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犯則と処遇(連載第49回)

2019-05-25 | 犯則と処遇

42 社会病理分析について

 犯則行為者に対して、将来の改善と更生へ向けた処遇を課することを旨とする「犯則→処遇」の体系においては、社会も無責任ではあり得ないことは以前の回でも述べた。
 すなわち、個々の犯則行為は何らかの社会的諸関係の歪みを症候的に映し出しているという意味で、犯則行為とは比喩的な意味で社会体の疾患症状であり、社会は犯則行為に温床を提供し、犯則行為者を生み出したことに対して責任を負うのであった。

 このように、犯則行為を社会病理として把握する視点によるならば、個々の犯則事件の処理として単に犯行者に処遇を課するだけでは足りず、同種事犯の再発防止のためにも、犯則行為の諸要因を現実に剔出し、分析することが要求される。
 こうした観点に立った個々の犯則事案の分析を「社会病理分析」と呼ぶ。「犯則→処遇」体系では、社会を免責することは許されず、個々の犯則事件において犯則行為の要因となった社会病理を抉り出すためにも、社会病理分析が司法的プロセスの一環として正式に組み込まれることになる。

 具体的には、矯正処遇委員会の審査または少年審判が終了した後のプロセスとして予定される。ただし、全事件について社会病理分析に付する必要はなく、保護観察にとどまる軽微な事件では特に必要性が認められない限り、省略してよい。それ以外の事件は、必要的に社会病理分析に付せられる。  

 分析に当たるのは、社会病理学の専門的な知見を有する「社会病理分析監」である。社会病理分析監は固有の事務所を構え、検視監と同様に準司法職の一種であり、他の機関からも独立して職務に当たる。従って、単なる補助的な鑑定人ではない。なお、社会病理分析監の指揮下で実務に当たるのは、社会病理分析監補である。
 社会病理分析監は、矯正処遇委員会または少年審判所から送致された事件について、所定の分析を加えた後、正式の分析報告書を作成し、公表しなければならない。

 また社会病理分析監は、法的な制度や施策の問題点や欠陥が犯則事件の要因の一つとなったと結論づけた場合は、関係機関に対して、文書で正式に提報し、所要の対応措置を勧告することができる。
 この勧告に法的な拘束力はないが、一つの公的勧告であるからには、該当機関はこれを無視放置することは許されず、その内容について検討する義務を負う。

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