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スウェーデン憲法読解(連載第20回)

2015-03-12 | 〆スウェーデン憲法読解

第九章 財政権

 法令制定に関する詳細規定がまとめられていた前章に続き、本章では財政に関する詳細規定がまとめられている。租税を財源に高度な社会サービスを提供してきたスウェーデンでは財政権は立法権と並び、特に重要な議会の権限である。

国家歳入及び歳出に関する議決

第一条

議会は、国税及び国の公課並びに国家予算について議決する。

 財政民主主義の原則規定である。以下、第一一条までは、この原則に基づく見出し付きの極めて簡潔明快で実際的な規定が続くので、個別的な注解は割愛する。

予算案

第二条

政府は、予算案を議会に提出する。

予算に関する議決

第三条

1 議会は、来年度の予算又は特別な理由がある場合には他の予算期の予算について議決する。

2 議会は、予算期とは別の期間のために特別の歳出が行われるべきことを議決することができる。

3 議会は、歳出に関する議決とは別の方法により、国家歳入が特定の目的のために利用されることができることを決定することができる。

第四条

同一予算期において、議会は、新しい国家歳入の見積もり及び新しい歳出又は変更された歳出について議決することができる。

第五条

1 議会が予算期より前に当該予算について議決しなかった場合には、議会は、必要な範囲内で予算が議決されるまでの歳出について議決する。議会は、財務委員会の名の下に、当該議決を行うことを委任することができる。

2 議会が第一項に規定する議決を何らかの目的のため行わなかった場合には、歳出が議決されるまで、議会の別の議決による修正とともに、直近の予算が適用される。

指針の議決

第六条

議会は、次期の予算期以降に向けて、国家の活動に関する指針について議決することができる。

歳出及び歳入の利用

第七条

歳出及び歳入は、議会の決定とは別の方法で利用してはならない。

国家資産及び国家債務

第八条

1 議会所属機関が特に規定していない限りにおいて、又は法律により特定の行政のために留保されていなかった限りにおいて、政府は、国家資産を管理し、処分する。

2 政府は、議会が認めた場合を除き、債務を引き受け、又は他の国家の財政上の債務を負ってはならない。

第九条

議会は、国家資産の管理及び処分のための原則について議決する。さらに、議会は、何らかの種類の措置が議会の承認なしに講じられてはならないことを議決することができる。

国家年次報告

第一〇条

政府は、予算期の終了後に、議会に国家年次報告を提出する。

予算に関する付加的規定

第一一条

予算に関する議会及び政府の権限及び責任に関する付加的規定は、議会法及び特別法で定める。

為替政策

第一二条

政府は、全般的な為替政策の問題について責任を有する。為替政策に関する他の規定は、法律で定める。

国立銀行

第一三条

1 国立銀行は、国の中央銀行であり、議会所属機関である。国立銀行は、通貨政策に責任を有する。いかなる官庁も、国立銀行が通貨政策に関する問題についてどのように決定すべきかを定めてはならない。

2 国立銀行は、議会が選挙する一一人の委員により構成される。国立銀行は、委員により選出される理事会により指揮される。

3 議会は、委員及び理事会の構成員に責任がないことが認められるべきか否かを審査する。議会が委員に責任がないことを認めなかった場合には、当該委員は、それによりその職務を免ぜられなければならない。委員は、理事会の構成員が職務遂行可能な要求を満たすことがもはやできなくなった場合又は重大な過失責任がある場合にのみ、理事会からその構成員を免ずることができる。

4 委員の選挙並びに国立銀行の運営及び活動についての規定は、法律で定める。

第一四条

国立銀行のみが紙幣及び硬貨を発行する権利を有する。その他通貨制度及び支払制度に関する規定は、法律で定める。

 スウェーデン国立銀行(中央銀行)は議会所属機関という位置づけを持ち、議会の監督下に置かれる。財政にも影響する通貨政策に責任を持つ中央銀行に対しても議会の統制を及ぼす趣旨であり、拡大された財政民主主義とも言える。


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