報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「エルダー・ツリー」

2014-09-28 19:40:19 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月29日12:00.富士山の麓の森(静岡県側) 稲生ユウタ、威吹邪甲、イリーナ・レヴィア・ブリジッド、マリアンナ・スカーレット]

 洞窟を抜けると、そこにも森は広がっていた。
「獣の気配はしないな……」
 威吹は鼻をフンフンとヒクつかせた。
 俗にエルフ耳と呼ばれる長く尖った耳を済ましてみても、鳥の鳴き声や風によって揺れる木々の枝の音しかしない。
「もう少しで着くからね」
 イリーナがユタに微笑みかけた。
「威吹、もうすぐだって」
「おう」
「……というか、もう着いた」
 先頭を歩いていたマリアが足を止めた。
「これですか。でっかいですねぇ……」
 ユタはその木の根元からてっぺんまで見上げた。
「樹齢は約1000年。まあ、私と同じだね」
 と、イリーナ。
「樫の木がこんなに大きくなるなんて……」
「枝切りくらいなら手伝うぞ?」
 威吹はスラッと脇差を抜いた。
 先ほど野犬達を何頭も斬って血と脂に塗れたが、けして安物のナマクラではないらしく、持参した手ぬぐいで拭き取ると、また使用前の刃の輝きを放つのだった。
「大丈夫よ。私が絶妙の話術で“交渉”するから」
「は?交渉?」
「さっきからうるさいババァじゃの……」
「うわっ!木が喋った!?」
 ユタは飛び上がらんばかりに驚いた。
「だから、ただの木じゃないんだって。これは“エルダー・ツリー”。魔界から苗が移植されて育った木よ」
「魔界!?それで樫の木がこんなに……って、人間界に移植して大丈夫なんですか?」
「この木だけじゃないから。他にもそういう木があるわ。“となりのトトロ”見た時、あの木が生えている場所に向かってみたけどね。ただのフィクションだったみたい」
「当たり前ですよ!(……ってか、“となりのトトロ”の大木って、何だったっけ?樫じゃないよな???)」
「新しい弟子を紹介するわ。マリアンナ・スカーレットよ。かわいいでしょう?」
「は~い」
「ユタは返事しなくていいの!てか、かわいさは関係無いだろ!」
 威吹はツッコまずにはいられなかったようだ。
「相変わらず、ぶっ飛んだババァよの。お嬢さん、わしに手を当ててごらん」
「はい」
 マリアは木の幹に手を当てた。
「ふむ……。まだ未熟な所が多々あれど、将来的有望性を感じる。お前さんにしては、良い目利きじゃ」
「そりゃ1000年も魔道師やってりゃ、目も肥えるわよ」
「違いない。良かろう。この娘には資格ありと見た。わしの枝をくれてやろう」
「さすが、エルダーね。どう?巧みな話術で交渉成立」
「はい」
 ユタは頷いたが、
「……どこに話術があったんだ?」
 威吹は訝し気な顔をした。
「お前の弟子が実力試験に合格しただけの話だろう?……とにかく、交渉成立したってんなら、枝切るぞ」
「妖狐よ、それには及ばん」
「む?」
 エルダー・ツリーは自ら枝を折り、それをマリア達の前に落とした。
「持って行くが良い。将来有望の魔道師よ」
「ありがとうございます」
 マリアは枝を拾い上げた。
「……あの、蜘蛛が網を張り掛けだったようなんですけど?」
 枝の先にはびっくりして、手足を縮めているジョロウグモがいた。
「初回特典付きぢゃ!」
「誤魔化してんじゃないわよ、ジジィ!」
「かつては妖力を持って人間を食らっていた蜘蛛妖怪も、今ではただの蜘蛛か……」
 威吹は慌てて逃げ出すジョロウグモを哀れな目つきで見送った。
「妖怪だったの?」
 ユタは目を丸くした。
「ああ。オニグモとジョロウグモはボクが封印される前、夜は妖力を解放して人間を捕食していたヤツがいた。富士の山裾ですら、もう妖気を持つことはできないようだな」
「“まんが日本昔ばなし”にも、蜘蛛の妖怪が襲ってきたのを旅の僧侶だか侍だかが倒した話が出て来るけど、それか」
「それは妖狐よ、お前も同じことだぞ」
 エルダー・ツリーが言った。
「妖狐族の殆どは人間界を引き払い、魔境や魔界に移住しておる。住む場所が無いのは、お前も同じことじゃぞ?」
「そんなことはないさ。オレは下等な虫妖怪とは違う。それより、この近くに朴の木があると聞いた。オレの刀の鞘にしたいのだが、何処だ?」
「ああ。それなら、向こうにあるよ」
「ワシが朴の者共に申し伝えておく。ちょうど、枝切りをしてもらいたかったところのようじゃ。何本でも持って行くが良い」
「かたじけない」
 威吹はすぐに現地に向かった。
「それと、そこの青年」
「はい?」
「汝も、我が幹に手を当ててごらん」
「ええっ?僕は枝いらないです」
「いいから、ユウタ君。エルダーのジジィの言う通りにしてみて。そこは木だから、取って食うことはないから」
「は、はあ……」
 ユタは幹に手を当てて見た。
「ふむ……。これもイリーナ、お主の見立てか?」
「そうなんたけど、先約があるみたいでね、首を縦に振ってくれないのよ」
「巧みな話術で勧誘成功させると前に言っていたではないか」
「は!?」
 ユタはイリーナを見た。
「余計なこと抜かすと、根元から切り倒すわよ!」
 イリーナはエルダー・ツリーを睨みつけた。
「青年よ。お主には見所がある。もし魔道師を志す運命に従い、ある程度の修行を積んだら、わしの枝を譲ろう」
「は、はあ……」
「そこの魔道師見習とお揃いぢゃ」
「え?」
「な……」
 マリアは顔を赤くした。
「うちの弟子をからかうのはやめてちょうだい!」
 イリーナは同世代の巨木に強く抗議したが、老木は、
「では、さらばだ」
 と、逃げた。
「ったく。このジジィは……」
「ははは……」
 ユタは苦笑い。
「でも、枝だけもらってどうするんですか?ちゃんとした杖に作らないとダメなんですよね?」
「ああ、それは心配無いわ。ちゃんと職人にあてがあるから」
「へえ……」
「威吹君が戻ってきたら、引き上げましょう」

[同日14:00.静岡県富士宮市某所 ユタ、威吹、イリーナ、マリア]

 威吹は朴の木から枝を10本も切ってきたらしい。
 上質な枝だと喜んでいたが、そんなに一体どうするのか。
 というか、どこにしまったのか気になったが、聞く気になれなかったユタだった。
 富士宮市某所とはしたが、場所的にはバスの営業所に近い所にあった。
「意外な場所に職人さんがいるんですね」
「そうだね」
 意外なことに職人は女性。
 見た目はイリーナと同じくらい。
 イリーナやポーリンの師匠系統の魔法使いではないとのこと。
 それでも交流があるようだ。
「魔法使いほど変人はいないんだから、いつまでも仲違いしてちゃ窮屈なんじゃないの?」
 と、イリーナからマリア用の杖の製作を依頼された女性職人はイリーナに言った。
 どうやら、イリーナとポーリンの仲の悪さは、他の魔法使いにも有名らしい。
「もっとも、『ケンカするほど仲がいい』ってヤツ?」
「ご想像にお任せするわ」
 イリーナは職人の言葉を上手くかわした。
「それじゃ、9月にまた来るわ」
「意外と普通の工期なんですね」
 と、ユタは思った。
「まあね」
 職人はマリアの両手を見ていた。
「妖刀作りと似ているな」
 と、威吹。
「そうなの?」
「ああ。ボクもこの刀を作ってもらう時、鍛冶師に『手を見せろ』って言われたね」
「へえ……」
「ま、こっちは作ってもらう身。納得が行くまで見せたさ」

 製作に入ると、あとは素人の4人に出る幕は無い。
 完成後の9月にまた来ることにし、4人は職人の工房をあとにした。
 そして、ここからは普通にタクシーを拾い、予約していた宿泊先へと向かった。
コメント (6)
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