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スウェーデン憲法読解(連載第27回)

2015-04-24 | 〆スウェーデン憲法読解

第一五章 戦争及び戦争危機

 スウェーデン憲法最終章は、戦時法制に関する規定である。日本の改憲論者が垂涎し、護憲論者は昏倒しそうなきわどい内容の規定が並んでいる。しかし、誤解してならないのは、スウェーデンは「武装中立」が歴史的な国是であること、また戦時法制を法律に白紙委任するのではなく、憲法に詳細な規定を置くことで、戦時にも憲法統制を維持しようとしていることである。憲法によって国家権力を拘束するという立憲主義の原理は戦時にも貫徹されているのである。

議会の招集

第一条

国が戦争状態又は戦争危機に陥った場合には、政府又は議長は、集会するために議会を招集しなければならない。招集を行った者は、ストックホルム以外の場所で集会すべきことを決定することができる。

 本章後半の第一四条にあるように、戦争状態の宣言は原則として議会の承認に基づくため、戦争状態又は戦争危機の際には(以下、両者併せて「戦時」という場合がある)、まず議会が招集される。ただし、招集場所は首都以外でもよいとし、柔軟な移動議会制を採る。戦時法制の章の筆頭に、軍隊の規定ではなく、議会招集の規定が置かれていることは、スウェーデンの議会中心主義を象徴していると言える。

戦争委員会

第二条

1 国が戦争状態又は戦争危機にある場合で、状況により必要があるときは、議会内部から選出された戦争委員会が議会を代行しなければならない。

2 国が戦争状態にある場合、戦争委員会が議会を代行する旨の決定は、議会法の細則に基づき、外交評議会の委員により行われる。可能な場合には、当該決定が行われる前に、総理大臣との協議が行うべきものとする。戦争状態により評議会の委員が集会することに支障がある場合には、決定は政府により行われる。国が戦争危機にある場合には、第一文の決定は、総理大臣を加えた外交評議会の委員により行われる。当該決定には、総理大臣及び評議会の六名の委員が賛成票を投じることを要する。

3 戦争委員会及び政府は、合意して、又は個別に、議会がその権限を回復すべき旨を決定することができる。当該決定は、状況が許す限り、速やかに行われなければならない。

4 戦争委員会の構成に関する規定は、議会法で定める。

 戦争委員会は、戦時における議会代行機関である。戦時には、議会政治を一時的に停止するという非常事態制度である。ここにも、スウェーデンの現実主義が表れている。
 ただし、戦争委員会は国家安全保障会議のような議会外機関ではなく、議会の内部選出機関であり、その設置は原則として政府の一存で決定できず、議会の外交統制機関である外交評議会の権限とされる限りで、議会主義にも忠実である。

第三条

1 戦争委員会が議会を代行している期間は、委員会は、議会の権限を行使する。ただし、第一一条第一項第一文、第二項又は第四項の決定を行うことはできない。

2 戦争委員会は、その活動形態を独自に決定する。

 戦争委員会は議会の代行機関ではあるが、本章後半の第一一条に規定される戦時議会選挙に関する権限は制限される。

政府の権限

第五条

1 国が戦争状態にあり、その結果として、議会又は戦争委員会のいずれもその任務を遂行できない場合には、政府は、国を防衛し、戦争を終結させるために必要な範囲内で、当該任務を遂行することができる。

2 政府は、第一項の規定により、基本法、議会法又は議会選挙法を制定し、改正し、又は廃止してはならない。

 議会も戦争委員会も任務を果たせないほどに激戦となっている場合は、一時的に政府に権力を集中することを認める最高レベル緊急事態の規定である。しかし、言わば戦時のどさくさに紛れて政府が憲法やそれに準じる議会関係法を改廃することを許さないのが、第二項である。

第六条

1 国が戦争状態若しくは戦争危機にある場合又は戦争状態若しくは戦争危機により引き起こされた非常事態が存在する場合には、通常であれば基本法に基づき法律で定める一定の問題について、政府は法律の授権に基づき、命令により、法令を制定することができる。防衛の準備の観点から必要である場合には、政府は、他の場合においても、法律により定められた徴用、徴発又はその種の他の処分が適用を開始し、又は終了すべき旨を法律の授権に基づき、命令で定めることができる。

2 前項の授権を含む法律においては、いかなる条件の下で当該授権を利用することができるか厳密に定めなければならない。当該授権により、基本法、議会法又は議会選挙法を制定し、改正し、又は廃止する権限が付与されることはない。

 戦時の緊急命令に関する規定である。第一項第二文は戦時動員令に関する定めである。いずれも、厳格な法律の授権に基づく委任命令でなければならず、政府の独断による独立命令は認められない。また、ここでも前条と同様、憲法やそれに準じる法律の改廃は許されない。

自由及び権利の制限

第七条

国が戦争状態又は差し迫った戦争危機にある場合には、第二章第二二条第一項の規定は適用されない。戦争委員会が議会を代行している場合も同様とする。

 戦時における人権制限の規定である。とはいえ、ここで規定されているのは人権制限法案に対する議会審議の保留期間の適用除外であり、戦時に人権そのものを広く制約できるという規定ではないことに留意が必要である。

政府以外の機関のための権限

第八条

国が戦争状態又は差し迫った戦争危機にある場合には、政府は、基本法に従い政府により遂行されるべき任務を他の機関が代行して遂行すべきことを、議会の授権に基づき、決定することができる。当該授権は、ある一定の問題に関する法律の施行のみが問題となっているのでない場合には、第五条又は第六条の規定に基づく権限にまで及んではならない。

 戦時における政府権限の他機関への委譲に関する規定である。だたし、政府による議会・戦争委員会代行権限や緊急命令の権限を委譲することは、特定法律の施行問題の場合を除き、認められない。


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