黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『リライブ』小路幸也(新潮社)

2010-01-29 | 読了本(小説、エッセイ等)
戦後まもなく父を病で亡くし、下宿を営む祖父母の元に身を寄せた輝子と母。やがて祖父母は亡くなり、母が引き継いだその下宿に、輝子が18の年、若宮という大学生がやってきた。
資産家であった両親の遺産を叔父に騙しとられ、人嫌い気味な彼は、二階の三部屋を借り切りにするという。やがて若宮の友人・柿沢も彼の紹介で下宿するようになったのだが、ある時若宮から、柿沢と彼自身がどちらも輝子を思っていると告げられ……『輝子の恋』、
小学5年で同じクラスになった、三浦琴美と藤川真理恵は親友に。やがて、真理恵の父・稔も交えて、親しくなり、短大を卒業した琴美は、稔と結婚。同い年でありながら、真理恵の母となったのだが……『最後から二番目の恋』、
1983年8月10日。明日の誕生日を前に、恋人の奈美子から突然別れを告げられた大学生・ケンジ。
叔父のおかげで身につけた照明の技術を生かして、ライブハウスでバイトをしている彼には、ミュージシャンの友人・中山真吾がいる。
彼のミュージシャンとして能力を高く買っているケンジだったが、美しい恋人・麻里香には冷たい態度をとることに不満を持っていて……『彼女が来た』、
彼が戻りたいのは、1980年12月9日…それはジョン・レノンが死んだ日。
梶山裕一が中学2年の時に、1年先輩の袴田美波に告白された時に貰ったのが、ジョン・レノンのアルバムだった。それをきっかけに付き合い始めたふたり。
そんな裕一の担任は、実は美波の家の近所に住んでおり、彼らが付き合い始めたことも知っており温かく見守っていたのだが……『J』、
編集者として小さな出版社で働く亜由は、主婦をやりながら一人で切り盛りしている女性・真琴の、移動販売のお弁当屋さん<MAKOTO BENTO>の常連。医師・三坂ともそこで知り合い、つきあい始めたが、真琴が妊娠したことから店をやめることに。仕事が忙しく、疲れ気味の三坂のために、真琴から料理を習うことを勧められ……『生きること』、
15年間、化け物寺と呼ばれる寺に暮らし、墓守をしてきた八郎。<あらざるもの>である彼の元に、霊力を持つ狐が母親だという噂のある童子は、たびたび遊びにやってきていた。
そんな八郎は、先の世の夢を見ることがあり、それを和尚に語るが……『あらざるもの』、
重い病で臓器移植が必要な少女は、歌うことが好き。
彼女が幼稚園の頃、その歌に救われたことのある暴走族の若者は、彼女の病気を知って族を辞め、移植のための募金活動を始めた。それが世間で大変な反響を生み……『すばらしきせかい』の7編収録。

死の間際に現れる<バク>が迫る、選択。これまでの過去の<思い出>を貰う代わりに、かつて自分が選ばなかった人生を送ることができるという。そんな人々の“選択”の顛末を描いた連作短編集(『あらざるもの』のみ平安時代あたりのお話)。
それが誰の選択か、というところで最後にひねられているのが面白いですね~。そして小路さんらしい、優しさが現れてる作品でした。

<10/1/29>

『銀二貫』高田郁(幻冬舎)

2010-01-28 | 読了本(小説、エッセイ等)
大坂天満の寒天問屋、井川屋の主・和助は、たまたま侍同士の仇討ちに行き逢う。
討たれた侍には子供がおり、虫の息の父にとどめをささんとする侍の前に立ちふさがって、庇っていた。そんな様子を見かねた和助は、その仇討ちを銀二貫で買う、と申し出た……しかしその金は、大火により焼失した…大坂の人々の心の拠り所である…天満宮を再建する為の金で、主筋である店から無理をいって工面してもらったものだった。
かくしてその侍の子・鶴之輔は命を救われ、厳しい寒天作りの修行を経て、名を松吉と改め、井川屋で丁稚として奉公することに。しかし和助が、寄進の為の金を松吉に使ってしまったことを快く思っていない、信仰心の厚い番頭・善次郎は、ことあるごとに彼に厳しくあたる。そんな中で、同じく丁稚の梅吉らとともに、商人としての心得を躾けられていく松吉。
それから数年、ある事件がきっかけで井川屋の人々と知り合った料理人・嘉平が、新たな料理屋・真帆家を出した。そして嘉平の娘・真帆と親しくなる松吉。
ところが大坂を再び大火が襲い、真帆家は焼失。店の人々の生存は絶望的だったが、その数年後、松吉はひょんなことから出会った、顔半面に火傷を負った娘が、真帆であると確信する。ところが彼女は名をてつと変え、彼女を火事場で助けてくれた女を母とし、暮らしていた。
その後、真帆の名との決別を井川屋に告げにきた彼女と、嘉平が亡くなる前日に語っていた腰の強い寒天作りを約束した松吉は……

助けられた侍の子が寒天商人として修行し、幾多の困難を乗り越えながら、銀二貫(三十三両に相当。現在では200万弱くらい?)の恩に報いるお話。
ラストも素敵で、とても良いお話でした♪

<10/1/28>

『八朔の雪 みをつくし料理帖』高田郁(角川春樹事務所)

2010-01-26 | 読了本(小説、エッセイ等)
江戸、神田明神下台所町の蕎麦屋・つる家で働く娘・澪。
上方で生まれたが、子供の頃に両親を水害で亡くして困っていたところを、大坂の名料理屋・天満一兆庵のご寮さん(=女将)・芳に助けられ、使用人に。さらにその舌を見込まれ、女ながら厨房に入ることを許され、その修行が始まった矢先、店が貰い火で焼失。店の再興を願い、主人・嘉兵衛と芳と共に、若旦那が切り盛りしている江戸店へと向かうが、既に店はなく、若旦那・佐兵衛は行方知れず。心労がたたって、失意の内に嘉兵衛は亡くなり、身体を壊した芳とともに長屋でひっそりと暮らしていた澪は、ある時、ひょんなことから知り合ったつる屋の主人・種市の元で働くことになったのだった。
上方での経験を活かし、料理に励む澪だったが、根本的に違う味付けや素材の料理法の差から、なかなか客たちから受け入れられないでいた。しかし種市はそんな彼女の料理を、正そうとはせず、何故かやりたいようにやらせてくれ、たびたび店にやって来る常連客・小松原は、彼女の料理を「おもしろい」と評する。
やがてたまたま知り合った神田旅籠町の医師・永田源斉の発言から、職人たちがその仕事上から濃い味付を好むと知った澪は、早速実践した里芋の煮付けで評判を得る。
そんな中、持ち帰りできない里芋に代わるものを作ろうと考えていた澪は、出汁をとった後の鰹節を使って何かできないかと試行錯誤をするのだが……『狐のご祝儀 ぴりから鰹田麩』、
八月一日。吉原では遊女たちが白無垢姿で迎える紋日で、普段縁のない女たちにも見物が許される日。
源斉と種市とともに吉原見物に出かけた澪は、そこで切手をなくし、困っているところを、源斉の患者でもある翁屋楼主・伝右衛門に助けられる。翁屋は大きな廓で、吉原一といわれる花魁・あさひ太夫がいる店だ。同様に困っていた老婆も助けたことから、思いがけず江戸で心太を食べ、上方との違いを知る。
そんななことから、上方風の磯の香りの心太を、つる家で期間限定で出すことにした澪は……『八朔の雪 ひんやり心太』、
腰を痛めた種市は、もう蕎麦打ちは無理だといい、澪に引き続き、つる家の名で店をやって欲しいという。
かくして料理屋を始めた澪だったが、どんどん客は離れていくばかり。そんな中で、一計を案じた彼女は、江戸は猫跨ぎと見向きもされない戻り鰹で鰹飯を作り、「はてな飯」と名付け、客を呼び込むことに成功する。
しかし小松原からは、料理の本筋から外れているといわれ、出汁の基本がなっていないと気づいた澪は、江戸一番だといわれる日本橋の料理屋・登龍楼へ、江戸の味を知るべく食べにゆく。
そこから得たものを元に、昆布と鰹の出汁をあわせることを思いつき、完成。それを元に江戸にはなかった上方風の茶碗蒸しを出すことに……『初星 とろとろ茶碗蒸し』、
茶碗蒸しが人気となり、初めて番付に載ったつる家は大盛況。しかし、真似する店が続々と現れ、おまけに近所に登龍楼が店を出してきて、売上は下火に。
そんな中、その店に茶碗蒸しを食べにいった芳は、あまりに澪の茶碗蒸しにそっくりだったことに憤り、文句を言ったことから大怪我を負わされてしまう。さらに、つる家が放火に遭い、焼失。ショックのあまり、種市は澪を亡き娘・つるだと思い込む……『夜半の梅 ほっこり酒粕汁』の4編収録。

上方で生まれ育った若き女料理人・澪が、周囲の人々に助けられつつ幾多の苦難を乗り越え、料理の道を歩むお話。時代小説。
ずっと気になっていたのですが、ようやく読めました。
出てくる料理の数々が美味しそうです。レシピ付なのも良いですね~♪

<10/1/26>

『転生回遊女』小池昌代(小学館)

2010-01-25 | 読了本(小説、エッセイ等)
舞台女優であった母と二人暮しだった17歳の少女・桂子。ある日、ひとりで出かけていた母が、旅先で落石事故に遭い、帰らぬ人となり、彼女だけがひとり残された。
そんな彼女に、母の知人であるワタリという男から舞台に立たないかと誘われた桂子。一度は断ったものの、やはり惹かれ、龍之介という青年とのふたり芝居を演じることに。
その舞台の稽古開始まで、あと一ヶ月。彼女は、母が生前そうしていたように<タビ>へ出ることを決意し、高校時代の親友で、恋人・弦徒と駆け落ちした美春の住む、宮古島へと向かう。
彼女の元でしばらく過ごすことになった桂子は、いろんな樹を知り、さまざまな人に会い、気持ちを通わせる。そして転がるように、自由に関係を持ちつづけながら、芝居に臨む桂子は……

母と同じ女優の道を歩みはじめた少女・桂子の魂の成長と遍歴、みたいな? 小池さん初の長編。
出会ったいろんな男性とすぐに肉体関係を結んでしまう桂子ですが、樹が大切なモチーフとして登場する所為か、どろどろせずに植物的というか、妙にみずみずしく、透明感にあふれた印象。

<10/1/25>

『断章のグリム Ⅰ 灰かぶり』甲田学人(メディアワークス)

2010-01-24 | 読了本(小説、エッセイ等)
私立典嶺高等学校に通う少年・白野蒼衣は、普通でいることを旨とする高校1年生。
ある日、担任に頼まれ、学校を休んでいるクラスメイト・杜塚眞衣子の元へ、プリントを届けるべく出かけたマンションの階段で、目玉を抉られた女性が立っているのを目撃。驚いているところで、ゴシックな装いの美少女に遭遇する。
彼女の名は時槻雪乃。戦う場面に居合わせた蒼衣は怪我をし、雪乃の仲間たちの元へゆくことに。そんな彼に雪乃は、<神の悪夢>に出会ってしまった、という。
曰く、この世界に存在する怪現象は、すべての<神の悪夢>の欠片……この<悪夢の泡>は、人間の意識に浮かび上がると急速に人の恐怖や悪意や恐怖と混ざりあう。そして現実世界を変質させながらあふれ出し、悪夢の物語を作り上げる。その結果起きる惨劇を<泡禍>といい、それに巻き込まれながらも生還を果たした人間の心に残された<悪夢の泡>の破片を<断章>という。その<断章>の力を用いて<泡禍>と戦うのが、雪乃をはじめとする<断章保持者>たちで結成されている<断章騎士団>なのだという。
本来ならば、入ることができず、感知することができないはずの空間に入りこんだ蒼衣は、<潜有者>か<保持者>である可能性が高いというのだが、彼にはそんな事件に巻き込まれた記憶がない。
そんな中、末期癌を患っていた眞衣子の母が亡くなり……

ひょんなことから怪異に巻き込まれた少年・蒼衣が、過去のトラウマを持ち戦う少女・雪乃やその仲間たちと関わっていくことに…というお話。ファンタジー、というにはあまりにも重いですが;(人死にまくりだし)
<泡>によって起こる事件は、しばしば童話の形を成して起きる(童話は、人間社会の普遍的な要素を含んでいるので、結果的に似たものになる、的な理由により)という設定で、今回は『灰かぶり』がモチーフになってます。
それなりに面白いのだけれど、設定が凝り過ぎていて、説明が難しい…(用語解説だけで、いっぱいになってしまうし/笑)。

<10/1/24>