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弁証法の再生(連載第15回)

2024-07-07 | 〆弁証法の再生

Ⅴ 弁証法の再生に向けて

(14)弁証法の位置づけ
 現代は「科学の時代」と言われ、科学的思考が強調される反面、人間の思考を長く支配した哲学的思考は廃れていく傾向にあるが、弁証法は形式論理学と並び、科学的思考法の基礎を成す一個の哲学的方法論であり、言わば「科学哲学」の方法論である。そのようなものとして、弁証法の再生を考えていく。
 弁証法を再生させるに当たり、思考方法論におけるその位置づけについて考慮しておく必要がある。その際、今日、科学的思考法の基礎として定着している形式論理学との関係において、位置づけを見定める。なぜなら、弁証法は形式論理学と互いに排斥し合う関係にないからである。
 弁証法は形式論理学とは異なるとはいえ、形式論理を無視した非論理的・直観的思考によるのではなく、形式論理を踏まえながらも、より事物の実質的な価値に即した思考をする点で、実質論理学とも呼べるものである。その点で、弁証法は形式論理学のような明証性に欠けるきらいはあるが、それゆえに形式論理学より下位に落ちるわけではない。
 形式論理学は、三段論法に代表されるような形式論理によって結論を導く際の最も合理的な思考方法であり、その最も純粋な形態は数学に現れる。形式論理学は、数学を基盤とする数理的思考になじみやすい。そのため、数理的思考を基礎とする自然科学全般の思考的土台となる。
 しかし、自然現象も数理的思考だけではとらえ切れない。その困難さは量子物理学のようなミクロな世界に至るほどに増し、弁証法的思考を要する場面が増す。また、自然科学の中でも特に複雑な生命現象を扱う生命科学も、数理的思考の独壇場ではない。そうした自然科学における弁証法の適用領域に関しては、次節で改めて検討を加えることにする。
 ところで、今日、科学と言った場合、自然科学のほかに、社会科学という比較的後発の科学分野がある。社会科学は、社会性生物である人類の社会に関する科学的な探求を目的とする学術分野であるが、人類社会という人工物の諸原理を解明するには、形式論理学だけでは不足である。
 人類社会といえども、自然法則の支配を免れることはできないが、人類社会においては、しばしば形式論理を越えた価値命題が介在して、数理的思考だけでは解決できない諸問題を惹起することがある。ここに、弁証法の最大の出番がある。もっとも、社会科学的思考においても、データや数式を用いるに際しては形式論理学が適用されるが、それは手段的な意義にとどまる。
 また、地球環境科学のように、自然科学と社会科学の双方に融合的にまたがり、それ自体が弁証法的な止揚の産物でもあるような総合科学も今日、重要性を増してきているが、このような文理総合科学の分野にあっては、方法論的にも形式論理学と弁証法が総合的に適用されることになる。

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