第八章 法律及びその他の法令
議会及び政府に関する章に続く本章では、議会及び政府が担う基本法(憲法)を含む諸法令の制定権限や制定・改廃手続きに関する詳細な規定がまとめられている。法治国家原則の具体化とも言える。
【第一条】
1 法令は、議会により法律を通じて、政府により命令を通じて制定される。法令は、議会又は政府の授権の後、政府以外の機関又は自治体により制定することもできる。
2 法令の制定に関する授権は、常に法律又は命令によらなければならない。
議会の法律、政府の命令を軸とし、法令の委任も許容される体系は、日本ともほぼ同じである。ただし、自治体による法令制定は常に議会又は政府の授権によらなければならない点では、法律の範囲内で自治体独自の条例制定を認める日本国憲法よりも自治体の法令制定権が制約されている。
法律を通じて制定される法令
【第二条】
1 次の各号に掲げる事項は、法律により制定されなければならない。
一 個人の私的地位及びその相互間の私的及び経済的な関係
二 個人の義務に関連し、又は他の点において、個人の私的若しくは経済的状況を侵害するような個人と公的機関との関係
三 自治体の組織及び活動形式の原則、自治体税の原則並びに他の自治体の権限及びその責任
四 宗教的共同体及び宗教的共同体としてのスウェーデン教会のための原則
五 全国的規模の諮問的国民投票及び基本法問題に関する国民投票の際の手続
六 欧州議会選挙
2 この統治法及びその他の基本法の他の規定に基づき、ある内容の法令を法律を通じて制定すべきこともある。
本条第一項は、全国的に統一された内容を原則として必ず議会の法律で定めておくべき六つの事項を列挙している。第二項は、その他個別に規定される法律事項に関する注意規定である。本条の規定により、議会の立法権に留保された権限内容が明確になる。
政府により制定される法令
【第三条】
1 議会は、第二条第一項第二号及び第三号に規定する法令の制定を政府に授権することができる。ただし、当該法令は、次の各号に掲げる事項を規定してはならない。
一 罰金以外の犯罪に対する法律効果
二 物品の輸入関税を除く税
三 破産又は強制執行
2 議会は、第一項に規定する授権を含む法律において、当該授権に基づき政府により制定される法令の違反について、罰金以外の犯罪に対する法律効果も制定することができる。
本条から第六条までは法律による委任命令に関する規定である。ここでも委任できる事項が明確に規定されている。本条は最も基本的な授権規定であるが、政府の委任命令に罰金刑以外の刑罰を規定することは禁止されている。
【第四条】
議会は、義務の履行の際の猶予に関して、第二条第一号から第三号までに規定する法令の制定を政府に授権することができる。
【第五条】
議会は、次の各号に掲げる事項について規定する法令の制定を政府に授権することができる。
一 当該法律を施行すべき時期
二 当該法律の一部を施行すべき時期又は失効させるべき時期
三 他の国又は国際機関との関係における当該法律の適用
【第六条】
この統治法に基づく授権により、政府が制定した法令は、議会が決定した場合には、審議のために議会に提出される。
委任命令であっても、議会の決定があれば、法律に準じて議会の審議にかける規定である。政府に丸投げせず、議会審議を重視する趣旨である。
【第七条】
1 政府は、第三条から第五条までの規定に加え、次の各号に掲げる法令を制定することができる。
一 法律の執行に関する命令
二 基本法に基づき、議会により制定すべきものとされていない法令
2 第一項に規定する法令は、議会又は議会所属機関について規定してはならない。政府は、第一項第二号の規定により自治体の税について規定する法令を制定してはならない。
本条は政府が授権によらず独自に制定できる命令の範囲を定める規定である。この点、第一項第一号の執行命令はともかくとして、第二号で独立命令がかなり広範に認められているのは、スウェーデン憲法の実際的な特徴を示している。
【第八条】
政府がある一定の問題について法令を制定することができることは、議会が同一の問題について法令を制定することを妨げない。
政府の排他的立法権を否定する注意規定である。法令制定の中心があくまでも議会に存することを確認する趣旨である。
議会及び政府以外の機関により制定される法令
【第九条】
議会は、次の各号に掲げる事項について、第二条第一項第二号に規定する法令の制定を自治体に授権することができる。
一 公課
二 自治体内の交通状況の規制を目的とした税
本条は自治体への授権法に関する規定である。第一条に関連して述べたように、スウェーデンでは自治体固有の条例制定権は認められていない。
【第一〇条】
議会は、この章の規定に基づき、ある一定の問題についての法令の制定を政府に授権した場合には、政府が行政機関又は自治体に当該問題についての法令の制定を授権することを併せて認めることができる。
本条は、政府への委任命令が認められる場合における政府から行政機関又は自治体への再委任を認める規定である。
【第一一条】
政府は、政府の下の機関又は議会所属機関のうちのいずれかに第七条の規定に基づく法令の制定を授権することができる。ただし、議会所属機関への授権は、議会又は議会所属機関の内部事項を定めてはならない。
政府の執行命令や独立命令の制定を政府機関や議会所属機関に委任する政府からの委任立法に関する規定である。ただし、議会やその所属機関の内部事項は議会の権限に留保される。
【第一二条】
第一〇条又は第一一条の規定に基づく授権により政府の下の機関により制定された法令については、政府が決定した場合には、審査のために政府に提出される。
委任命令が議会の決定により議会審議に付されるのと同様に、再委任命令や政府委任命令についても、政府の決定により政府の審査に付される。
【第一三条】
1 議会は、法律により国立銀行に対し、第九章に規定する責任分野内で、かつ、安定的で効果的な支払制度を促進する義務に関する問題について、法令の制定を委任することができる。
2 議会は、議会又は議会所属機関の内部事項について定める法令の制定を議会所属機関に授権することができる。
本条第一項は、一定の範囲で国立銀行にも委任命令の制定を認める規定である。これにより、中央銀行の地位にあるスウェーデン国立銀行は限定的な立法権を有する。
第二項は、第一一条但し書きで議会の権限に留保された議会や議会所属機関の内部事項について、議会所属機関への委任命令を認めるものである。