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スウェーデン憲法読解(連載第25回)

2015-04-10 | 〆スウェーデン憲法読解

第一三章 議会監督

 議会の監督権を独立の章として当てる本章は、スウェーデン憲法の「目玉」の一つである。最も有名なのはオンブズマンであるが、会計検査院も監督権を構成する。このような構成は立法・行政・司法・考試・監察の「五権分立制」を採る台湾の監察権に類似するが、台湾の監察院のように統一的な機関を成すものではなく、いずれも議会自身ないし議員の権限であったり、議会の委員会、議会所属機関等の集合である。従って、監督権は議会の権能の一つをくくり出したものとも考えられよう。

憲法委員会の審査

第一条

1 憲法委員会は、大臣の職務遂行及び政府の事務の処理を審査しなければならない。当該委員会は、当該審査のために、政府の事務に関する決定についての議事録、当該事務に属する文書及び当該委員会がその審査のために必要と判断した他の政府の文書を徴することができる。

2 他の委員会及び各議員は、憲法委員会に対し、書面により大臣の職務遂行及び政府の事務の処理について問題を提起することができる。

第二条

ただし、理由がある場合には、一年に一回以上、憲法委員会は、その審査の際に委員会が通知する価値があると判断した事項について、議会に報告しなければならない。議会は、その結果として政府に提案を行うことができる。

 監督権の筆頭は憲法委員会である。憲法委員会は、名称のごとく憲法問題を所管する議会の常任委員会であると同時に、大臣及び政府の仕事ぶりを審査する監察機関でもある。

大臣に対する訴追

第三条

大臣である者又は大臣であった者に対しては、大臣の職務の遂行の際の犯罪により、その者がその職務上の義務に著しく反した場合にのみ、当該犯罪について裁判を行うことができる。訴追は、憲法委員会により決定され、最高裁判所により審理される。

 憲法委員会は、現職又は元職大臣の職務犯罪に対する訴追機関として、検察権も一部担う。

不信任の表明

第四条

1 議会は、大臣が議会の信任を得ていないことを表明することができる。当該不信任表明に関する動議を審議に付するためには、当該動議は、議員の一〇分の一以上により提出されなければならない。不信任表明には、議員の過半数が賛成票を投じる必要がある。

2 不信任表明に関する動議は、通常選挙が実施されてから、又は特別選挙の決定が通知されてから選挙された議会が集会するまでの間に提出された場合には、審議に付せられない。第六章第一一条の規定に従い、その職を免ぜられた後もその職を保持している大臣に対する動議は、いかなる場合にも審議に付せられてはならない。

3 不信任表明に関する動議は、委員会において審査されてはならない。

 議会による大臣不信任表明も、監督権の一環に位置づけられている。不信任表明された大臣は議長により罷免されるが、政府は対抗上、特別選挙に打って出ることもできる(第六章第七条第一項)。

質疑及び質問

第五条

議員は、議会法に定める細則に従い、大臣の職務遂行に関する事項について、大臣に対して、質疑及び質問を提出することができる。

 議員の質問権も、監督権の一環として位置づけられている。質疑とは説明や見解を質す質問であるのに対し、質問とは事実関係の開示のみを求める質問である。

議会オンブズマン

第六条

1 議会は、議会の議決する指示に従い、公的活動における法律及び他の法令の適用に関する監察を行う一又は二以上のオンブズマン(法務オンブズマン)を選挙する。オンブズマンは、当該指示に規定する場合には、訴えを提起することができる。

2 裁判所及び行政機関並びに国家公務員又は自治体の公務員は、オンブズマンが要求する情報及び意見を提供しなければならない。オンブズマンの監察下にある他の者も当該義務を有する。オンブズマンは、裁判所及び行政機関の議事録及び文書にアクセスする権利を有する。検察官は、要請に基づき、オンブズマンを援助しなければならない。

3 オンブズマンに関する詳細は、議会法及び他の法律で定める。

 スウェーデンと言えばオンブズマンを連想するほど、有名な歴史ある制度であるが、意外にも、憲法上オンブズマンに関する規定はこの一か条だけである。
 とはいえ、この一か条にオンブズマンの基本的な任務と権限がコンパクトに明記されている。それは、基本的に裁判所も含む公的機関(議会をはじめ、除外対象もある)の法令順守を強力な調査権をもって監察する機関である。その意味で、人権救済等に当たる他のオンブズマンと区別して「法務オンブズマン」とも呼ばれる。

会計検査院

第七条

会計検査院は、国により実施される活動を検査する任務を有する議会所属機関である。会計検査院の検査が国の活動以外のものも対象とし得ることに関する規定は、法律で定める。

第八条

1 会計検査院は、議会が選挙する三名の会計検査官により運営される。議会は、会計検査官がもはやその任務に該当する要求を満たしていない場合又は重大な過失に責任を負った場合にのみ、その職を免じることができる。

2 会計検査官は、法律の規定に配慮し、検査すべき事項を独立して決定する。会計検査官は、検査方法及びその検査結果をそれぞれ独立して決定する。

第九条

会計検査院に関する付加的規定は、議会法及び他の法律で定める。

 会計検査院が議会所属機関とされることは、会計検査の究極的権限も議会に帰属することを意味する。第六条の議会オンブズマンとあわせ、議会が公的機関の法令・会計全般にわたる監察権を掌握していることになる。なお、スウェーデン会計検査官は合議制ではなく、三名それぞれが独立して活動することで、馴れ合いを防止している。


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