報恩坊の怪しい偽作家!

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“ユタと愉快な仲間たち” 「東北紀行」 6

2014-05-11 15:26:37 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月4日23:00.仙台市太白区長町のホテル 稲生ユウタ&マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]

 事件のあった複合娯楽施設からタクシーに乗り、宿泊先のホテルに戻って来たユタとマリア。
 すぐに部屋には入らず、フロントに預けておいた鍵だけをもらって、ロビーで待機していた。
 マリアはフードを深く被ったまま、うなだれていた。

〔「……たった今、入ったニュースです。今日午後10時頃、宮城県仙台市太白区のアミューズメント施設で、若い男性客3人が何者かに襲われ、意識不明の重体です」〕

 ロビーにはテレビがあって、ニュースが流れていた。
「!」
 まあ、あれだけの事件だ。ニュースにならない方がおかしいが……。
 マリアも少し顔を上げて、ニュースを見た。
 右手で口元を押さえている。
 そこへ、エントランスの前にタクシーが到着した。
「ユタ、大丈夫か!?」
 威吹が飛び込んでくる。
「ああ、僕は大丈夫」
 イリーナは普段のおきゃんな性格はどこへやら、珍しく怪訝な顔をしていた。
「マリア。部屋に行きましょう。ユウタ君、ごめんね。お手数かけたね」
「あ、いえ!僕は別に……!」
「当然だ。ユタを巻き込みやがって」
 威吹はなじるように言った。
「後で落とし前は……」
「威吹、いいから!」
「ユタ……」
「僕のことは気にしないで!……あれは人助けだったんだから」
「人助け……ですか」
 タクシー料金の支払いで、1番後にやってきたカンジ。
「栗原女史に関しては、“獲物”から目を放したキノの責任です。本来なら、稲生さん方が首を突っ込むべき問題ではなかったかと」
 カンジはポーカーフェイスを崩さずに言った。
「いや、それはおかしい!目の前でヤンキー達に絡まれてるのに……!」
「蓬莱山家の人脈で、栗原女史に護衛を付けるとかするべきでしたよ。そこは鬼族の詰めの甘さと言いますか……」
 ユタはカンジの発言を無視して、エレベーターに向かった。
「あ、あの、イリーナさん!」
「なに?」
 エレベーターを待つイリーナに話し掛けるユタ。
「マリアさんは人助けをしただけです!マリアさんは悪くない!だから……」
「人助け……ねぇ。まあ、最初はそのつもりだったんでしょうけど……」
 エレベーターのドアが開いて、2人の魔道師はエレベーターに乗り込んだ。
 構造上、乗り込んだらボタン操作の為に振り向くことになる。
「この顔でも、そう思うの?」
「!?」
 イリーナは顔の下半分を隠しているマリアの右手を一瞬、引き剥がした。
 その口元は、笑っていた。
 つまり、それまでは自分のしたことの大きさに打ちひしがれて、震えていたわけではない。
 笑いを堪えて、震えていたのだ。
「はははははは!」
「あの事態を引き起こして、笑っている……。まあ、明日までには何とかするから。じゃあ、お先にね」
「…………」
 エレベーターのドアが閉まり、魔道師2人は客室フロアへ向かって行った。
「ユタ、本当にいいのかい?今ならまだ、こっちへ戻れるぞ」
 背後から威吹が声を掛けた。
「得体の知れない連中です。稲生さん、ここは威吹先生の仰る通りかと」
 カンジも同調した。
「……もう寝る」
 ユタはエレベーターの呼び出しボタンを押した。

[5月4日24:00.同場所、ユタの部屋 稲生ユウタ]

 ユタは自分のケータイで、通話していた。
 相手は栗原江蓮。
 ヤンキー達から助けてくれたことへのお礼の電話だった。
{「こんな時間に電話を掛けて申し訳ないが、どうしてもお礼が言いたくて……」}
「いや、礼なんて別に……」
{「稲生さん、ツイッターもラインもやってないし……」}
「あ、ああ。ちょっと興味が無くて……。(そんなんで礼言うなや!)」
{「私も深夜徘徊で厳重注意だ。ったく、あのバカ野郎達に絡まれなきゃバレずに済んだのに……」}
「高校生以下は22時前には帰ろうね」
 多分、そこは魂としての川井ひとみのやったことだろう。
 元スケバンなんだから、深夜徘徊くらい、どうってこと無かったと思われる。
{「警察に事情聞かれたけど、稲生さん達のこと言ってないから」}
「ああ、それは助かる」
{「もっとも、初音ミクみたいな人形がやってきたなんて言ったところで、サツは信用しないと思うけどね」}
「しかし、事実だろう?それに関しては栗原さんも、周りの人達も見ていたわけで……」
{「それが変なんだ」}
「変?」
{「テレビ見た?もうニュースになってるんだけど……」}
「えっ?いや、見てないなぁ……」
{「別のヤンキー達がケンカ売って来て、乱闘みたいになったことになってるよ」}
「はあ!?」
{「要は、私をどっちが先にナンパしたかでケンカになったっていう……」}
「何だそりゃ!?」
 恐らくイリーナ辺りが何か細工したのだろう。
「キノが知ったら、泡吹くだろうな」
{「泡吹くどころか、最初に私に絡んできたヤンキー達を殺しに行くだろうね」}
「どっちみち、そういう運命だったのか。あいつら……」
 修羅界にプラス地獄界の相が加わると、ああなるということか。
{「稲生さんは?いつ帰るの?」}
「一応、今夜一泊だけ。栗原さんは?」
{「私は6日までいる」}
「いいねぇ。キノには知らせてる?」
{「まあね。随分とガッカリしてるみたいだけど……」}
「栗原さん、モテモテだね」
{「私の処女なら、そう簡単に渡さないよ」}
「はは、プレミアものだな。……でも、高いうちに売り渡した方がいいかもしれないね」
{「ん?」}
「売り渋っていると、さっきみたいなヤンキー達に強奪される恐れがある。少なくとも、キノなら高く買ってくれるんだから……」
{「ああ。それなら心配無いから。稲生さんこそ、早くしないと作者みたいになるよ」}
「ううっ……言い返せない」
 ……もっと言い返せない作者。

[5月5日09:00.同場所レストラン ユタ、威吹、カンジ、マリア]

「おはようございます」
「おはよう。ユタ、今日はゆっくりだね」
 威吹は和食の朝食を口に運びながら言った。
「ああ。まあ、昨夜あんなことあったからね。……大丈夫?マリアさん」
 マリアはいつもの調子に戻っていた。
「ああ。昨夜は済まなかった……。酒に酔っていたようだ……」
「ふん。酒だけのせいじゃないだろ」
「まあまあ、威吹」
 ユタは椅子に座った。
「……あ、僕は洋定食で」
「はい」
 ユタは注文を取りに来たスタッフに言った。
「ところで、イリーナさんは?」
「師匠は布団の中で『あと5分』を1時間以上繰り返していたので、放っておいた」
「あらま……」
「何度起こしても起きなかった」
「それは起きないイリーナ師が問題だな」
 カンジはコーヒーを啜りながら、トーストを齧った。
「もっとも、昨夜は随分と魔力を使用したから、分からなくもないがな」
「やっぱりそうなんだ?」
 ユタはカンジに食いついた。
「ええ。あの事件の真実の改ざんから隠ぺいから、色々とやってました」
「なるほどな……」
「そこは正に『クロック・ワーカー』ですね」
「クロック・ワーカー?」
「魔道師の……階級と言ってもいいでしょう。その1つの呼び名で、かなりの高レベルの者が名乗れるものです。『時を操る者』という意味ですが、実際は転じて、『歴史を陰で操る者』という意味で使用しているそうです」
「歴史を陰で操る者……。確かにそうだね。ヤンキーに絡まれて、マリアさんが半殺しにしたという歴史を操ったわけだ」
「いえ、それは違います」
 カンジは何故か否定した。
「え?」
「これを見てください」
 カンジはトーストの最後の一切れを口に入れると、手持ちのタブレットを操作した。
 そこで地元新聞社のサイトを出して、速報の欄を出す。
 そこには昨夜の事件のことが取り沙汰されていて、そこには……。
「『男性客3人死亡』……死んだの!?」
「ええ。治療の甲斐も無く、昨夜未明に仲良く昇天したようです。……いや、稲生さんの宗派で言うなら『天に昇る』ではなく、堕獄と言うべきでしょうか」
「!」
 ユタはパッとマリアを見た。
 そこには快楽の笑みを浮かべるマリアの姿があった。
 そして、ボソッとこう呟いたのだった。
「……復讐完了……」
 と。

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2 コメント

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Unknown (ANP)
2014-05-11 21:46:47
そういや185系の東海道線の普通列車が終了しましたけどこの終了でとあるブログでは”湘南電車の終焉”と言ってましたね。

元々は電車には急行形だの近郊形だのはなくて普通から準急、急行と使えるように考えられていたんですね。しかし時代が下るにつれ細かく分かれていったんですね。

具体的にいえば上尾事件の要因となった急行形を朝ラッシュの時間帯に投入していたのもうなづけますね。
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ANPさんへ (作者)
2014-05-12 07:45:14
おはようございます。コメントありがとうございます。
湘南電車は当時、新たな電車時代の幕開けでもありました。
その終焉に立ち会えたのも、何かの縁でありましょう。
しかし今は新しい時代の幕開けよりも、旧時代の終焉にばかり立ち会っているような気がします。

顕正会の終焉にも立ち会えるといいのですがね。
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