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犯則と処遇(連載第24回)

2019-01-17 | 犯則と処遇

19 薬物事犯

 薬物犯罪は物質依存症と密接に関わり、精神保健行政・精神医療とも交錯するため、これを刑罰に“依存”してコントロールしようとすることに限界があることは明白である。その点で、伝統的な「犯罪→刑罰」体系が、薬物事犯において最もその限界をさらしていることは必然である。

 一般に、薬物の規制の要否やその方法は、薬学・医学の最新水準に照らして行なう必要がある。従って、薬学的・医学的に見て明白な有害性―とりわけ不法所持を犯則行為として取り締まるうえでは、薬理作用による他者加害の高度な危険性―が立証されない薬物に関して、単純所持や自己使用を犯則行為として取り締まることは無意味である。

 このことは、当該薬物を嗜好品として全面的に自由化することを意味しない。例えば、流通方法や使用条件を規制するなど薬事行政上の規制や取締りがなお必要な場合はあるからである。
 一方、薬学的・医学的に明白な有害性が認められる薬物にあっても、その自己使用自体は薬物依存症という一つの精神疾患の症候であるから、犯則行為としての取締りよりも、精神保健福祉上の保護的・治療的な対応が不可欠である。

 もっとも、自発的に医療機関を受診する依存症者は少なく、規制薬物の所持容疑で摘発されて依存症も判明することが多い。そうした点では、規制薬物の単純所持は一つの取っ掛かりとして犯則行為とするが、その処遇は対物的処分としての没収で十分である。
 そのうえで、所持者の薬物常用が判明した場合は、捜査機関から所管行政機関に通報し、行政機関が対象者に指定医療機関等での治療命令を発するようにする。この命令に反して治療を受けようとしない者に対しては、後述する人身保護監の発する令状に基づき指定医療機関等へ強制収容することも可能とする。

 他方、有害な規制薬物の密輸・密売のような営利的な犯則行為は、しばしば組織的に実行されるところでもあり、薬物事犯取締りの中核的な対象を成す。
 組織的薬物事犯に対する処遇は、組織犯対策そのものと重なる部分もあるが、組織のメンバーのように反社会性向が類型的に高く、第二種矯正処遇相当の犯行者が少なくない一方で、報酬欲しさからの一過性の売人や運び屋などに対しては、保護観察が相当であろう。
 とはいえ、貨幣経済が廃される共産主義社会では、規制薬物の取引に伴う金銭的利益という最大の旨味もほぼ消失するため、そもそも規制薬物の取引自体が停止することにより、結果として、密輸・密売組織は解散し、薬物依存問題も解消される可能性は高い。

 如上の規制薬物の所持をはじめとする犯則行為類型については、法定主義を徹底するため、特別法ではなく、一般法上に基本的な規定を置くべきである。
 そのうえで、一般法上では取り締まり対象となる規制薬物の種類を個別に列挙する必要はなく、規制薬物のリストは特別法の定めに委ねてよいが、事前告知機能を十分に果たさせるため、個別の規制薬物ごとに法律を定めるのでなく、例えば「規制薬物取締法」といった統合的な法律に一本化して規制薬物のリストを一覧的に明示すべきである。

 繰り返しになるが、そのリストは薬学・医学の最新水準に照らして常に検証に付されなければならない。さしあたり大麻がリストから外れる可能性はあるが、反対論も強い。ここで大麻をめぐる高度に科学的な論争に決着をつけることはできないが、重要なことはそうした議論そのものをタブーとして凍結してしまわないことである。

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