[9月2日13:45.仙台市青葉区 広瀬通一番町 敷島孝夫&キール・ブルー]
キキィ………。(バスがバス停に止まる)
プシュー……。(ドアが開いた)
「おっ、着いたか」
「はい」
新しく仙台市内での停車ルートが変わり、広瀬通に停車するようになった高速バス。
従来の電力ビル前バス停に比べ、地下鉄にも乗り換えしやすくなったのは素晴らしいことだが……。
「どうぞ、参事」
「お前も脛の部分に傘を仕掛けてるのか」
仙台は今日も雨だった。
「さすがに目の前が地下鉄乗り場ってわけじゃないんだな……」
「そうですね。早く研究所に行きましょう」
「しかし、財団も急だな。メモリーを研究所で預かれだなんて……」
「理事達の集まりが、急な話ということもあり、今日は悪いそうです」
「だろうなぁ……」
敷島達はバス停から東の方に歩き、地下鉄の広瀬通駅に入った。
「参事。エミリーから緊急連絡です」
改札口の前でキールが立ち止まった。
「何だ?」
「『バスを降りてから、迎えの車には絶対に乗るな』とのことです」
「今さら言うなよ。ってか、もう駅だぞ」
「そうですね……」
無論、邪魔など入ることもなく、2人は改札内に入った。
階段を下りて、ホームに向かう。
「どういうことなのか、詳しく!」
「はい。シンディの起動実験に成功したことを知ったテロ組織が、それを手に入れんようとしている情報が入ったそうです。私達のルートが押さえられてしまったようで、どうもバスを降りた辺り、迎えの者を装って襲うつもりだったのではないかと……」
「シンディというより、シンディのメモリーが目的か?」
敷島は自分が持っているバッグを見た。
「いや、シンディはシンディでしょうが、まずはそのメモリーが無いと稼働できませんから」
「怪しいヤツもいなかったけどなぁ……???」
敷島は首を傾げた。
「まあ、あくまでその恐れがあるというだけで、必ずしもそうであるというわけではありませんからね」
「まあな」
〔2番線に、泉中央行き電車が到着します。……〕
「電車乗っちゃえば、こっちのものなんだろ?」
「恐らくは……」
「乗っちゃうぞ」
「はい」
敷島達は入線してきた電車に乗り込んだ。
[同日14:00.仙台市青葉区 電力ビル前バス停 テロ組織の2人]
「遅ぇな、バス。どこで渋滞に引っかかってんだ……」
「どっかで事故ってんスかね……」
「知らね」
バスの運行情報は鉄道より大きく報じられません。
特に高速バスに至っては、必ず事前に確認を!
昨日通った道を、今日必ず通るとは限りませんよ?(←経験者)
[同日15:00.仙台市泉区 アリスの研究所 敷島、アリス、キール、エミリー、十条]
「ミッション終了です!」
無事に研究所に到着できた敷島は、シンディのメモリーを開けた。
「なーんだ。見た目はフツーだね」
と、アリス。
「じゃが、これがシンディを稼働させるのに必須なのじゃよ」
十条はメモリーを取った。
「じゃあ、あとはこれを解析して編集するだけですか」
「編集っていうか……まあね」
「シンディは今どこに?」
「見るかね?」
十条はニッと笑って、敷島を研究所の奥に連れて行った。
「敷島さん」
「おう、エミリーか。ん?なに?お前、いつもここで張ってるの?」
「イエス」
「大変だなー」
「エミリー。敷島君もシンディとご対面じゃ」
「イエス。ドクター十条」
エミリーは鉄扉を開けた。
エミリーがここに張っていれば、オートロックや生体認証など不要だ。
正面の椅子に座るそれは……。
「シンディ……!」
5年前、狂った笑いを浮かべて自らの『親』であるウィリーを惨殺したシンディの姿を思い出した敷島だった。
しかし電源が入っただけの彼女は、敷島のことも認証できずに、ただ微笑を浮かべているだけである。
「これだけ見ると、とても同じ個体とは思えぬじゃろう?」
「ええ……」
敷島と十条はすぐに部屋を出た。
「しかし、意外ですね。5年前、シンディの廃棄処分に1番先鋭的だったのは、主任理事だったと思いますが……」
「今度の個体は、むしろ今のエミリーより罪の無い真っ新なもの。ましてや、使用するメモリーに関しても罪の無い部分を抽出して使用するアイディアじゃ。そういうことなら、稼働に反対する理由は無いの」
「と言いつつ、さすがに新しい個体まで廃棄するのが勿体ないというのが本音では?」
「ま、まあな……。とにかく、今度こそは後悔せんよ」
「テロリストが狙っているというのは?もしかしてまた、あのホテルに現れたケンショー……何とかって奴らですか?」
「そんなものは知らんが、ウィリーとかつて取り引きのあった組織である可能性が高いと思ってるよ」
「アメリカン・マフィアですか?向こうの警察が、そういった組織の壊滅を正式に発表したと聞きましたが……」
「ほとぼりが冷めて、復活したりもしているのかもしれんな」
研究所の事務室に戻る。
「何か、久しぶりだな。って、おい。何やってんだ?」
事務室のドアの前では、何故かルイージが部屋を覗き込んでいた。
「ハウッ!ア、コレハコレハ……敷島参事」
アリスの養祖父が最後に設計したバージョン・シリーズの最新型、バージョン5.0を孫娘がアレンジして製作した“マリオ&ルイージ”の弟の方である。
これだけ見ると、とても無差別テロロボットとしての設計とはとても思えない。
「七海を盗撮とは感心しないな」
「違イマス!夏期特別警備デス!」
「もう9月だぞ」
「ナハハハハ……。失礼シマス」
ルイージはそそくさと事務室の前をあとにした。
敷島は呆れた様子で、事務室に入った。
「あ、お帰りなさい。敷島さん」
「おーう」
事務室の中では、メイドロボットの七海が事務作業をしていた。
「何か変わったことあった?」
「こちらは特に異常ありません」
「そうか。平和って素晴らしいな」
「はい」
「明日はリンとレンのミニライブがあるな。一発目はこいつらについて行くか」
敷島はホワイトボードの月間予定表を見て言った。
「久しぶりの一緒の仕事だからって、張り切ってますよ」
「もうあの2人は、別々に仕事しても大丈夫だからな」
「はい」
と、そこへ電話が掛かって来た。
七海が出る。
「はい。アリス・アンドロイド研究所です。……森須支部長、お疲れさまです」
「俺宛てか?」
「……はい、敷島さんですね。少々お待ちください」
「俺宛てね。はいはい」
敷島は電話を取った。
「あっ、お疲れさまです。敷島です」
{「敷島君、どうやらテロリストの罠に掛からなくて済んだようだな?」}
「はははっ!作者と違って悪運はいい方なんで!」
{「そちらの研究所の中は……まあ、万全な警備だから安心か。シンディのメモリーとは別に発見したメモリーを覚えているか?」}
「1番最初に倒した、ずんぐりむっくりのクリーチャーの中からキールが発見したヤツですか?」
{「解析の結果、更なる調査が必要だというのが分かった」}
「ええっ?せっかくプロデューサー業務に復帰できると思ってたのになぁ……」
{「いや、キミはむしろそっちの仕事をやってほしい。逆に、人間だと危険だ。精鋭のロボットを……2体必要だな。マリオとルイージを貸してほしいとアリス君に伝えてくれないか?」}
「それは構いませんけど……」
{「頼む。詳細はまた後で連絡する」}
電話が切れた。
「今度は何だってんだ……」
「ボーカロイドの仕事も忙しいですけど、財団のお仕事も忙しいですね」
七海はクスッと笑った。
「財団のロボットより働いてるよ、俺」
敷島は自嘲的に、皮肉るように笑った。
キキィ………。(バスがバス停に止まる)
プシュー……。(ドアが開いた)
「おっ、着いたか」
「はい」
新しく仙台市内での停車ルートが変わり、広瀬通に停車するようになった高速バス。
従来の電力ビル前バス停に比べ、地下鉄にも乗り換えしやすくなったのは素晴らしいことだが……。
「どうぞ、参事」
「お前も脛の部分に傘を仕掛けてるのか」
仙台は今日も雨だった。
「さすがに目の前が地下鉄乗り場ってわけじゃないんだな……」
「そうですね。早く研究所に行きましょう」
「しかし、財団も急だな。メモリーを研究所で預かれだなんて……」
「理事達の集まりが、急な話ということもあり、今日は悪いそうです」
「だろうなぁ……」
敷島達はバス停から東の方に歩き、地下鉄の広瀬通駅に入った。
「参事。エミリーから緊急連絡です」
改札口の前でキールが立ち止まった。
「何だ?」
「『バスを降りてから、迎えの車には絶対に乗るな』とのことです」
「今さら言うなよ。ってか、もう駅だぞ」
「そうですね……」
無論、邪魔など入ることもなく、2人は改札内に入った。
階段を下りて、ホームに向かう。
「どういうことなのか、詳しく!」
「はい。シンディの起動実験に成功したことを知ったテロ組織が、それを手に入れんようとしている情報が入ったそうです。私達のルートが押さえられてしまったようで、どうもバスを降りた辺り、迎えの者を装って襲うつもりだったのではないかと……」
「シンディというより、シンディのメモリーが目的か?」
敷島は自分が持っているバッグを見た。
「いや、シンディはシンディでしょうが、まずはそのメモリーが無いと稼働できませんから」
「怪しいヤツもいなかったけどなぁ……???」
敷島は首を傾げた。
「まあ、あくまでその恐れがあるというだけで、必ずしもそうであるというわけではありませんからね」
「まあな」
〔2番線に、泉中央行き電車が到着します。……〕
「電車乗っちゃえば、こっちのものなんだろ?」
「恐らくは……」
「乗っちゃうぞ」
「はい」
敷島達は入線してきた電車に乗り込んだ。
[同日14:00.仙台市青葉区 電力ビル前バス停 テロ組織の2人]
「遅ぇな、バス。どこで渋滞に引っかかってんだ……」
「どっかで事故ってんスかね……」
「知らね」
バスの運行情報は鉄道より大きく報じられません。
特に高速バスに至っては、必ず事前に確認を!
昨日通った道を、今日必ず通るとは限りませんよ?(←経験者)
[同日15:00.仙台市泉区 アリスの研究所 敷島、アリス、キール、エミリー、十条]
「ミッション終了です!」
無事に研究所に到着できた敷島は、シンディのメモリーを開けた。
「なーんだ。見た目はフツーだね」
と、アリス。
「じゃが、これがシンディを稼働させるのに必須なのじゃよ」
十条はメモリーを取った。
「じゃあ、あとはこれを解析して編集するだけですか」
「編集っていうか……まあね」
「シンディは今どこに?」
「見るかね?」
十条はニッと笑って、敷島を研究所の奥に連れて行った。
「敷島さん」
「おう、エミリーか。ん?なに?お前、いつもここで張ってるの?」
「イエス」
「大変だなー」
「エミリー。敷島君もシンディとご対面じゃ」
「イエス。ドクター十条」
エミリーは鉄扉を開けた。
エミリーがここに張っていれば、オートロックや生体認証など不要だ。
正面の椅子に座るそれは……。
「シンディ……!」
5年前、狂った笑いを浮かべて自らの『親』であるウィリーを惨殺したシンディの姿を思い出した敷島だった。
しかし電源が入っただけの彼女は、敷島のことも認証できずに、ただ微笑を浮かべているだけである。
「これだけ見ると、とても同じ個体とは思えぬじゃろう?」
「ええ……」
敷島と十条はすぐに部屋を出た。
「しかし、意外ですね。5年前、シンディの廃棄処分に1番先鋭的だったのは、主任理事だったと思いますが……」
「今度の個体は、むしろ今のエミリーより罪の無い真っ新なもの。ましてや、使用するメモリーに関しても罪の無い部分を抽出して使用するアイディアじゃ。そういうことなら、稼働に反対する理由は無いの」
「と言いつつ、さすがに新しい個体まで廃棄するのが勿体ないというのが本音では?」
「ま、まあな……。とにかく、今度こそは後悔せんよ」
「テロリストが狙っているというのは?もしかしてまた、あのホテルに現れたケンショー……何とかって奴らですか?」
「そんなものは知らんが、ウィリーとかつて取り引きのあった組織である可能性が高いと思ってるよ」
「アメリカン・マフィアですか?向こうの警察が、そういった組織の壊滅を正式に発表したと聞きましたが……」
「ほとぼりが冷めて、復活したりもしているのかもしれんな」
研究所の事務室に戻る。
「何か、久しぶりだな。って、おい。何やってんだ?」
事務室のドアの前では、何故かルイージが部屋を覗き込んでいた。
「ハウッ!ア、コレハコレハ……敷島参事」
アリスの養祖父が最後に設計したバージョン・シリーズの最新型、バージョン5.0を孫娘がアレンジして製作した“マリオ&ルイージ”の弟の方である。
これだけ見ると、とても無差別テロロボットとしての設計とはとても思えない。
「七海を盗撮とは感心しないな」
「違イマス!夏期特別警備デス!」
「もう9月だぞ」
「ナハハハハ……。失礼シマス」
ルイージはそそくさと事務室の前をあとにした。
敷島は呆れた様子で、事務室に入った。
「あ、お帰りなさい。敷島さん」
「おーう」
事務室の中では、メイドロボットの七海が事務作業をしていた。
「何か変わったことあった?」
「こちらは特に異常ありません」
「そうか。平和って素晴らしいな」
「はい」
「明日はリンとレンのミニライブがあるな。一発目はこいつらについて行くか」
敷島はホワイトボードの月間予定表を見て言った。
「久しぶりの一緒の仕事だからって、張り切ってますよ」
「もうあの2人は、別々に仕事しても大丈夫だからな」
「はい」
と、そこへ電話が掛かって来た。
七海が出る。
「はい。アリス・アンドロイド研究所です。……森須支部長、お疲れさまです」
「俺宛てか?」
「……はい、敷島さんですね。少々お待ちください」
「俺宛てね。はいはい」
敷島は電話を取った。
「あっ、お疲れさまです。敷島です」
{「敷島君、どうやらテロリストの罠に掛からなくて済んだようだな?」}
「はははっ!作者と違って悪運はいい方なんで!」
{「そちらの研究所の中は……まあ、万全な警備だから安心か。シンディのメモリーとは別に発見したメモリーを覚えているか?」}
「1番最初に倒した、ずんぐりむっくりのクリーチャーの中からキールが発見したヤツですか?」
{「解析の結果、更なる調査が必要だというのが分かった」}
「ええっ?せっかくプロデューサー業務に復帰できると思ってたのになぁ……」
{「いや、キミはむしろそっちの仕事をやってほしい。逆に、人間だと危険だ。精鋭のロボットを……2体必要だな。マリオとルイージを貸してほしいとアリス君に伝えてくれないか?」}
「それは構いませんけど……」
{「頼む。詳細はまた後で連絡する」}
電話が切れた。
「今度は何だってんだ……」
「ボーカロイドの仕事も忙しいですけど、財団のお仕事も忙しいですね」
七海はクスッと笑った。
「財団のロボットより働いてるよ、俺」
敷島は自嘲的に、皮肉るように笑った。