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近代革命の社会力学(連載第18回)

2019-09-17 | 〆近代革命の社会力学

三 アメリカ独立革命

(5)女性たちの動静  
 アメリカ独立革命=戦争の時代、「男女同権」はいまだ社会常識ではなかった。革命や戦争のような政治軍事問題は男性の領域であり、女性が自立的・主体的に参加することはできなかった。従って、「建国の父」は銘記されても、「建国の母」は銘記されなかったのである。  
 後に第二代合衆国大統領夫人となるアビゲイル・アダムズは大陸会議代議員だった夫ジョンへの書簡という個人的な形ではあったが、女性の平等な権利について先駆的な主張を展開し、大陸会議に女性の視点を反映させようと努力したが、報われることはなかった。
 とはいえ、革命=戦争の渦中に女性は確実に参加していた。例えば、初期の頃には英国製品、とりわけ衣類や絹織物のボイコット運動で重要な役割を果たしている。またボストン茶会事件の後には、これに触発され、51人の女性たちが起こした1774年のイーデントン茶会事件のような女性版茶会事件もあった。
 英国製品のボイコットは、必然的に代替製品の自給を必要としたから、女性たちは製品を自作するようになった。この動きはアメリカの自主的消費経済の発達を促進するとともに、さしあたりはにわか仕立ての大陸軍の兵站の一翼をも担うこととなった。  
 開戦後は、フィラデルフィア婦人協会を皮切りに、女性による戦争協力組織が結成され、有力な女性たちは主に戦争資金集めに奔走した。こうした活動には、後に初代ファースト・レディとなるマーサ・ワシントンやベンジャミン・フランクリンの娘サラなどが参加していた。マーサ夫人はしばしば前線を慰問し、自身も裁縫や看護などの支援を行なった。  
 大陸軍の前線に常時同伴する女性たちもいた。その多くは洗濯や清掃、給仕など後方支援任務に従事した。これら従軍者(camp follower)と呼ばれる女性たちは推計で2万人と言われ、兵站が確立されていなかった民兵型の大陸軍において欠かせない存在であり、彼女たちなくして独立戦争の遂行は無理であったと言える。  
 少数ながら、中には男装して兵士として戦闘参加する女性もいたが、むしろ女性は頭脳的なスパイとして活躍した。実は、大陸軍の重要な技術的勝因として優れた諜報戦略ということもあったが、その影には女性諜報員の活躍も見られたのである。ちなみに、英軍側にもワシントン陣営へのスパイ活動で知られるアン・ベイツのような女性諜報員の存在が見られた。  
 他方、イデオロギー宣伝の面で活躍した例外的な女性として、マーシー・オーティス・ウォレンのような例もあった。彼女は「代表なき課税は暴政なり」という独立=革命全体のスローガンを打ち出したジェームズ・オーティスの妹であったが、自身も詩や戯曲を通じて英国当局の横暴を批判する活動を展開した。  
 彼女は「建国の父」の多くと個人的な面識があり、思想的な影響も与えており、独立戦争を終結させたパリ条約の直前に死去した兄とともに、思想的な面では「建国の父」に対する重要なインフルエンサーとして銘記されるべき人物である。

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