報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「序章」 2

2015-01-20 21:05:45 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月20日23:30.オレンジスター・シティ セントラルホテル レイチェル&コードネーム“ショーン”]

 レイチェルがシャワーを浴びている間、ショーンは机に座って日記を書いていた。
 しかしその日記は、アメリカに着いてからのものである。
 まるでアメリカに向かってからのことが、何だか夢のように思えて仕方が無かったのだ。
 自分が日本人で日本の大学に通い、アメリカへは冬休みを利用して来ていることは覚えている。
 実際、パスポートには自分の顔写真の横に自分の本名も書かれている。
 だがレイチェルからはコードネームが与えられ、基本的に名前は名乗らないか、そのコードネームを名乗るように言われた。
 但し、レンタカーを借りる時やここでホテルにチェック・インする時はパスポートのチェックもある関係で、本名を名乗っているが。
 枕元には薬が置かれている。
 アメリカ旅行の当日から、レイチェルにはこの薬を飲むように言われた。
 時差ボケを解消する為と現地での風土病を予防する薬であると……。
 しかしこれを飲むと、夢心地のような気分になるのだ。
 一瞬、危険ドラッグではないかと思ったのだが、レイチェルからは、
「大丈夫。確かに日本では流通していないけど、アメリカではちゃんと流通している薬よ。だから、日本じゃなくて、ここで飲んでもらうのね」
 と言われた。
 レイチェルが襲撃した研究所もテロリスト達の拠点となっている所で、テロ組織の殲滅の為だと言っていた。
 だからこれは正義。
 レイチェルはテロ組織に奪われたものを取り返しただけなのだと。
(だけど、この町が無くなるって……。それはいいんだろうか?)
 ショーンはテレビを見ながら疑問に思った。
 テレビでは珍しく日本のことについて紹介している。

〔「……今、日本で話題沸騰のボーカロイド“初音ミク”。アメリカからは日本観光の際、一目見ようと秋葉原のボーカロイド劇場に立ち寄るのがベタになっています」〕

「ショーン、薬飲んだ?」
 バスルームからレイチェルの声が聞こえる。
「あっ、今飲む!」
 ショーンは急いで白い錠剤2錠を飲んだ。

〔「……駅ではこんなポスターも掲示されてるんですね。

                            

 実に大人気です。皆さんも日本へ観光する時は、こういう所に立ち寄ってみてはいかがでしょうか?……」〕

 その時、初音ミクの護衛をしていると思われる女性SPの姿がチラッと写った。
「!」
 一瞬、ギラッとレイチェルの目が光ったような気がした。
「……ああ、何でもないわ。ちゃんと薬飲んだ?」
「あ、うん」
「じゃあ、あなたもシャワー浴びたら?今日は頑張ったもの。今夜はお姉さんがご褒美をあげるわよ。それとも、疲れちゃった?いいよ。どっちでも」
「何か、この町から早く出たいって気持ちで一杯で……」
「そう?もちろん、ショーンの好きにしていいよ。予定ではグレイハウンドでシカゴまで行ったら、またそこで1泊以上することになると思うから、その時に楽しんでもらってもいいしね」
「1泊以上?」
「まだ航空チケット取ってないでしょ?隣り合わせの座席が取れるまで、何泊かすることになるかもしれないわ」
「まあ……この町から出られれば……」
「シカゴは大きな町だから、そう簡単にテロリスト達に見つかるとは思えないわ。だから安心して」
「うん」
 ショーンはバスタブにお湯を入れた。
「レイチェルはシャワーだけだったの?」
「そうよ。私はそれで十分。さすがショーンは日本人ね」
「えっ?」
「日本人はお風呂が好きだって聞いたわ」
「まあ、基本毎日入ってるしね」

 ショーンが風呂に入っている間、レイチェルは通信機でどこかと通信していた。
「ええ……こちらは順調です。……はい。できれば、今月中には日本入りをしたいかと。……はい」
{「日本人のエージェントを同行させたのも、その為だ。くれぐれも、ミスの無いようにな」}
「了解です。幸い同行の彼は、そんなに強欲でもないですし、素直に私の言う事を聞いてくれる“いい子”ですわ」
{「そりゃそうだろう。あえて、そういう人間を選んだのだ。とにかく、旅行資金については、貸与しているゴールドカードを自由に使ってくれて構わない。その代わり、何度も言うが、絶対にミスを起こすことのないように。分かったな?」}
「了解しました」
 レイチェルはそう言って、電話を切った。
「うっ……」
 レイチェルの頭の中に、警告音が鳴り響く。

〔警告。まもなく、バッテリー残量30パーセント以下に到達。速やかなる充電を勧告する〕

「……分かってるわよ」

 しばらくして、ショーンがバスルームから出て来る。
「ショーン。さっきはあんなこと言って申し訳無いんだけど、私も“疲れた”から早く“寝る”ね」
「ああ。僕も疲れてるんだ。今日はもう休もう」

 寝る準備をした後にベッドに入ると、さすがに深夜0時を過ぎていた。
 隣のベッドに眠るレイチェルが実は何者なのか、具体的には分からない。
 ただ、何故か一緒に食事をしたことがない。
 飲み物も水だけだったりと、変わっている。
 そういう特異な体質だからと言われたが、食事をしないで生きられる人間なんているのだろうか。
 それに、何だかレイチェルのベッドの中から電気コードのようなものが伸びている。
 一体、これは何だろう?
 しかし、薬の副作用なのか、確認の為に起き上がろうとすると、急に眠気が襲って来た。
 それと同時に起こる倦怠感。
 隣に眠る女性のことなど、もうどうでもいいと思うような感じ。

 きっと、翌朝になれば、またどうでも良くなっているのだろう……。
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本日の動向 0120

2015-01-20 19:31:34 | 日記
 えー、“アンドロイドマスター”の続編開始です。
 序章だけでは前作とどこが繋がっているのか不明ですが、ちゃんと繋がっています。
 因みにこの序章部分は、前作の導入部分でボツになったものをアレンジして流用したものです。
 アメリカ最大の長距離バス会社、グレイハウンドが登場してきますが、これは昔バックパッカーだった知り合いの体験談を元にしています。
 作中ではレイチェルが窓口の係員に対応されていますが、実際はそんなに丁寧な対応はされないようです。
 日本人の悪い癖で、学校で習った通りの文法通りに喋らなければならないという暗示が掛かっていますが、実際はそんなことはないようで、例えば単語を並べるだけでも通じるようです。
 え?何で長距離バスなのかって?アムトラック(全米旅客鉄道公社)は登場させないのかって?
 いや、架空のオレンジスター・シティがラクーンシティをモデルにしてるからです。
 ラクーンシティは山に囲まれた地方都市で、鉄道も空港も無く、外の町からのアクセスはハイウェイ1本だけという設定なので。
 完全なる車社会ですね。
 ただ、それでも公共交通機関くらいはあるだろうと考えた結果、グレイハウンドくらいは走ってるだろうという作者の妄想です。
 実写映画ではバイオハザード発生中の町で、激突事故を起こしたグレイハウンドバスが炎上しているモブシーンがあったような……?
 原作ゲームでは、事故を起こした市街地行きの一般路線バスが登場するんですが。

 尚、序章を書いている最中は、“バイオハザード・アウトブレイク”のオープニングBGMを聴いていました。
 ここではバイオ・テロではなく、ロボット・テロなんですが、果たして前作といきなり舞台の違うアメリカが舞台になっちゃってますが、日本に舞台が移るのでしょうか?
 多分、序章はアメリカ編になると思うので、しばらくの間、お付き合いください。

 よろしくお願い致します。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 さて、ここからは普通の日記をお送りさせて頂く。
 今日は持病の潰瘍性大腸炎による通院で、1日休みを取らせて頂いた。
 いつもは泊まり勤務明けでも行けるよう、午後に予約を取っているのだが、諸事情により、今回は午前中となった。
 さすがに午前の部は午後の部より混んでいる。
 いくら予約制とはいえ、なかなか時間通りに行くものではない。
 ただ、長く通っていると、だいたいどのくらいで呼ばれるのか見当が付けられるようになるのである。
 実際その通りだった。
 私の場合、採血してその1時間後に検査結果を見ながら、担当の先生に診察してもらう形式なので、採血してから1時間のブランクがあることになる。
 この場合、午後の部だったら昼食を取るのだが、今回は遅い朝食ということになる。
 病院の食堂で朝食を食べるのは初めてだ。
 私にはちょうど良いボリュームだが、大食漢には物足りないかもだ。
 ところで私の担当の先生、たまに裏情報なんかも教えてくれる。
 私のケータイ料金プランで、私のような難病患者なら、障害者と同じハーティ割引が受けられるなどの情報をくれたりもした。
 なので、これでだいぶ安く上げている……はずだ。
 困ったのは、その肝心の特定疾患医療給付証。
 内容が変わって、自己負担額が上がってしまった。
 具体的には薬代が無料だったのだが、自己負担を強いられるようになった。
 まあ、せいぜい高くても2000〜3000円くらいだろうと思っていたのだが、いざ調剤薬局に行ってみてびっくり。
「高っ!?」
 と思った自己負担額だった。
 マジかよ。
 見舞金廃止の上、自己負担こんな高いって……。
 しかもちゃんと診療報酬と薬代、帳尻合わせで、自己負担額通りになっていやがる。
 私の場合は上限額1万円であるが、つまりピッタリそれを取られたというわけだよ。ハハハハ……(乾)
 で、担当医の先生の話によれば、そもそもこの制度もあと3年で廃止ではないかとのことだ。
「安倍総理も同じ病気なのに!?」
 と、私が聞いたら、先生は、
「安倍総理だから、あと3年くらいだと思っています。よっぽどのことが無い限り、安倍政権はあと3年くらい続くでしょう?他の人が総理になったら、潰瘍性大腸炎は給付の対象から外されるでしょう」
 とのこと。
 つまり見舞い金廃止やこの自己負担額は、その為の布石か?
「どうして外されるのですか?」
「本来は多くても1万人くらいの難病患者を支援する制度です。ところが今や潰瘍性大腸炎の患者数は、既にその16倍、16万人もいるんです。とてもそんなに面倒見切れないということでしょう」
「ええー……」
「逆を言えば、そろそろ治療法も確立されつつあるし、患者数の多さからして、いわゆる奇病の類でも無くなって来た。ま、一般的になってきた。だからでしょう」
 そうは言っても薬代が高いんだよなぁ……。
 実は私、この病気になってから、すぐ医療給付の申請をしたわけではない。
 最初は普通に社会保険3割負担でやっていた。
 そしたら診療報酬だけで2000〜3000円は取られていたし、薬代に至っては1万円以上掛かっていた。
 1ヶ月で、である。
 それと比べたらバカみたいに自己負担が軽くなって、病気も軽くなっていくような気がしたのだが、本当にバカだと思われたらしく、厚労省に嗅ぎ付けられたようだ。
 いや、非常に参る話である。

 帰り際は区役所によって、住民票の写しを請求。
 警備検定に合格したので、それはそれで色々と必要書類を集めなければならなかったのだ。
 薬代に想定額の2〜3倍掛かったので、昼食代はケチってマック。
 さすがにナゲットは食う気になれなかった。
 長生きしようとは思わないが、もし叫喚地獄に落ちた際、待ち構えていたキノに、
「作者!おめェ、バカだろ!」
 なんて言われそうなのでw

 自己負担増額は痛いが、そもそも給付対象から外れるのはもっと痛いなぁ……。
 民主党にはとっとと政権降りてもらって正解だったのか。
 んで、この前の衆院選、自民党に入れておいて、一応は正解だったのか。
 危ねぇ、危ねぇ。
 ん?ああ、最高裁判事は全員クビ♪
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“新アンドロイドマスター” 「序章」

2015-01-20 14:07:31 | アンドロイドマスターシリーズ
[現地時間2015年1月20日20:00.アメリカ合衆国イリノイ州の地方都市郊外 ???]

 “バイオハザード”というホラーアクションゲームがある。
 アメリカ合衆国中西部にあるという架空の地方都市、ラクーンシティという町を舞台にしたものだ。
 それは発売元の日本はおろか世界中でも大反響を呼び、シリーズ化され、ゲームだけでなく、小説化やCDドラマ化など他のメディアにも進出した。
 ミラ・ジョヴォビッチが主演女優を務めた実写映画においても、シリーズ化されるなどの人気を呼んでいる。
 日本においては朝鮮玉入れパチスロにもなったが、作者はそれで何万円をスられたトラウマ台である
 現在のシリーズにおいては、もはやラクーンシティはバイオ・テロの発端となり、今は消滅した過去の都市という扱いになっているが、もしそれが実在するとしたなら、このような町なのだろうか。

「強盗だ!」
「侵入者だ!」
 ラクーンシティの郊外の山中には、洋館を模した秘密の研究所があったが、この町の外れの森の中にもそれはあった。
 但し、ゲームや映画の世界と違い、それはウィルスを開発する研究所ではない。
 ウィルスどころか、バイオ(生物)関係の研究所ではなかった。
 では、何の研究所なのか。

 建物内にマシンガンやライフルを発砲する音が響き渡る。
「これよこれ。ドクター・ウィリアムの最後の遺品、頂いて行くわ。ほら、皆!ここの人間共は皆殺しよ!」
 リーダーと思しき者は白人女性。
 それもその姿は……。
「お前はアリス・フォレスト!?何故、ここへ……!?ぐわっ!」
 ある研究員がその女の姿を見て驚愕したが、すぐに女の率いる人型ロボットに射殺されてしまった。
「とっとと引き上げるよ!」
 だが、研究所のセキュリティシステムもバカではない。
 1度は破壊されたのだが、すぐに自己修復機能が働き、思いの外早く復旧した。
 隔壁を閉じ、高圧レーザービームが侵入者達を襲う。
「くそっ!」
 次々にやられる手下達。
 女は隔壁を破壊すると、研究所の外に脱出した。
 そして追っ手が振り切れたところで、
「ふんっ!」
 頭に被っていたマスクを取った。
 ウェーブの掛かった金髪はウィッグで、実際その下の髪は黒に近い茶色。
 マスクを取ると、その下の顔は全くの別人だった。

「レイチェル!どうだった?」
 別の場所で落ち合ったのは、アジア系の青年。
「バッチリよ」
 青年が運転する車に乗り込み、すぐに車が走り出した。
「追っ手を振り切るぞ」
 青年は車のアクセルを踏み込む。
「慌てなくても大丈夫よ。ギミックが反対方向に逃げたから、そっちの方に向かってるはず」
 レイチェルと呼ばれた女は、焦げ茶色の髪を後ろに結びながら言った。
「そ、そう?で、首尾は?」
「これね」
 ポケットの中から出したのは、小さなUSBメモリーのようなもの。
「こんな小さな物の為に、多くの人の血が流れるのか……」
 青年は肩を落とすように言った。
「でもこれをあの研究所の所に置いたままじゃ、それ以上の血が流れる。日本の諺に『肉を切らせて骨を断つ』という言葉があるでしょう?それよ」
「うん。ま、まあ、とにかく、あとはなるべくこの町から離れて……」
「いや、逆にそれは違うわ」
「えっ?」
「今頃研究所は、町の外に出る道路を一斉捜索しているでしょう。逆に今は町に留まるべきだと思う」
「そうなのかい?でも、それだといつまで経っても……」
「大丈夫。任せて。まずはこの車をショップに返しましょう」
「あ、ああ」

[同日22:00.地方都市・郊外のレンタカーショップ レイチェル&???]

「おや?彼女と夜のドライブはもういいのかい、お客さん?」
 レンタカーショップの黒人オーナーはニヤけた顔をしていた。
「ああ。ビジネスに借りただけだからね」
 青年はオーナーのフザけを受け流しながら答えた。
「へへっ、そうかい?なかなか、ここに日本人のお客さんが来るのは無いよ。じゃあ、ここにサインして」
 青年は話す英語も流暢ながら、サラサラと走らせるペンのアルファベットも流暢だった。
「へい、毎度。夜はどうするの?今なら特別サービスでモーテル紹介するよ?」
「いや、大丈夫。もう泊まる所は確保してる」
 青年はそれだけ言うと、レンタカーショップをあとにした。
 店舗前の公道にはレイチェルが黄色いタクシーを止めていて、
「“ショーン”早く!」
 トランクにキャリーバックを乗せていた。
「分かったよ」
 荷物を乗せ終わると、タクシーに乗り込み、
「セントラル・ホテルまでお願い」
「OK.セントラル・ホテルね」
 黒人運転手は頷くと市街地に向けて走り出した。

〔「……たった今入ったニュースです。オレンジスター・シティの郊外、バーレイ山中にあるジョン&ベスタ―工業の研究所でテロがあり、所内の関係者全員が死亡するという事件が発生しました。犯人は依然逃走中で、ハイウェイをポストン方面へ向かっていると見られています。警察では……」〕

 タクシーのラジオから、ニュースが流れて来る。
「うわあ、本当に逃げてるんだぁ……」
 恐らく本名ではあるまい。
 しかし、レイチェルから『ショーン』と呼ばれた青年は、英語以上に流暢な日本語で呟いた。
「シッ」
 それを黙らせるレイチェル。

 だいたい15分くらい走った所で、車窓には眩しいネオンサインが目立つようになる。
 もう少しでホテルという所で、バスターミナルから1台の大型バスが出て来るのに遭遇した。
 フロント上の行き先には、当然英語で『シカゴ』と書いてあった。
 そのバスの横っ腹には、駆ける大きな犬のような絵が書いてある。
「昔、日本であの絵が描いてあったバスで観光した記憶がある」
 と、言った。
「あれはグレイハウンドね。恐らく、今日最後のシカゴ行きだわ」
 レイチェルが言った。

[同日22:30. オレンジスター・シティ市街地 セントラル・ホテル レイチェル&コードネーム“ショーン”]

 ホテルのツインルームにチェック・インした2人。
「申し訳無いけど、もう1ヶ所付き合ってくれない?」
 荷物を置いてやれやれとベッドに座る“ショーン”。
 テレビを点けてホッとした時、レイチェルが言ってきた。
「えっ、どこに?」
「さっき、タクシーでここに来る時、バスターミナルの横を通ったでしょ?明日、さっきのグレイハウンドでこの町を出るから、今のうちにチケットを買ってこようかと思ってね。大丈夫。お金ならあるから」
 レイチェルはウインクして言った。
「えっ、もう?確かに時間差だけど、ちょっと早くない?2~3日くらいはいた方が……」
「大丈夫よ。私達は、明日中にこの町を出なくてはならないの」
「どうして?」
 レイチェルは顔を近づけて、“ショーン”に耳打ち。
「明日の夜からその次の朝にかけて、この町は無くなっている」
「は!?」
「だからね。行きましょ」
「…………」
 “ショーン”は信じられないといった顔で、レイチェルに手を引かれた。

[同日22:45.オレンジスター・シティ 中央バスターミナル・グレイハウンド乗り場 レイチェル&コードネーム“ショーン”]

 ホテルからバスターミナルまでは徒歩圏内ではある。
 だが、いくら比較的治安の良い地方都市だからといって、安易に深夜出歩いて良いものだろうかと“ショーン”は思った。
 もっとも、マシンガンやライフルを平気で発砲する女だ。
 強盗なんかが現れたら、即座に射殺するくらいのことはするだろう。
 そもそも、パトカーがやたら市街地をパトロールしているので、強盗達も犯行不能かもしれない。
 深夜だというのにパトカーのスピーカーからは、

〔「こちらはオレンジスター・シティ警察です。バーレイ山中におきまして、凶悪なテロ事件が発生しております。テロリストが町の中に潜伏している恐れがあり、警戒を強化しています。住民の皆さんにおかれましても、十分に警戒を行ってください。不審者を発見した場合は、直ちに警察へ連絡を。繰り返します。……」〕

 なんて、がなり立てているし、更に近くでは、
「おい、その銃は何だ?」
 白人警官2名が、黒人青年に職務質問をしていた。
「い、いや、護身用だよぉ……」
「許可証は?」
「ちょ、ちょっと家にあって……!」
「じゃあ、ダメだ。不法所持の現行犯だ。署まで連行する」
「そ、そんな!」
「許可証の携帯は条例で決められていることは知ってるだろう?」
「だ、だから、家に忘れてきちゃったんだよぉ!」
 なんてやっていた。
「レイチェルの武器は大丈夫なの?」
 “ショーン”が聞くと、レイチェルは得意げに、
「任せて。私の武器は、そう簡単に見つからないから」
 そう言ってまたウィンクした。
 一般路線バスはどうなのか分からないが、長距離バスも発着しているターミナルは24時間営業らしい。
 グレイハウンドの窓口に行くと、
「えー、お2人様ね。どこまで行かれるの?」
 黒人の中年女性が眼鏡を押し上げて聞いて来た。
「明日の午前中に出て、次の日の午後に大きな町に着く便は無いかしら?それも、国際空港のある町」
 レイチェルが係員に言った。
「んーと……それなら……。明日の10時発で、シカゴ行きがありますわ。シカゴには15時到着ですわね」
「じゃあ、それお願い。支払いはカードで」
「はい」
 レイチェルが出したのは、金ピカのカード。
 “ショーン”は見たことがないが、ゴールドカードはVIP用だと聞いたことがある。
 そう言えば件のレンタカーも、ホテルの宿泊料金も、皆このカードで支払っていた。
 タクシーだけは現金払いだったが(カードの使えない車だったのか、それとも運転手にチップを払う為だったのかは分からない)。
「じゃあ、帰りましょう」
「うん」
 2人はバスターミナルを出ると、宿泊先のホテルに戻った。

 たった徒歩圏内の場所を往復しただけなのに、すれ違ったパトカーは1台や2台ではなかった。
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