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犯則と処遇(連載第27回)

2019-01-24 | 犯則と処遇

22 汚職について

 汚職とは、古典的な理解によると、公務員の賄賂犯罪のことであったが、今日的なより高い綱紀に従うなら、より広く公共的な職務を持つ者による地位を利用した利得行為全般―賄賂はその代表例の一つにすぎない―を包括する犯則行為と考える必要がある。

 このような考え方に立つと、汚職に関して本質的な官民差は認められず、いわゆるみなし公務員に限らず、法人企業・団体の役員や法曹・医師などの公共的な職務に従事する有資格者に至るまで、統一的に汚職の主体とされるべきことになる。
 従って、例えば企業の役員が賄賂を受け取れば、公務員と同様に汚職が成立するし、賄賂を供与した側もその共犯に問われるのである。一方では、公務員が監督する事業者から金品を受け取ったり、接待のようなサービス提供を受けたりした場合、賄賂性がなくとも汚職が成立することになる。

 ところで、汚職で賄賂として供されるのは、圧倒的に貨幣である。貨幣経済は汚職を助長する最大の構造要因である。従って、汚職の根本的な撲滅のためには、貨幣経済の廃止が最も端的である点、財産犯の場合と同様である。
 もっとも、賄賂として高価値物品や飲食、さらには性的サービスのような無形的な利益供与がなされることもままあることから、貨幣経済の廃止が汚職の撲滅に直結するわけではなく、貨幣経済が廃止されても汚職対策はなお必要である。

 汚職は、窃盗や殺人などの一般的な犯則行為とは性質を異にし、その本質は公共的な職務に内在する公正性保持の倫理コードに対する背反である。
 従って、その処遇としても矯正処遇に付するほどの必要性は乏しく、むしろ公職・役職からの一定期間または恒久的な追放処分のほうが事理に適っている。それに加えて、利得の没収または加重的な追徴を必要的に併課することで、汚職が割に合わないことを銘記させる効果が上がるであろう。

 このような汚職の特性からすると、その対策としても一般的な捜査機関に依存した取締りより、護民司法としての護民監制度を通じた汚職防止策のほうが効果的である。
 護民監は捜査機関ではなく、広く公的権力・職権の行使を監督し、民権を擁護する観点からの監察的司法機関であり、その任務は内部通報や外部からの情報提供を受けて問題事案を調査し、是正勧告その他の決定を発することにある。
 そのために必要と認めるときは、護民監は令状に基づいて関係者を召喚し、関係証拠物件の提出を求める権限を持つ。それと同時に、汚職防止のための法制や個別的な対策について研究調査し、勧告することも重要な任務である。

 なお、上述の公職追放や没収等の処分に関しては、護民監が直担する方法が最も簡便であろうが、より中立性を確保するためには、公務員等汚職弾劾審判所のような独立した常設審判機関を設置して対応するほうが、より厳正である。護民監は個別事案の調査を終えた後、汚職の事実ありと判断した者を弾劾審判所に告発し、審判を求める。
 
 ただし、政治職公務員の場合は、一般の公務員等とは区別して、代議機関内に特別弾劾法廷を設置して審理することが望ましいであろう。
 いずれにせよ、こうした法的な審判と行政的な処分とが組み合わさった複合的な司法手続きは、「犯則→処遇」体系における特有の制度であるので、これらについては、後に改めて論じることにする。

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