報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「東北紀行」 1

2014-05-08 18:10:59 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月4日07:00.さいたま市中央区 ユタの家の客間 イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

「師匠、朝ですよ。起きてください」
 薄暗い客間の中で眠るイリーナ。
 そんな彼女を起こす者がいた。
「ご馳走いっぱい……お金もいっぱい……。こんなに沢山……困っちゃう……」
 イリーナは御満悦の表情だった。
「師匠!起きてください!」
 グイッとイリーナの髪を引っ張る。
「いででででっ!……ってことは、夢じゃない……」
「いや、夢ですから。早く起きてくれないと、お醤油飲ませますよ!」
 すると、ガバッと起きるイリーナ。
「……びっくりした。いきなり、お札束が醤油になって襲ってくる夢見たの。これ絶対、大いなる災厄の予知夢……」
「無いと思います」
「って、マリア!いつの間に来たの!?」
「つい、さっきです。早くしないと、新幹線に乗り遅れますよ?」
「そうだった!……ちゃんと頼んでおいた事、してくれた?」
「大丈夫ですよ」
「ありがとう」

[5月4日08:20.JR大宮駅 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾、マリアンナ・ベルゼ・スカーレット、イリーナ]

 地下の埼京線ホームに、新型のJR電車が入線してくる。
 この駅が終点の電車からは、乗客がぞろぞろと降りて来た。

〔おおみや、大宮。本日も、JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 最後尾の車両から降りた乗客の中に、ユタ達の姿もあった。
「ああ、マリアさん。重いでしょう。僕が持ちますよ」
 階段しか無いため、キャリーバッグを持つ魔道師2人には重そうだ。
「いや、心配ご無用」
 重そうなバッグなのに、マリアはヒョイと片手でハンドバッグを持つ感じで持ち上げた。
「ええっ!?」
 イリーナも同じだった。
「ええーっ!?」
 階段を登り切ったところで、
「ちょっといいですか!」
 ユタはマリアのバッグを持ち上げようとした。
「重っ!?」
「ふふふ……」
 クスクスと笑うイリーナ。
 威吹は気づいているようで、
「ユタ、騙されるな。魔力で荷物を軽くしただけだ」
 と、呆れた様子で言った。
「ちぇっ。バレたか」
「バレバレだ」

 すぐに近くの新幹線改札口へ向かう。
「ゴールデンウィークだから、自由席は座れないだろうな……」
 と、思っていると、
「はい、ユウタ君。宿泊代」
 イリーナはスッとあるものを出した。
「えっ?宿泊代は結構ですのに……」
「いいのいいの。現金じゃないから」
「ええっ?」
 封筒を開けてみると、中に入っていたのはグリーン券だった。
 しかも、これから乗る列車のものである。
「ええっ!?確か、グリーン車も満席だったような……?」
「ふふ、魔道師ともなれば、こんなマジックも使えるのよ?」
「贋札じゃないだろうな?」
 威吹は不審顔をした。
「モノホンだよ」
 イリーナは笑みを崩さず、
「キップは1人ずつ持ちましょうね」
 と、グリーン券を配った。
「偽の手形は磔刑だぞ?」
「いつの時代の話だ……」
 威吹のボヤきに、マリアが呟いた。
 因みに江戸時代の関所のことを威吹は言っていて、通行手形の偽造が発覚した場合とか、関所破りは磔刑だったそうである。

 ユタ達は新幹線ホームに上がった。
「えーと……グリーン車は9号車か……」
 途中で新聞を買ったカンジ。
 基本的には一般紙を読むことが多く、夕刊紙はたまに読む。

〔「今度の17番線の電車は8時34分発、“やまびこ”127号、仙台行きと“つばさ”127号、山形行きが参ります。……」〕

「カンジ、異世界通信、購読してなかったか?」
 乗車位置まで来た時、威吹は新聞を持つカンジに話し掛けた。
「ええ。取ってますよ。異世界通信はまだ一般紙だからいいですが、アルカディア・タイムスとかは、どちらかというとタブロイドですから三流紙でしょう。あと、他に週刊魔境なんかも……」
「それは一体、どこの出版社が発行しているんだい?」
 ユタが呆れた様子だった。
「100年くらい前、アルカディア・タイムスの取材受けたことあるよ?」
 と、イリーナ。
「異世界通信社が全部やってるのよ」
 続けて、ユタにそう言った。
「まあ私達もそうなんだけど、妖怪達も娯楽が少ないからね、中にはそういうゴシップなんかも好まれるわけ」
「そうなんですか」

〔まもなく17番線に、8時34分発、“やまびこ”127号、仙台行きと、“つばさ”127号、山形行きが17両編成で参ります。黄色い線の内側まで、お下がりください。……〕

「おっ……」
「それにしても、内容の薄い記事だ」
 威吹はアルカディア・タイムスを見て、感想を漏らした。
「まあ、ゴシップ紙ですから。まだ、夕刊フジの方がまともなことが書いてあるかと」
(何故、夕刊フジ?)
 山形新幹線“つばさ”号を先頭に、2台連結の列車が入線してきた。

〔「……前7両が“つばさ”号、山形行き、後ろ10両が“やまびこ”号、仙台行きです。お乗り間違えの無いよう、ご注意ください」〕

 下車客などはおらず、ここでユタ達は9号車に乗り込んだ。
「えーと……席は、ここか」
 2人席が2A、2B、2C、2D、1人席で1Aと……。
「じゃ、ユウタ君はマリアとゆっくり話して」
「はい」
「何でそうなる?」
 威吹は不満げだったが、昨夜のこともあり、それ以上は言わなかった。
「じゃあ、着いたら起こしてね」
 1A席に座ったイリーナは魔道師のローブのフードを被って、リクライニングを深々と倒した。
「うーわっ、耳栓まで用意して」
「よく眠る師匠だ……」
「よーし、このままお前だけ新青森まで寝てろ」
 と、威吹。
「いや、仙台止まりだから」
 列車は定刻通りに発車した。

[同日 時刻不明 叫喚地獄の中央にある蓬莱山家 蓬莱山鬼之助&蓬莱山美鬼]

「いやいや、鬼之助さんのご活躍、伺っております」
「飛ばされた先では、なかなかの高評価だったんよ。そのまま居ついても良かったんに……」
「いや、そういうわけにはいかねぇ」
 応接間でキノと美鬼は、週刊魔境の取材を受けていた。
「それで、賽の河原で鬼之助さんが体験したことについて……」
 記者は人間ではなく、どこかの西洋の妖怪のようだった。

「最後に鬼之助さんは、何かの確信に触れたとお伺いしましたが?」
「ああ。人間界にいる、生意気なおもしろ魔道師のことなんだけどよ……」
 
コメント (1)
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