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近代革命の社会力学(連載第107回)

2020-05-25 | 〆近代革命の社会力学

十五 メキシコ革命

(1)概観
 メキシコ革命とは、1911年5月の政変により、前世紀の1876年以来断続的に続いていたポルフィリオ・ディアス大統領の独裁体制が打倒された時点から、様々な革命勢力が競合する内戦を経て、1917年に革命憲法が制定されて現代メキシコ合衆国の基礎が築かれた時点までを指す。
 その時期は、ポルトガルの共和革命や中国の共和革命(辛亥革命)とほぼ同時並行的であり、かつ1917年ロシア革命に先立つ位置にあり、20世紀初頭における大陸を越えた革命的地殻変動を象徴する出来事であったと言える。
 ただ、同時代的な革命との大きな相違点は、ポルトガルや中国、ロシアにおける革命が君主制に対する共和革命であったのに対し、メキシコではすでに19世紀の間に共和制が確立されており、革命も独裁化した共和制に対して起こされたという点である。
 このような近代的共和制内における民主化革命は、まだ共和制国家そのものが希少であった当時には稀有のものであり、帝政崩壊直後の臨時の共和制に対して起こされたフランス・コミューン革命を除けば、史上初例と言えるのが、メキシコ革命であった。その意味で、メキシコ革命は20世紀後半以降に増加していく新しいタイプの革命の先駆けともなった。
 メキシコ革命のもう一つの特徴は、その内部に農民革命の要素を伴ったことである。近代革命において農民は保守的・反革命的な立場を取ることが多い中、メキシコではアナーキストに率いられた農民革命派が重要な役割を果たした。かれらは革命において勝者とはならなかったが、その影響性は時代を越えて残り、遠く1990年代に地域的な革命に成功するのである。
 このように、メキシコ革命では農民運動と結びついたアナーキズムの影響性が強かった一方、当時欧州で台頭し、ロシア革命では主導的な革命集団となった労働者階級・マルクス主義勢力は弱く、ほとんど足跡を残さなかった。
 とはいえ、メキシコ革命は単なるブルジョワ革命でもなく、革命の結実である1917年憲法は土地や天然資源・水の国家管理や社会権の保障などを軸とする社会主義的な要素を持っており、ロシア革命に先立つ(半)社会主義革命という性格も伴っていた。
 しかし、資本主義を明確に否認することもなく、イデオロギー的な両義性・混交性が止揚されていなかったことから、革命の保守的収斂の結果として1929年に誕生した国民革命党(後の制度的革命党)は、労働者には社会主義を約束し、資本家には資本主義を保証するようなヌエ政党として自己確立された。
 しかし、そのことが党略的には長期的な成功を収め、制度的革命党はメキシコ革命以降のメキシコにおいて圧倒的な優位政党となった。党は1929年から2000年まで70年以上にわたり連続して大統領を輩出し続け、近代メキシコの政治経済を支配する包括的与党勢力として君臨したのである。


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