報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「死せるウィリー、生ける財団を走らす」

2014-09-02 19:26:56 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月1日13:00.廃ホテル“シークルーズ”跡 敷島孝夫&キール・ブルー]

「たかだか2週間も経っていないってのに、随分と風景が変わったなぁ……」
「そうですね」
 集中豪雨による国道7号線矢立峠における土砂災害は復旧し、片側交互通行ながら通れるようになった。
 災害現場は大規模な復旧工事が進められており、ダンプカーや重機を乗せた大型トレーラーと幾度と無くすれ違ったり、並走したりした。
「ホテル跡はあの後、警察や消防に封鎖されていたが、財団がどんな手を使ったんだか知らないが、今日から財団の調査が入れるようになった」
 運転席でハンドルを握る敷島は、前を見たまま言った。
「はい」
 助手席に座るキールは同調した。
 地元の新聞には集中豪雨による山崩れにより、ホテル内に土砂が流入、その衝撃で放置されたプロパンなどのガスボンベがガス漏れを起こし、爆発したことによる火災が原因で全焼・全壊したと報道されている。
 確かに今から思えば、爆発していた時、少しガス臭かったような気がする。
 但し、それは自爆の燃料に館内に張り巡らされたガス管を使用したものだと考えられている。
 元々は国道からホテルへのアプローチで、広場になっていた場所が抉り取られていた。
 先月はここに車を止めていたのだが、それが跡形も無くなっている。
 ここから少し行った所に災害復旧工事の事務所があり、ここに車を止めることが許可されている。
 そこからは徒歩で移動。
 川は嘘みたいに穏やかになっていたが、ホテル跡へのアクセスには工事用の何の飾りっ気も無い仮設橋を渡ることになった。
「お疲れ様です」
 橋を渡り切り、瓦礫の山と化したホテル跡の前に立っていたのは、財団仙台支部長に今年の夏に就任したばかりの森須理事だった。
 60代で見た目が“刑事コロンボ”の主人公に似ていることから、教壇に立つ大学の学生からは『コロンボ教授』と呼ばれているらしい。
「ボス自ら陣頭に立たれるとは、今度の新しい支部長は随分とアグレッシブですね」
 敷島は笑みを浮かべた。
「ふふふっ。この前の健康診断で運動不足が露呈してね。医者に運動しろとうるさく言われたよ」
「運動不足は理系人の職業病ですからね。うちのアリスにも、ランニングをさせてますよ。今はグラマーな体型を維持していますが、あのままだと近いうち、肥満体になってしまいます」
「そうだな。うちのカミさんにも、『これ以上メタボになったら離婚だ』と言われた。キミはまだ新婚だから分からんだろうが、30年も経てばゴミ扱いされるってことだ」
「はあ……」
「それより、今日の目的は聞いてるな?」
「シンディを今日から実験的に起動させるそうですね。今はメモリーが無い状態だからいいようなものの、破壊前のメモリーがここに保管されているそうで……」
「その通りだ」
 アリスが見つけたウィリーの実験ノートに記載されていたという。
 あのノートはただの研究ノートではなかった。
 アリスに宛てて書かれた遺書もあった。アリスがあの場で斜め読みしかしなかったのは、泣くのを防ぐ為であった。
 研究成果は全て孫娘であるアリスに相続させる。それをどのように扱うかも、アリスの自由とするとのことだった。
 実はシンディのこともノートには書かれていて、それによると、前の体が耐久年数が来た時のことを考えて用意した交換用のボディだという。
 だから基本、そのまま使える。
 しかしメモリーが無いため、起動させても行動はできない。
「予備のメモリーを、あの時計台の振り子の下に隠しておいたって今さら言われましてもねぇ……」
 敷島はホテルの建物だった残骸を見て、頭をかいた。
「この中から探すってのは……」
「探してくれ。キールに搭載されたスキャニングも使ってな」
「え〜……参ったなぁ……」
「参事。取りあえず、ホールがあった場所に行ってみましょう」
「周辺をくまなく探してくれ」

[同日14:00.廃ホテル“シークルーズ”跡・エントランスホールがあったと思われる場所 敷島、キール、森須]

「いや、これ、今日中に見つかるかなぁ……」
 キールが現場周辺をスキャンする。
 中には、あのクリーチャー・ロボの残骸なんかもあった。
 さすがにあの大爆発、大崩壊で生き残った者はいなかったようだ。
「探せとの森須支部長からの命令です」
「くそっ。本当ならシンディの起動実験に立ち会ってるか、ルカの復活ライブに立ち会ってるかのどっちかだったんだぞ」
「平賀教授ご夫妻も、今日から大学が始まるのでお忙しいですからね」
「忙しいのは俺も同じだっての。……あれ?」
 その時、敷島は何かを見つけた。
「おい、キール。あそこから突き出てるの、もしかして時計台の針じゃないか?」
「スキャンしてみます」
 キールがスキャンする。
 そして自身のメモリーに残された時計台の全景と照合してみる。
「……ええ、間違いありません。これは時計台に使われていた長針部分ですね」
「針だけでも相当な重さだな。ということは、この辺に時計台があったということで間違い無いな?」
「そのようです」
「あとは振り子だ。特にあの下に付いている大きな丸い部分は、その場に落ちただろうから、それがいい目印になる」
「はい。まず、あの長針を掘り返してみます。あの下に埋まってるかもしれません」
「そうだな。頼む」
 キールは瓦礫の山によじ登り、長針を掘り返してみた。
 それは途中で折れており、とても人間1人の力では掘り返しも運び出しもできそうにない。
 こういう時、キールのようなロボットが1体でもいると大きな力になる。
 因みにエミリーはシンディ起動時の際、万が一に備え、現場となっているアリス研究所に控えている。
 ボーカロイド達は全員、今日は芸能活動で研究所にはいない。
「ん!?」
 キールが長針を引き出した時だった。
「オオオオ……!」
 その長針をくわえて一緒に出て来たクリーチャーが現れた。
 崩壊前のホテルでは見たことも無いタイプだった。
 ずんぐりむっくりした体型で、手足は無く、目や鼻、耳の類も見当たらない。
 大きな口だけがついていた。
「参事、離れてください!」
「ああ!」
 キールが間合いを取ると、その個体はズルズルと這いずって、キールに近づいた。
 動きは遅く、大きな口をガバッと開けるだけで、何か攻撃をしてくるわけでもない。
「危険防止の為だ。排除しろ」
 森須がそうキールに命令する。
「かしこまりました」
 キールは右手を散弾銃に換えた。
 大きな口の中には、機器が直接見えていた。
 元々そういう仕様なのか、爆発による衝撃でそうなったのかは不明である。
 キールはその口の中が弱点だと見抜いた。
 だから間合いを取り、クリーチャーが口を開けるのを待っていた。
「グアアッ!」
 クリーチャーが口を開ける。
 キールはその口の中に散弾銃を数発発砲した。
 全弾命中する。
 機器を直接攻撃されたクリーチャーは、爆発を起こした。
「どうやら、電気ではなく内燃機関を使用しているタイプのようだな。中の燃料に被弾したので、爆発したのだろう」
 森須は冷静に解説した。
 その爆発のおかげで、長針のあった瓦礫の山が軽く吹き飛んだ。
「ありました!振り子の部分です!」
「よーし!」
「研究ノートによれば、カスタムパーツの入ったボックスに偽装しているらしい。それを探索しろ」
「はい」
 キールが慎重にスキャンする。
「……!?」
 キールは瓦礫の山から少し目を奥の方にやった。
「どうした?」
「いえ、カスタムパーツらしきものが移動している?ようです」
「カスタムパーツそのものじゃないぞ?あたかもそれが入っていると偽装しているボックスだぞ?」
「ええ。ですから……」
「とにかく追おう。誰かが持ち出してるのか?」
「移動速度はゆっくりですが……」
「そんなことは無い。この区域は本来立ち入り禁止だ。今日は特別に財団関係者だけが調査のため、立ち入りを許可されているに過ぎんよ」
 と、そこへ電話の着信音が鳴る。
 敷島のではなく、森須のだった。
「ああ、財団本部から連絡だ。私はここにいるから、キミ達は捜索を続行してくれ」
「はい」
 敷島達はとにかく、何故か現在進行形で移動しているボックスを追うことにした。
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とある顕正会員のブログに出入りしている学会員が気になった。

2014-09-02 15:24:40 | 日記
 私のブログにも学会員が出入りされているが、別にだからどうというわけではない。
 どなたでもお気軽にお越し頂きたい。
 さて、その気になる顕正会員ブログというのは厳虎独白であり、学会員というのは沖浦克治氏のことである。
 沖浦氏はネットでも実名で活動されておられるので、それに敬意を表し、こちらでも実名で紹介させて頂く。
 同様に法華講員でも数名ほど実名で活動されておられる方もおり、その方々についても御紹介する機会があれば、実名で紹介させて頂くことになるだろう。
 私はチキンなので、自分の実名を出す度胸は無いが。
 まあ、当然ながら私の正体を知っている人もいることはいるけどね。
 多分、大石寺で富士山ではなく、バスの撮影をしていたり、明らかに作品関係の打ち合わせの電話をしているヤツがいたら私だ。
 所属寺院内で?いやー、人数多いから逆に包囲網に掛かることはないと思う。紹介者しか知り合いいないし。

 おっと、話が脱線してしまった。
 学会員・沖浦氏のことだが、珍しく無知な法華講員でも指摘できてしまう発言をされていた。
 以下に引用させて頂く。

>2014/9/1 6:12

投稿者:沖浦克治


 昨日の朝刊に、東電福島原発の吉田所長の記事が載っていました。

 東日本は壊滅したと思った!

 現場を一番よく知る人の感想です。

 最も信頼できます。

 戸田先生は原爆宣言で言われました。

 『なぜかならば、われわれ世界の民衆は、生存の権利をもっております。その権利をおびやかすものは、これ魔ものであり、サタンであり、怪物であります。』

 原発は魔ものであり、サタンであり、怪物なんです。
                                 (引用ここまで)

 戸田会長を語る上で欠かせない、有名な原水爆禁止宣言の一部だ。
 私も噂には聞いたことがある。
 戦争で核兵器を使用することに対しての非難内容だと聞いた。
 戸田会長も戦時中は相当ご苦労なさったという話を聞いているので、その分、重みを感じる発言だ。
 しかし沖浦氏はその戸田会長の発言を用いて、原発の非難をされている。
 氏は反原発派であり、その確固たる信念について非難するつもりはないが、それと戸田会長の発言がどう関係するのだろうと思った。
 当然ながら戸田会長存命中の発言であるから、1950年代に出されたものだ。
「はて?そんな昔から原発ってあったかなぁ???」
 と、沖浦さんの書き込みを見て首を傾げたものだ。
 というのは、職場に定年をとうに過ぎた嘱託社員の人がいるのだが、その人からぼんやり聞いたことがある。
「俺が子供の頃は、電力不足でしょっちゅう停電していたものだ。それが解消されたのは、高度経済成長に入ってからだ」
 とのこと。
 私にはその頃に原発が作られたというイメージがあるから、いかに原発というのは火力や水力発電所より発電量がデカいのだと思った。
 とはいうものの、一たび事故が起きたら甚大な被害が出るのも知っている。
 チェルノブイリというよりは、“シム・シティ”で実感したのだが。
 とにかく、時期については沖浦さんの後で、んっ?さんが明確に且つさらりと指摘されている。
 やはり、原発は高度経済成長の直前に作られていたようだ。

 反原発を主張するあまり、他人の発言を都合の良いように解釈して発表する。
 これでは、あの朝日新聞と変わらないと思う。
 反戦は結構だし、私もそうだが、行き過ぎた思想は禍根を残すだけだ。
 後のことは、本堂さんが仰る通りである。

 化石燃料の大量使用によって引き起こされている環境汚染、並びに老朽化した火力発電所酷使による故障と隣り合わせ状態に対しては完全スルーなのには笑えた。
コメント (6)
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“アンドロイドマスター” 「大脱出」

2014-09-02 02:30:15 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月20日02:00.廃ホテル“シークルーズ”エントランスホール 敷島、アリス、キール、エミリー]

「急げ急げ!」
 再びカジノに戻って来た敷島達。
 ホテルの方はまだ爆発などは起きていなかったが、アラームが鳴り響いているところを見ると、ここも爆発するようだ。
 エントランスホールへ出るため、舵輪型の取っ手を回すと、向こうから何か衝撃音のようなものが聞こえた。
「何!?」
 アリスが緊張した面持ちになった。
「どうやらホテルの方でも、小爆発が始まったみたいだな」
 敷島がそう答えた。
 それでも非常予備電源は止まらなかったのが幸いだった。

 エントランスホールに出ると、まだ爆発は起きていなかった。
 大きな時計台の振り子は、相変わらず大きく左右に振り続けている。
「? さっきの音、どこから……?」
 アリスは首を傾げた。
「それより、早いとこ展望台へ向かおう。眺めを楽しむ余裕も無くなっちまう」
 敷島は展望エレベーターのボタンを押した。
「おっ、動いた。非常予備電源を全部動かした甲斐があったな」
 カゴ内からホール内を見渡せる、ガラス張りのエレベーターだ。
 まあ、このホテルに限らず、ちょっとシャレた観光地のホテルにも似たようなものはあるだろう。
「よし」
 ドアが開いて、早速乗り込む。
「うん、これだ!」
 ボタンには階数表示は書かれておらず、『展望台・大浴場』と書かれたボタンがあったので、敷島はそれを押した。
 すぐにエレベーターのドアが閉まって上昇を始める。
 眼下を見ると、あちこちから煙のようなものが出始めた。
「どうやら、ここも危なくなってきたみたいだな。研究施設の火災が燃え広がってきたのかな」

 ドォーン!(エレベーター内に広がる衝撃。ガラスが割れて、敷島とアリスが危うく転倒しかかったくらい)

「な、何だ!?何かぶつかったぞ!?」
 その衝撃のせいだろうか、エレベーターが止まってしまった。
「気をつけて・ください。何か・います!」
 エミリーが右腕をマシンガンに換えた。
「な、なに!?」
「ガァァァッ!」
 割れた窓の外から覗くは、
「お前は……!」
「ケンショーレッド!?」
 ケンショーイエローと同じく、上半身だけを突き出し、下半身を太った機械に『喰われた』レッドがいた。
「エミリー、キール!とにかく撃て!何かやばそうだ!」
「はい!」
「イエス!」
 エミリーとキールはマシンガンとショットガンに換装した。
 それで応戦する。
「何てこった!ケンショーレンジャーの中で唯一、人畜無害なヤツだと思っていたが、最後で化け物になるとはな!」
 アリスと敷島はドアの前に移動した。
 どうやらレッドがエレベーターを押さえ付けているらしく、こいつを倒さない限り、エレベーターが動くことは無さそうだ。
 レッドはイエローと違い、くたばっているところを『喰われた』のか、意識は無く、口から血を垂らしているだけである(無論、それだけでも十分不気味だが)。
 だから、イエローのようにうわ言を吐くということはない。
 そうこうしているうちに、ホテルの方でも爆発が始まった。
 プロムナードからのドアが吹き飛び、そこから炎が噴き出た。
「最後の最後で邪魔なヤツだ!」
 エミリーはカゴ内に乗り入れて来たレッドに対し、咄嗟に体当たりした。
「グモォォォッ!」
 エレベーターが大きく揺れるが、レッドは時計台の振り子に激突する。
 象徴とも言える大きな振り子は、レッドの爆発により時計台ごと崩れ落ちて行った。
「やったのか!?」

 ガクン!ウィィィ……。

「おっ、動いた!」
 エレベーターが再び上昇を始めた。
「今度はちゃんと展望台まで上がって欲しいな」

[同日02:30.展望台→屋上 敷島、アリス、キール、エミリー]

 大きな吹き抜けのホールが見えなくなり、エレベーターの外は無機質なコンクリートになる。
 またもや止まるが、それはちゃんと到着できたからであり、ドアが開いた。
 ここはまだ爆発も火災も発生していないせいか、アラームが鳴っているだけで煙すら立ちこめていなかった。
「本当なら眺めもいいんだろうに、夜中なのが残念だぜ。で、屋上に出るドアはどれだ?」
「あそこの・ようです」
 エミリーが指差す。
 確かに観音開きの鉄扉があった。『ヘリポート』と書かれている。『屋上テラスへの出口ではありません。東側へお回りください』という表示もあることから、営業中は本当に眺めも良かったのだろうか。
「平賀先生、屋上に到着しました」
 敷島が無線を送ると、
{「了解です。こちらも、まもなく到着します」}
 という無線が返って来た。
「……!」
 屋上へのドアはカードキーでないと開かないようだったが、生前のレッドから頂戴したもので開錠できた。
 さすがにこれは後付けであるらしい。
 キールが開錠操作に当たっていると、エミリーは展望台の片隅に置かれている木箱が気になった。
 スキャンしてみると、エミリーは自分が出したスキャン結果を疑った。
「参事、ドアが開きました!」
「よし!あとは平賀先生の迎えを待つだけだ!」
 既に外は雨がやんでいた。
 ただ、若干風が強いのと、曇り空なのが気になったが。
「ウウ……」
「アア……」
 夜風が気持ち良くなかったのは、この期に及んでヘリポートにクリーチャー・ロボが待ち構えていたからだろう。
 無論、キールが自らに搭載された武器・弾薬で応戦する。
 頭部を狙って、ライフル2発ずつでクリーチャー達はズブズブのゴミと化した。
 リサイクルも分別もできない、迷惑なゴミだ。
「! 何やってんだ、エミリー!?」
 敷島がヘリポートに出ようとしないエミリーに気づいて、問い詰めた。
 既に展望台にも爆発の兆候が表れ、さっき乗って来たエレベーターのドアから煙が出ている。
「敷島さん・これを……」
 エミリーは大きな木箱を運び出した。
 人が1人入れそうな大きさだが……。
「エミリー、何を持ってきたの?」
 アリスもやってきた。
「この箱……」
「開けてみて」
「大丈夫かよ?」
 アリスの命令を受けて、エミリーは木箱の天板部分を開けた。
「ああっ!?」
 中身を見て、敷島達は飛び上がらんばかりに驚いた。

[同日同時間帯 廃ホテル“シークルーズ”付近上空 平賀太一]

「まもなく、目標上空です」
 操縦しているのは平賀ではない。
 パイロットは別にいる。
 そのパイロットに促され、平賀はヘリの窓の外を見た。
「あちゃあ……。いきなり、崩壊寸前か……」
 上空からでもホテルのあちこちから火炎が吹き上がり、爆発で窓ガラスが吹き飛ぶのが見えた。
「屋上のヘリポートはあそこか。……おっ、まだそんなに爆発していない。今のうちだ」
「はい」
 ヘリポート付近に、敷島達の姿を発見した。
 何やら、言い争っているように見えるが……。

[同日02:45.同ホテル・ヘリポート 敷島、アリス、キール、エミリー、平賀]

「だから、危険だっつーの!捨てとけ、こんなの!」
「責任は私が持つわ!これだって、じ―様の大事な遺品よ!」
「その爺さんを殺したヤツじゃないか!」
「あの、迎えに来ました……よ?」
 平賀は首を傾げながら、ヘリを降りた。
「平賀先生、これを見てください!」
 敷島は木箱の中を指差した。
「は?え!?」
 その中にあったのは、
「シンディだ!」
 エミリーと同じマルチタイプにして同スペックの姉妹機、シンディが何故かそこに眠っていた。
「そこにあったんです!こんな殺戮兵器、持って行く必要はない!こいつが暴れ出したらどうなるか知っているだろう!」

 ドォーン!

「うっ!?」
 ついに展望台も爆発が始まった。
「とにかく、判断は財団に任せましょう!エミリー、箱ごとでいいから乗せろ!」
 平賀の命令に、エミリーはパッと顔を明るくした。
「イエス!プロフェッサー平賀!」
 キールも手伝って、木箱をヘリに乗せる。
「どうなっても知りませんよ!」
「すぐに離陸します!」

 ヘリが離陸する。
「見ろ、ホテルが……」
 敷島達の脱出を待っていたかのように、ホテルは何回かに分けて大爆発を起こし、崩壊していった。
「近年に無い大豪雨で、付近の国道の峠で大規模な土砂災害が発生したんです。いきなりヘリで来て驚かれたかと思いますが、つまりもうこれしか手段が無かったわけです」
「よく、ヘリなんてチャーターできましたね?」
「ボーカロイド達が稼いでくれてるおかげですよ」
「これから、どこへ向かうの?」
「財団本部の前に、まずは仙台支部に寄ってからです。それまで、ここで休んでいてください」
「ありがとうございます」

 脱出の直前で思わぬ副産物を手に入れてしまった敷島達。
 このことが吉と出るか凶と出るかは、まだ誰にも分からない。

                                 廃ホテル編 終
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