[1月20日23:30.オレンジスター・シティ セントラルホテル レイチェル&コードネーム“ショーン”]
レイチェルがシャワーを浴びている間、ショーンは机に座って日記を書いていた。
しかしその日記は、アメリカに着いてからのものである。
まるでアメリカに向かってからのことが、何だか夢のように思えて仕方が無かったのだ。
自分が日本人で日本の大学に通い、アメリカへは冬休みを利用して来ていることは覚えている。
実際、パスポートには自分の顔写真の横に自分の本名も書かれている。
だがレイチェルからはコードネームが与えられ、基本的に名前は名乗らないか、そのコードネームを名乗るように言われた。
但し、レンタカーを借りる時やここでホテルにチェック・インする時はパスポートのチェックもある関係で、本名を名乗っているが。
枕元には薬が置かれている。
アメリカ旅行の当日から、レイチェルにはこの薬を飲むように言われた。
時差ボケを解消する為と現地での風土病を予防する薬であると……。
しかしこれを飲むと、夢心地のような気分になるのだ。
一瞬、危険ドラッグではないかと思ったのだが、レイチェルからは、
「大丈夫。確かに日本では流通していないけど、アメリカではちゃんと流通している薬よ。だから、日本じゃなくて、ここで飲んでもらうのね」
と言われた。
レイチェルが襲撃した研究所もテロリスト達の拠点となっている所で、テロ組織の殲滅の為だと言っていた。
だからこれは正義。
レイチェルはテロ組織に奪われたものを取り返しただけなのだと。
(だけど、この町が無くなるって……。それはいいんだろうか?)
ショーンはテレビを見ながら疑問に思った。
テレビでは珍しく日本のことについて紹介している。
〔「……今、日本で話題沸騰のボーカロイド“初音ミク”。アメリカからは日本観光の際、一目見ようと秋葉原のボーカロイド劇場に立ち寄るのがベタになっています」〕
「ショーン、薬飲んだ?」
バスルームからレイチェルの声が聞こえる。
「あっ、今飲む!」
ショーンは急いで白い錠剤2錠を飲んだ。
〔「……駅ではこんなポスターも掲示されてるんですね。
実に大人気です。皆さんも日本へ観光する時は、こういう所に立ち寄ってみてはいかがでしょうか?……」〕
その時、初音ミクの護衛をしていると思われる女性SPの姿がチラッと写った。
「!」
一瞬、ギラッとレイチェルの目が光ったような気がした。
「……ああ、何でもないわ。ちゃんと薬飲んだ?」
「あ、うん」
「じゃあ、あなたもシャワー浴びたら?今日は頑張ったもの。今夜はお姉さんがご褒美をあげるわよ。それとも、疲れちゃった?いいよ。どっちでも」
「何か、この町から早く出たいって気持ちで一杯で……」
「そう?もちろん、ショーンの好きにしていいよ。予定ではグレイハウンドでシカゴまで行ったら、またそこで1泊以上することになると思うから、その時に楽しんでもらってもいいしね」
「1泊以上?」
「まだ航空チケット取ってないでしょ?隣り合わせの座席が取れるまで、何泊かすることになるかもしれないわ」
「まあ……この町から出られれば……」
「シカゴは大きな町だから、そう簡単にテロリスト達に見つかるとは思えないわ。だから安心して」
「うん」
ショーンはバスタブにお湯を入れた。
「レイチェルはシャワーだけだったの?」
「そうよ。私はそれで十分。さすがショーンは日本人ね」
「えっ?」
「日本人はお風呂が好きだって聞いたわ」
「まあ、基本毎日入ってるしね」
ショーンが風呂に入っている間、レイチェルは通信機でどこかと通信していた。
「ええ……こちらは順調です。……はい。できれば、今月中には日本入りをしたいかと。……はい」
{「日本人のエージェントを同行させたのも、その為だ。くれぐれも、ミスの無いようにな」}
「了解です。幸い同行の彼は、そんなに強欲でもないですし、素直に私の言う事を聞いてくれる“いい子”ですわ」
{「そりゃそうだろう。あえて、そういう人間を選んだのだ。とにかく、旅行資金については、貸与しているゴールドカードを自由に使ってくれて構わない。その代わり、何度も言うが、絶対にミスを起こすことのないように。分かったな?」}
「了解しました」
レイチェルはそう言って、電話を切った。
「うっ……」
レイチェルの頭の中に、警告音が鳴り響く。
〔警告。まもなく、バッテリー残量30パーセント以下に到達。速やかなる充電を勧告する〕
「……分かってるわよ」
しばらくして、ショーンがバスルームから出て来る。
「ショーン。さっきはあんなこと言って申し訳無いんだけど、私も“疲れた”から早く“寝る”ね」
「ああ。僕も疲れてるんだ。今日はもう休もう」
寝る準備をした後にベッドに入ると、さすがに深夜0時を過ぎていた。
隣のベッドに眠るレイチェルが実は何者なのか、具体的には分からない。
ただ、何故か一緒に食事をしたことがない。
飲み物も水だけだったりと、変わっている。
そういう特異な体質だからと言われたが、食事をしないで生きられる人間なんているのだろうか。
それに、何だかレイチェルのベッドの中から電気コードのようなものが伸びている。
一体、これは何だろう?
しかし、薬の副作用なのか、確認の為に起き上がろうとすると、急に眠気が襲って来た。
それと同時に起こる倦怠感。
隣に眠る女性のことなど、もうどうでもいいと思うような感じ。
きっと、翌朝になれば、またどうでも良くなっているのだろう……。
レイチェルがシャワーを浴びている間、ショーンは机に座って日記を書いていた。
しかしその日記は、アメリカに着いてからのものである。
まるでアメリカに向かってからのことが、何だか夢のように思えて仕方が無かったのだ。
自分が日本人で日本の大学に通い、アメリカへは冬休みを利用して来ていることは覚えている。
実際、パスポートには自分の顔写真の横に自分の本名も書かれている。
だがレイチェルからはコードネームが与えられ、基本的に名前は名乗らないか、そのコードネームを名乗るように言われた。
但し、レンタカーを借りる時やここでホテルにチェック・インする時はパスポートのチェックもある関係で、本名を名乗っているが。
枕元には薬が置かれている。
アメリカ旅行の当日から、レイチェルにはこの薬を飲むように言われた。
時差ボケを解消する為と現地での風土病を予防する薬であると……。
しかしこれを飲むと、夢心地のような気分になるのだ。
一瞬、危険ドラッグではないかと思ったのだが、レイチェルからは、
「大丈夫。確かに日本では流通していないけど、アメリカではちゃんと流通している薬よ。だから、日本じゃなくて、ここで飲んでもらうのね」
と言われた。
レイチェルが襲撃した研究所もテロリスト達の拠点となっている所で、テロ組織の殲滅の為だと言っていた。
だからこれは正義。
レイチェルはテロ組織に奪われたものを取り返しただけなのだと。
(だけど、この町が無くなるって……。それはいいんだろうか?)
ショーンはテレビを見ながら疑問に思った。
テレビでは珍しく日本のことについて紹介している。
〔「……今、日本で話題沸騰のボーカロイド“初音ミク”。アメリカからは日本観光の際、一目見ようと秋葉原のボーカロイド劇場に立ち寄るのがベタになっています」〕
「ショーン、薬飲んだ?」
バスルームからレイチェルの声が聞こえる。
「あっ、今飲む!」
ショーンは急いで白い錠剤2錠を飲んだ。
〔「……駅ではこんなポスターも掲示されてるんですね。
実に大人気です。皆さんも日本へ観光する時は、こういう所に立ち寄ってみてはいかがでしょうか?……」〕
その時、初音ミクの護衛をしていると思われる女性SPの姿がチラッと写った。
「!」
一瞬、ギラッとレイチェルの目が光ったような気がした。
「……ああ、何でもないわ。ちゃんと薬飲んだ?」
「あ、うん」
「じゃあ、あなたもシャワー浴びたら?今日は頑張ったもの。今夜はお姉さんがご褒美をあげるわよ。それとも、疲れちゃった?いいよ。どっちでも」
「何か、この町から早く出たいって気持ちで一杯で……」
「そう?もちろん、ショーンの好きにしていいよ。予定ではグレイハウンドでシカゴまで行ったら、またそこで1泊以上することになると思うから、その時に楽しんでもらってもいいしね」
「1泊以上?」
「まだ航空チケット取ってないでしょ?隣り合わせの座席が取れるまで、何泊かすることになるかもしれないわ」
「まあ……この町から出られれば……」
「シカゴは大きな町だから、そう簡単にテロリスト達に見つかるとは思えないわ。だから安心して」
「うん」
ショーンはバスタブにお湯を入れた。
「レイチェルはシャワーだけだったの?」
「そうよ。私はそれで十分。さすがショーンは日本人ね」
「えっ?」
「日本人はお風呂が好きだって聞いたわ」
「まあ、基本毎日入ってるしね」
ショーンが風呂に入っている間、レイチェルは通信機でどこかと通信していた。
「ええ……こちらは順調です。……はい。できれば、今月中には日本入りをしたいかと。……はい」
{「日本人のエージェントを同行させたのも、その為だ。くれぐれも、ミスの無いようにな」}
「了解です。幸い同行の彼は、そんなに強欲でもないですし、素直に私の言う事を聞いてくれる“いい子”ですわ」
{「そりゃそうだろう。あえて、そういう人間を選んだのだ。とにかく、旅行資金については、貸与しているゴールドカードを自由に使ってくれて構わない。その代わり、何度も言うが、絶対にミスを起こすことのないように。分かったな?」}
「了解しました」
レイチェルはそう言って、電話を切った。
「うっ……」
レイチェルの頭の中に、警告音が鳴り響く。
〔警告。まもなく、バッテリー残量30パーセント以下に到達。速やかなる充電を勧告する〕
「……分かってるわよ」
しばらくして、ショーンがバスルームから出て来る。
「ショーン。さっきはあんなこと言って申し訳無いんだけど、私も“疲れた”から早く“寝る”ね」
「ああ。僕も疲れてるんだ。今日はもう休もう」
寝る準備をした後にベッドに入ると、さすがに深夜0時を過ぎていた。
隣のベッドに眠るレイチェルが実は何者なのか、具体的には分からない。
ただ、何故か一緒に食事をしたことがない。
飲み物も水だけだったりと、変わっている。
そういう特異な体質だからと言われたが、食事をしないで生きられる人間なんているのだろうか。
それに、何だかレイチェルのベッドの中から電気コードのようなものが伸びている。
一体、これは何だろう?
しかし、薬の副作用なのか、確認の為に起き上がろうとすると、急に眠気が襲って来た。
それと同時に起こる倦怠感。
隣に眠る女性のことなど、もうどうでもいいと思うような感じ。
きっと、翌朝になれば、またどうでも良くなっているのだろう……。