ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

近代革命の社会力学(連載第478回)

2022-08-19 | 〆近代革命の社会力学

六十六ノ二 ロジャヴァ・クルド革命

(4)革命自治体制の制度と政策

〈4‐1〉民主的連合主義
 ロジャヴァ・クルド革命によって樹立された革命自治体制の制度は2014年制定のロジャヴァ憲法によって規定されているが、その内容は現時点の世界の諸憲法の中でも先進的で、中でも「民主的連合主義」と規定された統治システムはユニークなものである。
 この仕組みにおいては、ロジャヴァ自治域がスイスの州名称にちなむカントンと呼ばれる行政区に分けられ、各行政区には選挙制の地区評議会と市民評議会とが設置される。
 地区評議会はカントンの中核機関であり、男女各一名ずつ選出された共同議長の下、カントンにおける行政及び経済運営に関する決定権を持つ。市民評議会はカントンにおける社会的・政治的権利の増進を担う啓発的機関である。
 ただし、カントン全体をとりまとめる行政府としての執行評議会及びクルド人以外の少数民族も参加するシリア民主軍の政治部門かつ自治域全体の立法機関としてシリア民主評議会が存在している。
 執行評議会はカントン間の調整や自治域全体の外交・軍事を担当し、かつ中央省庁を管轄する機関で、ここでも男女各一名ずつの共同議長制を採る。
 執行評議会は革命の中心を担った民主統一党が主導しているが、その他の諸政党も参加しており、複数政党制に基づいている。しかし、西欧流の議会制とは異なり、与党が主導する政府ではなく、合議制執行機関である。
 こうした「民主的連合主義」の制度は、地域の諸勢力の均衡とトルコの侵攻による自治域の縮小に応じて流動的で、現時点ではカントンがより広域の地域圏に包括され、地域圏には単独の首相が置かれるなど、「連合主義」の基本がやや型崩れし、西欧型の連邦制に近いものに変化してきていることが注視される。

〈4‐2〉協同経済体制
 ロジャヴァ・クルド革命をユニークに特徴づけるもう一つの要素は協同経済体制である。これは協同組合と私企業を組み合わせたある種の混合経済体制であるが、旧ソ連型の中央計画経済ではなく、私有財産と起業の自由は保障され、カントンごとの地区評議会が経済を管轄する分権型の経済体制である。
 しかし、自治域の全財産の三分の二は公有化され、協同組合が広範に活用されており、特に農業生産の大部分は協同組合による協同農場で行われる。また全生産活動の三分の一は労働者評議会の管理下にあるなど、自主管理社会主義に近い制度が施行されている。
 一方、通商に関しては、石油、小麦や綿に代表される農産物の輸出とそれによる関税収入が自治域全体の主要財源となっている。域内の直接税や間接税は存在しなかったが、一部のカントンでは所得税制を導入している。
 こうした協同経済の成果として、ロジャヴァ自治域内の賃金や生活水準は、長期の内戦により疲弊し大量難民化が生じているシリア国内の他地域に比べて高いレベルにあるが、これも、シリア内戦の帰趨とトルコの動向に依存した地政学的な情勢と自治体制の持続的な存続可能性いかんにかかる。

〈4‐3〉女性科学理論と実践
 ロジャヴァ自治体制全体の特徴として、先進的なジェンダー平等主義があるが、それは域内全統治機関メンバーの40パーセントを女性に割り振るクウォータ制、執行評議会やシリア民主評議会を含めた政治機関における男女共同議長制などに現実化されている。
 そればかりでなく、各地域に女性の権利を擁護する一種のコミュニティセンターとして「女性の家」が設置され、社会政策の面でも女性に焦点を当てた施策が実施されている。
 こうした取り組みは、単に啓発的な政策のレベルのみならず、女性を単に抑圧された性別として評価することを超えて、社会の原動力としてその活動を民主的社会の柱に位置づけるジネオロジー(jineology):女性科学と呼ばれる理論に基づいている。
 ジネオロジーは、クルド語で女性を意味するジン(jin)から派生した造語で、クルドの女性解放運動の中で形成された独自の理論であり、イスラーム教徒が多数を占める中でのクルド人の先進性を示すものである。

コメント