報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「マルチタイプ3号機起動」

2014-09-05 22:12:40 | アンドロイドマスターシリーズ
 エミリーを1号機とするマルチタイプは、旧ソ連が冷戦時代、極秘に開発したものとされている。
 それは核兵器よりも秘すべきものであり、冷戦終結後、現政府になってからは、無かったことにされている。
 だから冷戦終結直前に破壊処分された個体も含め、現存しているのは“長姉”のエミリーだけとなっている。
 シンディは3号機として製造されていたが、ウィリーがアメリカに持ち出し(手段不明)、処分を免れている。
 また、本来は十条伝助が管理していた5号機は男性型で、キールという名前だったが、それは日本に持ち出すことはできず、破壊処分されてしまった。
 今の執事ロボットであるキールは、十条が当時の記憶を頼りに再現したものだという(設計図も当然処分されたため)。

 敷島が聞いているのは、それだけ。
 破壊処分が明らかになっている個体以外に、そもそも何号機まで製造されたのかまでは明らかになっていない。
 十条と南里とウィリーは学生時代からの友人という繋がりで情報が共有できたが、他の科学者の動向までは知らなかったからだ。
「全員殺されたに決まってるでしょ。ああ、アタシは何もしてないけどね」
 と、破壊処分前のシンディがそう嘯いていたのを思い出す。

[9月2日10:00.秋北バス“仙台・大館号”車内 敷島孝夫&キール・ブルー]

 敷島達を乗せた高速バスは、大館駅前を発車してすぐに高速道路に入るのではなかった。
 市街地の停留所にいくつか止まった後、周辺の町からも乗客を乗せて、やっと高速道路に乗るらしい。
 小さな町からだから仕方が無いとはいえ、なかなか高速に乗らないとイラッと来るのは作者だけだろうか
「どうだ、キール?マルチタイプから執事ロボットに生まれ変わったというのは?」
 敷島は隣に座るスーツ姿のキールに聞いた。
「確かに私はマルチタイプをモチーフに作られたと伺いましたが、そもそもその体やメモリーを踏襲していませんので、感想を尋ねられてもお答えできません」
「そう来たか」
「同姓同名の、全く違う個体であると認識して頂ければよろしいかと思います。十条博士も、それを望んでおられるでしょう」
 確かに今でも、十条がマルチタイプを持っていたことを本人は正式に肯定していない。
 苦心して作り上げ、ソフトウェアに関しても試行錯誤したにも関わらず、政治的都合であっけ無く壊されたことに対する憤怒とも言われている。
 まさか執事ロボットなら政府に壊されることも無いだろうということか。
「早く研究所に戻って、右手に仕込まれた銃器を取り外して頂きたいのです。エミリーはそういう個体ですが、私は違いますので」
「エミリーのヤツ、銃器が標準装備なんだもんな。アリスも取り外すのに苦労したみたいだ」
 ということなので、今では取り外すのを諦め、暴徒鎮圧用の模擬弾や空砲を装填することで誤魔化している(弾薬を装填していないと警告音がうるさいため)。
「彼女は自ら壊れることを望んでいるのでしょうか?」
「あのホテルの地下研究所、南里所長が映像でエミリーに何か言ってただろう?」
「あいにくと他の対応で、メモリーに残していないのです」
「まあ俺もよく見てなかったんだけど、後でアリスに聞いたら、『私がこの世からいなくなっても、後追いすることはない。恐らくは平賀君に後を継がせることになろうから、平賀君の指示に従いなさい』という遺言だったそうだ」
「エミリーのメモリーに残した御遺言と多少内容が違いますね?」
「あの爺さんのことだから、メモリーの方が先で、あの動画の方が後だったんだろうが、先にメモリーに登録した遺言を変えるのを忘れたってオチだろう。お騒がせな爺さんだ」
「確か、参事達に南里博士の御遺言をお話しした後、すべての機能を停止せよとの命令だったそうで……」
「危うく科学遺産もののマルチタイプが、この世からいなくなるところだったよ。エミリーが壊れたからって、今のロシアに、実は破壊処分していなかった個体を寄越せと言ったところで、『そんなもの最初から無い!』って返してくるに決まってる。まだ、北朝鮮の拉致被害者を探し出す方が簡単だよ」
「なるほど……」

[同日同時刻 宮城県仙台市泉区 アリスの研究所 アリス・シキシマ&十条伝助]

 研究所の一室に保管されているシンディ。
 起動させると目を開け、微笑を浮かべるが、それだけだ。
 メモリーが無いため、これ以上の行動ができないのである。
 起動してからエミリーは、シンディの側を離れようとしなかった。
 シンディが破壊処分されてから、ずっと一人ぼっちだったからというのが大きな理由だろう。
「大丈夫じゃ。シンディは現段階ではあれ以上動くことはできんし、万が一に備え、エミリーが張りついておる。何も心配要らんぞ」
 十条は他のロボット達にはプライドの高いエミリーの為に、ボーカロイド達にはそのように説明した。
 あくまでエミリーは、シンディが不測の行動に出た場合の抑止力として張り付いているのだと……。
「それにしても、本当にどうするの、十条センセー?」
 アリスは研究所で事務作業の手伝いをしているメイドロボット、七海が入れてくれた紅茶を手に老博士に聞いた。
「シンディが本格的に稼働したらしたで面倒でしょう?うち、ボーカロイド6機とマルチタイプ1機で十分よ?」
「1番良いのはシンディをキミが引き取って、エミリーをわしが引き取るということなんじゃがな。キールもエミリーと一緒になれて、さぞかし幸せじゃろう」
「エミリー的には、この研究所から離れることが何よりも辛いと思うけどね。ていうかさ、確かにアタシもシンディの方が親しみがあるけど、前の個体と今の個体で、どれだけの誤差があるかにもよるよ?あの時見つけたメモリーが、本物のメモリーかどうかも分からないんだし、最悪エミリーのメモリーのコピーを使ったんじゃ、結局姿形がそっくりなだけの別個体になるんだからね。さすがにそれは引き取れないよ?」
「分かっておる。まずはメモリーを解析してからじゃ。敷島君達が帰って来んことには、話がこれ以上進まぬのじゃからな。とにかく、午後には敷島君達も仙台に到着する。わしらも仙台支部で待つことにしよう」
「失礼します」
 そこへ七海が入ってきた。
 種類はメイドロボットであるが、ここでは事務作業がメインなのでメイド服は着ておらず、事務服を着用している。
「財団からのメールです。敷島参事のお持ちするメモリーを、まずはこの研究所で預かるようにとのことです」
 メールを印刷した文書をアリスに渡す七海。
「ふむ。今日は研究者達の集まりが悪いと聞いていたが、さすがに今日は中止にしおったか」
 十条は納得したように頷いた。
「じゃあ、敷島君達も真っ直ぐここへ帰ってくるというわけじゃな?」
「そういうことになると思います」
 七海は十条の質問に答えてお辞儀した。
「やれやれじゃ。わしも、もう1泊する羽目になるとはな」
「ここに泊まってく?」
「財団が用意したホテルに泊まるよ。支部事務所に近い方が、主任理事の私の管理もしやすいじゃろうて……」
コメント (3)
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