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近代革命の社会力学(連載第422回)

2022-05-05 | 〆近代革命の社会力学

六十 メキシコ・サパティスタ革命

(1)概観
 1990年ネパール民主化革命は、農民層が時代潮流に逆行して共産党(毛沢東主義派)の台頭をもたらしたことを見たが、メキシコでは農民層が既成イデオロギーを超えた新しい形の革命を編み出した。それが、1994年1月1日の武装蜂起を起点とするサパティスタ革命である。
 この革命は、メキシコで最貧レベルにある南東部チアパス州の先住民グループが中心となって結成した農民革命組織サパティスタ民族解放軍(EZLN)が主導したものであり、政府軍との一時的な武力衝突を経て、チアパス州の一部地域におけるEZLNによる反独立状態の自治域が黙認される形で、持続的な成功を収めている。
 サパティスタの名は20世紀初頭のメキシコ革命で主要な役割を果たしながら暗殺されたエミリアーノ・サパタにちなむもので、その基本理念はサパタ流のアナーキスト系社会主義にあり、自治運営にも通常の行政機構によらない直接民主主義的なアナーキズムの影響が見て取れる。
 そうした点で、この革命は失敗に終わった1930年代のスペイン革命以来のアナーキスト系革命の事例とも言えるが、EZLN自身はそうした伝統的なイデオロギー分類を拒み、資本主義的グローバリゼーションと対峙する先住民族農民の権利擁護を活動の目標に定めている。
 そのため、EZLNは伝統的な政党とは異なる組織構造を採用し、垂直的な序列型指導部を有しない。そのうえ、事実上の自治域においても全員参加型の議決機関を擁し、労働者協同組合や家族農場を基軸とする経済運営が行われている。
 現時点で、EZLNの自治はチアパス州の一部に限局されており、メキシコ全土への拡大は見られないが、他地域にも支援組織があり、国際的な連帯活動も行われている。このように伝統的な革命運動とは異なり、しなやかな連携関係を通じたネットワーク型の闘争は欧米からも注目されている。
 もっとも、その独特な方法論は現在のところ、地域を超えた広がりを見せているとは言えず、あたかも日本の北陸一向宗革命(一向一揆)のごとく、地方革命の域を出ていないが、現時点で最も持続的な成功を収めている新型の革命事象として、その力学を見ていくことにする。


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