報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「狂気の魔道師」

2014-05-22 20:15:21 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月25日時刻不明 長野県某所にあるマリアの屋敷 マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]

「ふふふふ……。できた……!」
 先週、ユタの人形、通称『ユタぐるみ』を作った無邪気な笑顔とは別人のように、狂気の笑顔を浮かべるマリアの姿があった。
 全体的に青い魔道師のワンピースの服に、深緑色のローブを着て作業をする姿は確かに魔女である。
 マリアの魔道師としての職種は『人形使い』。
 その名の通り、人形を使役する魔法使いである。
 見えない魔法の糸で、自作のフランス人形を使役する。
 今では常時10体もの人形が、この屋敷の維持・管理に当たっていた。
 但し、人形使いでいるのもほんの一時。
 師匠イリーナの後継者として、いずれは師匠と同じ、クロック・ワーカー(歴史を陰で操る者)になることが期待されている。
 それには色々と条件があり、その条件をクリアする為に、まずは人形使いをやっているのである。
 ユタをデフォルメし、コミカルさもあるユタぐるみに対し、狂気の笑顔で作り上げた人形にはそれが無かった。
 しかし、新たに使役する為のフランス人形というわけでもない。
「チェック……だ」
 その人形は、ある人物に似ていた。

 蓬莱山鬼之助に。

[5月20日15:00.同場所 マリア]

{「……というわけで、マリアさんのことを週刊誌に流したのはキノ……蓬莱山鬼之助だというのが分かりました」}
 マリアは1人で住む広い屋敷の、普段過ごしているリビングでユタからの電話を受けていた。
 電話機はアナログ回線の洋風なデザイン。
「そうか……」
{「すいません。僕がヤツを懲らしめようとしたんですが、返り討ちに遭っちゃって……。情けない」}
「いや、ユウタ君のその気持ちだけでも嬉しい」
{「結局ヤツから謝罪の言葉を引き出すことはできませんでした。『あの記者が本当に記事にするとは思わなかった』の一点張りで」}
「……っ!」
{「いや、記事にするに決まってるじゃないかと言ったんですが、全然ラチが明かなくて……」}
「分かった。ユウタ君は、もう何もしなくていいから。今のユウタ君は、無駄に霊力を解放しない方がいい。あとは私に任せてくれ。本当に、ありがとう」
{「マリアさんが?」}
「ああ。だからこれ以上ムリをして、余計なケガをしないで。……うん。師匠は忙しいから、私がケリをつけることになると思う。……ああ。また遊びに行く。それじゃ」
 マリアはユタとの通話の間は終始、穏やかな顔付きだった。
 しかし電話を切ると、
「そうか……。あの鬼族の男がか……!!」
 目つきを中心に、ガラリと変わった。

[5月25日15:00.同場所・裏庭 マリア]

 マリアはミク人形などを連れて、屋敷の裏庭にやってきた。
 ここに魔道書を見ながら、魔法陣を描く。
 そしてその中心に、キノに似た人形を置いた。
 魔法陣の外に出ると左手には魔道書、右手は魔法陣の方に翳した。
「■■■■■■■■、・・・・・・・・!▲▲▲……」
 何語とも判別のつかない呪文を唱える。
 すると魔法陣から紫色の煙が上がり、魔法陣全体が下から紫色の鈍い光を放った。
 しばらく唱えていると、魔法陣から風が火山の噴火のように吹き上がった。
 人形はその風に乗って、マリアの前に落ちた。
「……よし」
 マリアは目を開けて、人形を拾い上げた。
「これでお前は、私の手の内……!」
 ミク人形は狂った笑みを浮かべる主人に、ハンマーを渡した。
 特別製ではなく、普通にホームセンターで手に入る日曜大工用である。
「お前のあの行為は、私に対する宣戦布告と見なす……。復讐、開始……!」
 マリアは庭木に人形を括りつけると、ハンマーを振り上げた。

 ゴッ……!
 ゴン!ガンッ!ゴンッ!

「ふはっ!ふはははは!」
 何度も殴っていると、人形の頭が裂け、中から白い綿が覗いた。
「次で本当に頭が割れる……!」
 マリアは怨念を込めて、キノ似の人形の頭にハンマーを振り落した。
 ついに人形の頭から、綿が飛び出した。
「くくっ……くははははははは!!」
 マリアは高笑い。
 そして、
「チェック・メイト(復讐完了)……!」

[同日16:00.さいたま市大宮区 江蓮の家 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾]

「おかしいな。今日の座談会に来ないなんて……」
 ユタ達は所属寺院で行われた座談会に出席すると言っておきながら、何の連絡も無く来なかった江蓮を心配してやってきた。
 東武アーパー……もとい、アーバンパークライン大宮公園駅から産業道路に向かって歩いた所に江蓮の家はある。
「まさかキノについにヤられて……」
「それはそれでおめでたいことじゃないのかい?」
「いや、レ○プはまずいよ。それに、座談会の資料渡さないと……」
 結局、キノの証言を盗聴した犯人については分からずじまいだった。
 名前を使われた藤谷も、全く身に覚えが無いの一点張りである。
「ここだ、ここ」
 ユタは家のインターホンを鳴らした。
 何度か鳴らしたが、誰も出てこない。
 無論その前から何度も江蓮のケータイに掛けているのだが、全く出る様子は無かった。
「留守みたいだな?」
 ユタが首を傾げた。
「だが、人の気配はする」
「ええっ?」
「ユタ、栗原殿の部屋は2階だったか?」
「えっ?いや、知らないなぁ……。でも、普通は2階だよね。僕の部屋もそうだし……」
「ちょっと行ってみよう」
「ええっ!?」
「オレもちょっと行ってきます。稲生さんはここで待っててください」
 カンジは家の敷地内に入り、人間形態から第1形態になった。
 それだけでも人間離れした跳躍力を得ることができる。
 その通り、まずは1階の屋根にジャンプした2人の妖狐は何段階に分けて、栗原家の2階に到達した。
「! 先生、血の臭いがします!」
「おう。……あの部屋だ」
 ベランダづたいに、2人は血の臭いがする部屋に向かった。
「栗原さん!」
 窓越しに部屋を覗くと、そこは血まみれの様相になっていた。
「栗原さん!しっかりしてください!」
 カンジが呼び掛ける。
 部屋の中央には、座り込んでいる江蓮の姿があった。
「まさか死んでる!?」
「栗原さん!」
 窓を破ろうとした時、やっと江蓮がこちらを向いた。
 顔に少し血がついていた。虚ろな目をして、よろよろと立ち上がり、やっと窓を開けた。
「栗原さん、しっかりして!」
「どこをケガしてますか!?」
 しかし、江蓮は無言で、しかし茫然とした様子で首を横に振った。
 すぐに2人の妖狐は、この血は江蓮のものではないと分かった。
「人間の血の臭いじゃないぞ、これは!」
「キノが……キノが……死………」
「栗原さん!」
 江蓮は意識を失った。
「!?」
 威吹は背後に気配を感じた。
 振り向くとそこにいたのは……。
「……うちの弟殺そうとしたんは、あんた達やないんね?」
「弟!?」
「ということは、あなたは鬼之助のお姉さんですか」
 カンジが冷静に聞いた。

 しばらくして、威吹とカンジが戻って来た。
「どうだった?」
 ユタの問いに、
「大変なことになったよ。まず、キノは突然頭が割れて瀕死の重傷だ」
「キノが!?てか、頭が割れたら死んじゃうんじゃ……!?」
「人間ならそうでしょう。しかしそこは不死身の鬼族。しぶとく一命を取り留めたようです」
「栗原さんは!?」
 今度は威吹が答えた。
「悪いことに、部屋でキノと仲睦まじく過ごしている最中の出来事だったようで、キノの惨状を目の当たりにして、こちらも意識が無い。ただ、ケガは無いようだ」
「あくまで、精神的ショックによるものです」
「じゃあ、病院に運ばないと……」
「それが、部屋に鬼之助を搬送したという実家の者が現れまして、栗原殿をその実家で療養させるというのです。部屋も全く痕跡無く片付けるとのこと」
「そんなんでいいのか……」
「鬼族での事件だから妖狐は黙ってろ、みたいな感じだったな」
「でも、どうしてキノの頭が割れたんだ?もしかして、栗原さんとケンカして殴られた?」
「仲睦まじく過ごしていたということだから、それではないだろうし、だいいち、栗原殿のあの茫然自失ぶりからして、自分がやったという反応でもない。やはり、『誰かにやられた』んだろう」
「しかし先生、あの部屋には栗原女史と美鬼殿しかいませんでした」
「まるで、何かの呪いのようだ」
 威吹が呟くように言った。
「ええ。丑の刻参りなんかも、熟練者になると、藁人形の頭に釘を刺せば相手の頭にダメージを与えることができるといいます」
(呪い……?人形……?)
 ユタは2人の妖狐が何気なく放った単語を聞いて、ある仮説を立てた。
 だが、それを口に出すことは憚れた。
 だから、何度も頭の中で打ち消したのである。
 それに気づいた威吹は、
「よし。とにかく、これは鬼族の問題としよう。栗原殿には哀れだが、鬼族の“獲物”になった時点で運の尽きとする。だからオレ達は、余計な首を突っ込むのはやめにする。ユタ、カンジ、いいな?」
「先生の御意向に従います」
「う、うん……」

 駅に向かう3人。
 その後姿をいつまでも見送る黒猫がいたことに気づいた者はいなかった。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「魔道師と黒猫のエレーナ」

2014-05-22 00:21:41 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月18日23:00.東武APライン大宮公園駅前 蓬莱山鬼之助、稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾]

「うーいっと……」
 ほろ酔い気分で駅前の居酒屋を出たキノ。
 酒好きでもあるキノは、大抵は外で飲むことが多い。
 稲生家と違い、栗原家では妖怪の存在を認めていないからだ。
 なので、江蓮の家に行く時も親に内緒で行くことが多い。
(この時間なら、江蓮も寝てるだろうな。へっへっ!夜這い掛けて、あっという間に……)
 キノがニヤニヤしながら歩いていると、向こうから殺気立った人影が接近してきた。
「あ、何だ?」
 キノが目を凝らしてみると、そこにいたのは……。
「何でい、ユタとイブキとカンジじゃねーか?何やってんだ、こんな時間に?顕正会へのシャクブクか?」
 ズイっと前に出るユタ。
「キノ、お前に聞きたいことがある」
「何だよ?」
「週刊誌にマリアさんの過去についてリークしたのはお前だな?」
「あー……。参ったな……」
「どうなんだ?こんな時間に顕正会への折伏そっちのけで、ユタはここまで来たんだ。ユタの確信の度合については、言わずもがな……だろ?」
 威吹もユタの横に来て問い詰めた。
「誰から聞いた?ちゃんとオレがリークしたっつー証拠はあるんだろうな?」
 キノの問い掛けに、ユタはCDから起こした音源をスマホに取り込み、それを流した。
「……てめぇ、オレの会話を盗聴してたのか!」
 今度はキノが紅潮する番だった。
「そこでそういう反応だということは、ユタの質問を認めるんだな?」
 威吹が念を押すように聞いた。
「ああ、そうだよ。オレが記者に話した」
 キノが認めるとユタは走り出し、キノに殴りかかった。
「ユタ!」
 しかしキノが簡単にユタの腕を掴み、投げ飛ばした。
「くっ!」
 ユタは放置自転車の列に激突するところだったが、代わりにカンジが身を呈した。
「稲生さん、お怪我は?!」
「だ、大丈夫……。キノ!何でそんなことしたんだ!?」
「何でって……。聞かれたから答えただけだよ。獄卒という仕事は結構情報が入ってくるからな」
「だからって!お前のせいでマリアさんは……!!」
「稲生さん。あいにくですが、人間界の公務員と違い、地獄界の獄卒には守秘義務なるものが存在しないんです。本来、獄卒が人間界にいることの方がおかしいんですから」
 カンジはユタに諭すように言った。
「まあ、最後の言葉は余計だが、そういうことだ。だいたい、マリアとやらの魔道師が人間界でとんでもねぇことをやらかしたのがそもそもの発端だ。いわゆる、身から出たサビってヤツだぜ?人間界でも、あれだけの事件を起こせばマスコミが騒ぐだろう?それもセンセーショナルにな」
 キノが断罪するように言った。
「オレもそう思う」
 威吹もキノに同調した。
「威吹!?」
 ユタは威吹を信じられないといった顔で見た。
「何があったか詳しい事情は知らんが、32名の人間の人生をどん底に突き落とし、あるいは強制終了させた罪は重いだろう。それに対する贖罪、懲罰はあって然るべき」
「そうだな。だからユタ、お前がバカなんだよ」
 キノは謗るようにユタに言った。
 威吹がその後を続ける。
「確かに今のユタの行動は短絡的だと思う。だけど、マリアにも言い分はあるはず。あの雑誌は一方的にマリアを断罪しただけで、ヤツの言い分も事件の背景についても殆ど触れられていない。公平性に著しく欠けたもので、ユタの怒りは理解できる」
「……で、最初の質問だ。確かに、週刊誌にリークしたのがオレだというのは認める。だが、さすがに盗聴はマズいんじゃねーのか?」
「僕が盗聴したんじゃない」
 さっきよりは少し落ち着いたユタが答えた。
「家に帰ってきたら、藤谷班長から郵送で送られて来たんだ」
「藤谷?藤谷っつーと……ああ、あの土建屋か!何で、土建屋がオレを盗聴したんだ?」
「知らないよ、そんなの」
「確かに不自然ですね」
 カンジが口を開いた。
「藤谷班長はキノと、直接の絡みはありません。せいぜい、栗原女史を介してのものです。彼がキノを盗聴して、何の得も無いようですが……」
「じゃあ、何で班長の名前が書いてあるんだ?」
「まんまと心理を突かれたかもしれません。もしこれがイリーナ師からのものであれば、オレ達も関心を持ったでしょう。大学からであってもです。しかし藤谷班長からとあれば、ほぼ間違いなく信仰関係のもの。しかも御丁寧に、座談会の模様を録音したものが入っているとあれば、尚更オレ達の出番は無く、関心などありませんでした。稲生さんもそれを知って、部屋にこもられた。つまり、内容をオレ達に聞かせたくなかったのかもしれません」
「あ、そうだ。電車の中で録音したヤツもあったぞ」
 ユタが思い出したかのように言った。
「電車?……ああ!」
 キノが思い出した。
「実はこの前、寺から江蓮と山手線に乗って上野まで移動したんだが、電車が上野駅に着いたら薄気味悪い黒猫が座席の下から飛び出してきやがってよ、盗聴の犯人、そいつじゃねーのか?」
「それは猫又か?」
 威吹がそう聞いた。
「いや。妖気は感じなかったな」
 キノは首を傾げた。

 取りあえず、ユタがやっと落ち着いたこともあり、何とか妖狐と鬼の衝突は避けられた。
「まあ、実はマリアとやらが人間界でどんな目に遭ったかは一応聞いてはいるんだ。オレだったら、確かに全員ブッ殺していただろうな」
 大宮公園駅でユタ達と別れる時、キノは言った。
「ユタ、お前だったら自殺したんじゃねーのか?」
「うん。そうかもね。だから悪魔に取り憑かれたとはいえ、立ち向かったマリアさんは偉いよ」
「ああ、そうだ。地獄界に堕ちて来た某被害者が言ってたんだがな……」
「?」
「何度かレ○プしてやったと言っていたから、処女は期待しない方がいいぞ?」
「!」
「キノ、余計な情報だぞ」
 威吹は眉を潜めてキノを見据えた。
「へーへー」
 キノは肩を竦めた。
「まあ、稲生さん、もう電車来ますから」
 カンジはユタを促した。
「知らぬが仏、という諺を知らぬわけではあるまい?」
「まあ、オレは鬼なもんでね」
 と、うそぶくキノだった。
 ユタ達は入線してきた上り電車に乗り込み、まずは大宮駅に向かって行った。

[5月19日10:00.長野県某所の森の中にあるマリアの屋敷 マリア&イリーナ]

 マリアは大きな洋館の中で1番日当たりの良い部屋で、趣味の人形作りをしていた。
 最近はフランス人形だけでなく、実在の人間をモチーフにした人形も作っている。
 そして今作っているのは……。
「できた!ユウタ君の人形……『ユタぐるみ』だぁ!ふふふ……」
 マリアは満面の笑みを浮かべて自作のユタぐるみを抱きしめ、更には頬ずりまでした。
「珍しいわね。あなたがこんなハイテンションになるなんて……」
 イリーナが半分驚いた様子で部屋に入って来た。
「師匠!?いつの間に!?」
「今さっきよ」
「大丈夫でしたか?ポーリン師とまた激突したそうですが……」
「いや、もうお互い痛み分けよ。私もだいぶやられたけど、向こうもしばらく何もできないはず……。でもね、私にはあなたという弟子がいるのと同じように、向こうにもなかなか侮れない弟子がいるの。ポーリンが休養している間、それが代わりに動くかもしれないから、十分気をつけて」
「分かりました」
「ところで……そのユタぐるみどうするの?使うの?」
「いえ……。これは飾る用にしておきます」
「そう。まあ、何度も言うけど、『人形使い』の力、絶対に悪用したりしたらダメよ?分かった?」
「ええ。もちろんです」
 マリアは微笑を浮かべて頷いた。
「せっかく、呪いが消えつつある。呪いが消えていくのと比例して、あなたに掛けた封印が徐々に解かれる仕組みになってるんだからね。ここで頑張らないと、だよ?」
「はい」

 マリアが人形を制作していた机の上。
 しかしそこにはもう一体、作り掛けの人形があった。
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