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スウェーデン憲法読解(連載第23回)

2015-03-28 | 〆スウェーデン憲法読解

第一一章 司法(続き)

正規の裁判官の任命

第六条

1 正規の裁判官は、政府が任命する。

2 任命に際しては、功績及び能力のような客観的理由のみを考慮しなければならない。

3 正規の裁判官の任命の際の手続の原則に関する規定は、法律で定める。

 裁判官の任命権が政府にあるのは、日本などと同様であるが、任命に当たっては客観的理由のみを考慮するという制約がついている。逆に言えば、主観的理由を考慮してはならないということである。従って、日本でしばしば問題視されてきた思想信条を理由とする「任官拒否」のようなやり方は、本条に違反することになる。

正規の裁判官の法的地位

第七条

1 正規の裁判官に任命された者は、次の各号に掲げる場合にのみその職を免ぜられる。

一 当該裁判官が犯罪又は職務上の重大な怠慢若しくは繰り返された怠慢により、その職を保持することが明らかに不適切となった場合

二 当該裁判官が該当する年金受給年齢に達した場合又は法律に従い職務遂行能力の永続的な喪失を理由として離職する義務がある場合

2 組織上の理由により必要とされる場合には、正規の裁判官に任命された者を他の同等の裁判官の職に転任させることができる。

 裁判官職の身分保障に関する規定である。第二項は裁判官の異動を認めるものの、同等職への異動に限定され、いわゆる左遷は許されないことになる。

第八条

1 最高裁判所又は最高行政裁判所の裁判官としての職務の遂行の際における犯罪に対する訴追は、最高裁判所により提起される。

2 最高行政裁判所は、最高裁判所の裁判官がその職を免ぜられるべきか否か若しくは停職されるべきか否か又は医学的診察を受ける義務を負うか否かを審査する。そのような訴えが最高行政裁判所の裁判官を対象としている場合には、最高裁判所が審査を行う。

3 第一項及び第二項の規定に基づく訴えは、議会オンブズマン又は大法官により提起される。

 最上級審の裁判官の処分は、議会オンブズマン又は大法官(政府の法律代官)の提訴に基づき、基本的に二種の最高裁判所自身で行なう。司法の頂点にある最上級審の裁判官の身分保障を万全なものにするためであるが、「身内」の審査となる嫌いはある。

第九条

正規の裁判官が裁判所以外の官庁の決定により職を免ぜられた場合には、当該裁判官は、当該決定が裁判所により審査されることを要求することができる。当該審査の際には、正規の裁判官が裁判所で審理する。正規の裁判官を停職とした決定、医学的診察を受けるよう命じた決定又は服務上の制裁を科した決定についても同様とする。

 日本国憲法では裁判所以外の官庁が裁判官に処分を下すことは認めないが、スウェーデンではこれを認めたうえ、裁判所による不服審査を保障する二段構えの規定である。

第一〇条

その他正規の裁判官の法的地位に関する基本的な規定は、法律で定める。

国籍要件

第一一条

正規の裁判官は、スウェーデン市民でなければならない。その他、司法の任務を遂行する権限のためのスウェーデン国籍の要求については、法律により、又は法律に定める条件に従ってのみ定められる。

 外国籍裁判官を排除することが憲法上の要求となっている。外国の司法支配を排除する趣旨であるが、欧州連合加盟との関連で見直しの可能性も秘めた規定である。

裁判所における他の職

第一二条

正規の裁判官以外の裁判所の職については、第一二章第五条から第七条までの規定が適用される。

 裁判官以外の裁判所事務職については、行政官に準じた扱いとなる。

再審及び失効期間の回復

第一三条

1 確定した事件の再審及び失効期間の回復は、最高行政裁判所により、又は法律が定める場合で、政府、行政裁判所若しくは行政機関が終審となっている事件に該当するときは、下級の行政裁判所により許可される。他の場合には、再審及び失効期間の回復は、最高裁判所により、又は法律に定める場合には、それ以外の裁判所により許可される。

2 再審及び失効期間の回復に関する詳細な規定は、法律で定める。

 確定事件の再審と失効期間の回復の審理機関に関する規定である。原則的には、二種の最高裁判所の権限である。

法律の審査

第一四条

1 ある規定が基本法又は他の優越する法令と抵触すると裁判所が判断した場合には、当該規定を適用してはならない。法令の制定時に、重大な点において法により定められた手続が顧慮されなかった場合も同様とする。

2 法律に関する第一項の規定に基づく審査の際には、議会が国民の第一の代表機関であり、基本法は法律に優越することに特に留意しなければならない。

 スウェーデンには憲法裁判所の制度はなく、違憲審査も一般の裁判所が行なう点で、アメリカや日本と同様である。ただし、第一項は違憲審査のほか、制定手続の瑕疵に遡った法令審査まで認めている。
 第二項は、裁判所が国民代表機関の制定した法令を尊重すると同時に、憲法を積極的に適用し、違憲判断を躊躇しないように促す趣旨であろう。


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