報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「東北紀行」 7

2014-05-11 18:07:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月5日09:44.JR長町駅 ユタ、威吹、カンジ、イリーナ、マリア]

 5人は駅のホームで仙台行きの電車を待っていた。
 昨夜、MPをだいぶ消費したイリーナが起きてきた時には、既に出発間際になっていた。
 今日の行き先についてだが、イリーナは買い物がしたいという。
 威吹達に関しては何の予定も無かったことから、結局ついてきた。
「全然観光しないね」
 ホームの先に立つユタに、威吹が話し掛けた。
「まあ、元々そういう目的じゃないからね。買い物したいっていうんなら、それでいいさ」
 しかし、行き先が……。
「あの魔道師の言いたいことは分かるが……。わざわざ、遠出するとは……」
 ショッピングモールなら、歩いて行ける場所にある。
 しかし、昨日の事件もあったので、なるべくなら仙台市内から出た方が良いというのがイリーナの主張だった。
「まあ、ここはイリーナさんの言うことに従ってみよう。遠出と行っても、仙台市からそう遠い所に行くわけじゃない」
「そのようだが……」
 そこへ、4両編成の電車が入線してきた。
 既に多くの乗客で賑わっており、ユタとマリアは吊り革と手すりに掴まった。
 電車は、すぐに走り出した。

〔次は終点、仙台です〕
〔The next station is Sendai,terminal.〕

 結局、マリアの『狂った笑い』については謎のままだった。
 何故ああいう笑い方をするのか、何故面識の無いヤンキー達を殺して、
「復讐完了」
 と言ったのか。
 本人もイリーナも、口を閉ざしている。
 威吹はここぞとばかりに、
「ボクは自分の過去を話した。しかし、あいつらは話していない。そんな奴らを信用できるか」
 と、ユタに言った。
 今、ユタの隣に立つマリアは、いつものマリアである。
 いつの間にか戻って来たミク人形やフランス人形のストラップをバッグに付けている。
 魔道師のローブを羽織っている以外は、全く普通の女性である。
「カンジ、鬼の方は?」
「こちらに向かっている様子はありません。恐らく、栗原女史が食い止めているものかと」
 2人の妖狐はそんなことを話していた。
「オレ達が対処していたら、恩を売れたんだがな」
「ええ」

[同日9時50分 常磐線235M電車内→JR仙台駅在来線ホーム ユタ、威吹、カンジ、イリーナ、マリア]

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、仙台、仙台です。4番線到着、お出口は左側です。仙台からのお乗り換えをご案内致します。……」〕

「威吹、キノと鉢合わせになることはないかな?」
 ユタが威吹に聞いた。
「その心配は無さそうだ。ヤツにしてみれば、すぐにでも飛んで来たいところだろうがね」
「普通の人情ではあるけどね」

〔「……普通列車の利府行きは、2番線から10時9分。……」〕

「しかし、ここだけの話、余計に話が大きくなる恐れがあります。栗原女史の判断は正しいでしょう」
「確かに」
 カンジの発言にウンウンと頷くユタと威吹だった。

 常磐線からやってきた電車は、ゆっくりと仙台駅のホームに進入した。

 4両編成の電車から吐き出される乗客達。
 その中にユタ達の姿があった。
「あ」
 その時、ふと気づくユタ。
「なに?」
「荷物が大きくて、アレですよね?もし良かったら、コインロッカーに入れていきませんか?コンコース上にあるはずなので」
「それもそうね。必要なものだけ持って行って……」
「はいはい」

[同日10:00.JR仙台駅2番線 ユタ、威吹、カンジ、イリーナ、マリア]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。2番線に停車中の列車は、10時9分発、普通、利府行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 ユタがまた目を丸くすることがあった。
 イリーナが必要な物をキャリーバッグの中から出して、それを魔道師のローブの中にしまったのだが、これがまた……。
 ドラ○もんの四○元ポ○ット並みに入るのだった。
 正直、こんな御大層なバッグ必要か?と思うほど。
「イリーナさん、そういえば今朝、何も食べてませんでしたよね?何か買ってきましょうか?」
 ユタはイリーナに話し掛けた。
「大丈夫。私くらいになると、飲み食いしなくても大丈夫だから」
「ええっ?」
「あ、でも、お茶や食事の付き合いなら参加させてもらうからね」
「は、はあ……」
「それに……」
 イリーナは乗車した電車の車内を見渡した。
「これじゃ、落ち着かないし」
「ど、同感です」
 下り電車は空いていたが、内装は普通の3ドア通勤電車であった。

 
(ユタ達が仙台〜利府間で乗車したJR701系。仙台地区の同車種は、横向きのロングシートしか存在しない)

 作者はリクライニングシートよりも寝れるのだが。

〔「ご案内致します。この電車は10時9分発、普通列車の利府行きです。東仙台、岩切、新利府、終点利府の順に止まります。松島、小牛田方面には参りませんので、ご注意ください」〕

「あの、イリーナさん、マリアさんのことですが……」
「『狂った笑い』については忘れてあげて。あのコが言った、『酒に酔っていた』というのは半分本当だから。あのコが『狂った』のは、そのせいでもあるから」
「はあ……」
「場合によっては、師匠命令で禁酒にしてもいいからね」
「そうですか」
 ユタはマリアの隣に座った。

 電車は時間通りに発車したが、
「あ、雨だ」
 窓ガラスに水滴が付着するのが分かった。
 運転室の方を見れば、ワイパーが動いているのが分かる。
「そういえば、今日は大気の状態が悪いんだった」
 マリアが言った。
「このコ、天気まで言い当てられるようになったからね、気象庁いらずよ」
 イリーナが自慢げに話した。
「はは、そうですか」
 昔はそれは貴重な能力だっただろうが、気象学が発達している昨今、異能とは言えなくなりつつある。

[同日10:27.JR利府駅 上記メンバー]

 電車は東仙台駅を出ると、田園地帯を進んだ。
 よく見れば、昨日、田植えさせられた田んぼがあったりする。
 田植えで、電車を見るどころではなかった。
 岩切駅で本線と分かれ、利府支線と呼ばれる単線の線路を進む。
 但し、このルートの方がかつては本線だった。
 鉄道唱歌でも、利府方面が本線だった頃のものが歌われている。
 東北新幹線と並行するこのルートは、利府の車両基地の横を走る。
 広大な車両基地の横、長大編成の新幹線が留置される中、たった2両編成の電車が駆け抜けて行く様は、どこか滑稽だ。

 元々はその先まで線路が伸びていた利府駅も、今ではここでブツ切りにされた終点駅(頭端駅)である。
 今では2番線が復活しているが、支線化されてからしばらくは1面1線、1番線しか無かった寂しい駅だった(それでも無人駅にまではならなかったが)。
「到着〜」
 1番線に到着した電車から降りる面々。
 すぐに自動改札口を通る。
 この時点で雨は一応止んだが、まだ厚い雲が掛かっており、油断はできない。
 マリア曰く、
「早く移動しないと雨に当たることになる」
 とのこと。
「それじゃ、バス乗り場に移動しますか」
 駅舎を通り抜けて、ロータリーに出る。

 これから先、向かうモールでも、何か一悶着ありそうな予感だった。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「東北紀行」 6

2014-05-11 15:26:37 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月4日23:00.仙台市太白区長町のホテル 稲生ユウタ&マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]

 事件のあった複合娯楽施設からタクシーに乗り、宿泊先のホテルに戻って来たユタとマリア。
 すぐに部屋には入らず、フロントに預けておいた鍵だけをもらって、ロビーで待機していた。
 マリアはフードを深く被ったまま、うなだれていた。

〔「……たった今、入ったニュースです。今日午後10時頃、宮城県仙台市太白区のアミューズメント施設で、若い男性客3人が何者かに襲われ、意識不明の重体です」〕

 ロビーにはテレビがあって、ニュースが流れていた。
「!」
 まあ、あれだけの事件だ。ニュースにならない方がおかしいが……。
 マリアも少し顔を上げて、ニュースを見た。
 右手で口元を押さえている。
 そこへ、エントランスの前にタクシーが到着した。
「ユタ、大丈夫か!?」
 威吹が飛び込んでくる。
「ああ、僕は大丈夫」
 イリーナは普段のおきゃんな性格はどこへやら、珍しく怪訝な顔をしていた。
「マリア。部屋に行きましょう。ユウタ君、ごめんね。お手数かけたね」
「あ、いえ!僕は別に……!」
「当然だ。ユタを巻き込みやがって」
 威吹はなじるように言った。
「後で落とし前は……」
「威吹、いいから!」
「ユタ……」
「僕のことは気にしないで!……あれは人助けだったんだから」
「人助け……ですか」
 タクシー料金の支払いで、1番後にやってきたカンジ。
「栗原女史に関しては、“獲物”から目を放したキノの責任です。本来なら、稲生さん方が首を突っ込むべき問題ではなかったかと」
 カンジはポーカーフェイスを崩さずに言った。
「いや、それはおかしい!目の前でヤンキー達に絡まれてるのに……!」
「蓬莱山家の人脈で、栗原女史に護衛を付けるとかするべきでしたよ。そこは鬼族の詰めの甘さと言いますか……」
 ユタはカンジの発言を無視して、エレベーターに向かった。
「あ、あの、イリーナさん!」
「なに?」
 エレベーターを待つイリーナに話し掛けるユタ。
「マリアさんは人助けをしただけです!マリアさんは悪くない!だから……」
「人助け……ねぇ。まあ、最初はそのつもりだったんでしょうけど……」
 エレベーターのドアが開いて、2人の魔道師はエレベーターに乗り込んだ。
 構造上、乗り込んだらボタン操作の為に振り向くことになる。
「この顔でも、そう思うの?」
「!?」
 イリーナは顔の下半分を隠しているマリアの右手を一瞬、引き剥がした。
 その口元は、笑っていた。
 つまり、それまでは自分のしたことの大きさに打ちひしがれて、震えていたわけではない。
 笑いを堪えて、震えていたのだ。
「はははははは!」
「あの事態を引き起こして、笑っている……。まあ、明日までには何とかするから。じゃあ、お先にね」
「…………」
 エレベーターのドアが閉まり、魔道師2人は客室フロアへ向かって行った。
「ユタ、本当にいいのかい?今ならまだ、こっちへ戻れるぞ」
 背後から威吹が声を掛けた。
「得体の知れない連中です。稲生さん、ここは威吹先生の仰る通りかと」
 カンジも同調した。
「……もう寝る」
 ユタはエレベーターの呼び出しボタンを押した。

[5月4日24:00.同場所、ユタの部屋 稲生ユウタ]

 ユタは自分のケータイで、通話していた。
 相手は栗原江蓮。
 ヤンキー達から助けてくれたことへのお礼の電話だった。
{「こんな時間に電話を掛けて申し訳ないが、どうしてもお礼が言いたくて……」}
「いや、礼なんて別に……」
{「稲生さん、ツイッターもラインもやってないし……」}
「あ、ああ。ちょっと興味が無くて……。(そんなんで礼言うなや!)」
{「私も深夜徘徊で厳重注意だ。ったく、あのバカ野郎達に絡まれなきゃバレずに済んだのに……」}
「高校生以下は22時前には帰ろうね」
 多分、そこは魂としての川井ひとみのやったことだろう。
 元スケバンなんだから、深夜徘徊くらい、どうってこと無かったと思われる。
{「警察に事情聞かれたけど、稲生さん達のこと言ってないから」}
「ああ、それは助かる」
{「もっとも、初音ミクみたいな人形がやってきたなんて言ったところで、サツは信用しないと思うけどね」}
「しかし、事実だろう?それに関しては栗原さんも、周りの人達も見ていたわけで……」
{「それが変なんだ」}
「変?」
{「テレビ見た?もうニュースになってるんだけど……」}
「えっ?いや、見てないなぁ……」
{「別のヤンキー達がケンカ売って来て、乱闘みたいになったことになってるよ」}
「はあ!?」
{「要は、私をどっちが先にナンパしたかでケンカになったっていう……」}
「何だそりゃ!?」
 恐らくイリーナ辺りが何か細工したのだろう。
「キノが知ったら、泡吹くだろうな」
{「泡吹くどころか、最初に私に絡んできたヤンキー達を殺しに行くだろうね」}
「どっちみち、そういう運命だったのか。あいつら……」
 修羅界にプラス地獄界の相が加わると、ああなるということか。
{「稲生さんは?いつ帰るの?」}
「一応、今夜一泊だけ。栗原さんは?」
{「私は6日までいる」}
「いいねぇ。キノには知らせてる?」
{「まあね。随分とガッカリしてるみたいだけど……」}
「栗原さん、モテモテだね」
{「私の処女なら、そう簡単に渡さないよ」}
「はは、プレミアものだな。……でも、高いうちに売り渡した方がいいかもしれないね」
{「ん?」}
「売り渋っていると、さっきみたいなヤンキー達に強奪される恐れがある。少なくとも、キノなら高く買ってくれるんだから……」
{「ああ。それなら心配無いから。稲生さんこそ、早くしないと作者みたいになるよ」}
「ううっ……言い返せない」
 ……もっと言い返せない作者。

[5月5日09:00.同場所レストラン ユタ、威吹、カンジ、マリア]

「おはようございます」
「おはよう。ユタ、今日はゆっくりだね」
 威吹は和食の朝食を口に運びながら言った。
「ああ。まあ、昨夜あんなことあったからね。……大丈夫?マリアさん」
 マリアはいつもの調子に戻っていた。
「ああ。昨夜は済まなかった……。酒に酔っていたようだ……」
「ふん。酒だけのせいじゃないだろ」
「まあまあ、威吹」
 ユタは椅子に座った。
「……あ、僕は洋定食で」
「はい」
 ユタは注文を取りに来たスタッフに言った。
「ところで、イリーナさんは?」
「師匠は布団の中で『あと5分』を1時間以上繰り返していたので、放っておいた」
「あらま……」
「何度起こしても起きなかった」
「それは起きないイリーナ師が問題だな」
 カンジはコーヒーを啜りながら、トーストを齧った。
「もっとも、昨夜は随分と魔力を使用したから、分からなくもないがな」
「やっぱりそうなんだ?」
 ユタはカンジに食いついた。
「ええ。あの事件の真実の改ざんから隠ぺいから、色々とやってました」
「なるほどな……」
「そこは正に『クロック・ワーカー』ですね」
「クロック・ワーカー?」
「魔道師の……階級と言ってもいいでしょう。その1つの呼び名で、かなりの高レベルの者が名乗れるものです。『時を操る者』という意味ですが、実際は転じて、『歴史を陰で操る者』という意味で使用しているそうです」
「歴史を陰で操る者……。確かにそうだね。ヤンキーに絡まれて、マリアさんが半殺しにしたという歴史を操ったわけだ」
「いえ、それは違います」
 カンジは何故か否定した。
「え?」
「これを見てください」
 カンジはトーストの最後の一切れを口に入れると、手持ちのタブレットを操作した。
 そこで地元新聞社のサイトを出して、速報の欄を出す。
 そこには昨夜の事件のことが取り沙汰されていて、そこには……。
「『男性客3人死亡』……死んだの!?」
「ええ。治療の甲斐も無く、昨夜未明に仲良く昇天したようです。……いや、稲生さんの宗派で言うなら『天に昇る』ではなく、堕獄と言うべきでしょうか」
「!」
 ユタはパッとマリアを見た。
 そこには快楽の笑みを浮かべるマリアの姿があった。
 そして、ボソッとこう呟いたのだった。
「……復讐完了……」
 と。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「東北紀行」 5

2014-05-11 02:54:23 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月4日21:00.仙台市内のある複合娯楽施設 ユタ&マリア]

 スーパー銭湯にも入り、夕食も取った後はそれぞれの時を過ごす面々。
 特に夕食会の時に分かったのは、ある程度想定していたのだが、まずイリーナが酒豪であったこと。
 それでも酔い潰れたというわけでもないのだが、スーパー銭湯の休憩所で休む姿が確認された。
 カンジはユタに気を使ってか、師匠たる威吹を連れ出し、二次会と称して別の店に入って行った。
 だから今はユタとマリア、2人きりである。
「マリアさんも、結構飲むんですね?」
「そうか?まあ、確かにユウタ君よりグラス1杯、2杯多くは飲んだが……。妖狐達よりかは全然少なかっただろう?」
「まあ、あいつらは特殊ですから」
 因みにカンジは飲酒可かどうかで迷った。
 人間の歳では19歳。しかも、実年齢である。
 妖狐の世界では15歳元服である。しかし、人間界にも戸籍を持つカンジは、やはり現在の日本の法律である20歳以上を順守した方が良いのではということになった。
 蛇足だが、ユタは20歳。
「せっかくですから、楽しみましょう」
「ええ」
 2人はゲームコーナーに足を運んだ。

[同日22:00.同場所 ユタ&マリア]

「今更、酔い回って来た」
「大丈夫ですか?外に出て、夜風に当たってましょうか」
「そうだね」
 ユタと少し酔いが回って顔を赤らめているマリアは、建物の外に出た。
 そろそろ深夜帯になろうかという時間帯。
 それでも、大型の駐車場には多くの車が引っ切り無しに出入りしていた。
 バスで乗り付けた時はまだ家族連れも見かけたのだが、今ではユタ達と大して歳の変わらぬ若者達で賑わっている。
 すれ違う度にマリアに目線をやる若い男性客が多いことから、マリアの容姿はいいのだろう。
 ユタが同行していなかったら、相手によってはナンパとかされていたかもしれない。
 ただ、今更気づくのはモデルのような師匠イリーナの陰にいたせいだ。
「少し冷えるな……」
「そうですねぇ……。明日なんか、少し肌寒いらしいですよ」
「本当か」
「ええ」
 するとマリアは、バッグの中から魔道師のローブを取り出して羽織った。
「温かいですか、それ?」
「ああ」
「逆に夏は暑そうですね」
「ただのローブじゃないんだから……。夏は夏で日焼けはしないし、結構涼しいぞ」
「それも、魔力によるものなんですか?」
「まあ、そんなところだね。師匠くらいになれば、もっと他に使い道が……」
 と、その時だった。
「おう!どこ見て歩いてんだ、コラ!」
「!!!」
 どこかのチンピラだかの啖呵の声が聞こえた。
 いつの間にか、人けの少ない立体駐車場の裏まで来てしまっていたようだ。
「そっちからぶつかってきたんじゃん!」
「ンだと、この女!」
 明らかにヤンキーにしか見えない3人の男連れ。
 彼らが取り囲むは、1人の中高生くらいの少女……。
「って、あれ、栗原さんじゃない!?」
「ユウタ君の知り合いか?」
「同じお寺のコだよ!鬼族の“獲物”になってる……」
「ああ、あのコが噂の……」
「キノは何をやって……って、地獄界にいるのか!」
 そうしている間にも、
「ちょっとこっち来いっ、この!」
「放せよ!」
「ショウちゃんや、車回してくっからこの女連れてどっかマワそうぜ!」
「いいねー!」
 などという方向になっている。
「威吹かカンジ君に連絡して……!」
 ユタは震える手で、ケータイを取り出した。
 しかし、
「それには及ばない」
 マリアはバッグに着けていたミク人形とフランス人形のストラップを外し、地面に置いた。
 すると、見る見るうちにそれは屋敷などで見かけた元の人形の姿に変わっていった。
 手には小さい体に不釣り合いの大きなスピアやサーベルを持っている。
「行って!ミカエラ!クラリス!」
 2体の人形は主人たるマリアの命令に従い、ヤンキー達に向かって行った。
「あ?何だ、ありゃ?」
 ドンッ!!
「うお!?」
 フランス人形のスピアが、ヤンキーの改造車に突き刺さる。
「何だ、この人形は!?」
 浮足立つヤンキー達。

 最初、ユタは人形達はヤンキー達に警告し、江蓮を救出するのが目的だと思っていた。
 ケンカ慣れしているヤンキー達のことだから、そう簡単に引き下がるとも思えなかった。
 だから最悪、多少なりとも怪我を負わせてしまうこともやむ無しかとは思った。
 だが、
「た……たす……け……!」
「ミカエラ!とどめ刺せ!」
「ちょ、ちょっと、マリアさん!」
 ユタはマリアを制止した。
 だが、マリアはそんなユタを振り払った。
殺せ!
「マリア……さん?」
 ユタが見たマリアの顔。特に、目。
 一言で言うなら、それはまるで快楽殺人者のよう。
 昨日今日で、できるような表情ではなかった。
「マリアさん、ダメだって!!」
 ユタが耳元で叫ぶと、
「!」
 ふと我に返ったのか、慌てて右手で自分の顔を隠した。
 直後に、左手でローブのフードを被る。
 ユタが少し離れた現場の方に目をやると、当然大騒ぎになっていた。
 生きてるのか死んでるのか分からないヤンキー達が倒れ込んで、周辺が血だらけになっているのも遠くから分かった。
「マリアさん、取りあえずここから離れましょう!」
 ユタは茫然となっているマリアの手を引いて、立体駐車場を回り込み、タクシー乗り場に止まっていたタクシーに飛び乗った。
「長町の○○ホテルまでお願いします!」
「はい」
 ユタが宿泊先のホテルの場所を伝えると、タクシーは音も無く走り出した。
 ……まあ、最近流行りのハイブリットカーだからというのもあるが。
 タクシー乗り場から公道に出るルート上、どうしてもあの現場の横を通らなくてはならない。
「何があったんだ……?」
 運転手に呟きにユタは、
「何か、ケンカがあったみたいですよ」
 と、だけ答えた。
 ケンカ自体はよくあることなのだろうか、運転手は納得したかのように、
「ああ、そうですか」
 と、頷いた。
 そして、そもそもの被害者である江蓮。
 彼女は目の前で起きた大惨事を目の当たりにし、ショックで座り込んでいたが、一瞬タクシーで通り過ぎる際に目が合った。
(後で、ちゃんと説明した方がいいな……)
 最悪、ヤンキー達に乱暴される事態は防げたが、何とも後味が悪い。
 敷地内から公道に出る際に長い信号待ちがあったが、その間……いや、公道に出る時も、何台ものパトカーや救急車など、けたたましいサイレンを鳴らした緊急車両とすれ違った。
「……あ、もしもし。カンジ君?……うん、僕だけど」
 ユタは思い出したかのように、カンジのケータイに連絡を入れた。
 まだ、手の震えが若干残っている。
 今さらながら、臆病な性格がもどかしかった。
「……そういうわけで、先にホテルに戻るから。……うん。威吹やイリーナさんにも、伝えておいて。……それじゃ」
 ユタは電話を切った。
「……マリアさん、大丈夫ですか?」
「…………」
 ユタはマリアに話し掛けたが、返事は無かった。
 魔道師のローブに付いているフードを深く被り、ずっと俯いている。
 タクシーを降りるまで、マリアはずっとこの調子であった。
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