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スウェーデン憲法読解(連載第13回)

2015-01-31 | 〆スウェーデン憲法読解

第四章 議会の活動(続き)

議員の地位

第一〇条

議員及び代理議員は、いかなる職務上の義務又は他の類似の責務にも妨げられることなく、議員としての職務を遂行することができる。

 本条から第一三条までは、議員の地位に関する原則をまとめているが、筆頭の本条はブルジョワ議会制度に見られる自由委任の原則、つまり議員(及び代理議員)の職務活動は外部からの拘束には服しないことを定めた規定である。

第一一条

1 議員又は代理議員は、議会が承認しない限り、その職務を放棄してはならない。

2 理由がある場合には、選挙審査委員会は、自発的に議員又は代理議員が第三章第四条第二項の規定に従い、資格を有するか否かについて審査しなければならない。資格を有しないと宣言された者は、それにより、その職務を免ぜられる。

3 議員又は代理議員は、その他の場合には、当該議員が犯罪により明らかに職務にふさわしくないことが示された場合にのみ、職務を免ぜられる。この決定は、裁判所により行われる。

 議員は職務継続の義務を負う。そのような議員の地位を万全にするため、議員がその意に反して地位を奪われるのは、選挙審査委員会が議員の資格を否認した場合と裁判所が犯罪により職務不適格と決定した場合に限られる。
 日本の国会のように、議会自身の議決で議員を除名することはできない。その点で、議会の自律権には制約がある。

第一二条

1 議会が投票者の六分の五以上の賛成を得た議決により承認した場合を除き、議員としての職務を遂行する者又は遂行した者に対して、当該議員の職務の遂行の際の言論又は行為を理由として訴えを起こしてはならない。こうした承認がない限り、職務の遂行の際の言論又は行為を理由として、前記の者の自由は、剥奪してはならず、国内の自由な移動を妨げてはならない。

2 その他の場合で議員につき犯罪の疑いがあるときで、かつ、当該議員が当該犯罪を認めているとき若しくは現行犯で逮捕されたとき又は二年の禁錮より軽い刑が規定されていない犯罪であるときにのみ、拘束、逮捕又は勾留に関する法律を適用しなければならない。

 第一項は、ブルジョワ議会制度に共通する免責特権の規定である。ただし、議会の特別多数決による例外の余地を残すなど、特権を制約している。
 同様に、第二項の不逮捕特権についても、日本の国会のように、議会の許諾を要件とはしない一方で、自白している場合、現行犯の場合、一定の重罪の場合には例外を認めるという制約を設け、実際的なバランスを取っている。

第一三条

1 ある議員が議長である期間又は政府に所属している期間、当該議員の議員としての職務は、代理議員によって遂行される。議会は、議員が欠員である場合に代理議員が当該議員の地位に就かなければならない旨を定めることができる。

2 第一〇条及び第一二条第一項の規定は、議長及びその職務についても、適用される。

3 議員としての職務を遂行する代理議員については、議員に関する規定が適用される。

 本条は主として代理議員の地位を定めている。代理議員は議員とほぼ同等の地位を持つ。これにより、議員が議長職や大臣職にあるときに事実上欠員が生じないようにし、また個別的な欠員にも対応できるようにしている。議員の育児休暇などを取りやすくするとともに、議会を可能な限り定数どおり維持し、機能不全に陥らないようにするための仕組みである。

付加的規定

第一四条

議会の活動に関する付加的規定は、議会法で定める。

 憲法に直接規定されていない議会の活動の詳細は、下位法である議会法に委ねられる。

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スウェーデン憲法読解(連載第12回)

2015-01-30 | 〆スウェーデン憲法読解

第四章 議会の活動

 本章は、国会における議事手続きの原則をまとめている。必要最小限の事項が憲法上コンパクトにまとめられ、細目は下位法(議会法)に委ねられている。

常会

第一条

議会は、毎年、常会のために集会する。常会は、議会又は議長が安全又は平穏の観点から、別に定める場合を除き、ストックホルムで開かれる。

 常会の規定であるが、開催場所を原則として首都ストックホルムと指定しつつ、情勢により首都以外での開催も許容する点に、実際的なスウェーデンの特色が滲む。

議長

第二条

議会は、その内部で選挙期ごとに、議長並びに第一、第二及び第三副議長を選挙する。

 正副議長の選任に関する規定であるが、副議長に順位をつけ、三人まで選出することが憲法上義務づけられる点に特色がある。

委員会

第三条

議会は、その内部で、議会法の規定に従い、憲法委員会及び財務委員会を含む委員会を選挙する。

 委員会制度の規定であるが、憲法委員会と財務委員会については、憲法上設置が義務づけられている。

発議権

第四条

政府及び各議員は、議会法の規定に従い、統治法が別に定める場合を除き、議会の審議対象となり得るすべての問題について発議を行うことができる。

 政府(内閣)と議員の双方に対等な発議権が憲法上認められている。

議案の準備

第五条

政府又は議員により提案された議案は、統治法が別に定める場合を除き、議決される前に委員会により審査される。

議案の議決

第六条

1 議案が本会議において決定されなければならない場合には、各議員及び各大臣は、議会法に定める細則に従い、意見を述べることができる。

2 議会法においては、欠格条項に関する規定も定められる。

第七条

本会議における表決に際しては、統治法が別に定める場合又は議会手続に関する問題については議会法の本則が別に定める場合を除き、過半数の投票者が合意した意見が議会の議決としての効力を有する。可否同数の際の手続に関する規定は、議会法で定める。

 第五条から第七条までは、議案の審議表決に関する一連の規定である。委員会中心主義のため、委員会審議前置の原則が採られる。議決は、原則として単純多数決による。

調査及び評価

第八条

各委員会は、当該委員会の所管事項内で議会の議決を調査し、評価する。

 委員会は、事後的に議会の議決を調査・評価するフォローアップの権限も持つ。

議事の公開

第九条

 本会議における会議は、公開である。

2 ただし、会議は、議会法の規定に従い、秘密とすることができる。

 本会議公開の原則である。例外として秘密会とすることができるが、その要件について、日本国憲法のような定め(出席議員の三分の二以上の議決)は憲法上に見られず、議会法に委ねられている。

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スウェーデン憲法読解(連載第11回)

2015-01-17 | 〆スウェーデン憲法読解

第三章 議会(続き)

選挙区

第五条

議会の選挙のために国は、選挙区に分割される

 本章第一条にあったように、スウェーデン選挙制度は政党ベースの比例代表制を基本とするが、選挙区制も併用する。

選挙区間の議席配分

第六条

1 議会の議席のうち、三一〇は、固定選挙区議席であり、三九は、調整議席である。

2 固定選挙区議席は、各々の選挙区における投票権者の人数及び全国における投票権者の人数の比率に基づき、配分される。配分は、四年ごとに決定される。

 議席は通常の固定選挙区議席と、各政党の得票数に応じた議席配分となるように事後的に調整される調整議席とから成る。固定選挙区の議席配分は四年ごと定期的に見直し、定数不均衡を防止している。

政党間の議席配分

第七条

1 議席は、政党の間で配分される。

2 全国において四パーセント以上の票を獲得した政党のみが議席配分に参加することができる。ただし、それより少ない得票率であっても、ある選挙区において、一二パーセント以上の票を獲得した政党は、固定選挙区議席の配分に参加することができる。

 比例代表制を基本とするスウェーデンでは、議席は一発投票で決まるのではなく、政党間で配分されるものである。
 泡沫政党の乱立排除のため、原則4パーセント以上の得票率が要求されるが、一つの選挙区で顕著な得票をした政党には議席配分を認めるというように、小政党への配慮が行き届いている。

第八条

1 固定選挙区議席は、すべての選挙区につき、当該選挙区における選挙結果に基づき、政党間に比例的に配分される。

2 調整議席は、四パーセント未満の票しか得られなかった政党に配分された固定選挙区議席を例外として、議会における議席の配分が、その配分に参加する政党の全国の得票数に対して比例するように、政党間で配分される。ある政党が固定選挙区議席の配分の際に、当該政党のための議会の比例代表より多くの議席を獲得した場合は、調整議席の配分に際し、当該政党及び当該政党により獲得された固定選挙区議席は除外される。調整議席が政党の間で配分された後、当該議席は選挙区に還元される。

3 政党間の議席配分の際には、最初の序数を一・四に調整した奇数法が適用される。

 本条では比例代表制の具体的な内容が定められている。具体的な選挙方法をあげて法律に一任している日本国憲法とは大きく異なり、憲法上明示することで、恣意的な選挙制度「改革」がなされないように配慮されている。
 第二項第二文で、獲得議席数の多い大政党は議席配分であえて不利な扱いをすることで、巨大与党化を防止しようとするのも、多党制を徹底するためである。第三項で、日本などで採用される大政党に有利なドント式(得票数を1・2・3の整数で単純に割っていく)でなく、いわゆる修正サン・ラグ式を採用するのも、小政党に有利な配慮である。 

第九条

ある政党が獲得した各々の議席につき、一人の議員及びその議員の代理議員が選出される

 代理議員制度が存在するため、このような結果となる。

選挙期

第一〇条

1 各々の選挙は、新たに選挙された議会が集会したときから、その次の選挙で選出された議会が集会する時まで効力を有する。

2 新たに選挙された議会は、選挙日から一五日以内に集会するが、ただし、選挙結果が公表されてから四日目より早く集会することはない。

 選挙日と選挙日の間でなく、新旧最初の集会の間の期間を選挙期とする審議重視の規定である。

特別選挙

第一一条

1 政府は、通常選挙の間に特別の議会の選挙を決定することができる。特別選挙は、当該決定から三か月以内に実施しなければならない。

2 新たに選挙された議会の最初の集会から三か月を経過していない場合は、政府は、議会の選挙後に特別選挙に関する決定をしてはならない。政府は、政府の構成員が総辞職した後、新たな政府が発足するまでの間、その任務が中断している場もまた、特別選挙に関する決定をしてはならない。

3 一定の場合における特別選挙については、第六章第五条において定める。

 日本の衆議院解散に相当する規定である。特別選挙の理由については第三項が指示する第六章第五条の場合(新総理大臣が決まらない場合)を除き、特に制限はないが、第二項で新たな選挙期が開始してから三か月間と、内閣総辞職から新内閣成立までの間は特別選挙を実施できないという期間的制限がある。

選挙審査委員会

第一二条

1 議会の選挙については、議会により選出された選挙審査委員会に異議を申し立てることができる。当該委員会の決定については、異議を申し立てることはできない。

2 議員に選挙された者は、選挙について異議申し立てがなされた場合であっても、その職務を遂行する。選挙に変更があった場合には、変更が公表されてから速やかに、新しい議員がその議席を獲得する。同様のことが代理議員にも適用される。

3 選挙審査委員会は、正規の裁判官である者又は正規の裁判官であった者で、議会に所属していない者を委員長とし、その他六名の委員で構成される。当該委員は、各々の通常選挙後、その選挙が有効とされ次第、選出され、新たな当該委員会の選挙が実施されるまで任期を有する。委員長は、別に選挙される。

 選挙をめぐる争訟を通常裁判所ではなく、議会が選出する常設機関である選挙審査委員会に委ねる規定である。議会の自律権を徹底し、選挙争訟では司法の介入も排除する趣旨である。

付加的規定

第一三条

第一条第三項及び第三条から第一二条までに規定する事項及び議員の代理議員の選任に関する付加的規定は、議会法又はその他の法律で定める。

 選挙に関する細目的な規定を法律に委任する趣旨である。しかし自由、秘密及び直接選挙という選挙制度の根本原則と比例代表制、さらに定数349、議員歳費請求権については法律の委任を許さない憲法事項とされている。

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スウェーデン憲法読解(連載第10回)

2015-01-16 | 〆スウェーデン憲法読解

第三章 議会

 本章から先は、統治機構に関する規定となる。最初に立法府=議会に関する規定が来るのは通例どおりである。なお、スウェーデン憲法でいう議会(riksdagen)とは国の議会、すなわち日本国憲法上の国会に相当する機関を指すが、本連載では参照した国会図書館資料訳に従い、「議会」と訳出してある。

議会の形成及び構成

第一条

1 議会は、自由、秘密及び直接選挙により、選出される。

2 当該選挙に際しては、選挙人が特定の人物に投票する可能性を伴いつつ、政党に基づいて投票が実施される。

3 選挙において特定の名称の下に活動する選挙人のすべての結社又は集団が政党とみなされる。

 議会制度の基本事項が簡潔にまとめられている。注目されるのは、第二項で基本的に政党ベースの選挙が指示されていることである。すなわち小政党にもチャンスが開かれる政党名簿比例代表制を基本とするが、特定候補者への投票可能性を確保するため、選挙区制も併用される。
 第三項で、選挙のための政党の要件が広く取られているのも、小政党に対する配慮であり、スウェーデン憲法は多党制を徹底していることが見て取れる。

第二条

議会は、三四九名の議員の一院により構成される。議員には、歳費が支払われなければならない。

 スウェーデン議会は一院制で、かつ憲法上議員定数は349と予め定められている。スウェーデンの人口1000万人弱で議員定数300超というのは、人口1億人余りの日本に引き直すと、3000人超の大規模な定数となる。議員歳費削減のためとして、議会を縮小するいっそうの定数削減論が唱えられる日本の政治状況は、スウェーデンでは理解されないであろう。

通常選挙

第三条

議会の通常選挙は、四年ごとに実施される。

 つまり国会議員の任期は四年ということを意味するが、任期という形でなく、選挙の隔年という形で定めている。

投票権及び投票資格

第四条

1 一八歳に達しており、かつ、国内に居住しているか又は何度か居住していたすべてのスウェーデン市民は、議会の選挙の選挙権を有する。

2 投票のための要件を満たしている者のみが、議員又は代理議員となることができる。

3 投票権を有するか否かの問題は、当該選挙の前に調製される選挙人名簿を基に決定される。

 スウェーデンでは憲法上18歳から選挙権が認められているが、第二項で被選挙権と選挙権の要件をそろえていることから、被選挙年齢も18歳以上(スウェーデンの成人年齢は18歳)であることになる。つまりスウェーデンでは最低18歳で国会議員になれ、その実例もある。
 代理議員制度は文字どおり議員の代理人であって、議員が休暇を取った場合などに議員活動を代理する。この制度により、女性議員が産休などを取りやすいため、女性議員の増加に寄与しているとされる。

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スウェーデン憲法読解(連載第9回)

2015-01-04 | 〆スウェーデン憲法読解

第二章 基本的自由及び権利(続き)

第二三条

1 表現の自由及び情報の自由は、国の安全、物資の全国的な供給、公共の秩序及び安全、個人の名誉、私生活の不可侵又は犯罪の予防及び訴追の観点から、制限することができる。さらに、商取引活動における表現の自由を制限することができる。その他、表現の自由及び情報の自由の制限は、特別かつ重要な理由により制限する場合にのみ、実施することができる。

2 第一項の規定に基づいていかなる制限を実施することができるかについての判断に際して、政治的、宗教的、職業的、学術的及び文化的事項に関して、表現の自由及び情報の自由を最大限保障することの重要性について注意を払わなければならない。

3 表現の内容にかかわらず、表現を伝播し、受け取る方法を詳細に規制する規定を定めることは、表現の自由及び情報の自由の制限とはみなされない。

 本条はスウェーデン憲法が最も重視する表現の自由及び情報の自由の制限について、特に取り出し、その制限の範囲を限定する規定である。第二〇条及び二一条の一般的な人権制限にさらに縛りをかける周到な規定である。
 ただ、第三項で表現の伝播、受領の方法を規制することを表現の自由及び情報の自由への制限とみなさないとするのは、そうした手段的な規制を通じて表現・情報発信行為を制約できる可能性を考えると、やや危惧も認められる。

第二四条

1 集会の自由及び示威運動の自由は、集会若しくは示威運動の際の秩序及び安全又は交通の観点から制限することができる。その他、これらの自由は、国の安全又は伝染病の予防のためにのみ制限することができる。

2 結社の自由は、その活動が軍事的なもの若しくは類似の性格を有するものである結社又は民族的出自、皮膚の色若しくは他の類似の条件を理由とした民族集団の迫害を目的とする結社に関する場合には、これを制限することができる。

 本条第一項は、表現の自由の延長である集会・デモの自由について、前条と同様に特に取り出して、その制限に絞りをかける規定である。
 それに対して、第二項は結社の自由に関し、軍事的ないし準軍事的結社、人種・民族差別的な結社については、これを制限し、取り締まれるようにする規定である。テロや武装反乱の防止及びスウェーデン憲法が重視する反差別の観点からの結社規制である。
 なお、第二項によれば、武装革命を目的とするプロレタリア結社も規制することが可能となる。これは、スウェーデンがプロレタリア革命を否定する社民主義的な志向性を持つことの反映である。

第二五条

1 スウェーデン市民以外の者に対しては、国内において、法律により、次の各号に掲げる自由及び権利について、特別に制限することができる。

一 表現の自由、情報の自由、集会の自由、示威運動の自由、結社の自由及び宗教の自由(第一条第一項)

二 意見を明らかにすることを強制されることに対する保護(第二条第一文)

三 第四条及び第五条に規定するものとは別の場合における身体への侵害、身体検査、家宅捜索及び類似の侵入、内密の送付物及び通信への侵害並びに個人の私的事情の監視及び調査を含む侵害に対する保護(第六条)

四 自由の剥奪に対する保護(第八条第一文)

五 犯罪又は犯罪の疑いとは別の理由による自由の剥奪について裁判所の審理を受ける権利(第九条第二項及び第三項)

六 裁判所の審理の公開(第一一条第二項第二文)

七 著作家、芸術家及び写真家の自らの作品に対する権利(第一六条)

八 商取引を行う権利又は職業活動を遂行する権利(第一七条)

九 研究の自由(第一八条第二項)

一〇 意見を理由とする権利制限(第二一条第三文)

2 第一項に規定する特別な制限に関する規定については、第二二条第一項、第二項第一文及び第三項の規定を適用しなければならない。

 本条は外国人の人権に対する制限を定めているが、計10項目の人権に絞って制限の対象とし、その制限法の議会手続きは国民の人権制限の場合に準じる。
 とはいえ、表現の自由をはじめかなり広範囲な人権が制限されることになり、ここには「国民の家」という理念の下に福祉国家体制を維持してきたスウェーデンの国民優先政策が現れている。

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スウェーデン憲法読解(連載第8回)

2015-01-03 | 〆スウェーデン憲法読解

第二章 基本的自由及び権利(続き)

欧州人権条約

第一九条

法律又は他の法令は、人権及び基本的自由の保護のための欧州条約に基づくスウェーデンの義務に反する規定を設けてはならない。

 本条は、欧州人権条約の遵守を宣言する規定である。これは、次条以下に定める基本的人権の制限が欧州人権条約に反することのないようにする歯止め規定の意味もある。

自由及び権利の制限のための条件

第二〇条

1 次に掲げる自由及び権利は、第二一条から第二四条までの規定において認められた範囲内で、法律により制限することができる。

一 表現の自由、情報の自由、集会の自由、示威運動の自由及び結社の自由(第一条第一項第一号から第五項まで)

二 第四条及び第五条以外の身体的侵害に対する保護、身体検査、家宅捜索及び類似の侵入に対する保護、内密な送付物及び通信への侵害に対する保護並びに他の私的事情の監視及び調査を含む侵害に対する保護(第六条)

三 移動の自由(第八条)

四 裁判所の審理の公開(第一一条第二項第二文)

2 法律における許可の後、第一項に掲げる自由及び権利は、第八章第五条に掲げる場合[評者注:政令に委任される場合]及び公共の役務において、又は役務義務の遂行中に知り得たことを明らかにすることに対する禁止に関する他の法令により、制限することができる。同様の方法において、集会の自由及び示威運動の自由は、第二四条第一項第二文の規定に掲げる場合[評者注:国の安全・伝染病の予防]にも制限することができる。

 本条以下では、法律によって制限がかかる自由及び権利の種類とその根拠、限界、さらに議会手続きまでを総まとめしている。このような規定の仕方は、日本国憲法のように「公共の福祉」という包括的な文言で人権制限を課すやり方よりも、具体的で明確と言える。

第二一条

第二〇条の規定に基づく制限は、民主的社会において受け入れられる目的を満たしていることを理由としてのみ、実施することができる。当該制限は、制限するに至る目的に照らして必要である範囲を超えてはならず、民主的社会の一つとしての自由な意見形成に対する脅威となるほど長期間にわたって延長されてはならない。単に政治的、宗教的、文化的又は他の同様の意見を理由とする当該制限は、実施されてはならない。

 基本的自由の制限に対して、目的と手段の双方で、限界を設定し、かつ時間的にも時限法であることを要求している点で用意周到である。さらに、第二文では特定の意見を理由とする人権制限を禁止することで、スウェーデン民主主義の基礎とされる意見の自由を擁護している。

第二二条

1 第二〇条の規定に基づく法案は、議会により拒否されない限り、一〇名以上の議員の要求に基づき、当該法案に対する委員会による最初の意思表明が本会議に報告されたときから、一二か月以上未決としなければならない。ただし、投票者の六分の五以上が決定を承認した場合には、議会は、当該法案を直ちに採択することができる。

2 第一項の決定は、最長二年継続して効力を有する法律の法案については、適用されない。また、次の各号に掲げる事項のみを規定する法案についても適用されない。

一 公共の役務において、又は役務義務の遂行中に知り得たことで、その秘密を保持することが出版の自由に関する法律第二章第二条に掲げる利益[評者注:公文書アクセス権を制限する公益]に関して必要であるものを明らかにすることの禁止

二 家宅捜索又は類似の侵入

三 ある一定の行為の結果としての自由刑

3 憲法委員会は、ある一定の法案について第一項の規定が適用されるか否かについて議会を代表して審査する。

 本条は、基本的人権を制限する法律については、議会手続きにも制限を置き、発案者数に最低条件を課しつつ、拙速審議を避けるため、原則として本会議への報告から最低一年間の考慮期間を置くこととしている。ただし、これには第二項で所定の例外が定められており、スウェーデンの実際主義的な一面がここにも現れている。
 第三項により本条の制限をかけるべきかどうかを判断する憲法委員会とは、憲法問題を所管する議会常任委員会である。

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スウェーデン憲法読解(連載第7回)

2014-12-20 | 〆スウェーデン憲法読解

第二章 基本的自由及び権利(続き)

財産の保護及び公衆の立入権

第一五条

1 すべての人の財産は、緊急の一般の利益を満たすために必要とされる場合を除き、すべての人に、収用若しくは他の同様の引渡しにより公的機関又は個人に対してその財産を放棄することを強制すること又は公的機関が土地若しくは建築物の使用を制限することを受忍することを強制することができないことにより保障される。

2 収用又は他の同様の引渡しによりその財産を放棄することを強制される者は、損失に対して完全な補償を保障されなければならない。補償は、問題となる不動産の一部において土地を使用することが相当な範囲内で困難となるような方法又は不動産の当該部分の価値との関連で損害が著しくなるような方法で、公的機関により土地又は建築物の使用を制限される者に対しても保障されなければならない。当該補償は、法律に定める根拠に従い、決定されなければならない。

3 ただし、健康保護、環境保全又は安全を理由とする土地又は建築物の利用の制限に際しては、補償に対する権利についての法律の規定が適用される。

4 前記の規定にかかわらず、すべての人は、公衆の立入権に基づき、自然を享受する権利を有する。

 本条以下の三か条は、財産権をはじめとする経済的自由に関する規定である。筆頭の本条は財産権の保障に関する規定であるが、通常のブルジョワ憲法のように私有財産の保障を正面から宣言するのでなく、私有財産が公共の利益のために制限されることを前提に、補償の権利について定めている点に、社会民主主義的な憲法の特色が表れている。特に、第三項では健康保護や環境保全、安全を理由とする場合、完全な補償は行なわれないことが示唆されている。
 第四項は、自然を享受する権利を保障するため、森林などを含む私有地への公衆の立入りを認めるという形で私有財産に制限をかける先進的な規定である。

著作権

第一六条

著作家、芸術家及び写真家は、法律の規定に基づき、その作品に対する権利を有する

 文言どおり、著作権に関する規定である。著作権を財産権の一環として扱う資本主義的な立場を前提としている。

商取引の自由

第一七条

1 商取引を行う権利又は職業活動を遂行する権利についての制限は、重大な一般の利益を保護するためにのみ導入することができ、単にある人物又は企業を経済的に優遇するために導入されてはならない。

2 トナカイを飼育するサーミ族の権利については、法律により規定する。

 商取引その他の経済活動の自由を保障する規定である。特権商人・企業を保護するための競争制限的な規制を禁止し、自由競争を保障している。この点で、スウェーデン憲法は自由主義経済体制を擁護する立場に立っている。
 第二項は、トナカイ遊牧民である少数民族サーミ族の権利を保障するものだが、内容はあげて法律の規定に委ねられている点で、不安定な権利となっている。

教育及び研究

第一八条

1 一般的な学習義務を有するすべての子どもは、普通学校において無償の基礎的教育を受ける権利を有する。公的機関は、高等教育機関を設置する責任を負わなければならない。

2 研究の自由は、法律に定める規定に従い、保護される。

 財産権の規定の直後に、教育・研究に関する規定が来る理由は必ずしも明確でないが、無償教育を受ける権利は教育費の負担からの免除という点で消極的な財産権に関わることや、研究の自由は研究者の職業遂行の自由に関わることから、この位置に置かれたものかと思われる。ただ、教育を受ける権利は広い意味では社会権に属する規定であるので、財産権に直後させることに憲法体系的な疑問は残る。
 第一項第二文で、大学を中心とする高等教育機関の設置を国や自治体など公的機関の責任として明言するのは、先進的な規定である。

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スウェーデン憲法読解(連載第6回)

2014-12-19 | 〆スウェーデン憲法読解

第二章 基本的自由及び権利(続き)

差別に対する保護

第一二条

法律又は他の法令は、民族的出自、皮膚の色若しくは他の類似の事情又は性的指向の観点から少数派に属することにより、不当に取り扱う規定を含んではならない。

 法の下の平等条項に相当する規定であるが、より踏み込んで少数派に対する差別の禁止という規範を明確にしている。ことに、性的指向による差別も明示している点は、先進的である。

第一三条

法律又は他の法令は、男性及び女性の間の同権を実現するための努力の一部を形成している場合又は国防義務若しくはそれに代替する義務を規定する場合を除き、性を理由として、不当に取り扱う規定を含んではならない。

 前条とは別途、ジェンダーによる差別禁止を取り出して規定したものである。ただし、男女差別撤廃のためにするクウォータ制のような優遇措置(アファーマティブ・アクション)や、兵役またはその代替義務に関して男女の性差を考慮することは許容している。

労働市場における争議行為

第一四条

労働者の団体並びに雇用者及び雇用者の団体は、法律又は協約が別に定める場合を除き、労働市場において争議行為を行う権利を有する。

 表題のとおり、労働基本権に関する規定である。ただ、争議権については言葉を濁す日本国憲法とは異なり、明確に争議権だけを取り出し、かつ雇用者側のストライキ(ロックアウト)まで規定しているのが特徴である。

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スウェーデン憲法読解(連載第5回)

2014-12-18 | 〆スウェーデン憲法読解

第二章 基本的自由及び権利(続き)

法的保障

第九条

1 裁判所以外の官庁が犯罪により、又は犯罪の疑いにより自由を剥奪した場合には、自由を剥奪された者は、不合理に遅延されることなく、自由を剥奪した機関を裁判所による審理に服させることができる。ただし、他の国の裁判所により科された自由刑を執行するため、スウェーデンに移送することが問題となっている場合は、この限りでない。

2 第一項に規定するものとは別の理由により、強制的に拘禁された者は、不合理に遅延されることなく、拘禁の件につき裁判所による審理を受けることができるものとしなければならない。そのような場合における参審による審理は、当該参審の構成が法律により定められ、かつ、当該参審の長を正規の裁判官とするとき又は裁判官であったものとするときは、当該参審による審理は、裁判所による審理と同等とみなされる。

3 審理が第一項又は第二項の規定に基づき、管轄権を有する官庁を指示していなかった場合には、審理は、通常裁判所によって行われなければならない。

 本条から第十一条までは、裁判を受ける権利をはじめとする米国憲法や日本国憲法上のデュー・プロセスの原則に相当する基本規定がまとめられている。
 筆頭の本条は、犯罪その他の理由で身柄を拘束された者が迅速に裁判を受ける権利を保障するものであるが、身柄拘束された者でなく、拘束した公的機関を審理に服させる権利として構成されているところが、先進的である。警察その他の強制機関は、司法的なコントロールの下に置かれることが明瞭にされている。

第一〇条

1 すべての人は、ある行為が実行されたときに、その行為に対し刑事制裁が科されると定められていなかった場合には、当該行為を理由として刑罰又は他の刑事制裁を科されてはならない。さらに、すべての人は、ある行為が実行されたときに定められていたものよりも重い刑事制裁を当該行為に対して科されてはならない。刑事制裁に関するこの規定は、没収及び他の特別な刑事制裁の法律効果についても適用される。

2 税及び国の公課は、税及び公課の義務をもたらす事態が生じたときに効力を有していた規定により課されるものよりも、広範囲に課されてはならない。ただし、議会が特別の理由が存在すると認める場合で、政府又は議会の委員会が議会に対して提案を行なっていたときは、当該事態が生じたときに法律が施行されていなかった場合であっても、当該法律は税及び国の公課を課すことを内容とすることができる。そのような提案を期待することについて政府が議会に文書により通知することは、提案と同様にみなされる。さらに、議会は、戦争、戦争の危険又は重大な経済危機の関連で、特別な理由により必要とされると認める場合には、第一文の例外を規定することができる。

 本条第一項は、刑罰その他の刑事制裁に関し、事後法禁止を定めている。同種の規定は日本国憲法にも存在する。特徴的なのは、第二項で税や公課に関しても、事後法禁止が明確にされていることである。税金に関心の高いスウェーデンならではのことである。
 ただし、税・公課に関しては例外も多く、特別の理由により政府または議会委員会が提案していた場合は、事後法を認めるほか、戦争やそれに準じる危機に際して、事後法の例外を規定することも認める。スウェーデンの実用主義的な一面が現れている。

第一一条

1 裁判所は、すでになされた行為について、及びある一定の紛争又はその他ある一定の目的について創設されてはならない。

2 訴訟手続は、法に従い、合理的な時間内に実施されなければならない。裁判所における審理は、公開とする。

 本条第一項は特別裁判所の禁止を定める。第二項は裁判遅延の禁止と公開原則を定める。日本国憲法のように、「迅速な裁判」という表現を用いず、「合理的な期間内」という現実的な基準にとどめるのも、裁判が拙速に走らないための実際的な工夫と言える。

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スウェーデン憲法読解(連載第4回)

2014-12-05 | 〆スウェーデン憲法読解

第二章 基本的自由及び権利(続き)

身体の不可侵性及び移動の自由

第四条

死刑は行われてはならない。

 本条以下五か条は、人身の自由に関する規定である。意見の自由に続いて人身の自由が規定されているのは、精神に関わる意見の自由を担保する身体の自由の保障を考慮してのことと考えられる。
 筆頭の本条は死刑の禁止を定めている。死刑は言うまでもなく、生命を剥奪する刑罰であるが、生命を剥奪するには身体を何らかの形で致命的に傷つける必要があることから、死刑からの保護は究極の人身の自由とみなす考え方を読み取ることができる。

第五条

すべての人は、身体刑から保護される。すべての人は、供述を強要し、又は妨害する目的で拷問にかけられ、又は医学的に侵害されてはならない。

 ある意味で、死刑は身体刑の究極形態であるが、本条第一文は、前条で禁止されている死刑を除く身体刑全般の禁止規定である。第二文は拷問の禁止規定であるが、後半で拷問に当たらないまでも医学的な侵害も禁止している点が先進的である。拷問の脱法として、医師の手を借りて身体を侵襲するような強制措置が想定されているだろう。

第六条

1 すべての人は、第四条及び第五条に規定するものとは別の場合であっても、公的機関による強制的な身体上の侵害から保護される。さらに、すべての人は、身体検査、家宅捜索及び類似する侵害、信書又は他の内密な送付物の検査並びに電話による会話又は他の内密な通信の傍受若しくは録音から保護される。

2 第一項の規定に加え、すべての人は、本人の同意なく行われ、かつ、個人の私的事情の監視又は調査を含んでいる場合には、公的機関による個人的不可侵性への重大な侵害から保護される。

 本条は生命・身体という最も重要な法益の保護にさしあたり限定されていた前二条の保護範囲をさらに拡張する規定である。第一項第一文は、死刑・身体刑・拷問及び医学的侵害以外の公的機関による強制的な身体上の侵害を禁止する規定である。これに対し、第一項第二文と第二項はプライバシーの保護規定である。第二項は、本人の同意のない個人の私的事情の監視又は調査自体を禁止していないことには留意を要する。

第七条

1 いかなるスウェーデン市民も、国外追放されてはならず、又は国内を旅行することを妨げられてはならない。

2 国内に居住している、又はしていた、いかなるスウェーデン市民も、国籍を剥奪されてはならない。ただし、十八歳未満の子どもがその国籍に関して両親又はいずれかの親に従わなければならない旨を規定することができる。

 前二条は身体そのものの保護に関する規定であったが、本条は身体の移動の自由を規定する。第二項は子どもの家庭的な福祉を考慮すべき場合を除き、国籍保持の自由を定めたものだが、これも国籍剥奪はほぼ国外追放を意味することから本条で併せて規定されたものと読める。ただし、保護対象はスウェーデン市民に限られ、外国人については対象外である。

第八条

すべての人は、公的機関による自由の剥奪から保護される。その他、スウェーデン市民である者には、国内を移動し、出国する自由も保障される。

 本条第一文は、公的機関による自由一般の剥奪からの保護を定めている。逆に言えば、憲法に明文のない自由の保障規定として読める。第二文は、前条第一項と重複する内容を含んでいるが、スウェーデン人が旅行以外の目的で国内を移動することや、出国する自由を保障している。第二文については、外国人は対象外である。

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スウェーデン憲法読解(連載第3回)

2014-12-04 | 〆スウェーデン憲法読解

第二章 基本的自由及び権利

 本章は基本的人権を列挙した章で、日本国憲法では第三章に相当する部分である。しかし、両者の最大の違いは、冒頭から意見の自由の規定が置かれていることである。スウェーデン民主主義の基礎が意見形成の自由にあると宣言された第一章第一条を受けてのことである。なお、スウェーデン憲法の条文は通し番号ではなく、各章ごとに第一条から改めて立て起こされる形式を採っている。

意見の自由

第一条

1 すべての人は、公的機関に対して、次の各号に掲げる自由を保障される。

一 表現の自由:言論、文書若しくは画像により、又は他の方法により、情報を伝え、思想及び感情を表現する自由

二 情報の自由:情報を獲得し、受け取る自由及び他の方法により、他者の表現を知る自由

三 集会の自由:情報、意見の表明若しくは他の類似の目的のため又は芸術的な作品の発表のために集会を開催し、集会に参加する自由

四 示威運動の自由:公共の場所において、示威運動を起こし、示威運動に参加する自由

五 結社の自由:公的又は私的な目的のために、他者と団結する自由

六 宗教の自由:単独で、又は他者とともに自らの宗教を信奉する自由

2 出版の自由及びラジオ、テレビ及びこれらに類似する伝達手段、データベースから行われる公演並びに映画、ビデオ、録音媒体及び他の技術的記録媒体における同様の表現の自由に関しては、出版の自由に関する法律及び表現の自由に関する基本法を適用する。

3 出版の自由に関する法律においては、文書にアクセスする権利についても定める。

 第二章筆頭の本条では、スウェーデン民主主義の基本にある意見の自由の内容がコンパクトに整理されている。注目されるのは、いわゆる表現の自由は意見の自由の一つでしかなく、情報の自由や宗教の自由まで幅広く意見の自由に含めていることである。つまり、スウェーデンでは宗教の自由も単に個人の内心領域にとどまる信仰の自由ではなく、宗教的な観点からの意見を形成する自由としてとらえられているのである。
 一方、出版の自由や近年爆発的に発達するデジタル媒体の扱いについては、憲法の一部を成す二つの法規に詳細が委ねられる。また文書へのアクセス権も出版の自由の一環として出版自由法に委ねられる。

第二条

すべての人は、公的機関により、政治的、宗教的、文化的観点又は他の観点において、自らの意見を明らかにするよう強制されてはならない。すべての人は、意見形成のための集会、示威運動若しくは他の意見表明行為に参加すること又は政治結社、宗教団体又は第一文に規定する意見のための他の団体に参加することを強制されてはならない。

 意見形成の自由の反面としての意見を表明しない自由、すなわち沈黙する自由の保障規定である。それと関連して、集会、デモ、種々の結社・団体への参加を強制されない自由も保障されている。このあたりにも、簡潔ながら用意周到なスウェーデン憲法の特質がよく現れている。

第三条

いかなるスウェーデン市民も、同意なしに、その政治的意見のみを根拠として、公的な記録に登録されてはならない。

 犯歴ではなく、政治的な意見表明歴を根拠に、要注意人物として警察等のデータベースに登録されないことも、意見の自由の一環として明確に保障されている。逆に言えば、秘密警察活動の禁止である。ただし、本条で保護されるのはスウェーデン市民に限られ、外国人は対象外である。つまり、外国人は政治的意見のみを根拠に、警察等のデータベースに登録されることはあり得る点で、本条による保障は万全と言えない。

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スウェーデン憲法読解(連載第2回)

2014-11-21 | 〆スウェーデン憲法読解

第一章 国家体制の原則(続き)

第四条

1 議会は国民の最高の代表機関である。

2 議会は、法律を制定し、国税について議決し、国の資金の利用方法について決定しなければならない。議会は国の統治及び行政を監督する。

 本条から先は、立法・行政・司法の役割分担を簡潔に総説する条項が続く。スウェーデンも基本的には三権分立制であるが、本条に明示されるように、議会を頂点とした議会中心主義の分立である。
 その議会は、単なる立法機関ではなく、税金とその使い道を決定するという役割が明確にされている。このことは、民主的な議会制では当然のことであるが、福祉国家としてあえて重税を課して社会サービスを充実させるスウェーデンではとりわけ税とその使途をめぐる議会の責任は重要である。そうした権限を担保するためにも、議会には統治全般、中でも行政への監督権が明示されている。

第五条

王位継承法に従い王位を継承する国王又は女王は、国の元首である。

 スウェーデンは立憲君主制を採用し、王は国家元首の位置づけを明確にされている。王位継承法上、王位継承順位一位は単純に王の第一子(女性を含む)とされ、男女平等が確保されている。

第六条

政府は、国を統治する。政府は、議会に対し責任を負う。

 この規定により、国家元首たる王は、君臨すれども統治しない存在となる。スウェーデンでは議院内閣制を採るため、統治権を持つ政府とは基本的に内閣である。

第七条

国に、地方レベル及び地域レベルの自治体を置く。

 スウェーデンは連邦制ではなく、地方と地域の二層の地方自治制を採る。この点は日本と同様であるが、スウェーデンでは二層自治が憲法上明示されている。

第八条

司法について、裁判所を置き、公行政について、国及び地方の行政機関を置く。

 司法と国及び地方の行政に関する権限分配規定である。

第九条

裁判所及び行政機関並びに他の行政上の任務を遂行する機関は、その活動において、すべての人の法の下の平等を考慮し、客観性及び公平性に配慮しなければならない。

 裁判所に限らず、行政機関にも裁判所に準じた客観性・公平性を要求する本条は、スウェーデン独特のものである。行政の任務・権限が大きくなり、行政機関が様々な行政的審査・決定もする状況下では、参考になる規定である。

第一〇条

スウェーデンは、欧州連合の加盟国である。スウェーデンは、国際連合及び欧州評議会の枠組並びに国際的な協力における他の関係に参加する。

 本条は国際協力に関する規定である。スウェーデンは欧州連合(EU)加盟国であることを憲法上宣言しつつ、国連その他の国際機関を通じた国際協力に積極的に参加することを表明している。

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スウェーデン憲法読解(連載第1回)

2014-11-20 | 〆スウェーデン憲法読解

 日本国憲法に始まり、旧ソ連、アメリカと、消滅したソ連を含む主要国の憲法を検証する憲法シリーズの第四弾は、スウェーデン憲法である。スウェーデン憲法はいわゆる社会民主主義の憲法として代表的なものであり、憲法典にありがちな美文調を排し、コンパクトで実際的な法文ながら現代的な水準を満たす先進憲法である。
 単純に図式化すれば、スウェーデン憲法は社会主義の旧ソ連憲法と自由主義のアメリカ憲法の中間に位置し、社会権条項を擁し部分的に社民主義的な要素を持つ日本国憲法と共有する面もある。その意味で、先進的な正しい方向での改憲を構想するうえでも、参照項となるものである。
 ただ、スウェーデン憲法は単一の法典ではなく、2010年に大改正された「統治法」を中心に、「王位継承法」「出版の自由に関する法律」「表現の自由に関する基本法」の四つの法典から成る複数憲法主義を採るが、ここでは最も中核的な「統治法」―他国の憲法典に相当するもの―を取り上げる(よって、以下、単にスウェーデン憲法と言った場合は統治法を指す)。なお、訳文は国会図書館調査資料に準拠するが、一部訳語を変更する。


第一章 国家体制の原則

 スウェーデン憲法は実際的なスウェーデンの特徴を反映してか、前文を持たず、直入に本文から始まる。冒頭の第一章には総則に当たる条項が簡潔に収められており、実質的には本章の冒頭三か条が前文に代わる働きをしていると言える。

第一条

1 スウェーデンにおけるすべての公権力は、国民に由来する。

2 スウェーデンの民主主義は、自由な意見形成並びに普通選挙権及び平等な選挙権を原則とする。スウェーデンの民主主義は、代議制及び議会制の国家体制並びに地方自治を通じて実現される。

3 公権力は、法律に基づき行使される。

 第一条は、国民主権及び議会制民主主義、さらに法治主義を宣言する総則中の総則である。いずれも極めて簡潔ながら、要点を突いた実際的で明快な法文である。特に、民主主義の基礎に自由な意見形成があることを明確にしている点は注目される。また地方自治を民主主義の重要な内容に含めている。

第二条

1 公権力は、すべての人の平等な価値並びに個人の自由及び尊厳を尊重して行使されなければならない。

2 個人の個人的、経済的及び文化的福祉は、公的な活動の基本的な目標とする。特に、公的機関は労働、住居及び教育に対する権利を保障し、社会扶助及び社会保障並びに健康に対する良好な条件のために努めなければならない。

3 公的機関は、現在及び将来の世代のために、良好な環境をもたらす持続可能な発展を促進しなければならない。

4 公的機関は、社会のすべての領域において、民主主義の理念が指導的たるべく努め、個人の私生活及び家庭生活を保護しなければならない。

5 公的機関は、すべての人が社会における参加及び平等を達成できるように、及び子どもの権利が保護されるように努めなければならない。公的機関は、性、皮膚の色、国籍若しくは民族的出自、言語的若しくは宗教的帰属、障碍、性的指向、年齢又は個人に関する事情を理由とする差別に対抗しなければならない。

6 サーミ族並びに民族的、言語的及び宗教的少数派が、自らの文化的及び共同体的生活を維持し、発展させる機会を促進しなければならない。

 第二条は、第六項を別として、すべて公権力ないし公的機関に向けられた個別的な原則規範である。第一項は個人の尊重規定であるが、個人の自由に優先して、すべての人の平等価値が置かれているのは、平等を優先価値とするスウェーデン国家の特質を示している。そうした平等性に根差した個人の尊重のうえに、第二項の福祉国家原則が置かれている。
 福祉国家原則の内容は、日本国憲法の社会権条項以上に努力義務規定にすぎないが、福祉が明確に公的な活動の基本目標として指示されている。特に注目されるのは、日本国憲法には欠けている住居に対する権利が明言されていることである。
 第三項は、環境的持続可能性の原則であるが、いわゆる環境権としてあいまいに権利的に規定するのではなく、公的機関の責務として明言されている。同様にプライバシーの保護を定める第四項も、プライバシー権と権利的に規定せず、公的機関の責務として指示されている。
 第五項はいわゆる反差別の原則である。その第二文は一見法の下の平等を言っているように読めるが、あらゆる差別に対して公的機関が「対抗」するという形で、具体的な反差別の行動を要請している点で踏み込んでいる。これは平等を法の下だけにとどめず、第一文にあるように、すべての人の社会的な平等を目指す積極的な規定である。性的指向による差別への対抗も明言する点で、先進的である。また国籍による差別にも言及されており、通常の国では等閑視されやすい外国人差別にも配慮されている。完全に平等な社会参加の権利を持ち得ない子どもについては、第一文で公的機関にその保護の責務を課している。
 第六項は、前項に関わり、特に最北のトナカイ遊牧民であるサーミ族に代表される少数民族ないし宗派がその文化と共同体を維持していけるよう配慮する規定を別立てしたものである。公的機関のみならず、社会全体に課せられた責務である。

第三条

統治法、王位継承法、出版の自由に関する法律、表現の自由に関する基本法は、国の基本法である。

 序説で述べたとおり、広義のスウェーデン憲法は、上記四法典から成ることが規定されている。そのうち二本を表現の自由に関する新旧の法典が占めているのは、第一条にもあったとおり、スウェーデンが民主主義の基礎としての表現の自由を確信的に追求している証しとなっている。

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