜落しても人的被害の無い所まで飛んで行って、この飛行機から脱出よ!」
「マジか!」
 しかしショーンが驚いたのは、いくらレイチェルが組織のエージェントだからにしても、銃火器の取り扱いはもちろんのこと、UAVの組み立てから実際の操縦まで何でもできることだった。
「言ったでしょ?あなたは私が守るって。パートナーを死なせたんじゃ、エージェント失格だからね!」

 そして、町外れの原っぱまで来たところで、
「緊急離脱!」
「わあっ!?」
 シートが射出され、パラシュートが開く。
 飛行機は荒地に墜落した。
 その後、パラシュートで着地する。
「ひいいっ!」
「大丈夫!?ケガは無い!?」
 すぐにレイチェルが駆け付けた。
「だ、大丈夫……みたい」
「よし!」
「で、でも、どうやって帰るの?」
 付近には道路が1本通っているが、あまり車の通らない所らしい。
 が、何故かそこに1台のタクシーが止まった。
 ミニバンタイプのイエローキャブだ。
「2人とも、早く乗ってくれ!」
 それはテロ発生前、レイチェルに苦言を呈してきたエージェントだった。
 2人は急いで車に乗り込む。
「すぐにここから離れる!」
 エージェントはすぐに車を走らせた。
「た、タクシーの覆面ですか?よくこんな……」
「本物のタクシーだ。だが、こんなものこちらのルートで、どのようにでもできる」
「えっ?」
「言っただろ?こちらのサポート体制は万全だと」
 キラッとサングラスを光らせて言うエージェント。
「なーにがよ。イスラムの武装テロの侵入を食い止められなかったくせに」
 と、レイチェル。
「テロ集団は、突入するビルを間違えたのだ。反イスラム組織の入居するビルは、キミ達がいたビルの隣のビルだ」
「ええっ?」
「さすがに連中のミスまでは、こちらも想定できん」
「マジで……」
「とにかく、コードネーム“ショーン”のメディカル・チェックを行うので、まずは組織と提携しているクリニックに向かう」
「その方がいいわね」
「早く帰りたいのに……」
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“新アンドロイドマスター” 「序章」 6

2015-01-24 10:14:56 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月24日14:00.イリノイ州シカゴ・市街地内のとある複合ビル レイチェル&コードネーム“ショーン”]

「“監視者”さんに怒られちゃったね……」
 ばつの悪そうな顔をするショーン。
 既に“監視者”なる黒スーツ、黒サングラスの男はビルから退去している。
「全く。プレミアム・エコノミーぐらいでグダグダ抜かしやがって。細かすぎる男はモテないわよ」
「まあ、『プレミアム・エコノミーはファーストクラス同様、座席数が少ないから目立つ』ってのは分かるけどね」
「だったらビジネスクラスに乗せろっての。座席数で言うなら、そっちの方が多いんだから」
「いや、だから、エコノミーでいいって……。しっかし、あの人も変わった人だよね」
「そりゃそうでしょ。あいつ、じゃないもの」
「え?」
「オレンジスター・シティでアタシが率いていた人型ロボットの、もっと人間そっくりに造ったヤツよ」
「ええーっ!?」
「言われるまで分かんなかったでしょ?」
「う、うん」
「なーんかね、昔、日本で執事ロボットをやってたみたいなんだけど、用途変更で、今じゃアタシ達の監視者よ。偉くなったものね」
「そ、そうかな……」
 その時、2人のいるラウンジ内のテレビが臨時ニュースを伝える。

〔「番組の途中ですが、ここで臨時ニュースをお送りします。ブラジルのサンパウロ市で、武装ゲリラの集団がオフィスビルの1つに立て籠もり、中にいた日系企業の社員多数を人質にしています。……」〕

「ええっ?またイスラム過激派かなぁ?」
 ショーンが首を傾げていると、
「いやー、違うと思うよ。南米の場合は、むしろ極左ゲリラの方が多いから。昔、ペルーでも日本大使公邸に武装ゲリラが立て籠もった事件があったでしょう?」
「……あったっけ?」
「あったのよ。そいつらはイスラムじゃなくて、極左のゲリラだったから。イスラム過激派は男しかいないでしょう?」
「みたいだね」
「極左ゲリラの構成員には女性もいたりするのよ。ペルーの事件にも女性ゲリラがいたってよ」
「あまり日本じゃ聞いたことないね」
 因みに南米でも北部の方は極左の活動が多いが、南部の方はそんなでもないということ。

 と、その時だった。

 ビルのエントランスの方から、爆発音が聞こえた。
 それも、1発や2発ではない。
「な、何だ!?」
「!? こっちよ、ショーン!」
 レイチェルは急いでショーンの手を引いた。

[同日15:00.シカゴ市内の複合ビル前 テレビリポーター]

「……はい、こちら現場の前です。先ほど、午後2時くらいのことですが、武装集団によるテロが起き、ビル内にいた多数の人を人質に取るという事件が発生しています。彼らはイスラム過激派組織“イスラム特高警察”と見られ、『邪教を取り締まる』『神は偉大なり!』と、叫びながら手榴弾やマシンガンを発砲して侵入したとのことです。尚、現在、現場の前の通りは警察によって封鎖され、物々しい雰囲気になっています。……以上、現場の前からお伝えしました」

[同日16:00.複合ビル4Fのオフィス レイチェル&“ショーン”]

「完全に誤算だったわ……。まさか、ここで別のテロ組織に襲われるなんて……」
 レイチェルは頭を抱えた。
 2人は避難して無人となった、とある企業の事務室の中に隠れている。
「レイチェルの組織に救助とか頼めないの?」
「向こうでも対策を練ってるとは思うけど、下は警察が押さえちゃってるからね。一応、組織にはアタシ達がどこに避難しているかは伝えてあるから、後はテロリスト共に見つからないようにして……」
「プレミアム・エコノミー予約しちゃったから、怒って見捨てられたりして……」
「例のブツはアタシが持ってるんだから、最低限それは無いって」
 レイチェルは髪留めの中にメモリーを隠している。
「一体、それは何なの?」
「まあ……秘密の大事なモノでね。さすがにそれはショーンにも教えられないの。大丈夫。ショーンには迷惑掛けないって言ったでしょ?……ちょっと今回は約束キビしいけど……」
「ううっ……」
「何とかショーンだけでも、ここから脱出させられないかな……。!」
 その時、廊下から足音が聞こえた。
「隠れてるヤツはいないか!?偉大なるアラーの御前では、隠れても無駄だぞ!」
 テロリストが銃火器を手に、捜索にやってきた。
「アラー最大の敵、十字軍は皆殺しだ!」
「た、助けてください!」
 ショーン達の近くに隠れていたと思われるアジア系の男が出て来た。
「わ、私は仏教徒です!クリスチャンじゃありません!だから助けてください!」
「おう、そうか。お前はクリスチャンじゃなく、仏教徒か。そうかそうか」
「はい!」
 だが次の瞬間、そのアジア系の男はマグナムで頭を撃ち抜かれて即死した。
「ムスリム以外は全て邪教徒なり」
 その様子を見ていたショーンはガタガタ震えて、
「こ、こりゃダメだ。交渉の余地無しだよォ……」
「シーッ!」
「む?他に誰かいるのか!?」
 テロリストはマグナムではなく、今度はマシンガンを構えて近づいて来た。
「あっ、日本人特有の無宗教って言ったら許してくれるかな?」
「『アラーを信じない罪』とか何とかいって、やっぱり撃たれるだけだからやめなさい。世の中には、自分達の神仏を信じないだけで罪と断じる宗教もあるのよ」
 尚、日蓮正宗も含む(不信謗法)。
 と、そこへ、
「おい、ムスリムが他にもいるみたいだぞ!」
 別のテロリストがやってきた。
「マジか?どこに?」
「あっちだ」
 その会話に、
(なるほど。普通のイスラム教徒も、このビルにはいたわけか。その人達は無条件で解放されるかな)
 と、ショーンは思ったが、
「ただ、シーア派だそうだが?」
「じゃあ殺せ。スンニ派以外は認めない」
「了解」
(はあ!?)
 まあ、日蓮正宗と創価学会、顕正会が相容れないのと同じことだ。
 死人が出ないだけマシというもの。
 テロリスト達が去った後、通信リンクが繋がった。
{「作戦が決まった。UAVを使用する」}
「UAV!?そんなものがこのビルにあるの?!」
{「ああ。そのビルの屋上に、週末のイベント用として置かれていたそうだ。本来UAVは無人飛行機だが、空中散歩用に2人乗れるように改造されている。それを使って脱出しろ」}
「だけど、それだと目立たない?」
{「あとのサポートはこちらで行う。とにかくキミ達は、そのビルから無事に脱出することを優先しろ」}
「了解。じゃ、屋上に行きましょう」
「簡単に行ける状態じゃないよー」
「大丈夫。ショーンは何も心配しないで。あなたは……私が守るもの」
「う、うん」
 そっと廊下を伺って、様子を伺う。
 廊下には、先ほど頭を撃たれたアジア人の死体しか無かった。
「何か作戦はあるの?」
「ほぼ間違い無く、屋上に行くまでの間、テロリストに遭遇するでしょうね」
「ええっ?」
「だから、武器は入手した方がいいと思う」
「そう簡単に手に入るかな?」
「まあ、作戦はあるけどね。こっちよ」
 2人はエレベーターホールへ向かった。
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