報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「鬼之助のケジメ」

2014-05-02 21:45:28 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月上旬 地獄界“賽の河原” 蓬莱山鬼之助]

 何故か携帯電話の電波が入る賽の河原。
 鬼之助は自分のケータイで、再び実家に電話を掛け直した。
{「アンタ、それ、本気で言っとるん?」}
 電話口の長姉、美鬼は信じられないといった感じだった。
「ああ、マジだ。頼む!姉貴!これはオレなりの男としてのケジメだ!これを聞いてくれたら、オレは真面目に働く!姉貴の言う事もちゃんと聞くから!」
{「まあ……そこまで言うんならええわ。分かった。ちょうどもうすぐ父さんが出張から帰ってくるき、ウチから頼んでみるわ」}
「お姉様!あざーっす!!」
{「じゃ、男に二言は無いんよ?分かった?ちゃんとそこで、真面目に働くんよ?」}
「うス!で、ついでにもう1つ……」
{「今度は何なん?」}
「実は……」
 キノの要望に、電話の向こうの美鬼は更に呆れた。
{「あんまり調子に乗ると、怪しまれるんよ?」}
「そこを何とか……。親父がこの話に乗ってくれれば、どうせ済む話だし……。だったら、なるべく早く……」
{「分かった分かった。そっちの管区長さん、ちょっと知ってるき、ウチから話しておく」}
「お姉様、あざーっす!」
 というか管区長クラスの幹部を知ってるからこそ、美鬼はキノを賽の河原に送り込んだのかもしれない。

[それから数日後 同じく賽の河原 蓬莱山鬼之助]

「ぬははははは!泣け!喚け!泣き喚け!!」
 1人の赤鬼獄卒が江蓮を虐待していた。
 鞭で何度も、既に痣のついた体や顔を叩きつけている。
 江蓮は既に反応が弱くなっていた。
「おい、邪魔だ。どけ」
 鬼之助は険しい顔で、同じ肌の色をした獄卒に言った。
「あ!?……ああ、アンタは確か叫喚地獄から来た“研修生”の……。そっちこそ、お楽しみの最中に邪魔すんな。向こうから行け」
 するとキノは目をギラッと光らせ、その獄卒の胸倉を掴んだ。
「その亡者に用があるからどけっつってんだよ、ゴルァッ!!」
「!!!」
 キノの睨みと恫喝に、下級獄卒は震え上がった。
 キノは江蓮に対しては、少し穏やかな顔になった。
「センターからの呼び出しだ。すぐに来い」
 センターとは事務所や詰所のことである。
「…………」
 鬼達に虐待され、すっかり感情を失いかけた江蓮は無表情のままゆっくり立ち上がった。
「センターだぁ?この亡者が一体何だってんだ?」
「黙ってろ」
 キノに恫喝された獄卒が言ってきたが、キノはまた睨み返した。
「ほら、来い」
 キノは江蓮の右手を掴んだ。

 江蓮が虐待されていた場所からセンターまでは、幾らかの距離があった。
(そういえば……)
 図らずも、キノは江蓮と初めて手を握った。
 人間界では叶わぬ行為も、ここで叶うのはある意味、皮肉だった。
 当の本人も何かに気づいたらしく、上目づかいでキノを見ている。
「ああ、その……何だ。……アレだ。本来なら手枷か腰紐を使うのだが、急な事なので、取り急ぎだ。別に、変な意味では無いからな。手ぶらで歩かせるわけには行かないからな」
 キノは咳払いして、何とか取り繕いの言葉を投げた。
「そう固くなる必要は無い。詳しい話はセンター内でな。なに、悪い話じゃない。少なくとも、今置かれてるよりかはずっといい話だ。だからその……安心しな」
 人間界の江蓮と違う。
 それもそうだ。人間界で栗原江蓮の体を使用しているのは川井ひとみという、姉御肌の少女。
 対して元の持ち主である栗原江蓮は、イジメられっ子の気弱で物静かなタイプの少女なのだ。
 キノは、いつも手出ししようとする自分をしばき倒す江蓮とは全く違う様子の、見た目が同じ少女に緊張してしまったのである。

 そして、栗原江蓮が通された部屋は、まるで警察署の取調室のような部屋だった。
(この手はしばらく洗わないでおこう……)
 キノは江蓮と繋いだ左手をさすりながら、満悦に浸っていた。
「なに、ニヤニヤしているのかね?」
「おわっ、監督!?」
 そこへ書類を持った青鬼監督がやってきた。
「これから彼女と面談するぞ。キミはお茶でも入れてきたまえ」
「は、はい」
 キノは給湯室へ向かうと、すぐに面談室という名の取調室に取って返した。
「茶、お持ちました」
「ああ、ここに置いてくれ。で、キミも同席したまえ」
「は、はい!」
 キノは木製の椅子に座った。
「まあ、肩の力を抜きなさい。これからする話は、キミにとっても重要な話だ。安心させる為に結論から言うと、キミは数日後、このエリアを出ることになる」
「!」
 監督の言葉に、俯いていた江蓮が少し顔を上げた。
 監督は牙を覗かせた口に微笑を浮かべながら話を続ける。
「安心させる為に言った言葉だ。他の地獄に行ってもらうという話でもない。だがあいにくと、キミにはまだ罪障が残っている。このまま成仏というわけにもいかない。では、どうなるのかというと……冥界鉄道公社。……知らないね。まあ端的に言うと、この世とあの世を結ぶ鉄道だ。今は三途の川には鉄道橋が架けられていてね、臨終した亡者達は自動的に地獄界行きか成仏かで、乗車車両が違ってくる。そして鉄道というからには、それを運営する者達がいる。駅員とか車掌とか運転士とか……。それがどういった者達なのかというと、地獄界に堕ちるほどの罪障ではなく、かといって成仏できるほど清いわけでもない者達なんだ。今のキミは、正にそういった立場だ。キミは数日後、冥界鉄道公社に所属替えしてもらう。配属先が決まるまでは、ここにいてもらうことになるが……。しかし、他の亡者と違うとなった以上、外に出すわけにはいかない。センター内で、静かに過ごしてもらう。いいね?」
 江蓮が茫然とした顔をしていたので、キノは続けた。
「冥鉄でやってることは、人間界の鉄道会社と大して変わんねーよ。はっきり言えることは、少なくとも地獄界では無ェんだ。だからそこにはオレ達みてーな鬼族もいねぇし、当然地獄界の苦しみなんてものは無ェ。ただ、そこで働いてもらうことに変わりは無ェから、極楽とか天国とか成仏とか、そういう類では無いんだな。とにかく、ここにいるよりずっとずっとマシだぜ?」
「そういうことだ。静かに過ごしてもらう部屋も用意するから、そこで待っていなさい」
「……はい」
 江蓮はまた俯くと、静かに返事をした。

「えーと……ここがお前の部屋だ。自由に使っていい」
 キノは江蓮を部屋に案内した。
 部屋といっても、そこはまるで刑務所や拘置所の独居房みたいな部屋だった。
 3畳くらいの畳敷きで布団が一組あり、洗面台とトイレがある。
 ドアは外側から鍵が掛かるタイプだ。
「……まんま独居房だが、まあ、それまでいた所よりかはずっとマシだろ?」
 それまで江蓮が寝泊まりしていた場所は洞窟のような場所で、他の亡者達と雑魚寝であった。
 ゆっくり眠ることは許されず、事あるごとに獄卒がやってきては、眠りを妨害していた。
 横になるのも畳ではなく、土の上に敷いたゴザである。
「それにほら……静かだぞ。まあ、ほんの数日間だ。ちゃんと飯も出すさ」
 雑居房では出される食事は、獄卒達の残飯という有り様だったが……。
「ああ、心配無ェ。ちゃんとした物を出すから。……まあ、今日の所は早いとこ休みな。何かあったらドア叩くなり、大声出せば誰か来る。……じゃ、また後で来るから」
 キノは独居房をあとにした。

「監督」
「おう、鬼之助君。ご苦労さんだった」
 キノは事務室に戻った。そこには一足先に戻った青鬼監督が控えていた。
「監督、お願いがあります」
「何かね?」
「オレに江蓮の世話をさせてください」
「世話係というか……看守役をキミに任せるつもりだったがね。ここまで来たら、もうキミ以外の者には任せられないよ。はい、これ委任状ね」
「ありがとうございます!」

 それからキノは収監中の間、献身的に江蓮の世話をしたという。

 そして不思議なことに、人間界の方の江蓮は毎晩、キノといちゃいちゃする夢を見たとのことだ。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「地獄界の獄卒」

2014-05-02 00:13:11 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月初め 時刻不明 地獄界“賽の河原” 蓬莱山鬼之助]

「おはよう、諸君!」
「おはよございます!」
「では今日の朝礼を始める!」
(まるで、役所だな)
 キノは事務所内で多くの獄卒達に交じり、朝礼に参加していた。
 前に立って訓示を行っているのは青鬼監督の他に、管区長と称する黄緑色の肌をした鬼だった。
 他の獄卒達が一張羅なのに対し、監督や管区長などの階級の高い鬼は袴を着用し、帯刀している。
 朝礼を受ける側で、そういう身分の高い恰好をしているのはキノだけであるため、かなり目立っていた。
「……では、本日の勤務指針を発表する!……監督」
「はっ!」
 管区長に振られ、青鬼監督が毛筆で書かれた横長の紙を開く。
 本日の勤務指針は2つあった。
「1つ!『職場の決め事、皆で実行!』」
「職場の決め事、皆で実行!」
 監督の言葉に続いて、全員で唱和する。
「1つ!『何でも報告・連絡・相談、ホウ・レン・ソウの徹底!』」
「何でも報告・連絡・相談、ホウ・レン・ソウの徹底!」
「以上、本日も張り切って勤務に就こう!」
(昨日の勤務指針は確か、『ミスの無い業務と隙の無い接待』だったな。毎回毎回、よく考えるもんだ)
 キノは感心したような呆れたような……。
(よし、巡視に行くか。江蓮が気になる……)

「鬼之助君」
「はい?」
 事務所を出る時、青鬼監督に呼び止められた。
「どうだい?今日の勤務指針は?」
「どうって言われても……。当たり前過ぎて、リアクションに困りますよ」
「そうかねそうかね。一応、2番目は私が考えたものなんだがね」
「人間界じゃ、常識ですよ」
「当たり前過ぎてつまらないものほど、忘れやすいものだよ」
「まあ、そうかもしれないっスね」
「試しに1度、巡視に行ってきなさい。戻って来た時に、覚えていられるかな?」
「ははっ、大丈夫っすよ」
 キノは笑いを浮かべて巡視に向かった。

 獄卒達は今日も変わらず罪人達を追い立て、恫喝し、拷問を加えていた。
「うぉらーッ!」
 ある赤鬼獄卒は栗原江蓮(栗原江蓮の肉体の本当の持ち主)に拷問を加えるべく、鞭を振り上げた。
 だが、既に体中アザだらけの彼女に、更に傷を付けようとした獄卒は、そこで動きを止めた。
「どうした?」
 異変に気づいた別の青鬼獄卒が声を掛ける。
「ううっ!何か知らんが、これ以上引っ叩くとキケンな気がする!」
「はあ?……って!?」
 話し掛けた青鬼は、赤鬼の言葉の意味を理解した。
(怖い……!)
 土手の上で、巡視に来たキノが腕組みをして、その獄卒2人を険しい顔で睨み付けていたからである。
「あ、あの……鬼之助さん、何か御用で?」
 赤鬼が同じ肌の色をしたキノに話し掛けた。
 肌の色は同じでも、階級は雲泥の差である。
「ああっ!?何でも無ェよ!オメーラの仕事ぶりを見てただけだ!早く続けろよ!オラ!早くしろ!!」
「は、はいっ!って、罪人がいない!?」
「いつの間に!?」
「ふん……」
 無論、キノにとっては江蓮のその場からの逃亡は望んでいたことだ。
(これなら、オレは変に手も口も出してねぇっつー言い訳もできるが……何か、やっぱり違うんだよなぁ……)
 キノはしっくりこない感を背中に背負いながら巡視を続けた。

「うーっす!巡視、異常無しっす!」
「はい、御苦労さん。ところで、今日の勤務指針を覚えているかね?それも、2番目の方だ」
 事務所に戻ると、青鬼監督が勤務指針について聞いてきた。
「はい。確か、ホウレンソウの徹底だったような……」
「ふむ。では、ホウレンソウとは何かね?」
「えっと……報告、連絡、相談かな」
「正解。これが如何に大事か、よく肝に銘じておきたまえ。いいか?報告、連絡、相談だぞ?」
「はあ……」
 何故か青鬼監督は相談の所だけを強調した。
「ああ、そうそう。キミが巡視中に、御実家から電話があったよ。巡視から戻って来た時に掛け直せば良いとのことだ」
「マジっすか」
「私はちょっと出て来るから。ホウレンソウの徹底は、何も職場だけではないぞ」
「はあ」
 青鬼監督は事務室を出て行った。
「まあいいや」
 キノは黒電話で実家に掛け直した。
{「はい、蓬莱山です」}
「おう、その声は鬼郎丸だな」
{「アニキ!」}
「姉貴が電話寄越せっつーから掛け直した。変わってくれ」
{「姉ちゃんが?……まあ、ちょっと待ってて」}
(何だよ、今の間は?)
 少し時間が掛かって、姉の美鬼が出た。
{「何の用なん?」}
「何の用って、姉貴が電話したんだろー?」
{「ウチ、電話しとらんよ?夢でも見たんとちゃう?」}
「はあ!?」
{「まあええわ。ちょうど、アンタに伝えたいことがあったんよ。アンタが賽の河原で真面目に働いとるっちゅう噂をな、閻魔庁のお偉いさんが聞きよってな、アンタと面談したい言う話が来るかも分からんのや。ひょっとすると、停職解除も夢では無うなってきたで?」}
「ほ、本当か?」
{「今すぐ帰らんと、もう少しそこで点数稼ぐんや。もうちょっとの辛抱やで。あとは家の力で何とかしたるきィ……」}
「家の……力?」
 その時、キノの頭にあったモヤモヤ感が無くなり、ついに繋がった。
「あ、姉貴。ちょっと、大事な相談があるんだ。また後で掛け直す」
 キノは黒電話を切った。
(いいアイディアが浮かんだ。もしかすると、ここの江蓮を救ってやれるかもしれねぇ)

 
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