報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「フィールド・テスト実施中」

2014-09-16 20:05:37 | アンドロイドマスターシリーズ
 ※今日の地震には驚かされたものだが、これが今日の運勢に対してケチ付けの始まりとなった。詳細は省くが、持病の検査の結果が芳しくなく、処方薬が1種類増やされてしまった。毎度毎度、罰の体験発表しかできないが、これが現状だ。私は“となりの沖田くん”は信用していない。

[9月15日17:30.都区内某所 敷島孝夫、鏡音リン・レン、シンディ]

「シンディ、覚えてるか?もうさすがに取り壊されて、今は別の地所会社によって、新しいビルが鋭意建築中だけどな」
 敷島はあえて、シンディの負の記憶が残る場所をあえて歩いた。
 敷島が連れてきたのは、都区内某所にあるオフィス街。
「灯台下暗しという諺すらぬるかったよ。まさかウィリーが、ここに建っていた高層ビルの屋上にいたなんてな」
「フン……」
 シンディは敷島の言葉に、腕組みをして眉をひそめた感じになった。
「覚えてるよな?ここの部分のメモリーは残ってるはずだ」
「ええ、覚えてるわよ。……今朝会ったメイドロボットが、生意気にも私に立ち向かってきたから、返り討ちにしてやったわ」
「その原因も分かってるんだろうな?」
「分かってる」
 シンディが左すねに仕掛けているナイフで、平賀太一を刺したからである。
 七海が防衛の為に、攻撃力に雲泥の差があるにも関わらず、勇敢に立ち向かったというのが敷島達側からの見解である。
「よし。じゃ、次に行こう」
「いいんですか?」
 レンが意外そうな顔をした。
「シンディがここで犯した罪は、それだけじゃないんでしょう?」
 レンとて、シンディに拉致され、監禁された被害経験を持つ。
 シンディの言動や立ち居振る舞いは、処分前と大して変わらない。
「ええ。リミッター故障で、ウィリアム博士を刺し殺した。人間なら都合良く忘れられるんでしょうに、残念だわ」
「……反省してないの?」
 リンが恐る恐る聞いた。
 シンディがあまりにも軽い様子で言ったからだ。
「してるわよ。でも、したところでウィリアム博士が生き返るわけでもないし、平賀のお坊ちゃん……もとい、平賀太一博士は私を許さないでしょう」
「平賀太一先生は、お前が……というより、ウィリーが許せない。その一環で、お前やアリスも嫌ってるだけなんだがな」
「ドクター南里が可愛がってたエミリーと同型の姉妹機だもんね。あまり声が上げられなくて大変だね」
「よく見てるな。だけども、余計な一言が多いぞ」
「大丈夫。本人の前では言わないから」
「お前なぁ……」
 敷島は呆れた。
「次はどこに行くの?」
「そうだな……」

 敷島は最後にシンディが廃棄処分された工場に足を運んだ。
 無論、当時のボディは今頃、どこかの埋立地にでも埋められてるだろう。
 しかし、シンディに限らず、財団御用達のスクラップ工場ということもあって、ロボット達からは『処刑場』とも呼ばれている。
「敷島参事。今日はもう営業が終わりましたが……」
 中から顔なじみとなった工場長が出てきた。
「いえ、ちょっと近くまで来たので寄ってみただけです。今日はもう帰ります」
「あなた、どういう関係なの?」
 シンディが不審そうな顔をした。
「知りたいか?財団の総務部員の仕事の1つが、お前達に対して『処刑』する書類を作成してハンコを押すことでもあるんだよ。もっとも、前のお前は理事レベルでの決定事項だったけどな」
「……じゃあ、もしまた私が悪さをしたら、ここに連れて来られるのね」
「そういうことになるかな。まあ、お前だけじゃないけどな」

[同日21:00.JR中央快速線上り電車内 敷島、リン・レン、シンディ]

「あれ?兄ちゃん寝てるー」
 オレンジと茶色の座席に腰掛けてる敷島は、座席脇の白い仕切り板に頭をもたげて眠っていた。
「夜行バスで来て、それからずっと歩きっぱなしだったもんね。じゃあ、恒例のアレを……」
 リンはポケットの中から黒いマジックペンを出した。
 ファンからサインを頼まれた時用に持ち歩いているものである。
 それで敷島の顔を落書きするというイタズラだ。
「そんな所にサインするヒマがあったら、あのコ達にサインあげたら?」
 シンディは口角を上げながら、少し離れた所でリンやレンを見ている女子高生達を指さした。
「うん、それもそうだね」
 リンが離れると、敷島は目を開けた。
「絶妙だな、シンディ?」
「これくらいはね」
 シンディは片目を閉じた。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、東京、東京です。お出口は左側に変わります」〕

 電車が東京駅のホームに滑り込んだ。
「じゃあ、降りるとするか」
 敷島は席を立った。
 相変わらず、手にはアリスが持たせたグレネード弾とデコイの入ったアルミケースがある。
 1度も使わないままだ。
 テロリストに使うか、もしくはシンディに使うかもしれないと思ったが、何とか大丈夫そうだ。

[同日21:25.JR東京駅・東北新幹線ホーム 敷島、リン・レン、シンディ]

 入線してきたE5系“はやぶさ”を見た敷島が一言、
「うん。初音ミクだ」
「髪とヘッドセットだけでしょお?」
 シンディが突っ込んだ。
「アリスの交渉力のおかげなのか、ボーカロイドの中で堅実に稼ぐリンとレンのおかげなのか、グリーン車で良かったよ」
 敷島は3連休最後の夜ということもあってか、長蛇の列ができている普通車の方を見た。
「ミクちゃんに続く稼ぎ手なんじゃない?」
「えへへー!それほどでもー!」
 シンディの言葉に得意げに笑うリン。
「おかげで仙台まで一眠りできるな」
「いいの?」
「何が?」
「よくこんな人型兵器の横で寝ようとするわね。いつ私が反旗を翻して、あなたを襲うか分からないよ?」
「その時はその時だ。多分、今のお前は何もしないだろうさ」
「何を根拠に?」
「根拠ならあるさ。……まだ、ドアは開かないな?」
 敷島は車内で折り返し清掃作業をしている作業員達と、ホームに吊り下げられている信号機を見比べた。
 ホームから吊り下げられている赤と白の信号機は、実は清掃作業の進捗状況を表している。
 赤だと作業中、白だと作業終了となり、ドアが開く。
 敷島は自分のスマートホンを出すと、それでどこかに電話した。
「あ、もしもし。エミリーか。アリスに代わってくれ」
「姉さん……」
「ああ、アリス。今、東京駅だ。予定通り、これから新幹線で仙台に戻る。……ああ、報告は後ほどな。それより、シンディに代わるぞ。ほら?」
「私、アリスお嬢……博士と喋ることなんて無いよ?」
「いいから」
 しょうがなくシンディは電話に出た。
{「シンディ。無事に帰ってきなさいよ。じー様はもう2度と帰ってこないけど、あなたは帰ってきてくれたんだから」}
「アリス博士。命令ですね。かしこまりました」
 シンディは頭を下げて電話を切った。
「……これが、どうしたの?」
「顔を上げろよ」
 シンディの目には涙が浮かんでいた。
 エミリーの涙は何度か見たが、敷島も初めて見た。
「お前はエミリーと同スペックだ。エミリーが泣けるなら、お前も泣けるはず。アリスから直接言葉を聞いて、そこで涙を浮かべられるなら、お前は今さら俺に何もしないだろうな」
「ふふ……。さすが、大日本電機のスパイさんね」
「えっ!?」
「兄ちゃん、スパイだったの!?」
「財団から情報を得る為にな。もっとも、その送り元の会社が消滅したもんだから、潜入先でそのまま今じゃ正規職員だよ」
「ふえー……」

 信号灯が白に変わり、敷島達は車中の人達となった。
 グリーン車は各席に電源コンセントがあり、アンドロイド3機は早速、コードを繋いだ。
「悪いわね。電気をバカスカ食べて」
 シンディはそう言った。
「お前達はそういう存在なんだから、しょうがないだろ。だから基本、充電は夜間電力とか、こういう無料でできる所でするようにしてるんだ」
 敷島はそう答えた。
 敷島は敷島で、手持ちの私用スマホや財団用タブレットを充電しているが。
「充電中はおとなしくしな。バッテリーに負担が掛かるよ」
「!」
「はーい」
 1つ後ろの席に座るボカロ姉弟が充電コンセントを繋いだにも関わらず、ふざけあっていた。
 敷島が注意しようとしたら、先にシンディがした。
「気が利くな、お前?」
 するとシンディはこんなことを言った。
「兄弟って、いいものよ」
「一人っ子の俺には分からんなぁ……」
 敷島は苦笑して首を傾げた。
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“アンドロイドマスター” 「フィールドテスト導入」

2014-09-16 08:36:58 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月15日15:00.㈶日本アンドロイド研究開発財団本部 敷島孝夫、鏡音リン・レン、シンディ、森須]

「はあ!?全部、作戦!?」
 本部に戻ると、そこには何故か仙台支部長の森須がいた。
「ああ。考えてもみてくれ。シンディほどのマルチタイプが、あんな超小型のリモコンなんかで動くと思うかね?」
「んがっ……!?」
 敷島は口をあんぐり開けた。
 シンディは右手を腰に当てながら言った。
「弱い赤外線は飛んでくるからね。まあ、それを合図にして適当に対応したワケよ」
「だが、シンディ。何故アジトまで行かなかった?お前を連れ去った連中は、全く怪しんでいなかったわけだろう?」
 森須が疑問を投げた。
「あいつらはね」
「どういうことだ?」
「作戦は余りにも上手く行き過ぎた。バカな下っ端はそれで騙されたけど、幹部連中は逆に怪しんでいたかもしれない。私がアジトに連れ込まれた時点で、いきなり爆破される恐れがあったからね」
「それで簡単に壊れるお前ではあるまい?」
「私はともかく、財団が更に危険な事態に晒される恐れがあった、という予想は間違いかしら?とにかく、下っ端はアジトの場所を確実に知っていたわけだから、あとは警察が踏み込んでくれるんじゃないの?」
「確かに、作戦が失敗しては元も子も無いが……。今頃、部下達が警察に逮捕されたことを知った幹部達がアジトを放棄してしまったのではないか?」
「それでも何かしら痕跡くらいはあるでしょう。昔の特撮モノじゃ、証拠隠滅の為に悪の組織が古いアジトを爆破処分していたみたいだけど、今はそんな時代でもないでしょう?」
「ふふっ……。お前はエミリーより色々考えて行動してるようだな」
「当然よ」
 その時、抜き足差し足忍び足で部屋を抜け出そうとしている者がいた。
「!」
 シンディが左目から赤いビームを発射し、その者の行く手を阻む。
「でっ!?」
 ズデンと転んだのは敷島。
「どこに行くのかね?」
「あ、あの、これからリン達の雑誌の取材が……」
「えー?リン達、お仕事もう終わりだよね?」
 リンが小首を傾げた。
「こ、こら!そこは話に乗ってくれ!」
「プロデューサー。もう諦めましょうよ」
 レンが溜め息をついた。
「ええっ?」
「敷島君にあっては、シンディのフィールドテストの担当者を命ずる」
「ええーっ!?」
「差し当たり、まずはシンディを仙台に連れて帰る前に都内を歩いてくれ」
「うえー……」
「そんな顔するな。アリス君の依頼で、帰りは新幹線だ。これがそのキップだ」
「お、ということは指定席ですか?」
「逆を言えば、都内での行動はその時間がタイムリミットということだ。それじゃ、よろしく頼むよ」
「あれ?支部長は?」
「私はもう帰る。とんだ休日出勤だったな」
(プロデューサーに土曜も日曜も関係無いんですがね)
 シキシマはその言葉を飲み込んだ。

[同日15:30.都営地下鉄都庁前駅 敷島、鏡音リン・レン、シンディ]

「帰りの新幹線、思いっきり夜かよ」
 最終の“はやぶさ”号だった。
「てか、そもそも自由席の無い電車じゃん」
「あら、いいじゃない。鈍行乗り継いで帰らされるよりは」
 と、シンディ。
「だったら高速バスの方がいいよ!」
「アリスお嬢……じゃなかった。アリス博士の尽力だっていうのなら、ちゃんと感謝しなさい」
「お前が言うかなぁ……?」
「何よ?」

〔まもなく1番線に、六本木、大門方面行きが到着します。(ホーム)ドアから離れて、お待ちください〕

「で、どこまで行くの?」
「東京タワー」
「スカイツリーじゃなく?」
「贅沢言うなや。3連休で、スカイツリーの方はメチャ混みだっつーの」
 そんなことを喋っているうちに、電車がホームに滑り込んでくる。
 6の字運転をする電車の終点の位置関係上、この時点においては最終的な行き先を旅客に案内しない。

〔都庁前、都庁前。飯田橋、両国方面はお乗り換えです〕

「そういえば、こいつもATO運転だったな。例のテロ組織が嫌がる電車じゃないのか」
 敷島はブラインドで閉じられた運転室の方を見て言った。
「そうねぇ……」
「じゃあ、乗らないってことだな、あいつらは」
 短い発車メロディが流れる。

〔1番線から六本木、大門方面行きが発車します。閉まるドアに、ご注意ください〕

 電車は暗闇のトンネルの中を突き進んだ。

〔次は新宿、新宿。都営新宿線、東京メトロ丸ノ内線、京王線、小田急線、JR線はお乗り換えです。お出口は、右側です〕

 電車内の中吊り広告には、リンとレンが写っているものがあった。
「でもどうして東京タワーなの?」
「これ、電波ジャックでもしろって話なのか?」
 敷島はタブレットを見た。
「ミクの時は無かったぞ?」
「そりゃあ初音ミクはボーカロイドだし、テストの場所も仙台でしょう?その違いは大きいよ」
「で、お前は何をするか知ってるのか?」
「“不協和音”を感じ取れってところかな」
「不協和音?」
「スカイツリーが完成して、電波に余裕ができたのが大きいね。まあ、あなたは見てるだけでいいから」
「アンテナ壊すなよ」

[同日16:30.東京タワー特別展望台 敷島、鏡音リン・レン、シンディ]

 シンディはヘッドホン型の両耳に手を当て、目を閉じた。
「! そういえばエミリーも、昔やってたな、ああいうの」
 敷島は大展望台で買った缶コーヒーを口に運びながら、ふと気づいた。
「エミリーが何やってたの?」
 リンが聞いてきた。
「あ、そうか。まだお前達が南里研究所に来る前の話だったか。いや、俺がミクのフィールドテストやってた時なんだけど、泉ヶ岳のスキー場の近くでエミリーも同じことをやっててさ。“不協和音”を探すとか、同じことを言ってたんで、引っ掛かってたんだ。何か、怪電波でも探してるのかね?」
「リンは何も感じないけど……」
「ボーカロイドとは違うからなぁ。マルチタイプならではの機能があるんだろう」
 そんなことを話していると、シンディがやってきた。
「どうだった?てか、“不協和音”って何だ?」
「私やエミリーのような、他の兄弟がいないか捜してたの」
「そうだったのか!」
 マルチタイプは殆どが証拠隠滅の為に廃棄処分されたが、中にはエミリーやシンディのように生き延びた個体もいる。
「反応があったのは、エミリーだけだったね」
 何でこんなことしてるのかというと、マルチタイプの最終生産台数が不明だからである。
 つまり、他にも生き延びている個体がいる可能性があるということである。
 但し、ちゃんと起動していることが条件。
 そうしていないと、ちゃんと起動している個体の“呼び掛け”に応じてくることはない。
「んー、こりゃ本当にお前達だけかもなぁ……」
 敷島は缶コーヒーを飲み干した。
(いい加減、バージョン・シリーズを完全処分しないのも、この辺りが理由かな……)
「まあ、いいや。とにかく、次へ行こう」
「次?」
 敷島達は地上に降りるエレベーターへ向かった。
コメント (3)
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