報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「魔道師の抗争」

2014-05-18 18:04:54 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月6日時刻不明 ヨーロッパ某国の森の中に建つ小屋 イリーナ・レヴィア・ブリジッド& ???]

 小屋の中で、1人の老婆が煮立った釜の中をかき混ぜている。
 これだけ見ると何か料理でもしているのかと思うが、その周囲は身の毛もよだつ怪しげな材料が転がっている。
 まるで魔女が怪しげな薬を作っているかのようだ。
 その魔女のような老婆は、来訪者に気づいた。
「何か……御用かね?」
「お久しぶり。姉さん
 イリーナが老婆に声を掛けると、その老婆は見る見るうちに若返って行き、ついにはイリーナと大して歳の変わらぬ姿になった。
「あんたに姉さんと呼ばれる筋合いは、もう無いんだけどね」
 若返った魔女は、イリーナに侮蔑の目を向けた。
「では、名前で呼ばせてもらうわ。元・姉弟子のポーリン・ルシフェ・エルミラ」
 傲慢の悪魔のミドルネームを持つ金髪碧眼の魔道師は、元・妹弟子を見据えた。
 イリーナの来訪目的の真意を探ろうとしているように見えた。
「それで、何の用?」
「師匠に会いたいんだけど、知ってる?」
「先生に会ってどうするの?修行を抜け出したことを今更謝るつもり?もう許してくれないよ」
「そうじゃないの。色々聞きたいことがあるだけ」
「知ってるけど、反省の色も無いんじゃ、教えられないね」
 ポーリンは肩を竦めた。
「じゃあ、あなたに1つ聞きたいことがあるの」
「?」
 イリーナは週刊魔境を出した。
 そして、マリアを貶めたあの記事を開く。
「これ……あなたが関わったでしょ?」
「どうしてそう思うの?」
「あの場にいた人間の女の子、あなたの弟子によく似てるからね」
「ふふっ……。ふふふ……ははははは!バレた?」
「バレバレよ!」
 小屋の屋根の上で寛いでいた黒猫が中に入って来る。
 その黒猫は、人の姿に化けた。いや、戻ったというべきか。
「名前もよく似てる。何かの偶然かしら?エレーナ・マーロンちゃん」
「先生なら知ってるかもね。……確かにエレーナを使って、その記事に関わったのは認めるよ」
「何でそんなことを!?」
「1つ誤解しないで欲しいのは、あのコが人間だった頃に起こした事件については、何もリークしていないから」
「?」
「私がリークしたのは、先日あのコが起こした事件についてだけよ。エレーナには記憶を写真として残す、念写ができるからね。私達の使命は、歴史を陰から操ること。つまり、歴史の表舞台に立つべきではない。立ってはいけない。それは先生からもよく言われてたでしょう?然るにあなたの弟子は、表であんな事件を起こした。許せる行為ではないよね」
 するとイリーナはポーリンを睨みつけた。
 エレーナが警戒して、魔法の杖を出すくらいだった。
 ミドルネームはまだ無いので、弟子に成り立てなのだろう。
 運転免許で言う仮免の状態まで来た時、初めてミドルネームをもらえるのである。
「パパラッチみたいに、私達のスキャンダル探してたヤツがよく言うわね。どうせ不良達に絡まれたのだって、いかにもそうなるように、このコが仕向けたんじゃないの?」
「どこにその証拠があって?言い掛かりもいい加減にしてちょうだい。スキャンダルというのはね、撮られる方が悪いのよ。普通にしていれば、そんなこと無いんだから」
 するとイリーナはローブの中から、バレーボールくらいの大きさの水晶玉を出した。
 そこに映し出されるのは、事件の舞台となった仙台の複合娯楽施設。
 防犯カメラからの映像らしい。
 すると江蓮によく似た少女。つまりエレーナが、わざとあの3人のヤンキーの1人にぶつかっていくシーンがあった。
「どう?いかにも、じゃない?」
 エレーナはまだ未熟なのだろう。
 水晶玉の映像を見て、しまったという顔をしていた。
「私の弟子を罠にはめて、何を考えてるの!」
「あなたは正式に、先生から免許皆伝を受けたわけじゃない。それなのに、勝手に弟子を取るなんて傲慢にも程があるわ。私のこの傲慢の悪魔のミドルネームをあなたに譲りたいくらいよ」
「もう1度聞くわ。先生は今どこにいるの?」
「……聞きたかったら、実力で聞いたら?」
 ポーリンはローブの中から、魔法の杖を出した。

[同日13:00.さいたま市中央区 ユタの家・マリアの部屋 ユタ&マリア]

「まだちょっと熱がありますね……」
 ユタは体温計を見た。
 昨夜は40度だった熱が、今は38度台である。
 まあ、一晩で2度も下がったのだから、薬がよく効いている方なのだろう。
 このペースで行けば、明日には平熱まで下がっている計算になる。
「ユウタ君は大学はいいのか?」
「今日は振替休日なので、大学も休みです」
「そう、か……。ユウタ君、後で栗原江蓮に謝っておいてくれないか?」
「え?どうしてです?」
「私のことで巻き込んでしまって、申し訳無いと……」
「栗原さんが巻き込まれたって……?」
「実は私は直接見たこと無いが、世界には栗原江蓮に似た魔道師もいるようだ」
「えっ!?」
 確かに日本人離れした顔立ちはしているが、まさか魔道師似とは……。
「私が予想したものだが、多分間違ってはいないと思う。……いくら栗原江蓮に似ているとはいえ、そのまま出たのでは、あなた達にすぐに偽者だと分かってしまう。より似せる為に、本物の精気を採取して使用したはすだ。私も偽者を見ていて気づかなかったわけだし、本物が病気で倒れたと聞いて、そうだと分かった。師匠は後ですぐ気づいたようだけどね。それで多分、今追っているはずだ」
「精気を採取すると、どうして病気になるんですか?」
「免疫力も落ちるからだ。大抵は風邪を引きやすくなることが多い。彼女も例外ではなかったようだ」
「ふーん……」
「妖怪が見ても分かるから、あの鬼族の男……あいつも気づいたはずだ」
「へえ……」
「無関係な人間を巻き込んだことは申し訳無く思っている。恐らくしばらく私は会うことはないと思うから、代わりに謝っておいてほしい」
「そういうことならお任せください」
「ありがとう。……あ」
「はい?」
「……ちょっと、しばらく部屋を出てもらえないか?傍にいて欲しいと言っておきながら、アレだけど……」
「あ、ハイハイ。では……」
 ユタは首を傾げつつも、素直に部屋を出た。
「ちっ。こういう時に……」
 マリアは荷物の中から、生理用ナプキンを取り出した。
 下着を替えていると、枕元に置いた水晶玉がボウッと鈍い光を放った。
 外部からの着信である。まあ、ほぼ100パー、イリーナからであるが。

[同日13:05.ユタの家・リビング ユタ、威吹、カンジ]

「だから!あの場には、オレ達以外に妖怪はいなかったって!……え?だから、何でそうなる!?何度言ったら分かるんだ!」
「!?」
 ユタがリビングに移動すると、威吹の怒声が聞こえて来た。
 電話で誰かと話しているようだった。
「どうしたんだい、威吹は……?」
「キノと揉めているようです」
「キノと?」
 その時ユタはマリアの言葉を思い出した。
「気になるなら自分で調査しろっ!」
 威吹は電話を切った。
「ったく、あのバカが……。あ、ユタ。ごめんね。見苦しいところを……」
「いやいや。キノがどうかしたの?」
「栗原さんが病気で倒れたのは、妖怪に精気を吸われたからなんだって。吸われた先を追ってみたら仙台で、ちょうどそこにボク達がいたもんだから疑ってるんだ」
「全く。とんだ言い掛かりです。本物の栗原さんが新潟にいたとは、つい最近分かったことだというのに……」
「いくら栗原さんが甲種(A級)霊力の持ち主だからって、既に他人の手に渡っている“獲物”に手を出すほど飢えてはいない」
「ええ」
「あ、そのことなんだけど……」
 ユタは先ほど、マリアから聞いた話を2人の妖狐に話した。
「マジか!?」
「マジです。つまりもうここまで来ると、魔道師達の抗争レベルになってるんで、もう僕達の手には負えないみたいなんだ」
「それは何たる……!」
「とにかく、今の話をキノに教えてあげよう。後のことは知らんということにしてさ」
「そうだな。事あるごとにケンカ売られたんじゃ、こっちも疲れる」
 ユタはキノに電話した。
「……そういうわけなんだ。マリアさんも謝ってたよ」
{「謝って済む問題じゃねぇ!ヘタすりゃ、とんでもねぇ病気に罹ったかもしれねぇんだぞ!あっ!?」}
「いや、だからそこはさ……」
{「……ちっ、まあいい。取りあえず今は、江蓮も回復に向かっている。今日最終の新幹線で大宮に戻れるだろう。明日からの学校はバックレずに済みそうだ」}
「それは良かったね。“とき”352号か。E2の10両編成だね」
{「ああっ?そんな専門用語言われたって分かんねーよ」}
「とにかくもう1度言うけど、栗原さんは直接狙われたわけじゃなくて、たまたま巻き込まれただけだから。で、マリアさんが直接やったわけじゃないから。マリアさんを攻撃したりはしないでよ。巻き込んだことも謝ってるんだし」
{「ああ。いいぜ。まさか、本当に週刊誌に叩かれるとは思わなかったからな。さすがの鬼にも、情けってもんはあるんだ。それじゃ」}
「ちょっと待って!本当にってどういう……あ、切れちゃった」
 ユタは首を傾げた。
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小説の途中ですが、ここで普通の日記をお送りします。

2014-05-18 16:01:58 | 日記
 法華講員セロリさんがブログ記事を更新されたが、コメントを書き込もうとすると長くなるので、自分のブログに書くことにする。
 顕正会の組織について、色々と悪評があるようだが、私がいた所は比較的穏やかな所であった。
 足掛け10年ほどいたが、1度も怒鳴りつけられたことはない。
 当時お世話になっていた隊長も、今は引退してミスター行方不明となってしまわれたが、他の隊長と比べると冷静で落ち着いた口調で話されるので、私は好感を持つことができた。
 恐らくは元妙信講員が多かった為に、比較的法華講じみた雰囲気が残っていたのではなかろうかと推測する。
 上長なども、破門される前からの妙信講の家系という人も多かったので、未だに当時の功徳が残っていたのではなかろうか。
 破門される前から評判がよろしくは無かったのかもしれないが、曲がりなりにもそこは(あくまで破門される前は)正式な法華講。
 それなりに功徳があって然るべきであろう。でなったら、とっとと出て行くぞ。
 しかし、評判の悪い組織(上長が怒鳴り散らすなど)は、団体名が顕正会となってから入信した者が多いと思われる。
 既に血脈無き団体に功徳などあるはずもなく、誓願という名のノルマに追われて……というのがおおよそのアンチ顕正会の見方だが、怒鳴り散らすような輩を役職に据える人事が悪い。

 近隣の別の隊の隊長指導に耳を傾けてみれば、
「何故そこで泣く!?」
 と、突っ込みを入れたくなるほど感情を露わにする人もいて、引いたものだった。
 そこは法華講の講頭さんと全然違う。
 少なくとも、泣いているところを1度も見たことはない。
 笑っている所は何度も見たけど。
 カルト教団で洗脳されると、変な所で泣く癖が付くのだろう。
 統一教会やオウムもそうだと聞いた。
 そんな所にいたくはないね。

 顕正会員パラパラ茜さんはご自身のブログでちょうど今、顕正会組織について取り上げていて、随分と褒めちぎっておられる。
 私はそれにイチャモンを付けるつもりはない。
 私とて浪花節的な組織に所属していたから、女子部などにもパラパラ茜さんの仰る優しい組織も存在するのだろう。
 正直、人との繋がりそのものは、今の法華講と私が昔いた顕正会とでは、後者の方が好感は持てる。
 良くも悪くも、旧・妙信講は人の繋がりを大事にしていたというのが垣間見える所だった。
 今の法華講は……まあ、人数が多くなると【禁則事項です】。
 おかげさまで、こうして好き勝手やらせて頂いているのだが。
 はっきり言って、前の顕正会組織だったら、とっくに私のブログは潰されて禁止令が出されたことだろう。

 明日はいよいよ、今月の自己誓願を達成させる予定だ。
 まずは、自分の信心を固めないとね。
 顕正会は新入信者の信心を固める前に、折伏という名の勧誘に走らせるからおかしいんだと思うな。
 私もまだ確信が掴めていない以上、顕正会に突入するわけにはいかない。

 つーわけで既に確信のあるセロリさん、私の分まで頑張ってくださーい。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「リーク者は誰だ?」

2014-05-18 02:19:09 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月6日06:00.ユタの家・マリアが寝ている部屋 ユタ&マリア]

「う……!」
 ユタは一晩中マリアの看病をしていて、いつの間にか寝落ちしてしまっていた。
 そこから覚めた時、マリアが何かうなされるような、そんな呻き声を上げた。
「……はっ!」
 マリアの目が、カッと開いた。
「おはようございます、マリアさん」
「!?」
 突然ユタの声がしたので、驚いた様子でこっちを見た。
「あ、あの……体の具合、どうですか?」
 すると、上半身を起こそうとしたが、なかなか力が入らないようだ。
 だからユタは手を貸してあげた。
「……まだクラクラする……」
「熱っぽい感じですか。あ、水どうぞ。昨夜、だいぶ汗かいていましたから」
 ユタはミネラルウォーターのペットボトルを渡した。
「ああ……」
 マリアが水を飲んでいると、ユタが申し訳無さそうに言った。
「驚かせてすいません。何か、イリーナさんにマリアさんの看病を頼まれまして……。いや、僕は全然構わないんですけど……」
「夢の中で、師匠がそんなこと言ってたな」
「そうでしたか」
 マリアが半分くらいの水を飲むのを確認したユタは、
「もっと持って来ますね」
「すまない」
「いえいえ。あ、そうだ。何か食べますか?昨日は、サンドイッチしか食べてないでしょう?お粥か果物か……」
「ああ。お願い」
「ちょっと待ってください」
 ユタは立ち上がって、ダイニングへ向かった。

[同日06:05.同場所・リビング ユタ、威吹、カンジ]

「……なに?それは本当なのか?……ああ」
「おはよう」
 ダイニングへ行く途中にあるリビング。
 そこに入ると妖狐2人がいて、しかもカンジは自分の携帯電話でどこかに電話していた。
「おはよう」
 ユタに気づいた威吹がユタに気づいて、微笑んだ。
 カンジの電話の向こうからは、時々怒鳴り声のようなものが聞こえた。
 どうもそれは声の感じから、キノのようだった。
 当のカンジの方は全くポーカーフェイスを崩さず、冷静に受け答えをしているが。
「……分かった。感謝する。栗原さんに、よろしくな。それじゃ」
 カンジは電話を切った。
「おはようございます。稲生さん」
「ああ、おはよう。どうしたの?今の電話」
「何だか、ワケが分かりませんよ」
「何がだ?」
「栗原女史は家族旅行に出かけているのですが、その行き先は宮城ではありません。新潟だということです。昨日、一昨日と一切宮城には行っていないもようです」
「ええっ!?」
「……なるほど。そう来たか」
 威吹は右手を顎にやった。
「その栗原女史は今、マリア師同様、発熱して新潟の親戚宅にて療養中です。キノが急いで駆け付けたようです」
 それを受けて威吹は納得した様子で頷いた。
「それで栗原殿の家に掛けても、誰もいなかったというわけだな。そして、栗原殿の電話にキノが出たのも……」
 威吹はユタを見てニヤついた。
「ちょうどユタがマリアにそうしていたように、キノもまた付きっきりで栗原殿を看病していたか」
「ちょっと待って。栗原さんが新潟にいるってことは、仙台や利府で見た彼女は誰だったんだい?」
 ユタが当然の疑問を投げた。
「まあ、偽者であることは間違いないですね」
「かといって、妖怪が化けたものでもないようだ。どんなに上手く化けても、ボク達の鼻は誤魔化せない」
「んん?」
 ユタは眉を潜めて、首を傾げた。
「あ、それより、マリアさんが目を覚ましたんだった」
 ユタは思い出したように、再びダイニングへ向かった。
「ああ、ユタ、ちょっと待ってくれ!」
 威吹はユタを呼び止めた。
「カンジ、粥ならお前が作れ。ユタ、ちょっと聞きたいことがある」
「何だい?」
 威吹は例の週刊誌を出して、写真を見せた。
 そして昨夜の話をした。
「キミもこの時、この写真を撮ったヤツが視界に入っていたはずだ。何か、心当たりがあるかい?」
「……?いや……」
 ユタは首を傾げた。
「写真を撮っていたヤツなんて、いなかったと思うけど……。何しろ、人形達のインパクトが強かったからね。だから人形達の写真は撮っていても、更にずっとその後ろにいる僕達をダイレクトに撮るなんてことは……」
「キミ達を見張っていた者はいたかい?」
「いたら気づくだろうさ」
「……では、いて気づいても、ユタ達が気にしない人物と言えば?」
「まさか……」
 最後の写真、ユタとマリアがタクシーに乗って、その場からホテルまで逃走するところだ。
 明らかにユタがカメラ目線になっている。
「栗原さん!?確かに僕はこの時、栗原さんと目が合ってる!」
「やはりな」
「で、でも、栗原さんはカメラも何も持って無かったよ?」
「この時、ボク達以外に妖怪の気配は?」
「いや、気づかなかったなぁ……」
「うん、そうか。やはりこの時、この場にいた栗原殿は妖怪以外の者が化けた偽者だったか」
「誰だ、それは?」
「キノにも聞かれたが、目下のところ調査中だ。それに……面白い話を聞いたのだが、本物の栗原殿が倒れたのは、一昨日の夜だったそうだ」
「それって、この事件の時の?」
 ユタは週刊誌に目を落とした。
「偶然とは思えないな。ここまで来ると、何者かがマリアを陥れる為に偽者を送り込んだか、それともその本人が栗原殿に化けてあの事件を引き起こしたかのいずれかの可能性も視野に入れて調査しないと……」

[同日06:30.同場所・マリアの部屋 ユタ&マリア]

「お待たせしました」
「ああ、すまない」
「いえいえ」
 マリアはゆっくりと起き上がった。
 そして、お粥の入った器とレンゲを受け取る。
 切ったリンゴの入った器もあった。
「師匠は……この家にいないようだな?」
「さっき威吹に聞いたんですけど、急用ができたってことで、夜中に出て行かれたそうです」
「ふーん……」
「あ、でも、薬は頂いているので、これを食後に飲めば……」
「うん」
 マリアはレンゲを口に運んだ。
「……マリアさん、あの週刊誌、何かウラがあるみたいです」
「だろうな。だけど、あの週刊誌に書かれている内容については本当だ。私は……」
「マリアさん、いいんです。気にしないでください。僕だって中学校まではイジメを受けていましたし、マリアさんの気持ちは分かります」
 するとマリアは食べるのを中断した。
「あなたは……威吹に助けられたと聞いた」
「ええ!そうなんです!」
「それは、神や仏に願掛けしての結果か?」
「いえ、そこまでは……。当時は無宗教で、どんなに祈念しても無駄だと考えていましたから。不良達に見つかって、威吹が封印されていた神社に逃げ込んだのも、ほんの偶然です」
「見方によっては、ユウタ君は神に助け舟を出してもらったようなものか……」
 マリアは自嘲気味な笑みを浮かべた。
 何だか、初めて見る顔にユタは思えた。
「私は神に救済を願い出た。だけど、その願いを聞いてくれたのは悪魔だった。私は悪魔の指示に従って、『復讐』をした。もっとも、そこは悪魔だ。復讐が完了した時点で法外な報酬を請求し、持って行った」
「何を……ですか?」
「唯一私の本当の意味で味方になってくれた親友、アンジェラ・ヒロタだ。日系人で、私と同じ移民だったということで仲良くしてくれたよ。悪魔は私ではなく、そのコの魂を請求してきた。私が断ると……」
 マリアは目に涙を浮かべた。
「『それなら、32人目……最後の復讐はあいつだ』って……」
「!」
 ユタは週刊誌の中で、32人目の被害者の名前がアンジェラだったのを思い出した。
 確か死因は……転落死となっていた。
「……でも、どうしてキリストに願いを掛けたのに、悪魔が現れたんですか?」
 ユタから見れば邪教だ。
 それによって引き起こされた惨事にしても、もっと他にも原因があるような気がしてならなかった。
「それは……悪魔に聞かないと分からないよ。もっとも、悪魔は『お前が困っているのを見かね、助けに来た』なんて言ってたけど……。そんな偶然過ぎるとは思っているけど……。あ、今は大丈夫。私に悪魔はいない。師匠もそれは保証してくれてるから」
「そうでしたか……」
「私のこと、嫌いになった?悪魔に取り憑かれたとはいえあんな事件を起こして、魔道師になって、私だけのうのうと長生きしてるのよ?」
「……いえ。そんなことないですよ。きっと僕も、目の前に現れたのが妖狐ではなく、悪魔だったら、やっぱり悪魔に助けを求めたと思いますね。そして最終的には、僕が魔道師になっていたかもしれない。僕は嫌いになったりしないですよ」
「……ありがとう」
 マリアは目に涙を浮かべた。
 しかしユタは思う。
(あのマリアさんの“狂った笑顔”……。あれが、美しいと思った僕はヘンタイなんだろうか……)
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