報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「主人公不在の中で」

2015-01-04 19:27:37 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[現地時間2015年1月1日10:00.地獄界・叫喚地獄 蓬莱山鬼之助]

「ったく。復職の仕事始めがVIP対応とはな……」
 キノは帯刀して、地獄界のある場所に向かった。
 上には黒い羽織りを羽織っている。
 キノが向かった先は、冥界鉄道公社の駅。
 地獄界の各所に流れている三途の川のほとりに、冥鉄のホームはある。
 そこに向かうまでの間、多くの亡者達がまるでゾンビの大群のように歩いていた。
 人の多さに関してだけなら、朝ラッシュの東京駅や新宿駅なみだ。
 違うのはそれが生きてる人間か、死んでる人間かの違いだ。
 いつもいつも、混んでいるわけではない。
 それが正月早々朝ラッシュのような状態になっているのは、ひとえに人間界で多くの人が死んだという事態が発生したことを意味している。
「せっかく叫喚地獄を魔族共の手から守ったのに、いきなり正月から緊急体制とはな……」
 キノは亡者の大群を軽い身のこなしで交わしながら、駅に向かった。

 たった一面一線(単線にホームが1つだけ)の叫喚地獄駅。
 それは地獄界行きの列車が下りのみの運転で、上り(人間界行き)は運転されないことを意味している。
「ったく!朝ラッシュの山手線じゃねーんだからよォ!」
 キノはメチャ混みの駅の状態に閉口していた。
「オラぁッ!モタモタすんな!とっとと歩け!」
「そこっ!足を止めるな!!」
 整理役(?)の獄卒は下級の者しかおらず、上級の地位にいるキノとは明らかにラフな格好をしている。
 キノが黒い羽織りに黒い袴姿なのに対し、鬼達は上半身裸だったり、タンクトップ1枚だったりする。
 また、手に持っているものも金棒が多かった。
「……いや、もし人間界が平和だったら、有名寺社の最寄り駅もこんな感じだったか……」
 何とかしてホームに辿り着く。
 一応、電車は頻繁運転しているらしく、ホームに停車している電車のすぐ後ろ(場内信号手前)では、次の電車がホームの空きを待っている。
 先行電車がやっと発車して、後続の電車がやってきた。
 降りるだけで乗車は無いはずなのだが、そもそも体が腐り掛けた状態での降車だけに、足を引きずって降りる亡者が多い。
 中にはそうでない者もいるが、自分の置かれた状況を理解してか、降車を拒むのだ。
 それを獄卒達が引きずり降ろすのである。
 もっとも、ここで抵抗して降りなくても、電車は進む度に下層に行くため、最終的には無間地獄に行くことになるのだが。
「この野郎!とっとと降りやがれ!!」
 1人の下級獄卒がきれいな(ほとんど生きたままの)姿をしている亡者に向かって金棒を振り上げた。
「ちょっと待てや」
 そこを後ろからキノが蹴りを入れてどつく。
「ぶっ!」
 獄卒は前のめりに倒れた。
「何する……って、鬼之助さん!?」
 獄卒はキノの姿を見て驚いた。
「そいつはいい。VIP待遇だ。オレに任せろ」
「は、はあ……」
「それより、お前はあそこに張り付いてる亡者を何とかしたらどうだ?」
 キノが指さした所には、先頭車の運転室の後ろにへばりついている亡者がいた。
「でへへへへ……。も、モノホンのモハ63系なんだな……」
「くぉらっ!キモヲタの貴様は冥鉄電車引きずりの刑だ!!」
 獄卒はキモヲタの亡者を電車から引きずり降ろし、電車の1番後ろに連行した。
「……お前も電車好きだろうに、よく普通でいられたな?」
 キノは驚いた顔をして自分の顔を見つめる亡者を見て言った。
「き、キノ!?ぼ……僕はどうして……!?」
「バーカ。もう粗方分かってんだろー?お前は死んだんだよ」

[2015年02:52.静岡県富士宮市・市街地 マリアンナ・スカーレット、威吹邪甲、威波莞爾、稲生ユウタ]

「いやあああああああああああああああああっ!!」
 亡骸と化したユタの前で慟哭するマリア。
 涙を堪えながら、大火の起こる町中で跋扈する魔族達を斬り捨てる威吹。
「くそっ!次から次へと……!富士山は噴火していないのに、一体魔界の穴はどこに!?」
 カンジもまたいつものポーカーフェイスを無くし、人間形態から妖狐の姿に正体を表して対応していた。

[同日同時刻 同市内上条 大石寺 藤谷春人&藤谷秋彦]

 大石寺に向かって走る1台の路線バス。
 地元のバス会社の物だが、何故か運転席にいるのは藤谷春人。その横にいるのは父親の秋彦だった。
 車内は満員で、明らかに定員オーバーなくらいである。
「春人、もうこの辺でいい。ここならもう安全だろう」
 秋彦は春人に言った。
「ういっス」
 春人は三門の前にバスを止めた。
「助かったー!」
「ありがとうございます!」
 ドアを開けると、市民達が次々に降りて行く。
 大石寺周辺は、まだ安全のようだ。
 そこから市街地の方を見ると、燃え盛る炎で夜空が焦げていた。
 藤谷親子は市街地で魔族達の襲撃に遭い、威吹達ともはぐれたが、偶然そこへ避難後のせいか、乗り捨てられている路線バスを見つけ、それで大石寺に避難することにしたのである。
 但し、途中で逃げ遅れた市民達をピックアップしながらである。
 藤谷親子は建設会社の役員で、特に息子の春人は今でも大型ダンプカーを運転する機会もあり、大型自動車免許を持っていた。
 それが避難時に大いに役に立ったというわけだ。
「くそっ!これじゃ、元旦勤行は中止かよ!ツイてねー!」
「だが、逆に異変の鎮静化を御本尊様に御祈念する機会でもある。避難民は境内にでもいてもらえばいい。どうやら街中に現れた化け物達も、正法の寺院には入れないらしいからな」
「とんだ年明けだぜ!稲生君は無事かな?」
「威吹君達のような、百戦錬磨の猛者達に囲まれてるんだ。大丈夫だろう。諸事情により脱講してしまったが、勧誡の余地のあるコを見捨てはせんさ」
 秋彦は三門を見ながら言った。
「そうだな。ここへ来たのも俺達の元旦勤行だけでなく、せめて稲生君にもその雰囲気を味わってもらいたいというのもあったんだ。まさかいきなり、“バイオハザード”のハンターみたいなヤツが襲ってくるとは思わなかったが……」
「そうだな」

[同年月日同時刻 叫喚地獄 蓬莱山鬼之助&稲生ユウタ]

「聞いた話、お前はイブキ達の隙をついて襲って来た爬虫類の化け物に、鋭い爪で心臓を一突きされて死んだ。首都圏に現れた奴らはザコ同然なんだが、どういうわけだか、静岡県に現れた連中は、それぞれが中ボスを張れるくらいの強さだ」
「キノがここにいるってことは、ここは地獄界……」
「そうだ。オレんちの近くだよ。はははっ!残念だったな!あんなに一生懸命ホトケ様を拝んでたのに、オレんちの近くに来るとはよ!」
 ユタはorzの体勢になって、
「ううう……」
 泣き出した。
「だが、逆に運はいいかもしれねーぜ。どうしてオレがここにいるか分かるか?」
「え?」
「江蓮に頼まれたんだよ。『何とかユタを救ってくれ』ってよ」
「それで撲を……?」
「ああ」
「ありがとう……って、良いのか……」
「好きにしろ。もっとも、『地獄に仏』なんて思わない方がいいぜ。オレは別にお前を助けたくて来たんじゃねぇからよ」
「えっ?」
「とにかく、話は後だ。まずはオレん家に来い」
「う、うん……」
 2人は亡者達でごった返す駅をあとにした。
コメント (4)
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