報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「多摩先生の原案」編

2014-05-31 19:33:01 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
 ※私のオリジナルでは屋敷の地下室に避難していたマリアを訪ねて来たのは、マリアが使役しているミク人形でしたが、多摩先生の原案だとこうなります。

[5月31日02:00.長野県某所にあるマリアの屋敷 地下室 マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]

 今現在動かせる人形は2体。
 それほどまでに低下した魔力を回復させるのは容易なことではない。
 ミク人形とフランス人形1体だけが、広い屋敷を徘徊するように歩き回って侵入者の警戒に当たってる。
 屋敷の主人たる魔道師の師匠イリーナからは、マリアの命を狙う者がいるということで、魔力が回復するまではなるべく地下室に避難しているように通達されていた。
 常時10体の精鋭たる人形を操れただけに、たった2体では心許ない。

 どうしてこんなことになったのか。
 イリーナの予知夢はよく当たる。そして、ユタの予知夢も確率が高い。
 その2人が同時に、自分が死ぬ夢を見たからだという。
 イリーナ曰く、順番的にイリーナの予知夢の内容が早そうだから、それを回避すればユタの夢の内容も回避できるだろうという。
 師匠にケチをつけるわけではないが、そんな簡単な話なのだろうか。

 その時、地下室のドアが開いた。

 入ってきたのは……。

「マリア、いい子にしてた?」
「師匠?どうしたんですか?こんな時間に……」
「緊急事態よ。すぐにこの屋敷を出て」
「緊急事態?でも、ここにいた方が安全だって……」
「事情が変わったの。急いで!」
「は、はい」
 マリアは地下室から外に出た。
 昼も夜も基本は地下室にいなければならなくなったのだから、久しぶりに地上に出るとまだ邸内とはいえ解放感がある。
「一体、何があったんですか?」
「鬼族が動き出したみたい。あなたの命を狙って、この屋敷に向かってる。そうなる前にここを出ましょう。妖狐達が対策に乗り出してるから、ユウタ君達と合流するのがベストね」
「なるほど」
 2人の魔道師は屋敷の玄関までやってきた。
「内側からはあなたの魔法でしか開かないようにしているから、あなたが開けて」
「はい」
 マリアは自分の杖を持ち、ドアに向けて、開錠の呪文を唱えた。
「一時開錠です。ドアを1度開けてまた閉めたら、ロックが掛かります」
「外の安全を確認してね」
「はい」
 マリアは玄関のドアを開けて、外を確認をした。
「師匠、外には誰も……」

 ドスッ……!

「え……?」
 突然背中に痛みが走る。
 振り向くと、
「師匠……?どうし……て……?」
 力が抜け、床に崩れ落ちるマリア。
 辛うじて保てた意識を持って師匠だった者を見上げる。
 その姿は、師匠のイリーナではなかった。
 赤毛が特徴の師匠ではなく、髪も服装も黒い女……。
 それは自分の感情が高ぶり、相手に『復讐』をする時に浮かべるものと同じ“狂った笑い”を浮かべていた。
「あなたは……!?」
「ポーリン先生!エレーナはやりました!あなたの愛弟子、エレーナ・マーロンは見事やり遂げたのです!はは……はははははははは!!」
 エレーナ・マーロン?
 どこかで聞いたことがあるような名前に、マリアは聞こえた。
「死ぬがいい!『裏切りの魔道師』イリーナ・レヴィア・ブリジッドの手下よ!」
 ポーリンという名前は聞いたことがある。
 確か、師匠が修行時代に一緒に修行していた姉弟子の……。
 ポーリンの弟子だというエレーナと名乗る女は、何度もマリアの胸にナイフを突き刺した。

(ユウタ君、ごめんね……)

 これが最後に心の中でつぶやいたマリアの言葉だった。

[同日03:00.マリアの屋敷付近 蓬莱山鬼之助]

「鬼之助さん、こんな所に魔道師の屋敷が?」
 鬼之助は数十名の手勢を連れ、マリアの屋敷に向かっていた。
「おう、そうだ。奴らは今、他の魔道師と抗争中だって話だから、やるなら今だと思う。が、もしかしたら裏を掛かれてるかもしれねぇ。だから一応、警戒しておけよ?一応な」
「はい」
 鬼之助は鬱蒼とした木々をかき分けた。
「んで、調査報告によると、場所はあの辺……おおっ、あった!」
「マジですか」
「いきなり現れるもんですなぁ……」
「よし。いきなり攻め込んで罠が待ってるかもしれねぇ。誰かちょっと様子を見てこい」
「へい。アッシが」
「藪鬼(やぶき)か。頼むぜ」
 藪鬼と名乗る小柄な体型の赤鬼は、そのイメージ通り、すばしっこい行動で屋敷に向かって行った。
 その間、他の手勢達は小休止に入る。
「あんまり月が見当たりませんな?」
 1人の部下が鬼之助に話し掛けた。
「ほんの数日前まで、新月だったからな。現れたとしても、ほんの僅かしか顔を出すこたぁねぇさ」
 と、そこへ、別の部下が、
「鬼之助さん!姐さん(美鬼のこと)にばれたようです。鬼門の左右と直属鬼女隊を連れて、こちらに向かっているとの情報が入りました!」
「ちっ!いちいちうるせーんだよ、姉貴はよォ……。こりゃ、のんびりもしてられねぇな。藪鬼が戻り次第、決行するぜ」

 しばらくして藪鬼が血相を変えて戻って来た。
「鬼之助さん、大変です!」
「なにっ?やっぱり迎撃準備万端か?くそっ、世の中そう甘くはねぇか!」
「いや、それが……対象のマリアンナ魔道師が死んでました!」
「はあ!?」

[同日03:30.マリアの屋敷、玄関前 蓬莱山鬼之助]

「うっ!こ、こりゃ……!?」
 無残なマリアの死体を発見した鬼之助。
「マジで死んでる」
「見たところ、刃物で背中や胸を何ヶ所も刺されております。死因はそれによる失血死かと」
 藪鬼が片膝をついて報告していた。
「おいおい、マジかよ!誰がやったんだ!?こっちはわざわざ長野くんだりだったのによ!」
「分かりませんが……」
「とにかくアレだ!」
 鬼之助は自分の妖刀を抜いた。
 そして既に死体と化しているマリアの首を刎ねた。
「こいつを手土産に持って行く!首桶を持ってこい!」
「ははっ!」
 部下の1人が首桶を持って来る。
「あとの者は屋敷内を検索しろ!誰もいなかったら、この屋敷を火を放つ!」
「ははっ!」
「早くしろ!夜が明ける前に!」
「ははっ!」
 部下達は邸内に散って行った。

[同日05:30.さいたま市中央区 ユタの家 稲生ユウタ]

 ユタはいつもの通り、朝の勤行を行っていた。
 だが、仏間の外はいつもと違う雰囲気が漂っていた。

[同日06:00.同場所 稲生ユウタ]

 外の騒がしさに負けず、何とか朝の勤行を終えた。
「一体、何なんだよ?」
 ユタは仏間を出ると、つかつかとリビングに向けた。
「いや、だからこっちも何も知らん!」
「情報をすぐに集めろ!そうだ!幻想郷側にも協力を求めて構わん!」
 家の固定電話とカンジの携帯電話がひっきり無しに鳴り響いていた。
「これは一体……!?」
 固定電話の方の対応に当たっていた威吹が、ユタに気付く。
「ユタ、すまん!今日の添書登山は中止にしてくれ!大変なことが起きた!」
「大変なことって?」
「マリアと鬼之助が殺された!」
「はあ!?」
「鬼之助がマリアを殺しに、手勢を引き連れて屋敷に向かったそうだ。その後、その屋敷に隕石が落ちて……!」
 威吹はリビングのテレビを点けた。
 そこでは既に長野県に隕石が落ち、山1つ消し飛んだことが報道されていた。
 また固定電話が鳴る。
「……まだ亡骸の回収ができたとの報告は入っていない。というか、山1つ消し飛んだ状態ではムリだ!」
「幻想郷側に影響が出ているとの噂もある。向こう側の王国が動き出す恐れが……」
「そ、そんな……」
 威吹とカンジの電話のやり取り、そしてテレビに映し出される地獄絵図のような大規模な山林火災。
 封鎖された県道から、生々しいリポートを行うリポーター。
 その県道は、前にマリアの屋敷に向かう時、駅から乗った1日2本しか無いバスが走る道路だった。

 その時、ユタのケータイに着信があった。
 それは藤谷からだった。
{「ああ、稲生君、朝早くから悪いな」}
「いえ……」
{「今さっき、栗原さんと合流した」}
「確か栗原さんは、ずっとキノの家にいるはずですが……」
{「帰されたんだよ。もうキノが死にやがって、何の利害も無くなったから。全く。勝手な連中だよなぁ……」}
「キノが死んだのは本当なんですか?」
{「ああ。魔道師を襲撃に行ったら、隕石が落ちて来て、直撃を食らったらしいな。生き残った部下が証言したっていうから、間違い無いだろうさ」}
「あの、マリアさんは?」
{「……あいにくと、キノに殺されたらしい。その部下は首桶を持っていたらしいんだ。ほら、戦国時代に敵の武将の首を刎ねた後、それを運んだり保管したりする桶のことだよ。威吹なら知ってるんじゃないか?……その中に、マリアの首が入っていたらしいぜ。栗原さんもショックで口が利けなくなっちまった。さっき、キノのお姉さんって人から一通り聞いてさ。取りあえず、栗原さんは地元の大病院にしばらく入院ってとこだな。……稲生君?」}
「うう……うわあああああああああっ!!」
 突然のユタの号泣に、電話応対に忙殺されていた2人の妖狐がユタを見た。
「ユタ、しっかりして。こりゃもうダメだよ。仏法なんぞやってても幸せにはなれないってことさ。仏にすがる時間があったら、もっと安全な所に避難させるべきだったんだ」

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 何だよ、これ。
 多摩先生もひでぇな。
 稲生ユウタはもちろんのこと、栗原江蓮もついでに不幸になってんじゃんよ。
 で、最後の威吹のセリフが、正にアンチ日蓮正宗の先生の言いたいことか……。

 とてもじゃないが、私の作風には合いません。
 え?もっとこの後続きがあるだろって?
 ええ、ありますよ。だけど、とても御紹介できませんって。
 ほら、31日ってユタが添書登山に行く設定でしょ?
 私の作品では威吹が同行して、更にケンショーレンジャーが登場したりしたけど、多摩先生の原案ではユタは単独で登山する。
 すると、何がどうなるかっていうと、エレーナを倒すヤツがいなくなるんだよ。
 てことは、御開扉の際に、扉が開かないままになって御開扉は中止。
 エレーナは手持ちのスイッチを押しちゃって、大御本尊を……これ以上は言えません。

 と、とにかく明日、多摩先生と直接交渉に入ります。
 明日、更新できるといいけど……。というか、ブログ自体潰されなきゃいいけど……。
コメント (5)
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“ユタと愉快な仲間たち” 「時を超える魔道師」

2014-05-31 15:17:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月31日17:15.大石寺・第2ターミナル 稲生ユウタ、威吹邪甲、マリアンナ・ベルゼ・スカーレット]

「え?ここでお別れですか?」
「ああ。本当はもう少し一緒にいたいんだけど、師匠と合流しないと……」
 マリアも少し残念そうな顔をした。
「何でも、拠点たる屋敷の再建をしなければならないそうだ。お前達の魔法なら、数日で再建可能だろうが」
 威吹は補足するように言った後、呆れた様子でマリアを見た。
「ただ、再建すればいいってもんじゃない。幻想郷の入口を塞ぐ必要があるのと、また隕石を落とされては元も子もないので、その対策も必要だ」
「そうですか」
「まあ、ポーリン師やエレーナもしばらくは動きが取れないだろうから、しばらくは安心して良いとのことだ」
「イリーナさんが?」
「どことなく抜けてるヤツが言ったところで、大船の気分が湧かないのだが……」
「師匠のお考えが分からないうちは、そうなるだろう」
「あー、そうかい」
 そう話しているうちに、呼んでいたタクシーがやってきた。
「マリアさん、もうバスは無いんですけど、本当に大丈夫ですか?」
「ああ。別に市街地に行く必要は無い」
 ユタと威吹はタクシーの後部座席に乗り込んだ。
「ユウタ君、色々とありがとう」
「いえ、僕は別に……」
 窓越しに握手を交わした後で、タクシーがバスの営業所に向けて走り出した。
(師匠じゃないけど、本当にもったいない。魔道師の素質があるのに……)

[5月31日17:45.静岡県富士宮市内、国道139号線 稲生ユウタ&威吹邪甲]

〔「夕焼けを2人で♪半分ずつ♪分け合おう♪私は昼♪」「ボクは夜♪」「手を繋げばオレンジの空〜♪」「……鏡音リン・レンで“トワイライト・プランク”でした。ではここで、交通情報をお送りします。……」〕

 春先なら本当に夕方なのだろうが、夏至の近づくこの時季はまだまだ外は明るい。
 タクシーのラジオから流れてくる歌を聴きながら、ふとそう思う威吹だった。
「あ、運転手さん。そこのファミレスに入ってもらえます?」
「はいはい」
 タクシーは国道沿いのファミレスに入った。
「ユタ?」
「いや、まだ時間があるから、何か食べて行こうと思って」
「ああ」
 それで威吹は納得した。
「バスの営業所、すぐそこだし」

[5月31日18:00.ガスト富士宮店 ユタ&威吹]

 夕食時ではあるが、まだピークではないのか、店内はそんなに混雑していなかった。
 夕食を取りながら、ユタが言った。
「そういえば、僕が六壺にいる間、マリアさんと何か話したの?」
「いや、あの魔道師は無口だから。特に、信頼に値しないヤツとは、話もしたくないって感じだね」
「なるほど……」
「ああ、でも、あんなことは言ってたな……」
「なに?」
「『師匠が、魔道師達の抗争に巻き込んでしまって申し訳無い、と謝っていた』と……。これはユタにも言いたいことだから、ボクにも言ったんだろうね」
「そうかぁ……」
「何を今更言ってるんだって感じだけどね」
 威吹は苦笑いした。
「そりゃ1000年……いや、それ以上前からヤツらが抗争しているんだから、ボク達もグゥの音も出ないよね」
「ははは……。『歴史を陰から操る者』か。日本史や世界史の教科書に載ってる、色んなことに関わってきたのかな」
「多分ね」

[同日18:30.富士急静岡バス富士宮営業所→“やきそばエクスプレス”18号 7A席:ユタ、7B席:威吹]

 今日最後の東京行きは定刻通り、バス営業所を発車した。営業所前の道路は狭いので、そこを出発する時は一苦労である。

〔……本日もJRバス関東をご利用頂きまして、ありがとうございます。このJRバスは東名江田、東名向ヶ丘経由、東京行きです。……〕

 行きと違って広いタイプの座席ではなかったが、威吹的には“獲物”と密着しやすくて却って良いらしい。
 始発のバス営業所を出た時点では、乗客はユタと威吹しかいなかったが、乗客名簿をチラッと見たら途中の富士宮駅や富士宮市役所前などから乗って来るらしい。
 昔はイオン富士宮の前(ジャスコ富士宮)にも止まっていたが、踏切を渡らなくてはならなく、定時性確保に難ありということでルート変更の際、廃止された。

[同日19:00.場所不明 イリーナ・レヴィア・ブリジッド、マリアンナ・ベルゼ・スカーレット、ポーリン・ルシフェ・エルミラ、エレーナ・マーロン]

「師匠、稲生君達は予定通り、バスで東京に向かいました」
「何の予知も出なかったから、予定通り着けるでしょう」
 イリーナは、少し離れた場所にいる魔道師師弟をチラ見しながら納得したように頷いた。
「もう時間ね」
 ポーリンはローブの中に隠した懐中時計を見て、イリーナ達に近づいて来た。
「言っておくけど、大師匠の前ではケンカは無しよ?」
「分かってるって」
 イリーナはポーリンに釘を刺したが、ポーリンは無表情のまま頷いた。

 突然、雷が鳴り出し、それが近づいてくる。
 4人の魔道師(見習も含む)は、頭頂部が平場になっている岩に向かって片膝をついた。
 雷がその岩に落ちる。
 落雷したにも関わらず、岩自体には何の損傷も無い。
 マグネシウムを燃やしているかのような光が輝いた後、その岩場の上には黒いローブにフードを被った魔道師が立っていた。
「お久しぶりです。師匠」
 イリーナは頭を深く下げながら言った。
 フードを被ったイリーナとポーリンの師匠は、顔が全く分からなかった。
 この4人の弟子(更には孫弟子)の前にいる大師匠は、本当に正体を現しての姿なのかも分からない。
 大師匠はイリーナの言葉には全く答えず、声を発した。
「お前達の仲の悪さには、今更とやかく言うつもりはない……」
 その声はしわがれた老人の声だった。
 老婆ではない。
「ただ、歴史の表に出て騒ぎを起こすことは本意ではない。今後は、個人的な争いを禁ずる。良いな?それと……」
 まるでLEDの光のような強い眼光をイリーナに向ける大師匠。
「私の元を飛び出して、何をしたかと思えば……。良かろう。あの功績に免じて、正式に免許皆伝をしよう」
「ありがとうございます」
「師匠!?」
 その裁決に納得できなかったのはポーリンの方だった。
「待ってください!私は師匠の元で真面目に修行してきました!何で不真面目なコイツを“卒業”させるのですか!?」
「だから、お前には最初に免許皆伝をした。こいつが私の元を飛び出て、早700年。その後の功績を考えれば今、免許皆伝をさせても良かろう。そこの者……」
 大師匠はマリアに魔道師の杖を向けた。
「は、はい……」
 マリアは緊張した面持ちで前に出た。
「名を何と申す?」
「マリアンナ・ベルゼ・スカーレットと申します」
「勝手にミドルネームも与えて、イリーナは傲慢過ぎます!」
 ポーリンは大師匠に異議申し立てを行った。
「ふむ……」
 大師匠はマリアの全身を見つめていたが、
「マリアンナとやらをイリーナの正式な弟子として認める。……が、まだミドルネームは時期尚早であろう。しばらく、『ベルゼ』の名は私が預かる。そこにいるエレーナ・マーロンと共に切磋琢磨をせい」
「は、はい……!」

[同日19:25.東名高速足柄SA 稲生ユウタ&威吹邪甲]

「あれ?」
 サービスエリアに向かうに従って、急に天候が悪化した。
 上空では稲光が光り、雷鳴も響いて来て、大粒の雨がバスの窓ガラスを叩いた。
「夕立かな?」
「随分暗くなってから降る夕立だねぇ……」
 バスは大型のワイパーを規則正しく動かしながら、広大な駐車場の中に入った。
「どうしよう?傘持ってないや」
「お任せを」
 威吹は腰まである長い銀髪の中に手を入れた。
 その中から、ビニール傘が2本出て来た。
「はい、傘」
「さ、さすがだ……」
 因みに妖刀と脇差も隠しており、こういう帯刀できない場所では髪の中に隠している。

 夕立が降る中、ユタ達を含む乗客達はバスを降りた。
「東京では止んでるといいなぁ!」
 バシャバシャと水たまりを避けながら、小走りにトイレに向かうユタと威吹。
「ホトケに祈ってくれ!」
 威吹はユタの言葉に答えた。
(それにしても、何らかの恣意性を感じる夕立だなぁ……)
 と、威吹は思った。

 休憩時間が終わり、バスが再び発車する頃には小降りになっており、下り線の右ルートと左ルートが合流する辺りにある大きな橋を渡る時には雨は止んだ。

 後日、ユタ達はカンジが購読している週刊誌で、魔道師達の抗争が停戦化したこと、マリアのミドルネームが外されたことを知った。
 ただ、ユタは休戦と停戦の違いが良く分からなかった。
 イリーナは停戦だと思い、ポーリンは休戦だという認識であるという。
 大師匠の命令で仕方なくということだったようだが、いずれにせよ何かの拍子でまた抗争が始まるのだろうと予想した。
 マリアのミドルネームが外されたことにユタは驚いたが、当のマリアとしてはあっけらかんとしていて、むしろ、
「イリーナ師匠の正式な弟子と認めてくれたことの方が嬉しい」
 とのことだった。更に、
「魔道師としてあるまじきことをやったのだから、本来なら破門の上、追放にされてもいいくらいだ。ミドルネームを外された程度で済んで、本当に良かったよ」
 と、ホッとした様子だったという。
                         マリア編 終

※6月7日 表現方法に一部誤りがありました。お詫びして訂正致します。
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