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スウェーデン憲法読解(連載最終回)

2015-04-25 | 〆スウェーデン憲法読解

第一五章 戦争及び戦争危機(続き)

占領下の事態

第九条

1 議会又は政府は、被占領地域において決定を行ってはならない。また、当該地域においては、議員又は大臣としての資格において有する権限は行使してはならない。

2 各公的機関は、被占領地域において、防衛の努力及び抵抗運動並びに市民の保護及びその他スウェーデンの利益一般に資する最善の策を講じるように行動する。いかなる場合においても、公的機関は、国際法に反して、占領権力を援助するよう国民に対して義務を課す決定を行い、又は措置を講じてはならない。

3 議会又は自治体の議決権を有する議会のための選挙は、被占領地域で実施されてはならない。

 「武装中立」ということは、外国に依存せず、単独で防衛しなければならないということを意味するから、場合によっては自国軍だけでは防衛し切れず、外国軍に占領される事態もあり得るという厳しい現実に置かれる。そうした占領下を想定した規定が本条であり、スウェーデン憲法の現実主義の真骨頂とも言える。
 規定されているのは、ひとことで言えば「抵抗」であり、占領権力に対する一切の非協力が定められている。ただ、占領権力が圧倒的である場合、抵抗を続ければ「玉砕」することもあり得る。本条はそこまでの事態を示唆するものではなかろうが、いささか気になる点ではある。

国家元首

第一〇条

国が戦争状態にある場合には、国家元首は、政府に同行しなければならない。国家元首が被占領地域にいる場合又は政府とは別の場所にいる場合には、国家元首は、国家元首としての任務の遂行に対する支障があるとみなされる。

 戦時における国家元首(通常は王)の政府同行義務である。国家元首が政府から分断されることは国家の崩壊を意味するため、そうした事態を防止する趣旨である。ただし、国家元首がすでに政府から分断されているときは、元首に支障ありとみなされ、第五章第四条に基づいて臨時の摂政が置かれることになる。

議会の選挙

第一一条

1 国が戦争状態にある場合には、議会の選挙は、議会の議決の後にのみ実施される。国が戦争危機にある場合で、通常選挙が実施されるべき場合には、議会は、当該選挙を延期する議決を行うことができる。当該議決は、一年以内に再審議され、その後最長でも一年の間隔で再審議されなければならない。この項に規定する議決は、議員の四分の三以上が賛成票を投じる場合にのみ効力を有する。

2 国が一部占領されている場合で、選挙が実施されるべきときは、第三章の規定に必要な改変を議決する。ただし、第三章第一条、第四条、第五条、第七条から第九条まで及び第一二条の規定については、例外を設けてはならない。第三章第五条、第七条第二項及び第八条第二項の規定にいう国とは、選挙が実施されるべき国の部分と読み替えて適用されなければならない。議席の一〇分の一以上は調整議席でなければならない。

3 第一項の規定の結果として、定められた期間実施されない通常選挙は、戦争又は戦争危機が終了した後、可能な限り速やかに実施されなければならない。

4 この条の規定の結果、通常選挙が通常であれば実施されたであろう時期とは別の時期に実施された場合には、議会は、議会法の規定に従い実施しなければならないその通常選挙の後、四年目又は五年目の年の月に次の通常選挙の時期を設定しなければならない。

 戦時又は一部占領下における議会選挙の特例である。そうした場合でも、可能な限り議会選挙を実施しつつ、選挙の延期や必要な修正を柔軟に認める実際的な規定である。ただし、国が一部占領下にあっても、選挙の基本原則や比例代表選挙の方法などは維持される。

自治体の議決権

第一二条

国が戦争状態若しくは戦争危機にある場合又は国が置かれている戦争状態若しくは戦争危機により引き起こされる非常事態が存在する場合には、自治体における議決権は、法律の定める方法により行使される。

 戦時における地方議会の議決権の行使方法に関しては、あげて立法政策に委ねられている。

国の防衛

第一三条

1 政府は、国に対する武力による攻撃に対抗し、又は国の領域の侵害を回避するために、国際法に従い、国の防衛軍を配備することができる。

2 政府は、国防軍に対し、平時又は外国間の戦争時において国の領域の侵害を回避するために、国際法に従い、武力を行使することを指示することができる。

 国防軍の保持と武力行使に関する条項が本章後半に位置することは意味深長であり、要するに武力行使を最後の手段ととらえているためであろう。
 ちなみに、自国が当事国とならない外国間の戦争時でも武力行使を可能としているのは、大陸国家スウェーデンでは周辺国間の戦争の巻き添えになる危険が高いことを考慮してのことと考えられる。

戦争状態の宣言

第一四条

国に対する武力による攻撃の際を除き、国が戦争状態にあるとの宣言は、議会の承認なしに政府が行ってはならない。

 戦争宣言は原則として議会の承認の下に政府が行う。ただし、武力攻撃を受けて自衛戦争を発動する場合は、政府単独で宣言できるというように柔軟化されている。とはいえ、侵略戦争は認められないため、議会の承認を要する戦争宣言とは前条でいう外国間の戦争時くらいであろう。

休戦

第一五条

休戦に関する条約の遅延が国に対する危機をもたらす場合には、政府は、議会の承認を得ることなしに、かつ、外交評議会と協議することなしに、当該条約を締結することができる。

 条約の締結は原則として議会(代替的に外交評議会)の承認を要するが、休戦条約の迅速な締結が国益にかなう場合は、政府単独で締結できるという実際的な規定である。

軍隊の出動

第一六条

1 政府は、議会により承認された国際的義務を履行するために外国にスウェーデンの武装した軍隊を派遣し、又はその他の方法で当該軍隊を派遣することができる。

2 その他、スウェーデンの武装した軍隊を次の各号に定める場合に外国に派遣し、又は出動させることができる。

一 当該措置のための条件を定める法律により許可されている場合

二 議会が特に許可した場合

 「武装中立」を国是としつつも、国際社会の要請にも答え、自国軍隊を海外派遣する場合を定めた規定であり、ここにもスウェーデン式現実主義が見て取れる。
 ただし、第二項第二号は議会の許可という手続的条件のみで軍隊の海外派遣を可能とするもので、事実上の侵略行動に道を開かないか、懸念がある。スウェーデン憲法全条項中で最もイエローカードの規定と言えよう。


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