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比較:影の警察国家(連載第65回)

2022-08-07 | 〆比較:影の警察国家

Ⅴ 日本―折衷的集権型警察国家

1‐3‐1:自衛隊保秘組織の政治警察機能

 防衛省・自衛隊系統の警察組織としては、後述の警務隊を別とすれば、法的にも警察として機能する組織は存在していない。しかし、保秘組織である自衛隊情報保全隊は、その運用上政治警察としての機能を持つ。
 情報保全隊は、2003年に陸海空三自衛隊それぞれに設置された情報保全隊を前身とする。その任務は防衛秘密の保持にあり、とりわけ自衛隊に対する外部からの働き掛け等から部隊等を保全すること、つまりは防諜を最重要任務とした。
 そうした防諜任務としては外国諜報機関によるスパイ活動の監視が典型例であるが、これが拡大されて、自衛隊の活動に反対する野党や反戦運動、ジャーナリスト等の動静監視にも及び、実際、自衛隊も参加したイラク戦争に関連して、陸上自衛隊の情報保全隊がそうした監視活動を実施していたことが2007年に発覚した。
 こうした政治的監視活動は公安警察や法務省系の公安調査庁と並び、防衛省・自衛隊系の情報保全隊が言わば三本目の政治警察としての機能を果たしていることをうかがわせるものである。
 しかし、如上の拡大的な監視活動が表面化したにもかかわらず、情報保全隊は制度改正により自衛隊の常設統合部隊として再編され、2009年以降、1000人規模の要員を擁する防衛大臣直轄の自衛隊保全隊として強化されるに至った。
 組織再編後の情報保全隊にも基本的任務は継承されており、むしろ常設統合部隊として政治警察機能も強化されたと言える。
 ただし、冒頭でも述べた通り、自衛隊情報保全隊は法的に警察として活動することはできないため、関係者の逮捕等の強制捜査は許されず、対象に対する動静監視が主となるが、それだけに法に基づかないプライバシー侵害の危険が常在する。

1‐3‐2:自衛隊警務隊の位置づけ

 多くの諸国の軍には軍人の犯罪を取り締まる軍事警察として憲兵隊が組織されるが、戦前の日本にも陸軍に憲兵制度が存在した(海軍にも太平洋戦争中に海軍特別警察隊が創設されたが、その権限は占領地に限局された)。
 しかも、陸軍憲兵は本来任務を超え、司法警察として一般国民を対象とした治安維持活動にも及んだため、反体制運動や反戦運動の弾圧にも動員された。そのため、旧陸軍憲兵隊は内務省系の特別高等警察に次ぐ政治警察として活動したが、敗戦後の日本軍解体に伴い、陸軍憲兵制度も当然ながら廃止となった。
 戦後創設された自衛隊においては、陸海空三自衛隊の警務官が「憲兵」に相当し、陸海空の各自衛隊に警務隊が設置されている。
 しかし、自衛隊警務官は一般市民を対象とする警察権は持たないため、旧陸軍憲兵とは異なる制度である。そのため、警務隊よりはむしろ上述の情報保全隊が機能的政治警察としての性格を帯びることになる。
 ただし、今後の安全保障情勢次第で、情報保全隊と連動して保全隊が対象とする一般市民の摘発に警務隊を動員できるような法改正が行われれば、警務隊の旧憲兵化という事態が生じることにもなり、注視が必要である。

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