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「貴賤結婚」の果て

2020-03-01 | 時評

平民のアメリカ人女性と結婚した英国のヘンリー王子が、今月末をもって王室を事実上離脱することとなっている。英国では、エドワード8世がやはり平民のアメリカ人女性と結婚するために国王を退位した先例すらあるので、さほどの衝撃ではなさそうである。

王または王族と平民が婚姻する「貴賤結婚」は、20世紀に入って、欧州各国王室のほか、日本皇室でも主流化している。19世紀以前の社会常識では「貴賤結婚」はタブー破りであったが、20世紀以降、今日では、王室・皇室(以下、「王室」で代表させる)のような制度を残しつつも、「貴賤結婚」のタブーを解消することが次第に常識化しつつあるようである。

このような「貴賤結婚」の慣習化は階級平等思想の表れなのだろうか、それとも、王族に自分の好きな平民を配偶者に選ぶ権利を与える新たな特権なのだろうか。

素朴に見るなら、前者が妥当のように思えるが、果たしてどうか。「法の下の平等」を憲法原則とするなら、本来的に王室の制度自体が容認されないはずであるが、ある種の政治的妥協の結果、「法の下の平等」の例外中の例外として王室の存在を認めるなら、特権を享受する王族にはそれなりの制約が課せられなければならず、一般市民と全く同等というわけにはいかない。

そうした制約の一つは、「貴賤結婚」の禁止である。つまり王族が配偶者を選択する場合は、海外王室を含む同等の王族または貴族、貴族制度が廃止されている場合は、旧貴族の一員から選択しなければならないということになる。

とはいえ、人としての愛情まで制約することはできないから、王や王族がどうしても平民と婚姻したいと切望するならば、王室を離脱し、自身も平民となることである。その点、国王を退位したエドワード8世の決断は基本的に正しい(ただし、エドワード8世は退位後、降格の形で公爵となり、ヘンリー王子も公爵位は保持される)。

その点、日本の現行皇室制度には、女性皇族に限り、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れるという規定があるため、「貴賤結婚」を認めつつ、皇籍は奪うという形で、ある種の制裁が科せられる。女性皇族にだけ科せられる点で女性差別的という問題もあるが、男性皇族にも同じ制裁を科す改正を施す限りでは、正当な規定である。

ちなみに、日本でも女性皇族の婚約者の素性や経済問題等をめぐり、世間がざわめいているが、婚姻により平民となる人が誰を相手に選択しようと個人の自由であり、周辺がとやかく干渉すべきことではない。

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