報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「ミステリー」

2014-09-20 21:00:54 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月20日10:00.岩手県盛岡市某所 敷島孝夫&シンディ]

「ここか。温泉掘削現場は……」
 敷島とシンディは今度は明本から借りた車に乗り、市内の温泉施設に向かった。
 そこには関係者が数人ほどいて、車から降りた2人の姿を見かけると、すぐに駆け寄った。
「あなたがJARAの人ですか?」
「そうです。仙台から来ました。敷島孝夫と申します。ここにいるのが、女性型アンドロイド、マルチタイプ3号機のシンディです」
「シンディです」
「おおっ、別嬪さんですな」
「して、何をすればよろしいのでしょう?明本……先生からは、ここに来て困難を排除するようにとのことですが……」
「実はご覧の通り、ここには新しい温泉施設を作る予定です。前の場所が、どうも東日本大震災の影響からか、温泉が涸れてしまいまして……。調査の結果、ここの下には新たな温泉脈ができているとのことなんです」
「テレビで見たことありますね。今まで温泉が湧いていた所が出なくなったり、逆に温泉が全く無かった場所から突然噴出したりって」
「正に、それなんです。我々が今掘っている所もまた、震災の影響で新たに出来た所のようで……」
「で、何が問題なんですか?」
「今、この掘削機の真下にとてつもない固い岩盤があるらしく、それを壊さないと温泉脈に辿り着けないようなのです。あまりにも固いので、この掘削機が故障してしまう有り様で……」
(アリスに相談したら、手榴弾やダイナマイト持たせそうだな)
 と、敷島は思った。
「なるほど。それで、マルチタイプの出番ってわけですか」
 シンディもそう思ったのだろう。
「掘削機が邪魔なので、退かしてもらえませんか?」
 と言った後で、その穴の中をスキャンする。
 岩盤の固さを計測した後で、
「うん。大丈夫。私なら壊せる」
 とのこと。
 どよめく現場。
「おい、ウソだろ?」
「あんな美人さんが……」
「岩盤をどうやって壊すって?」
 シンディはそんなどよめきなど意に介せず、右手を腰にやりながら敷島を見た。
「プロデューサー、いいかしら?」
「俺はマルチタイプのプロデューサーじゃないぞ。ボーカロイドのプロデューサーだ」
 と言った後で、
「まあ、本当はマルチタイプも研究用だけでなく、こうやって何か役に立てることに使えばいいんだろうけどな。……まあ、ちゃちゃっとやってくれ」
「了解。じゃあ、噴出するかもしれないから、離れさせて」
「ああ」
 シンディは穴の中に潜り込んだ。
「皆さん、噴出するかもしれないんで、離れててください」
「ホントですか!?」
「皆、離れてけろ!」
 ある程度、穴から距離を取った後、敷島は右耳に付けたインカムで、
「シンディ。いいぞ。OKだ」
{「了解」}

 ズゥゥンンン!!

「うおっ!?」
「何だァ!?」
「爆発かや!?」
「いえ、シンディのアイアンブローです」
 そして、
「出たわ!」
 超小型ロケットエンジンを吹かして、穴の中から脱出してきたシンディ。
 その直後、まるで間欠泉のように温泉が噴き出してきた。
 ていうか、まんま間欠泉じゃないの?ってツッコミを入れたくなるほどだ。

[同日11:00.同市内 明本家 敷島孝夫&シンディ]

「何か、初めてマルチタイプで人助けしたような気がする……」
 明本はどうやらあの温泉掘削事業に1枚噛んでいるらしく、作業が停滞気味な理由も知っていて、ちょうどマルチタイプが来るということで利用したのかもしれない。
 まあ、利用されることに関しては何ら吝かではないが……。
 軽自動車のリアシートには、業者からもらったお礼の品が満載だった。
「玄米の袋か……。後で、精米機に掛けないとな……」
「精米機なんて、財団事務所にあったっけ?」
「いや、田んぼの中走ってりゃ、コイン精米機に当たるよ。イザとなりゃ、JAの事務所の前にあるだろ」
 働いてくれたシンディへのお礼が、
「カスタムパーツやらエンジンオイルやら……。どうやって持って帰るんだ、これ?」
「宅急便」
「輸送費で赤字じゃねーのか、これ?」
「いいのいいの」
 どうにか、明本家に帰る。
「!」
 シンディが先に車を降りた。
「おい、シンディ!荷物降ろすの手伝え!」
 敷島はシンディが家の方に向かうのを咎めた。
 シンディはそれを聞かず、一瞬、庭を方を見た。
(バージョン3.0がいない。あんな錆びついた状態で、再起動した?)
 玄関のドアが半開きになっている。
 まあ、地方に行けば鍵を掛けることが少ないという話だが……。
「おい、シンディ!」
 その時、インカムに着信があった。
{「こちら“コロンボ”、森須だ」}
 もはやニックネームをコードネームにした森須だった。
「はい、敷島です。どうしました?」
{「まずいことになった。テロリスト達が秘密保持の為、明本さんを抹殺する計画を発動したらしい。すぐに彼の警戒強化に当たってくれ。場合によっては、警察に保護してもらうんだ」}
「わ、分かりました。ちょうど今、明本さんの……」
「何やってんの!!」
 突然、家の中からシンディの怒声が聞こえて来た。
 と、さらにその直後、ショットガンを発砲する音がした。
「あーっ!?」
{「どうした!?」}
「緊急事態です。また連絡します!」
 敷島も急いで家の中に向かった。

[同日12:00.宮城県仙台市泉区のぞみヶ丘 アリスの研究所 アリス・シキシマ、エミリー、鏡音リン・レン、初音ミク]

「さすがアリス博士です。もうすっかり元通りですよ」
 レンは修理後の起動実験を終了した。
「HAHAHAHA!アタシって天才!」
「さすが・です。ドクター・アリス」
 エミリーがアリスを称えると、事務室から七海が慌てて出て来た。
「ちょっとすいません!テレビのニュースを……!」
「え?」
 テレビの前に集まる面々。
〔「先ほど入ったニュースです。今日午前11時頃、岩手県盛岡市○○の住宅で、住民の男性が殺害されているのが発見されました」〕
 無表情でニュースを伝えるNHKのキャスター。
 次に画面が切り替わり、殺人事件の現場となった家が映る。
「あっ、兄ちゃん!」
 リンがすぐに反応した。
『第一発見者のSさん』
 というテロップが出てきて、明らかに敷島と思われる男の頭から下の映像が出て来た。
「これ、どういうこと?」
 アリスは訝し気な顔をした。
「テロ組織の情報を握っている人物の元へ行くって、タカオは言ってたけど……」
「危険ですので・森須支部長より・シンディを・護衛に・連れて・行くよう・指示が・ありました」
 と、エミリー。
「ちょっと、状況は?シンディと連絡付かないの?」
「現在・オフライン中・です」
「敷島さんも、携帯に繋がりません」
 エミリーの言葉に続いて、七海も言った。
「恐らく今、警察で事情聴取を受けているものと思われます」
「冗談じゃないわ!まんまとテロリストに先越されたってこと!?」
「困りましたね」

 無論、シンディが録画していた記録映像により、疑われやすい第一発見者の敷島達の潔白が証明された。
 シンディが乗り込んだ際、錆びついたバージョン3.0が自らに搭載された右手のハンドガンで明本を殺害していた所だったそうだ。
 2世代も前のバージョンなど、シンディにとってはザコ同然であり、拳1つで簡単に壊してしまった。
 都合良くそのバージョン側には通信記録も無ければ、録画された画像も無く、何故これが再起動して明本を銃殺したのか全くもって不明である。
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“アンドロイドマスター” 「財団の反撃」

2014-09-20 15:18:35 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月20日07:00.JR仙台駅・東北新幹線ホーム 敷島孝夫&シンディ]

〔11番線に停車中の電車は、7時6分発、“やまびこ”97号、盛岡行きです。この電車は、各駅に止まります。自由席は1号車から7号車、グリーン車は9号車です。……〕

 どういうわけだか朝早く、新幹線ホームにいる敷島とシンディ。
「えーと……6Eと6Dだな」
 10号車に乗り込むと、敷島は新幹線指定席特急券を片手に、指定された2人席に座った。
「一体、どこへ行くの?」
「まあ、この列車の行き先の通りだ」

〔「ご案内致します。この電車は7時6分発、東北新幹線下り、“やまびこ”97号、盛岡行きです。終点の盛岡まで、新幹線各駅に止まります。……」〕

「盛岡?」
 一瞬、シンディの頭から電子機器の作動する音がしたので、おおかたナビに登録でもしたか。
「ああ」
 敷島は前の座席からテーブルを出すと、その上に朝食の駅弁とお茶を置いた。
 黄色い紐を引っ張ると、早速中からシューシューと弁当が温まる音が聞こえる。
「幸いこの車両、後期タイプだ。充電コンセント、付いてるだろ?俺の足元通していいから、充電器とか使っていいぞ」
「まだ95パーセントもバッテリーあるからね。大丈夫だと思うよ。予備のバッテリーパックもあるんでしょう?」
「まあ、そりゃそうだけど……」
 本当は敷島が単独で行きたかったのだが、森須に待ったを掛けられた。
 ただでさえテロ組織はまだ活動を停止しておらず、いつ財団関係者が狙われるか分からないのと、シンディのフィールドテストはまだ終了していないという理由だった。
「2人分の交通費、大変っスよぉ……って言ってみたら、あっさり新幹線代請求できるってなったな」
「言ったもん勝ちね」
「言ったもん勝ちって言うな」
 敷島は苦笑いした。

[同日08:30.財団仙台支部・支部長室 森須]

 森須は執務机の椅子に座り、自分の携帯電話でどこかに電話していた。
「ああ。件のテロ組織が跋扈しているんだ。責任者の私が自宅で寛いでいるわけにもいかんだろう。今、私の優秀な部下が現地に向かった。キミは引き続き、指示書通りに動いてくれ」
 ピッと電話を切る森須。
 左手でリモコンを手に取ると、それで室内のテレビを点けた。

〔「えー、たった今入ったニュースです。岩沼市民会館で、ライブ中のボーカロイドを襲った自称市民団体ですが、今度は全国の自動運転の地下鉄に犯行予告です。えー、声明文を読み上げます。『経費節減という名の人員削減。これに大きく加担しているのは、偏に鉄道の自動化・機械化であり、その為に夢を断たれた鉄道少年達を代表して復讐を行うものである。直ちに全国の鉄道事業者は、ATO運転並びにワンマン運転をやめ、従来のツーマンそしてATSまたはATCのみによる制御を行え』というものです」〕

「フフ……。また無茶な声明を出すものだ」

〔「……これを受けまして、事件現場のすぐ近くを走ります仙台空港アクセス線は犯行声明にありましたワンマン運転を行っているという理由で、並びに同じくワンマン運転を行っている仙台市地下鉄南北線も8時頃から運転を見合わせております。特にワンマンだけでなく、ATO運転を行っている仙台市地下鉄では、安全の確認が取れるまで、駅自体を封鎖しているもようです」〕

[同日同時刻 岩手県盛岡市東部 敷島&シンディ]

 敷島達は、駅から東の方にタクシーで20分ほど走った所にある一軒家に向かった。
「普通の家だね」
「まあ、そうだろう」
 庭先にいるのは敷島より10歳ほど年上の男。
「おはようございます。朝早くから、すいません。明本課長……あ、いや、先生とお呼びした方がよろしいですかね?」
「いやあ、好きな呼び方でいいですよ。どうぞどうぞ」
「課長?先生?」
 シンディは首を傾げた。
 と、同時に、周辺をスキャンすることは忘れない。
「……!?」
 シンディは何か気になるものを発見した。
 が、敷島は意に介さず、そのまま明本の後ろをついて中に入る。
「これ、お土産です。どうぞ」
「いや、そんな気を使わなくても……」
「いえいえ。この人は昔、大日本電機で俺の上司だった明本さんだよ」
「スパイを命令していた人?」
「ははは。もうばれてるか」
「今のところ、財団にはまだです。会社が無くなったもんで、当時課長だったこの人は実家の盛岡に帰って、兼業農家をやりながら地元の高校の講師をやってるわけだ」
「大学出てて良かったよ。教員免許はあったからね。あれ?確か、敷島君も持っていたでしょ?」
「いやあ、私に学校の先生なんて向かないんで。ボーカロイドの芸能活動の売り込みでもやってる方が向いてますよ」
「大変だったねぇ。あの時は……」
「こっちでもニュースになりました?」
「なったよ」
 茶の間に通された。
「今、カミさん、旅行にしてて留守なんだ。で、息子は息子で修学旅行だし」
「あ、そうか。そう言えば、仙台駅にも修学旅行生、集合してましたね」
 因みにシンディくらいのアンドロイドになると、正座もちゃんとできるという……。
「森須さんから話は聞いてるよ」
「森須支部長も、大日本グループからの転向者だったとは……」
「大日本重工ね。私もそこへ出入りしていたことがあって、そこで知り合ったんだ」
「明本さんも財団に来れば良かったのに……」
「いやいや、ちょうど父親の具合も悪くなったことだし、長男として家を継がなきゃいけなかったからね。ま、ちょうど良かったよ」
「まさか私もスパイとして潜入していた先で、会社が無くなるとは……」
「潜入先で、そのまま拾ってくれて良かったじゃないか」
「ええ。それで早速、本題に入りたいのですが……」
「ちょっと待って。今、お茶でも入れよう」
「お構いなく」
 明本が席を立った後、シンディが言った。
「さっき庭をスキャンしたら、バージョン3.0の残骸を検出したんたけど、どういうことなの?」
「部品取り用に引き取った後、そのまま庭に放置しているだけじゃない?」
「部品取り???」
「敷島君はコーヒーが好きだったな。えーと、キミの場合は……エネオスのサスティナ(エンジンオイル)でいいかな?」
「ありがとうございます。(何でこの人間は、随分と扱い慣れてるの?)」
「さてと、本題だが……。またあいつら、世間をお騒がせしてるみたいだよ」
「え?」
「今度は電車の自動運転をやめろだってさ」
「はあ!?」
「電車が自動運転しているせいで、鉄道会社の採用人数が減っている。だから、そこに採用されず、夢破れた青年達の為に機械化と自動化に強く反対するというものだ」
「自動改札機や券売機も、その中に入ってるんですかね?」
「盛岡周辺はそんな御大層な電車は走っていないから大丈夫だと思ったが、どうやらワンマン運転というのも怪しいらしく、ワンマン運転が当たり前の在来線とかは止まってるみたいだよ」
「何つー奴らだ。いや、手動運転のワンマンだったら関係無いと思いますけど……」
「赤字路線だからこその苦肉の策なのにね。人件費が嵩んだら、路線そのものが廃止になってしまう。本当にテロリストの考えることは理解できないね」
「“ゆりかもめ”とかだったらまだ分かるけどなぁ……。あれ、電車自体がロボットみたいなもんだし……」
 その“ゆりかもめ”も運転を見合わせているという。
 週末、行楽客で賑わうお台場へのアクセス鉄道なだけに、打撃は大きい。
「AR団のリーダーに自首するよう、伝えておくよ」
「!」
 明本のさらっとした言い方に、シンディは目を丸くした。
「リーダーを知っている?」
「ああ。詳しい話は明かせないが、ちょっとね。ただ、それには1つ条件がある。それを飲んでもらいたいが、いいかな?」
「いいでしょう」
 敷島は大きく頷いた。
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“アンドロイドマスター” 「痛恨の一撃」

2014-09-20 00:25:40 | アンドロイドマスターシリーズ
 『ライブ中、卑劣なテロ行為!』『鏡音レンにレーザービーム!』『AR団、犯行声明出す!!』
 多くの新聞、週刊誌で取り上げられた記事のタイトルである。

[9月17日09:00.財団仙台支部・支部長室 敷島孝夫&森須支部長]

 昨夜一睡もせず、うな垂れる敷島。
 その敷島に目を背け、窓の外を見ている森須。
「……申し訳ありませんでした。私の危機管理が足りず……」
 敷島が口を開くと、森須は敷島の方を向いた。
「状況は分かった。先程、AR団には世間にも向けた形で抗議声明を出した。幸いマスコミも、人気絶頂のボーカロイドを攻撃したAR団をテロ行為と見なして糾弾している」
 昨夜、鏡音レンはライブ会場でテロの犠牲となった。
 具体的には、ライブが最高潮に達した頃、アドリブでバック宙を披露した際、客席から殺傷力のあるレーザービームが放たれ、レンの右肩に直撃した。
 レンは衝撃で後ろに跳ね飛ばされた際、初音ミクにも激突してしまった。
 大騒ぎになる中、ライブは中止。
 レンとミクは鋭意修理中である。
「キミに責任は無いよ。今回のライブは、東日本大震災の被災者となった人々を対象としたチャリティ・イベントだったんだからね。そんな人達に、厳しい手荷物検査などできっこないわけだよ。そこを突かれてしまったんだ。全くもって、卑劣な行為だ」
 森須は言った。
「だが、今度からは警戒を強化しなくてはならないだろう。会場にエミリーなど、セキュリティ・ロボットの類を投入せざるを得なくなる」
「はい……」

[同日同時刻 仙台市泉区 アリスの研究所 シンディ&鏡音リン]

 一晩中泣きじゃくっていたリン。
 一夜明けて、ようやく落ち着きを取り戻していた。
 意外にも、リンの悲しみを受け止めたのはシンディ。
 リンを抱き寄せて、好きなだけ泣かせた。
「もうすぐバッテリーが切れるわ。今日は財団からの命令で、仕事は全部キャンセルなんでしょう?いっそのことシャットダウンして休んでいなさいな」
「ええ……」
「あ、その前に体の汚れを落とそうか。昨夜もゲリラ豪雨の中、外へ飛び出したらいしいわね」
 レンとミクが会場から運び出される際、リンは土砂降りの中を見送っていた。
「まだシャワーが使えるくらいの残量はあるよね」
「はい……」

 シンディとリンは研究所内のシャワールームに移動した。
 そこでリンの服を脱がせ、髪留めやら全てのアクセサリーを外すと、双子の弟であるレンと見た目の区別がつかない。
 もっとも、そこは設定年齢14歳だ。体つきの違いについては、ちゃんと意識して作られている。
 リンの場合には14歳の少女らしく、淡い胸の膨らみなんかも、人間のそれのようによく再現されていた。
 シンディはリンの体を洗ってあげた後、これまた人間の髪と良く似た感じの金髪をブラシでとかした。
「……何だか、信じられません」
 リンが口を開いた。
「何が?」
「リンが知ってるシンディはもっと冷酷で、殺人もロボット破壊も楽しくやっている感じでした。識別信号が同じでなかったら、とても信じられません」
「ああ、そういうこと」
「どうして、リンにこんなに優しくしてくれるんですか?」
「結論から答えると、どちらもオーナーの命令だからよ」
「えっ?」
「破壊活動とかはウィリアム博士の命令だったし、あなたに優しくしているのは、アリス博士に皆と仲良くやるよう命令されただけよ。オーナーの命令は絶対、ユーザーの命令は相対ってところかな。エミリー姉さんは真面目だから、ちゃんと使い分けているみたいだけど……」
 エミリーにとってはオーナーの命令は正しくロボットのように忠実であり、ユーザーの要望にもなるべく答えようとする。
 だが、オーナーがユーザーの命令を取り消す権限があるため、相対的なのである。
 エミリーはそれだけ例外にして、なるべくユーザーの命令も極力聞こうとしているという。
 しかし、シンディは違うという。
「ユーザーの命令内容が、オーナーの意向と合わないと判断したら拒否するわ。私はね」
「はあ……」
「とにかく、こうしていると昔を思い出すのよ。昔はよくこうして、姉さんを含む他の姉妹達と一緒に体を洗ったりしたわ」
「へえ……」
「男兄弟も入れて、全部で7機いたからね」
「7人兄弟なんですか。凄いですね」
「全部スペックが同じ、“七つ子”よ。凄いでしょう?……あ!」
「何ですか?」
「思い出した。私達って、全部で7体作られたんだ。派生機まで入れたら、分からないけどね。私は“七つのの大罪”のうちの“傲慢”で、姉さんは“色欲”。キールは“強欲”だった……」
「そうなんですか……」
 リンの“意識”が薄れて行く。
「あ、ごめんね。早くしないと、バッテリー切れちゃうね」
 シンディはリンに別の服を着せてやり、ボーカロイド居住区へ連れて行った。
 充電コードを電源コンセントに接続した際、リンのバッテリー残量は僅か2パーセントほどだったという。

[同日11:00.財団仙台支部 研究室 平賀太一、アリス・シキシマ、敷島孝夫]

「どうですか?ミクとレンの調子は?」
 敷島が平賀に問うた。
「幸い、人工知能などの類に損傷は見られません。その周辺機器、並びに動力部分に多少の破損があった程度です。数日以内に直せますよ」
「おお、さすが!」
 自信あり気に答えた平賀に、敷島は褒め言葉を送った。
 敷島が平賀達の元を訪れたのは、他にもある。
「先程、シンディから連絡がありました」
 と敷島が言うと、平賀は明らかな不機嫌そうな顔となり、アリスは顔をパッと明るくした。
「シンディのメモリーが回復したそうです。マルチタイプの総生産台数は7機だそうです」
「7機!?」
「はい。あいにく、その派生機については不明とのことです」
「思い出したのね。良かった……」
「少なくとも派生機は一機知ってますよ。キールがそうでしょう?」
「確かに……。マルチタイプの5号機であったキールの製造法を、十条博士が思い出しながら作ったものなので、派生品扱いだと……」
「後で支部長に報告します」
 と、敷島は言った。
「お願いします」
 平賀はそれだけ言うと、またボーカロイドの修理作業に当たった。
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