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スウェーデン憲法読解(連載第24回)

2015-04-09 | 〆スウェーデン憲法読解

第一二章 行政

 スウェーデン憲法の特色は、行政の章が司法の章の後に来ることである。前章に関連して述べたように、これはスウェーデン行政が司法の原理に準じた客観性・公平性に則って執行されることによる。

国家行政機関

第一条

大法官及び統治法又は他の法律の規定に基づき議会所属機関とされていない国家行政機関は、政府の下に帰属する。

 議会中心主義が徹底しているスウェーデンでは、行政的機能を持った多くの議会所属機関が存在するが、それ以外の行政機関は政府に帰属する。

行政の自律性

第二条

いかなる官庁も、議会又は自治体の議決機関も、特定の場合において、行政機関が個人又は自治体に対する官庁の権限行使又は法律の適用に関わる事案において、どのように決定すべきかを定めてはならない。

 司法の独立に準じて、行政独立の原則が定められている。ただし、これは、あくまでも司法の判決に相当するような行政執行面についての原則であり、施政方針は政府(内閣)が決定する。

第三条

行政の任務は、基本法又は議会法から導かれる範囲を超えて議会により行われてはならない。

 司法と同様の権力分立規定である。逆に読めば、議会は基本法又は議会法の範囲内で一定の行政機能も担うということで、議会は単なる立法機関を超えた広範な権限を持つことになる。

行政の任務の委任

第四条

1 行政の任務は、自治体に委任することができる。

2 行政の任務は、他の法人又は個人に委任することができる。当該任務が官庁の権限行使を含む場合には、委任は法律によってのみ行うことができる。

 政府の個別的な行政任務は自治体のほか、民間の法人や個人にも委任できる。分権と民活である。

国家公務員に関する特別規定

第五条

1 政府の下に所属する行政機関の被用者は、政府又は政府により定められる機関により雇用される。

2 国家公務員の雇用に関する決定に際しては、功績及び能力のような客観的理由のみを考慮しなければならない。

 第二項は、行政官の雇用についても、裁判官の任命基準に準じて、思想信条等の主観的理由の考慮を禁じている。「政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者」の任用を認めない日本の国家公務員法のような規定は、スウェーデン憲法の下では違憲となり得るだろう。

第六条

議会オンブズマン及び会計検査官は、スウェーデン市民でなければならない。大法官についても同様とする。その他、国家公務員職に就任する資格又は自治体において任務を遂行する資格のためのスウェーデン国籍の要求は、法律又は法律に定める条件に基づいてのみ、規定することができる。

 公務員の国籍条項の規定である。このうち、議会オンブズマンや会計検査官は次章の監督権に属する官職であるが、資格要件についてはここで先取りされている。

第七条

統治法に関わるものとは別の点に関する国家公務員の法的地位に関する基本的な規定は、法律で定める。

免除及び恩赦

第八条

法律又は予算に関する決定に別段の定めがない限り、政府は、命令の規定又は政府の決定に基づいて定められた規定の適用除外を認めることができる。

第九条

1 政府は、恩赦により、刑事制裁又は犯罪に対する他の法律効果を免除し、若しくは軽減すること及び個人又は財産を対象とした介入で、機関により決定された他の類似のものを免除し、若しくは軽減することができる。

2 特別な理由が存在する場合には、政府は、犯罪行為を捜査し、又は訴追する措置がそれ以上行われるべきでないことを決定することができる。

 本条第二項は、恩赦ではなく、犯罪捜査・訴追の中止という大胆な規定である。政府が捜査・訴追に介入し、中止させることは一般的には望ましいことではないが、あえて憲法上そうした権限を政府に付与することで、非公式な「圧力」で捜査・訴追が妨害されることを防止しようというスウェーデン流の実際主義的な規定である。

法律の審査

第一〇条

1 ある規定が基本法又は他の優越する法令に抵触すると公的機関が判断した場合には、当該規定は適用してはならない。法令の制定時に、重大な点において法により定められた手続が顧慮されなかった場合も同様とする。

2 法律に関する第一項の規定に基づく審査の際には、議会が国民の第一の代表機関であり、基本法は法律に優越することに特に留意しなければならない。

 前章で見たとおり、スウェーデンには憲法裁判所の制度はなく、違憲審査権は裁判所とともに、行政機関にも与えられている。裁判所と同様、法令制定時の瑕疵にまで遡った審査も可能である。これも行政執行が司法の原理に準じて行われることから可能になることである。


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